☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

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ここまで読んでいただけて嬉しいです。


楽園解放

 なら次は、安里真由だ。

 

 彼女の第六スキル。

 

 全体化。

 

 世界を滅ぼしうる能力。

 

 【楽園解放】。

 

     ◇

 

 正直に言えば、ここからが本番だった。

 

 【原初の贄】は危険だ。

 倫理的にも、絵面的にも、世界配信向きではない。

 実際、世界中のコメント欄はまだ混乱しているし、各国の倫理委員会と報道機関と日本政府の胃は今この瞬間もぐちゃぐちゃになっているだろう。

 

 だが、あれはまだ分かりやすい危険だった。

 

 人間を弾にする。

 灰化と激痛を付与する。

 着弾点を爆破する。

 人間以外にも使えるのか、卵や家畜をタネにできるか、奴隷化した人間やモンスターを玉にできるか。色々と考えなきゃいけない点も多い。

 

 ただ、最悪だが、理解はできる。

 「使い方を間違えると危ないスキルですね」で済む範疇には、まだ一応、収まっている。

 

 だが、真由の【楽園解放】は違う。

 

 あれは火力ではない。

 爆破でもない。

 生贄でもない。

 見た目だけなら、むしろ優しい。

 

 それでも世界を滅ぼしうる。

 

「次は、支援職の実演です」

 

 俺は配信カメラへ向けて言った。

 

 目の前には、Aランクダンジョンの第一層が広がっている。

 石造りの回廊。

 天井は高く、壁面には古い王国めいた紋章が刻まれている。

 通路の先からは、鎧の擦れる音と、獣の低い唸り声。

 魔力濃度はB級以下とは明らかに違う。空気そのものが重い。

 

 Aランクダンジョン【鋼骸王庭】。

 

 出現する魔物は、武装骸兵、鋼獣、弩弓兵、重装騎士型。

 単体火力も高いが、それ以上に面倒なのは数だ。

 統率された群れとして動く。

 盾を構え、弓を撃ち、前衛が足止めし、後衛が射線を作る。

 ただ強いだけではない。

 ちゃんと軍隊っぽい。

 

 だから教材に向いている。

 

 Aランクの嫌らしさを世界へ見せるには、ちょうどいい。

 

「今から見せるのは、安里真由さんの第六スキル【楽園解放】です」

 

 真由が、俺の横で露骨に嫌そうな顔をした。

 

「……紹介の仕方が物々しいのよ」

 

「実際、物々しいので」

 

「私、さっきのあなたみたいに首から下を飛ばしたりしないわよ」

 

「それはそうでしょう」

 

 真由は深く息を吐いた。

 

 今日は、普段より装備が整っている。

 白を基調にした支援職用のローブ。

 首元には、初期から使っている【薄桃の護飾チョーカー】。

 手には、支援スキルの出力と制御を補助する聖杖。

 

 ただ、どれだけ装備が整っていても、本人の表情はいつもの真由だった。

 

 面倒くさそう。

 眠そう。

 できれば帰りたそう。

 ぬくぬくのお布団に未練がある顔。

 

 だが、逃げない。

 

 それが、今の真由だ。

 

「先に言っておきます」

 

 俺は視聴者へ向けて続けた。

 

「【楽園解放】の詳細な仕様は公開しません」

 

 コメント欄が揺れる。

 

> え

隠すのか

さっき頭だけになった男が急に情報統制するな

逆に怖い

支援スキルだろ?

名前がもう強い

楽園って何

解放って何

 

 

 

==================

【guide-GPT】

補足:本配信では、安全保障および悪用防止の観点から、一部スキル仕様を伏せています。

視聴者は公開された範囲内で理解してください。

==================

 

 有能。

 

 俺が下手に言うより、guide-GPTの方が角が立たない。

 いや、さっきの頭部残し実演のせいで、もう角どころか壁ごと吹き飛んでいる気もするが。

 

「公開するのは、一点だけです」

 

 俺は指を一本立てる。

 

「【楽園解放】は、対象の行動を“全体化”します」

 

 その一言で、分かる人間の顔が変わった。

 

 現地の監督官。

 日本政府側の観測員。

 アメリカ側の分析官。

 そして画面越しに見ているであろう、世界中の上澄み探索者たち。

 

 単体効果の全体化。

 

 その意味を、まともにゲームや戦術を触った人間ほど理解する。

 

 単体攻撃が、全体攻撃になる。

 単体回復が、全体回復になる。

 単体バフが、全体バフになる。

 単体デバフが、全体デバフになる。

 

 それだけで、もうだいぶおかしい。

 

 だが、本当に危ないのはその先だ。

 

 スキルレベルを最大まで上げた場合、全体化の解釈は馬鹿みたいに広がる。

 行動対象だけではない。

 効果範囲。

 状態付与。

 環境干渉。

 因果の届く先。

 理屈の上では、そのすべてが“全体”へ寄っていく。

 

 しかも、【覇道】系の支援装備で二連射できるようにすれば、自分へ【楽園解放】をかけ、その全体化バフ自体を全体へ撒くという地獄みたいな挙動も視野に入る。

 今はまだ無理だ。

 制御も、スキルレベルも、装備も足りない。

 

 だが、将来的にはループも組める。

 

 組めてしまう。

 

 その気になれば、世界を対象に全体化し、円がナイフを一振りするだけで世界を滅ぼせる。

 

 優しい名前をした、世界破壊級支援スキル。

 それが【楽園解放】だ。

 

 もちろん、そんなことは配信では言わない。

 

 流石にアカン

 

 言ったら世界がまた変な方向に燃える。

 というか真由が泣く。

 たぶん怒る前に泣く。

 そして泣いたあと俺を殴る。

 

 だから、今回は安全な使い方だけを見せる。

 

「今回の対象は、大伴円さんです」

 

 円が短剣を抜いた。

 

 通称【死滅願望】。

 表の世界で、低レア最強格と見なされ始めた男。

 ☆0アサシン。

 会心時に通常攻撃が連鎖する、壊れスキル持ち。

 

 だが、円にも弱点はある。

 

「円さんは単体火力に優れています。会心連鎖による削り性能は、現時点の探索者の中でも最上位です」

 

 円は少し居心地悪そうにする。

 

「ただし、範囲処理は本来そこまで得意ではない。敵が一体なら速い。複数でも近ければ反応できます。ですが、広く散られた場合、処理効率は落ちる」

 

「まあ、そうっすね」

 

 円が認める。

 

 そこは本人も分かっている。

 【死滅願望】は、基本的には一体を壊れるまで刻むスキルだ。

 敵が横に広く散ると、どうしても移動と接敵に時間を食う。

 

「そこを、真由さんで補います」

 

「人を補助パーツみたいに言うのやめてくれる?」

 

「最高級補助パーツです」

 

「褒められてるのに腹立つのよね」

 

 真由はぶつぶつ言いながらも、杖を構えた。

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 さっきまで眠そうで、帰りたそうで、布団のことを考えていそうだった女が、支援職の顔になる。

 目が細くなる。

 呼吸が整う。

 杖の先端に、淡い白金の光が集まり始める。

 

 優しい光だ。

 

 だが、俺には分かる。

 あれは優しいだけの光ではない。

 

 一人だけ救われることを許さない光。

 一人だけを対象にすることを拒む光。

 境界線を、対象指定を、効果範囲を、まとめて押し広げる光。

 

 楽園。

 

 その言葉の柔らかさに反して、かなり乱暴な祈り。

 

「……行くわよ、円くん」

 

「お願いします」

 

 円が短く答える。

 

 真由が詠唱した。

 

「【楽園解放】」

 

 音は静かだった。

 

 爆発もない。

 雷鳴もない。

 炎もない。

 

 ただ、白金の輪が広がった。

 

 真由を中心に、薄い光の波紋が床を撫でる。

 それは一瞬だけ円の足元へ触れ、そこから短剣へ、腕へ、背中へ、全身へ染み込む。

 

 円が、わずかに眉を動かした。

 

「……これ、なんすか」

 

「対象拡張です」

 

 俺が答える。

 

「今の円さんの攻撃は、一定時間だけ“敵全体”へ届く」

 

 その言葉と同時に、回廊の奥から武装骸兵の群れが現れた。

 

 盾持ち。

 槍持ち。

 弩弓兵。

 鋼の猟犬。

 ざっと三十体以上。

 

 通常なら、前衛が盾で止め、後衛が射撃し、猟犬が左右から回り込む構成だ。

 レベル三十台の上位探索者パーティなら、ここだけで普通に全滅しかねない。

 

 円は短剣を逆手に握る。

 

 踏み込む。

 

 狙ったのは、最前列の盾持ち一体だけだった。

 

 短剣が、盾の隙間へ滑り込む。

 

 会心。

 

 その瞬間、周囲の魔物全体へ、同じ斬撃が走った。

 

 盾持ちだけではない。

 槍持ちも。

 後方の弩弓兵も。

 左右へ回り込もうとしていた鋼の猟犬も。

 

 一体へ入れたはずの斬撃が、群れ全体へ同時に届く。

 

 血ではない。

 骨粉と黒い魔力片が噴き上がる。

 骸兵の鎧がまとめて裂け、鋼獣の脚が同時に折れる。

 

 そして、会心なら。

 

 続く。

 

==================

【会心】

【死滅願望】が発動しました。

追加通常攻撃が発生します。

==================

 

 追加攻撃。

 

 それもまた、全体へ届く。

 

 また会心。

 

 また追撃。

 

 また全体。

 

 円の身体が低く沈み、右へ、左へ、ほんの数歩だけ動く。

 だが画面上では、群れ全体がまとめて削れていた。

 一人を切っている。

 なのに全員が裂ける。

 単体特化の連撃が、真由の【楽園解放】によって、擬似的な範囲殲滅へ変換されている。

 

 回廊に、銀色の斬撃線が無数に走った。

 

 敵の群れが、遅れて崩れる。

 

 世界中のコメント欄が、一瞬だけ静かになった。

 

 そして爆発した。

 

> は?

全体?

今、一体しか切ってないよな?

全員に入った?

死滅願望の追撃も全体化してる?

支援職って何?

プリーストの火力補助じゃなくて戦術そのもの変えてない?

これ真由さんが本体では?

円くんの弱点消えてる

単体ボスキラーが範囲殲滅になった

これが支援?

おかしい

さっきの首だけ事件より絵面はまともなのに、こっちの方が怖い

 

 

 

==================

【guide-GPT】

戦術解説:

安里真由の【楽園解放】により、大伴円の攻撃対象が一時的に全体化されています。

これにより、単体特化の会心連鎖が、敵集団全体への連続攻撃として処理されています。

注意:一般的な支援職が模倣できる挙動ではありません。

==================

 

 その注意喚起は正しい。

 

 これは一般的な支援職の仕事ではない。

 普通の支援は、味方を少し強くする。

 真由は、味方の行動の意味を変える。

 

 単体を全体へ。

 局所を広域へ。

 一人分の攻撃を、群れ全体への処理へ。

 

 戦術そのものの変換。

 

 支援職の価値は、火力職の弱点を消せるところにある。

 真由はその極端な例だ。

 

「どうですか」

 

 俺が聞くと、円は短剣を振って魔力片を払った。

 

「……やばいっすね。これ、俺の攻撃じゃない感じがする」

 

「貴方の攻撃です。ただ、対象範囲を変えています」

 

「いや、それがやばいんすよ」

 

 真由は、少し息を乱していた。

 

 たった一回の発動。

 だが、消耗は軽くない。

 スキルレベルが上がっているとはいえ、Aランク環境で円の会心連鎖を全体化するのは負荷が高い。

 

「……思ったより、重いわね」

 

「でしょうね」

 

「でしょうね、じゃないのよ。分かってたなら先に言いなさい」

 

「言ったら嫌がるかと」

 

「言わなくても嫌よ」

 

 真由は杖にもたれかかりながら、じとっと俺を睨む。

 

 だが、その目に逃げはない。

 

 やはり強い。

 

 この女は、支援職としてあまりにも危険で、あまりにも有用だ。

 しかも、自分の能力を客観視できる。

 自分が何をしているのかを、怖がれる。

 

 そこが重要だった。

 

 【楽園解放】は、救世主気取りの人間に持たせたら終わる。

 「みんなを救う」と言いながら、全体化の対象を広げ続け、善意で世界を塗り潰す。

 そういう事故が普通に起こる。

 

 だが真由は違う。

 

 自分が万能だと思っていない。

 自分を信用しすぎていない。

 面倒くさがりで、寝るのが好きで、食い意地が張っていて、スマホ中毒で、社会のレールから外れた自分を今でもわりと嫌っている。

 

 だから、止まれる。

 

 世界を滅ぼしうる力を持つ人間としては、かなりマシだ。

 

 いや、かなりどころではない。

 真由で良かったと、本気で思う。

 

「真由さん」

 

「何よ」

 

「貴方は世界最高峰の支援職です」

 

「……褒められてるはずなのに、なんか気持ち悪いわね」

 

「それと同時に、危険物です」

 

「台無しにするの早くない?」

 

「事実なので」

 

 真由は心底嫌そうに顔を歪めた。

 

 だが、配信側にはその一部しか出していない。

 

 公開情報はあくまで、全体化。

 そして、円の斬撃範囲化。

 それだけだ。

 

 自分へかけた場合。

 【覇道】による二連射。

 全体化バフの全体配布。

 将来的なループコンボ。

 最大スキルレベル時の、馬鹿みたいに広がる解釈。

 

 そこは伏せる。

 

 今はまだ、世界に見せるべきではない。

 

 それでも、見せた範囲だけで十分だった。

 

 各国の分析班は今頃、支援職の評価基準を作り直しているはずだ。

 探索者協会は、プリーストや補助スキル持ちの再登録対応で死ぬ。

 企業は支援職への採用条件を変える。

 軍は単体火力を広域兵器化する運用を考え始める。

 人権団体は、さっきの【原初の贄】から立ち直る前に、今度は【楽園解放】の悪用可能性で頭を抱える。

 

 鈴木碧は、たぶんもう胃がない。

 

 だが、これでいい。

 

 世界は知るべきだ。

 

 支援職は、火力職の後ろで回復だけしている役割ではない。

 運用次第で、戦場のルールそのものを変える。

 

 そして安里真由は、その最前線にいる。

 

     ◇

 

 第一層の敵群は、円と真由の組み合わせだけでほぼ崩壊した。

 

 残った弩弓兵の一部が、苦し紛れに射撃体勢へ入る。

 だが、それは久連が前へ出た瞬間に止まった。

 

 まだ久連の見せ場ではない。

 俺は手を上げて制する。

 

「そこは後で」

 

 久連は静かに頷いた。

 

 次がある。

 まだ見せるべき札は残っている。

 

 円の【死線心眼】。

 久連の【十二試練】の拡張解釈。

 【女神視線】。

 叔父さんの【真雪銀斬】。

 

 そして、Aランクダンジョンの本当の厄介さ。

 

 だが、少なくとも今、世界は一つ理解したはずだ。

 

 エリュシオンは、灯真の火力だけの組織ではない。

 

 俺が【原初の火】を撃たなくても、Aランクの第一層を壊せる。

 それも、支援と単体火力の組み合わせだけで。

 

 悪くない。

 

 かなり良い。

 

 俺は真由を見る。

 

 彼女は疲れた顔で、けれど少しだけ誇らしげに、強化されたスマホの画面を確認していた。

 コメント欄の翻訳を見て、眉をひそめる。

 

「……世界最高峰の支援職って言われてるわ」

 

「事実ですね」

 

「あと、危険物とも言われてる」

 

「それも事実ですね」

 

「殴っていい?」

 

「後でお願いします」

 

 真由は舌打ちした。

 だが、逃げなかった。

 

 その背中に、白金の光がまだうっすら残っている。

 

 楽園。

 全体化。

 救済の拡張。

 世界を塗り潰しうる支援。

 

 【楽園解放】。

 

 その片鱗だけが、今、全人類の前へ晒された。

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