☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

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キチガイ

 Aランクダンジョン攻略の世界配信。

 

 そう聞いた時点で、世界はだいたい察していた。

 

 これは単なる見世物ではない。

 エリュシオンという新興クランの宣伝でもない。

 

 魔王降臨後の世界において、高位ダンジョンを攻略できる組織が、どれだけの意味を持つのか。

 それを、全人類に見せるための実演だった。

 

 低級ダンジョンのボーナスタイムは、もう終わりつつある。

 

 F級。

 E級。

 D級。

 

 出現直後にばら撒かれていた初回踏破報酬の魔石は、主要国では既にかなり掘り尽くされた。

 それによって世界は変わった。

 

 魔石電力で停電リスクは下がった。

 病院は末期患者と現場維持の優先順位で揉めた。

 交通インフラは帰還の紙片を前提にした新しい動線を作り始めた。

 永久水筒と識別紙片は、医療と物流と探索者社会の底を地味に持ち上げた。

 

 治安維持組織には俺が世界中にばら撒いた種火が回され、各国の警察や軍の上澄みはレベル四十前後まで上がり始めている。

 国家指導者たちも俺の手による魔石による強化を受けて、少なくとも対戦車砲ごときで簡単に死ぬ存在ではなくなっている。

 

 ひどい時代だ。

 

 首相だの大統領だの総書記だのが、防弾どころか対砲撃補正を持ち始めている。

 政治家の耐久力インフレ。

 まったく嬉しくない単語である。

 

 だが、それでも高位ダンジョンは別だ。

 

 C級クリア者は、エリュシオン外でも出始めている。

 アメリカではD級突破が大ニュースになった。

 世界上位探索者は、レベル三十台へ届き始めている。

 

 それでも、Aランクは違う。

 

 Aランクダンジョンを攻略できる。

 

 それはつまり、他国に先んじて高位魔石と高位アーティファクトを確保できるということだ。

 

 魔石は有限資源。

 誰かが取った分は、他の誰かの手には入らない。

 高位ダンジョンを攻略できる国、組織、探索者集団が、次の時代のインフラと軍事と医療と産業を握る。

 

 だから、世界は見ていた。

 

 配信機材は魔石で強化されている。

 画質は異常。

 翻訳も異常。

 通信遅延もほとんどない。

 オンボロスマホで見ても、なぜか最高画質でぬるぬる動く。

 

 コメント欄は世界中の言語が飛び交っているのに、guide-GPTが片っ端から自然な翻訳を乗せていく。

 明らかにアウトな罵倒、個人情報晒し、犯罪教唆、エリュシオン詐欺への誘導、その他クソみたいなコメントは自動で弾かれる。

 

 というか、guide-GPTが編集している。

 

 カメラワーク。

 字幕。

 スキルログ。

 危険警告。

 解説テロップ。

 視聴者向け注意喚起。

 

 全部勝手にやる。

 

 もう配信スタッフというより、配信そのものに宿った神経系である。

 俺のオンボロ人生にもこういう編集機能が欲しかった。

 

     ◇

 

 今回のAランクダンジョンは、アメリカ側からの要請だった。

 

 もちろん、表向きは人類協力。

 魔王降臨後の国際的攻略ノウハウ共有。

 高位ダンジョン攻略における安全基準の実証。

 エリュシオン式運用の公開。

 

 いくらでも綺麗な言葉は並べられる。

 

 だが本質は単純だ。

 

 アメリカは、高位ダンジョン攻略の実戦データが欲しい。

 日本は、Aランクの魔石とアーティファクトと、世界への影響力が欲しい。

 俺は、ドロップと育成環境と新しい育成対象が欲しい。

 

 利害一致。

 

 とても美しい。

 人類協力とは、だいたい利害が噛み合った時にだけ成立する美しい建前である。

 

 ダンジョン入口前。

 周囲には多重結界、観測機材、政府関係者、アメリカ側の監督官、そしてエリュシオンの面々。

 

 俺。

 安里真由。

 大伴円。

 平良久連。

 久連の叔父である☆6ファイター。

 【原初の贄】持ちの☆2アーチャー。

 【女神視線】持ちの☆3支援探索者。

 

 現時点で、エリュシオンが公開できる札の一部だ。

 

 ちなみに、俺は今回【原初の火】を使わない。

 

 理由は二つある。

 

 一つ。

 世界配信の教材として、俺が入口から全部焼くのは参考にならない。

 

 もう一つ。

 中国ダンジョンを荒らし回った痕跡と、俺の【原初の火】が結びつくのはよろしくない。

 

 俺のスキルを知っているのは、日本上層部と、中国の総書記個人くらいだ。

 中国共産党全体ではない。

 総書記個人とは話が通っていても、党全体に特定されるのは話が違う。

 

 あそこは国家というより、国家の皮を被った巨大な胃袋みたいなものなので、下手に飲み込まれると面倒くさい。

 

 だから、撃たない。

 

 なお、【原初の火】持ち自体は、世界に何人か確認されている。

 だが誰も使いこなせていない。

 

 当然だ。

 

 普通は一発撃てば、二度と撃ちたくなくなる。

 激痛と灰化と二十四時間の行動不能を前提に、周回用スキルとして扱う方がおかしい。

 

 俺は痛みに強いわけではない。

 むしろ弱い部類と言っていい。

 

 ただ、痛みより効率を優先しているだけだ。

 

「高位ダンジョン攻略に必要なのは、一人の壊れ火力だけではありません。役割分担、帰還手段、識別、支援、状態異常対策、撤退判断、そして必要なら倫理的に扱いづらいスキルの管理です」

 

 言いながら、俺は横へ視線を向けた。

 

 アーチャーが、明らかに顔を強張らせる。

 

 かわいそうに。

 だが、必要だ。

 

「まずは【原初の贄】の実演から始めます」

 

     ◇

 

 空気が変わった。

 

 【原初の贄】。

 

 名前だけで、視聴者側にも嫌なものが伝わる。

 事前に公開した説明文だけでも、既に各国の倫理委員会と軍事関係者と人権団体を同時に発狂させていたスキルだ。

 

==================

【原初の贄】

同意を得た対象、瀕死状態の対象、または自身より著しく弱い対象を“贄弾”として射出する。

射出対象には【灰化】および激痛を付与。

着弾地点に、対象の生命力・魔力・存在強度に応じた超広域爆破を発生させる。

 

解説:

火へ捧げるのが自身でないというだけで、原初の系譜に連なる外法。

祈りではなく、犠牲。

砲弾ではなく、生贄。

それでも、捧げられたものは確かに空を裂き、世界へ穴を開ける。

==================

 

 俺は続ける。

 

「通常運用では、生身の人間を対象にしません。エリュシオンでは厳格に制限します。使用ログは常時記録。幹部承認、guide-GPT監査、対象同意、回収手段、治療手段、すべて必須です」

 

 そこまでは良かった。

 

 問題は次だ。

 

「ですが、実戦想定では出力検証が必要です。なので、今回は俺を使います」

 

 真由が即座に横を向いた。

 

「火賀さん?」

 

 声が低い。

 

 円も顔をしかめる。

 

「大将、また変なこと言ってないっすか」

 

 久連は無言だ。

 だが、静かに怒る前兆の顔をしている。

 

 アーチャーは、明確に青ざめた。

 

「嫌です」

 

 即答だった。

 

「同意はあります」

 

「同意される方が怖いです」

 

「治療手段もあります」

 

「そういう問題じゃないです」

 

 なるほど。

 かなりまともな反応だ。

 

 俺は頷いた。

 

「全身を使う必要はありません」

 

「はい?」

 

「頭部だけを残します」

 

 沈黙。

 

「頭より下を一個体、もしくは一単位の生贄対象として処理します。頭部が残れば意識と指揮能力は継続可能です。苦痛聖杯で即時復元できます。戦術的にはかなり効率がいい」

 

 真由が額を押さえた。

 

「合理的じゃないのよ」

 

 円が露骨に嫌な顔をする。

 

「大将、それやらせる側の気持ち考えたことあるんすか」

 

 久連が静かに言った。

 

「あります、がやります」

 

 鹿野は、もう泣きそうだった。

 

「本当に嫌です……」

 

「大丈夫です。苦痛を浴びる俺は嫌じゃありません」

 

「あなたの嫌じゃないは、信用しちゃいけないやつなのよ!」

 

 真由が叫ぶ。

 

 コメント欄も爆発していた。

 

> は?

頭だけ残す?

何言ってるの?

原初の贄の人かわいそう

やらされてる側の顔見ろ

火賀灯真やばい

これ実演じゃなくて事件では?

日本政府止めろ

アメリカ何を依頼してんだ

苦痛聖杯って何

頭が残れば指揮できる、じゃないんだよ

 

 

 

==================

【guide-GPT】

注意:本実演は特殊な治療アーティファクトおよび高位回復体制を前提としています。

一般探索者は絶対に模倣しないでください。

==================

 

 回復手段も無しに模倣する奴がいたら、そいつはもう探索者以前に医者へ行くべきだと思う。

 

 俺はアーチャーへ向き直った。

 

「やってください」

 

「……本当に、嫌です」

 

「分かります」

 

「分かってるなら」

 

「でも必要です」

 

 彼は唇を噛んだ。

 

 責める気はない。

 むしろ、ここで簡単に撃てる人間なら採用していない。

 

「貴方のスキルは危険です。だから、管理された環境で限界と運用を知る必要がある。知らないまま恐れるより、知って制限した方がいい」

 

「それは……分かりますけど」

 

「対象は俺です。治療手段もある。全責任は俺が取ります」

 

 なお、ここで真由が「責任取ればいいって話じゃないのよ」と小声で言った。

 聞こえている。

 だが、聞かなかったことにする。

 

 鹿野は、震える手で弓を構えた。

 

 アメリカ側の監督官が、通訳音声を聞きながら完全に固まっている。

 日本政府の連絡用端末では、鈴木碧からの着信が連打されていた。

 

 たぶん、胃が死んだ。

 

     ◇

 

==================

【原初の贄】

対象指定:火賀灯真/身体部位群

対象同意:確認

生贄単位化:成立

射出準備:完了

==================

 

 次の瞬間。

 

 頭から下が弾けた。

 

 痛み。

 衝撃。

 自分という肉体の大半が、ひとつの弾丸として切り離される感覚。

 

 これは、なるほど。

 

 かなり痛い。

 

 【原初の火】の灰化とも、【苦痛聖杯】の治癒痛とも違う。

 肉体を失う痛みと、存在を弾として再定義される気持ち悪さが同時に来る。

 いい経験ではない。

 二度とやりたくないかと言われれば、戦術的に必要ならやるくらいだ。

 

 俺の首から下だったものは、Aランクダンジョン入口奥の岩盤防壁をまとめて吹き飛ばしていた。

 着弾地点には、白く焼けた巨大な焦げ跡が残り、観測機材が遅れて警告音を吐き出す。

 

==================

【guide-GPT】

重大な欠損描写を検出。

自動モザイク・視点補正・年齢制限警告を適用します。

配信規約に基づき、映像の一部を加工しました。

==================

 

 コメント欄は地獄になっていた。

 

> え

は?

今何した?

頭だけ?

頭だけ残った?

配信止めろ

原初の贄の人かわいそう

これ撃った側のメンタル死ぬだろ

火賀灯真キチガイだろ

guide-GPT仕事早すぎ

モザイク仕事してるけど仕事する場所多すぎる

R-18Gだろ

世界配信で何してんだ日本

これが日本式育成……?

違うと思う

 

 

 

 俺は、残った頭部で普通に喋った。

 

「成功ですね。頭部を残せば指揮は継続可能です」

 

 場が、完全に凍っていた。

 

 アーチャーは、弓を下ろしたまま真っ青になっている。

 【女神視線】の女性は口元を押さえている。

 叔父さんは、なぜか泣いていた。

 

「そこまで……」

 

 叔父さんは、静かに震える声で言った。

 

「そこまでの苦痛に耐えて、国と世界のためにアイテムを集めているのですね……」

 

「いえ、主目的は育成環境の整備とドロップ回収ですが」

 

「照れなくていいのです」

 

「照れてません」

 

 真由と円と久連が、同時に首を横に振った。

 

「違うんです」

 

「違うっす」

 

「違います」

 

 だが叔父さんは信じていなかった。

 善人は、時々こちらの狂気を勝手に美談へ変換する。

 かなり困る。

 

 俺は【苦痛聖杯】を起動した。

 

 暗い銀の杯が震え、赤い紋様が走る。

 

 苦痛聖杯を得てから、俺はかなり死ににくくなっている。

 もちろん無敵ではない。

 頭を潰されれば終わるし、治療前に意識を刈られれば詰む。

 だが、肉体の大部分を失う程度なら、痛みと引き換えに戻せる。

 

 痛みが来る。

 

 治すために、もう一度壊すような痛みだ。

 治癒というより、死なせないための拷問に近い。

 肉体が戻る。

 神経が引き直され、骨と筋肉と血管が、最悪の手触りで再構成される。

 

「っ、が、ぁ……!」

 

 数秒後、俺は元通り立っていた。

 

 かなり痛かった。

 だが、戦術データとしては有用だ。

 

「良いですね。頭部以外の贄弾化は成立します。威力も十分。回復も可能。実戦投入は――」

 

 真由の手刀が、俺の頭頂部へ落ちた。

 

「痛い」

 

「痛いじゃないのよ!」

 

 続いて、円がぺっと唾を吐いた。

 もちろん俺に直接ではなく、俺の足元だ。

 それでもだいぶ強い抗議だった。

 

「大将、マジで最悪っす」

 

 最後に、久連のローキックが脛へ入った。

 

 戦闘用ではない。

 ただの抗議だった。

 だから、妙に痛かった。

 

「痛い」

 

「学習してください」

 

 三連撃。

 ひどい。

 

「何故だ。俺は戦術的に有用な検証を」

 

「キチガイって言われてる理由、そこなのよ」

 

 真由が言う。

 

「キチガイ……?」

 

 俺はコメント欄を見る。

 

 世界中の言語で、だいたい同じ意味の罵倒が流れていた。

 

「何故だ。あ、そうか。首より下を飛ばした時にハミチンしたからか。配信倫理的にアウトだな。モザイク強めにしといてくれGPT」

 

 真由の二発目のチョップが来た。

 

「違うわよ!」

 

 円が今度は普通に叫ぶ。

 

「違えよ大将!」

 

 久連がもう一度足を上げたので、俺は一歩下がった。

 

「分かりました。露出ではなく欠損描写が問題ということですね」

 

==================

【guide-GPT】

補足:規約違反可能性は露出より欠損描写の方が高いと判断されます。

また、倫理的問題は配信規約とは別軸で存在します。

==================

 

「なるほど」

 

「なるほどじゃないのよ」

 

 真由の声は、疲れ切っていた。

 

     ◇

 

 この時点で、世界はたぶん二つのことを理解した。

 

 エリュシオンは、人類に必要な戦力である。

 そして火賀灯真は、自分の身体すら攻略リソースとして計算する、かなり終わった種類の狂人である。

 

 俺としては不本意だ。

 

 俺は別に、痛みが好きなわけではない。

 むしろ痛みには弱い部類と言って良い。

 身体を吹き飛ばされるのも嫌だ。

 苦痛聖杯の治療だって普通に痛い。

 

 だが、治る。

 データが取れる。

 戦術として使える。

 

 なら、検証する価値はある。

 

 それだけだ。

 

 それだけなのに、世界の反応は厳しい。

 

「……エリュシオンって、いつもこうなんですか?」

 

 【女神視線】の女性が、真由へ小声で聞いていた。

 

「いつもではないわ」

 

「たまにですか?」

 

「頻度の話はやめましょう」

 

 アーチャーは、まだ青い顔をしていた。

 

「僕、このスキルを使わないために来たはずなんですが……」

 

「使い方を管理するための実演です」

 

「管理されてるの、僕じゃなくて火賀さんの倫理観じゃないですか?」

 

 それは少し否定しづらかった。

 

 俺は治る。

 だが、撃った側の記憶は治らない。

 そこに思い至った時、ようやくアーチャーの顔色が悪い理由を少し理解した。

 

「……すみません。」

 

 そう言うと、アーチャーは一瞬だけ目を見開いた。

 

「いえ……その、僕も、必要なのは分かるんですけど」

 

「ええ」

 

「でも、次はできれば、先に心の準備をさせてください」

 

「分かりました」

 

 アーチャーはまだ青い顔のままだったが、少しだけ呼吸を整えた。

 かなりまともだ。

 やはり採用して良かった。

 

 叔父さんはまだ泣いている。

 あれはたぶん、しばらく誤解が解けない。

 

 真由は額を押さえ、円は露骨に不機嫌で、久連は静かに怒っている。

 

 なるほど。

 

 検証は成功。

 人間関係はやや悪化。

 配信コメントは大炎上。

 世界各国の倫理委員会はたぶん死亡。

 鈴木碧の胃も死亡。

 

 悪くない。

 

 いや、人間関係以外はかなり良い。

 

「では、次に行きましょう」

 

 俺がそう言うと、真由が心底嫌そうな顔をした。

 

「次に行ける神経がすごいわね」

 

「Aランク攻略はまだ始まったばかりです」

 

 そう。

 

 これはまだ前半だ。

 

 前半で示すべきものは、【原初の贄】の危険性と、俺の異常性。

 後半で示すべきものは、エリュシオンが俺一人の火力に依存しない組織であること。

 

 原初の贄の強さは、十分に世界へ伝わった。

 

 なら次は、安里真由だ。

 

 彼女の第六スキル。

 

 全体化。

 

 世界を滅ぼしうる能力。

 

 【楽園解放】。




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