☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:ちんこ良い肉

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ここまで読んでいただけてとても嬉しいです


灰の魔神

 

官邸地下、日米合同観測室。

 

 大型モニターには、エリュシオンによるAランクダンジョン攻略配信が映っていた。

 

 部屋にいるのは、日本政府のダンジョン対策関係者と、アメリカ側の国家安全保障担当者たちだった。

 内閣府、防衛省、警察庁、経産省、厚労省、内閣官房。

 アメリカ側からは、国家安全保障会議、国防総省、エネルギー省、医療対策班、そしてダンジョン対応特別チーム。

 

 表向きは、共同観測。

 

 実態は、国家安全保障会議だった。

 

 画面の中で、安里真由の【楽園解放】が発動し、大伴円の斬撃が敵群全体へ拡張された瞬間、観測室の空気は一度死んだ。

 

 ただの驚愕ではない。

 

 火賀灯真が自分の頭部以外を【原初の贄】の弾にした時、部屋にいた人間たちは確かに絶句した。

 アメリカ側の監督官は通訳音声を聞いたまま固まり、日本側の担当者は鈴木碧の顔色を窺い、鈴木本人はもう何度目か分からない胃痛を無言で飲み込んでいた。

 

 だが、あれはまだ事故だった。

 

 倫理的な事故。

 配信上の事故。

 人間の身体と精神を戦術リソースとして扱う、火賀灯真という男の異常性が世界中へ露出した事故。

 

 嫌悪の沈黙だった。

 

 しかし【楽園解放】は、事故ではなかった。

 

 もっと静かで、もっと広い。

 計算が追いついた人間から順に口を閉ざしていく種類の沈黙だった。

 

「ログを拡大してください」

 

 最初にそう言ったのは、アメリカ側の若い分析官だった。

 

 画面端に流れていたスキルログが拡大される。

 魔石で改造された配信機材と、火賀灯真が日米政府へ配布した改造スマホ、そしてguide-GPTによる解析補助が、ほとんど遅延なく情報を整理していく。

 

==================

【楽園解放】

対象:大伴円

効果:行動対象の全体化

==================

 

 その文字列を見て、部屋の何人かが眉をひそめた。

 

 理解できなかったからではない。

 理解しかけたからだ。

 

「攻撃範囲を広げた、という処理ではないのか」

 

 防衛省の担当官が低く言う。

 

 分析官は首を振った。

 

「違います。スキルログ上では、攻撃範囲ではなく“行動対象”が拡張されています。つまり、大伴円は一体を攻撃した。しかし、その一体への攻撃という行動の対象が、敵全体へ置き換えられた」

 

「結果は同じでは?」

 

「いいえ。同じではありません」

 

 アメリカ側の国防総省担当者が、硬い声で続けた。

 

「範囲攻撃化であれば、まだ戦術の問題です。爆発半径、射程、遮蔽、味方識別、そのあたりで制御できる。しかし対象指定そのものを書き換えるなら、攻撃以外にも適用される可能性がある」

 

 部屋が静かになった。

 

 その静けさの中で、guide-GPTが補助資料を表示する。

 

==================

【暫定解析:楽園解放】

確認済み効果:単体行動の対象拡張

想定応用:攻撃/回復/支援/弱体/状態異常/転移/封印/蘇生等への適用可能性

危険度:未確定。ただし効果範囲拡張の上限次第で戦略級以上へ移行

==================

 

 誰もすぐには喋らなかった。

 

 火賀灯真が日米政府へ配布した改造スマホは、便利すぎる道具だった。

 暗号化された政府回線へ接続し、各国語の翻訳を自然にこなし、魔石反応やスキルログを自動解析し、必要なら現場の映像から戦術意図まで推定する。普通なら国家機密の塊として金庫に入れるべきものを、火賀灯真は「観測効率が上がるので」と言って、日米の主要担当者へばら撒いた。

 

 その恩恵によって、今この場の人間たちは、全人類より数秒早く恐怖の輪郭へ触れている。

 

「回復なら?」

 

 厚労省の担当者が、半ば分かっていて聞いた。

 

「範囲次第ですが、部隊全体、避難所全体、病棟全体、都市全域への治療支援が視野に入ります」

 

「バフなら」

 

「警察部隊、軍、探索者集団を一括強化できる可能性があります」

 

「デバフなら?」

 

 その問いには、少し間が空いた。

 

「都市災害です」

 

 誰も笑わなかった。

 

 アメリカ側の医療担当官が、画面から目を離さずに言う。

 

「毒、麻痺、睡眠、混乱、沈黙、魅了。もし単体付与を全体化できるなら、暴動鎮圧どころではありません。国家中枢、軍港、都市、避難区域をまとめて機能停止させられる」

 

「攻撃なら?」

 

 今度は内閣官房の一人が言った。

 

 鈴木碧は、その問いが出ることを予想していたように、深く息を吐いた。

 

「最悪の場合、銃弾一発で世界が滅びます」

 

 その一言で、観測室の温度が下がった気がした。

 

 誇張ではない。

 

 単体攻撃が全体化される。

 その“全体”の解釈が広がる。

 対象が敵全体から、地域全体へ。

 地域全体から、国家全体へ。

 国家全体から、世界全域へ。

 

 そこまで届くなら、たとえば拳銃の弾丸一発ですら災厄になる。

 威力そのものは小さくても、世界全域に「命中」が拡張されるなら、もはや火力の問題ではない。対象指定という安全装置が壊れた時点で、現代のあらゆる兵器管理、警備、軍縮、法律は前提から崩れる。

 

「安里真由本人に、その出力はあるのですか?」

 

 アメリカ側の国家安全保障担当官が問う。

 

「現時点では不明です」

 

 鈴木が答える。

 

「配信で確認されたのは、Aランクダンジョン第一層における敵群への全体化だけです。世界全域への拡張が今すぐ可能だという証拠はありません」

 

「だが、可能性は否定できない」

 

「否定できません。火賀灯真は、おそらくそれを理解しています。だから配信では効果の一部しか見せていない」

 

「彼が隠していると?」

 

「隠しています」

 

 即答だった。

 

「火賀灯真は、危険な情報をすべて無制限に流すほど愚かではありません。逆に言えば、彼の頭の中には、この映像だけでは分からない組み合わせがまだある」

 

 画面の中では、大伴円が【楽園解放】の補助を受け、骸兵の群れをまとめて切り裂いていた。

 単体への会心が、群れ全体へ転写され、追加攻撃まで全体化される。映像としては派手で、視聴者向けには「不遇低レアが支援で範囲殲滅へ変わった」という分かりやすい演出になる。

 

 だが、観測室の人間たちはもう、そんな素直な感想を持てなかった。

 

 この配信は教材ではない。

 

 国家安全保障上の悪夢の実演だった。

 

「安里真由は、強い探索者ではありません」

 

 日本側の分析官が、かすれた声で言った。

 

「強い探索者たちを、都市災害や戦略兵器へ変換しうる支援核です」

 

 誰も否定しなかった。

 

     ◇

 

「極限手段による排除可能性を、検討すべきではないか」

 

 その言葉は、アメリカ側から出た。

 

 言った本人も軽くは言っていない。

 むしろ、その声には自分の発言への嫌悪すら滲んでいた。

 

「火賀灯真と安里真由。二人が揃っている限り、未知の単体効果を全体化するコンボが成立する。今ならまだ、彼らは戦術級に留まっている。一応は、極限手段で排除できる範囲にいる」

 

 日本側の数人が顔を上げた。

 

 だが、怒号は飛ばなかった。

 

 その選択肢が出ること自体は、誰も否定できないからだ。

 国家とは、最悪の可能性を検討する装置でもある。どれだけ道徳的に不快でも、世界全域へ攻撃を広げられる可能性がある個人を前にして、殺害案を一度も検討しない政府など存在しない。

 

 沈黙の中で、鈴木碧が口を開いた。

 

「反対です」

 

「理由は」

 

「第一に、成功保証がありません。火賀灯真の手札には、転移を筆頭に、我々が把握していないアーティファクトが多すぎる。一度殺したところで、当然の権利のように蘇生しかねない」

 

 アメリカ側の担当官がわずかに目を細める。

 

「蘇生を前提に置くのか」

 

「置くべきです。彼は以前、仮に世界が滅んでも、ユグドラシルの雫を全体化すれば問題ないのではないか、と発言しています」

 

「蘇生手段がある可能性を考慮しないといけないとは……」

 

 今度こそ、観測室全体が沈黙した。

 

「ですが、希望もあります。彼の発言は問題しかない、人の倫理から離れた発言です。ですが、同時に重要でもあります」

 

「どう重要なのか」

 

「彼は、世界崩壊を望んでいません」

 

 鈴木の声は静かだった。

 

「火賀灯真は異常者です。自己の満足のために、国家の運営部門へ地獄のオーバーワークを課して何とも思わない自己中心的な狂人です。魔石、種火、帰還の紙片、識別紙片、永久水筒、攻略WIKI、エリュシオン。彼はそれらを“育成環境の整備”として投げ込んだ。しかし、その結果として政治、行政、医療、物流、治安維持、国際関係は全部振り回されました」

 

 鈴木の目の下には濃い疲労がある。

 

 火賀灯真に胃を破壊された男の顔だった。

 

「ですが、そのロジック上、彼は世界を崩壊させる方向には行きません。彼にとってこの世界は箱庭です。育成対象の集まる箱庭。その箱庭が壊れることを、彼は酷く嫌がる」

 

 アメリカ側の男が言う。

 

「善人だからではなく?」

 

「善人ではありません。ですが彼は自分の欲望のためにも世界を維持したい。だから危険であり、だから利用でき、だから安全です」

 

「人類を守るべき隣人として見ているわけではない」

 

「ええ」

 

「では、何として見ている」

 

「育成対象です」

 

 鈴木は迷わず答えた。

 

「それは安心材料なのか」

 

「少なくとも、絶滅させる対象ではありません」

 

 その言葉に、誰もすぐには反論しなかった。

 

 火賀灯真は世界を救いたい聖人ではない。

 世界を育成対象の生きる箱庭として維持したい異常者だ。

 

 倫理的には気持ち悪い。

 だが国家戦略上は、悪意ある破滅願望者より遥かにマシだった。

 

 総理が、そこで初めて口を開いた。

 

「待ってくれ。第二、第三の【楽園解放】持ちが現れる可能性は?」

 

 鈴木は頷いた。

 

「あります。低いか高いかは不明ですが、ゼロではありません」

 

「火賀灯真と安里真由を排除しても、能力そのものが世界から消えるわけではない」

 

「はい。むしろ、次に現れた【楽園解放】持ちが、火賀灯真の管理外にいる方が危険です」

 

「管理外」

 

「火賀灯真は危険ですが、危険性を理解して制限する側でもあります。安里真由本人にも倫理観があり、自己評価が低く、自分を救世主だと思っていない。現状では、あの二人が組んでいることはリスクであると同時に、抑制装置でもあります」

 

 総理はしばらく黙っていた。

 

 大画面の中では、戦闘が進んでいる。

 

 火賀灯真が大伴円の手を取った。

 円が露骨に嫌そうな顔をする。

 何か短く言い合う。

 

 次の瞬間、円の短剣が灯真の腕へ刺さった。

 

 観測室に、別の意味で嫌な空気が流れる。

 

==================

【会心】

【死線心眼】が発動しました。

回避補正が上昇します。

==================

 

 配信側のコメントがまた荒れた。

 

> 嫌がってる円くんに何させてんだ

自分を切らせるな

会心バフのために仲間のメンタル削るな

灯真キチガイ

円くんかわいそう

いや効率はいいのが最悪

guide-GPT注意喚起しろ

 

 

 

==================

【guide-GPT】

注意:本運用は特殊な治療体制および当事者間の合意を前提としています。

一般探索者は絶対に模倣しないでください。

==================

 

 観測室の中で、アメリカ側の一人が低く呟いた。

 

「彼は、自分の身体をバフ起動用の的として使っているのか」

 

「はい」

 

「精神構造が人間から逸脱しているのか?」

 

「否定しません」

 

 鈴木はそう返した。

 

     ◇

 

 画面の中では、久連の叔父が前へ出ていた。

 

 ☆6ファイター。

 高レア。

 高ステータス。

 固有スキル【真雪銀斬】。

 

 火賀灯真は低レア育成を好む。

 だが、高レアが強いという事実を否定しているわけではない。むしろ彼は、そこに関しては恐ろしくドライだった。

 

 武術を究めた蟻と、素人の怪獣。

 どちらが強いかと言えば、だいたい怪獣が勝つ。

 

 それが、火賀灯真の高レア観だった。

 

 叔父が剣を抜く。

 

==================

【真雪銀斬】

一定時間、自身を【真雪銀刃】状態へ移行。

通常攻撃および斬撃系スキルの射程・範囲・切断力を大幅に拡張する。

==================

 

 白銀の斬撃が、回廊を斜めに裂いた。

 

 鋼骸兵の盾ごと胴がずれ、後方の弩弓兵までまとめて崩れる。

 余計な小細工はない。

 ただ速く、広く、鋭く、強い。

 

「これは……」

 

 アメリカ側の軍事担当官が、初めて素直に感嘆した。

 

「高レアでも、頭一つ抜けているな」

 

「【真雪銀斬】は、純粋に強いスキルです」

 

 鈴木が言う。

 

「火賀灯真は低レア育成を好みますが、高レアが強いという事実は否定していません。むしろ、非常にドライに評価しています」

 

 画面が切り替わる。

 

 真由の【楽園解放】が再び走り、円の【死滅願望】が敵群全体へ広がる。

 会心、追撃、会心、追撃。

 先ほどよりさらに速い。円の【死線心眼】による回避補正が積み上がり、敵の槍や矢がかすりもしない。

 

 単体殺しだったはずの男が、広域殲滅の嵐になっていた。

 

 さらに、叔父が剣を掲げる。

 

==================

【銀剣貸与】

自身の斬撃権能を一時的に他者へ貸し出す。

対象:安里真由

一時的に【真雪銀斬】の簡易行使権を付与します。

==================

 

 白銀の光が、真由の杖へ宿る。

 

「待て」

 

 日本側の防衛担当官が思わず声を出した。

 

 次の瞬間、真由が杖を振った。

 

 支援職の女が、【真雪銀斬】を放った。

 

 威力は叔父本人のものより落ちる。

 だが、それでも十分だった。白銀の軌跡が敵の隊列を裂き、残存していた重装骸兵の前衛をまとめて崩す。

 

 支援職が、借り物の高レア斬撃を放つ。

 

 しかも、その背後には【楽園解放】がある。

 

「貸与された権能も、全体化の対象になるのか」

 

 アメリカ側の分析官が言った。

 

「現時点では不明です」

 

 日本側の解析担当が答える。

 

「不明、という言葉が一番嫌いになりそうだ」

 

 乾いた声だった。

 

「……コンボ開発機関」

 

 アメリカ側の分析官が、さらに呟いた。

 

「エリュシオンはクランではありません。少なくとも、ただの探索者クランではない。火賀灯真を中心とした、スキルとアーティファクトのコンボ開発機関です」

 

 探索者を集めた戦闘集団ではない。

 

 スキル。

 装備。

 アーティファクト。

 人格。

 倫理的限界。

 それら全部を見て、組み合わせ、実戦へ投げ込む実験場。

 

 それが、エリュシオンの本質だった。

 

 アメリカ側の担当官が、低く言う。

 

「この戦術体系を、米軍探索者部隊へ移植できるか」

 

「不可能ではありません」

 

 分析官は、少しだけ悔しそうに言った。

 

「ただし、火賀灯真のようなビルド設計者がいません」

 

「つまり、我々が不足しているのは装備でも人材でもなく、運用思想か」

 

「はい」

 

 その返答は、重かった。

 

 魔石の数で遅れていると思っていた。

 アーティファクトで遅れていると思っていた。

 高位探索者のレベルで遅れていると思っていた。

 

 違う。

 

 育成思想で遅れている。

 

 どの能力をどう見て、どう組み合わせ、どこまで危険を許容し、どこから禁止し、どの不遇スキルを拾い上げるか。

 

 その思想で、日本は先行している。

 

 正確には、日本ではない。

 

 火賀灯真と、エリュシオンが先行している。

 

     ◇

 

 敵の弩弓兵部隊が、最後の波状攻撃を仕掛けた。

 

 天井の高い回廊に、無数の矢が浮かぶ。

 鋼の矢じりに黒い魔力が宿り、一斉に放たれる。普通なら、回避も防御も間に合わない密度だった。

 

 平良久連が前へ出た。

 

 自分の腕に斧の刃を当てる。

 

 自傷。

 ガッツ発動。

 十二試練。

 

==================

【十二試練】

攻撃行動停止。

拡張解釈:攻撃判定を保持した飛来物の進行停止。

==================

 

 矢の雨が、空中で止まった。

 

 それは映像としてあまりにも異様だった。

 数百本の矢が、まるで時間だけを切り抜かれたように空中へ貼り付いている。久連は血を流しながら立ち、顔をしかめるでもなく、ただ前を見ていた。

 

 観測室の誰かが、ほとんど囁くように言った。

 

「防御ではなく、攻撃という概念の停止……」

 

 そして最後に、ボスが現れた。

 

 【紫の騎士】。

 

 人型。

 男性判定。

 高い精神耐性。

 Aランクダンジョンにおける中枢守護個体。

 

 生き残った敵を踏み越え、紫紺の鎧を鳴らしながら、騎士は剣を構えた。

 すでに前衛は削られ、配下はほとんど崩壊している。それでもなお、個体としての圧は別格だった。

 

 【女神視線】持ちの女性が、前へ出る。

 

 騎士が、彼女を見る。

 

 それだけで、空気が変わった。

 

==================

【女神視線】

男性判定対象への魅了・怯み・行動阻害・被ダメージ増加補正を適用。

対象:紫の騎士

精神抵抗判定:突破

==================

 

 紫の騎士が剣を下ろした。

 

 女性が何かを言う。

 配信音声は拾っていたが、guide-GPTが一拍置いて字幕を出す。

 

『もう、終わりにしてください』

 

 騎士は、自分の剣を喉元へ当てた。

 

 そして、躊躇なく自害した。

 

 観測室は、再び沈黙した。

 

 男性判定を持つ対象に、視線を向けさせるだけで自害まで誘導できる。

 それは対魔物戦力であると同時に、要人警護の悪夢でもあった。

 

 戦闘としては終わった。

 

 Aランクダンジョンは、エリュシオンによって解体された。

 

 火賀灯真は【原初の火】を使っていない。

 それでも、圧倒的だった。

 

 真雪銀斬。

 楽園解放。

 死滅願望。

 銀剣貸与。

 十二試練。

 女神視線。

 

 それらが、火賀灯真の設計によって一つの戦術体系として組み上がっていた。

 

==================

『――Aランクダンジョン【鋼骸王庭】を踏破しました』

『A級魔石を獲得しました』

『高位アーティファクトを獲得しました』

==================

 

 モニターの中で、青白い魔石が輝く。

 

 A級魔石。

 

 その価値を、この部屋にいる人間は理解している。

 

 低級ダンジョンの初回報酬が掘り尽くされつつある今、C級からA級の魔石争奪戦こそが次の国家競争になる。

 A級魔石一つで、低級魔石数百個分の現象改変が可能と推定されている。都市単位の電力、高位医療、国家防衛級の強化、戦略級アーティファクト生成。そのどれにも接続しうる、次の時代の油田であり、核燃料であり、賢者の石だった。

 

 たった一つの民間クランが、Aランクを教材のように突破した。

 

 これは、ダンジョンを一つ攻略した映像ではない。

 

 高位魔石を取れる側と、取れない側に世界が分かれる瞬間の映像だった。

 

 それは、単なる戦闘勝利ではない。

 

 国家を越す力。

 現代における神の座へ、民間組織が手をかけたということだった。

 

     ◇

 

「古来より」

 

 日本側の年配官僚が、重い声で言った。

 

「神というものは、人間の手に負えるものではありませんでした。気まぐれで、圧倒的で、世界に恵みも災厄ももたらす存在だった」

 

 誰も遮らない。

 

「火賀灯真は、言うまでもなく人間どころか生物の精神から逸脱しています。善意もあまりありません。ですが、とても有益です」

 

 モニターの中で、火賀灯真は仲間たちと何かを話していた。

 真由に呆れられ、円に文句を言われ、久連に静かに睨まれ、叔父に感動されたような顔を向けられている。

 

 その姿は、人間に見えた。

 

 だが、世界への影響を考えれば、もう人間という分類では足りない。

 

 鈴木碧は、長い会議の終わりに、机へ置かれた改造スマホを見た。

 guide-GPTは淡々と戦闘ログを整理し、各国語のコメントを分類し、危険度評価を更新している。火賀灯真がばら撒いた道具が、今も政府の意思決定を支えている。

 

 灰の魔人。

 

 かつてはそう呼ばれていた。

 

 だが、それはもう古い。

 

 灰の魔人では足りない。

 あれはもう、燃やすだけの男ではない。

 

 ダンジョンを焼く灰の男ではない。

 世界を育成し、国家を振り回し、魔石資源戦争の形を変え、全体化という神話級の危険物を管理し、Aランクダンジョンを教材へ変える存在。

 

 人間ではない。

 そしてただの生物の合理でもない。

 

 恵みと災厄を同じ手でばら撒き、しかもそれを善行ではなく趣味だと言い切る。

 そういうものを、古い言葉で何と呼んだか。

 

 鈴木は、胃の奥が焼けるような感覚を覚えながら、ぼそっと呟いた。

 

「……【灰の魔神】」

 

 




真銀斬を撃て安里真由&テンニンカ
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