☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:ちんこ良い肉

27 / 29
更新遅れて申し訳ありません。ゲステラの仕様考えるのに時間かかりました。次次回の話で触れます


育成投資

世界は育成を始める

 

 官邸地下の日米合同観測室で、火賀灯真に対する新たな呼称が生まれた頃、世界各国でもまた、それぞれ異なる言葉を使いながら、同じ存在の再定義が始まっていた。

 

 Aランクダンジョン【鋼骸王庭】攻略配信以前、火賀灯真は、灰になりながらダンジョンを焼き払う異常な一探索者として知られていた。しかし、配信を最後まで見た者にとって、その認識はもう古い。

 

 彼は一人で強いだけでも、魔石と種火を集め、それらが何に使えるのかを世界へ教えただけでもない。自ら確保した種火を警察、軍、消防、救助隊、そして見込みのある低レアリティ覚醒者へ流し、魔石を電力、医療、通信、装備開発へ投入したうえで、帰還の紙片や識別紙片、永久水筒といったアーティファクトを、国家や企業が価値を理解するより先に社会へばら撒いていた。

 

 ダンジョン攻略報酬の売却益も、世界配信から得られる収益も、各国や企業から支払われた莫大な協力費も、その多くが初心者装備の購入補助、負傷探索者の治療、生産職の開業、種火やアーティファクトの輸送、攻略WIKIの翻訳と維持へ戻されている。

 

 本人は、それを慈善とも寄付とも呼ばなかった。

 

 育成環境整備費。

 

 たったそれだけの言葉で処理していた。

 

 人材を見つけ、資源を注ぎ、死なずに成長できる環境を整え、育った人間が次の人間を支えられるところまで社会を組み直す。火賀灯真が行っているのは、もはや個人によるダンジョン攻略ではなかった。

 

 世界規模の育成だった。

 

     ◇

 

 アメリカ合衆国、国防総省。

 

 Aランク攻略配信の終了から、まだ六時間しか経過していなかった。それでも地下会議室には、陸海空軍、国家安全保障会議、エネルギー省、保健福祉省、情報機関、そしてダンジョン対応特別部隊の人間が既に集められ、正面スクリーンには配信映像を解析した戦術図が映し出されている。

 

 安里真由の【楽園解放】。

 

 大伴円の【死滅願望】。

 

 平良久連の【十二試練】。

 

 鹿野航平の【原初の贄】。

 

 氏名非公開の女性探索者が保有する【女神視線】。

 

 そして、☆6ファイターの【真雪銀斬】と【銀剣貸与】。

 

 個々のスキルを単独で見れば、辛うじて理解はできた。会心した通常攻撃を連鎖させる。死に至った瞬間、敵の攻撃を停止させる。男性判定を持つ対象へ魅了と行動阻害を与える。自分の斬撃能力を他者へ貸し与える。

 

 問題は、それらがエリュシオンへ集められ、火賀灯真によって一つの戦術体系へ組み上げられていることだった。

 

「従来の我々の編成思想では、Aランクを攻略できないのか」

 

 統合参謀本部の将官が訊いた。

 

「攻略そのものは不可能ではありません」

 

 若い分析官が答える。

 

「我が国には☆5、☆6の探索者が複数存在します。火賀灯真から供与された種火の一部を追加投入し、軍保有装備を集中させれば、いずれ正面突破は可能でしょう」

 

「いずれ、とは」

 

「現在の育成速度が維持された場合、数か月から一年。ただし、高レア探索者の損耗を許容する必要があります」

 

 会議室の空気が重くなる。

 

 探索者は兵器ではない。だが国家安全保障を扱う会議で、損耗という言葉を避けたまま現実を語ることもできなかった。

 

「日本は、☆0と☆2を主力としてAランクを突破した」

 

「正確には、☆0と☆2の固有能力を、☆6、高位アーティファクト、回復手段、危険スキル管理体制を含む戦術体系へ組み込んでいます。単純な低レア部隊ではありません」

 

「同じことを我々もすればいい」

 

 別の将官が言った。

 

 分析官は一拍置いてから、静かに首を振った。

 

「それが、今の我々にはできていません」

 

「なぜだ」

 

「能力を評価する基準が違うからです」

 

 画面が切り替わり、アメリカ国内で登録された覚醒者の統計資料が映し出された。

 

 高レアリティ探索者には、早い段階から政府や企業が接触し、装備、種火、報酬、訓練施設といったあらゆる資源が優先的に投入されている。一方で、☆0から☆2の多くは補助労働、低級採掘、素材回収、あるいは非戦闘員として分類されていた。

 

 説明文が短すぎる固有スキル、用途の分からない能力、発動条件が厳しすぎるもの、効果時間が一秒にも満たない支援、初期数値が低すぎる能力。そうしたものの多くは、詳細な検証すら受けないまま戦力外と判定されている。

 

「火賀灯真は、能力を単独で評価していません。スキルレベル、装備、対象、発動条件、他者との組み合わせ、そして本人の人格まで含めて評価を変えています」

 

「当然のことではないのか」

 

「今となっては、そう見えます」

 

 分析官は淡々と答えた。

 

「しかし我々は、覚醒者を兵士、警察官、労働者といった既存の役割へ当てはめました。火賀灯真は逆です。能力を先に見て、その能力が最大限働く役割を新しく作っている」

 

 高レアを集め、強い装備を渡し、軍隊式の訓練を施す。それ自体は間違っていない。実際、平良久連の叔父が見せた【真雪銀斬】は、正統な高レアリティによる圧倒的な暴力だった。

 

 だが、それだけでは【楽園解放】と【死滅願望】の組み合わせは生まれない。死に至るたびに敵の攻撃を止める平良久連へ、何度でも致死ダメージを耐えられる装備を重ねる発想も生まれない。

 

 能力を兵士へ合わせるのではない。

 

 能力に合わせて、兵士の戦い方そのものを作り替える。

 

「我々が日本に負けているのは、魔石の保有数だけではありません」

 

 分析官が言った。

 

「種火の量でも、高レア探索者の数でもない。育成思想です」

 

 会議室の奥で、誰かが苦々しげに呟いた。

 

「ゲームの攻略思想で、国防が遅れているというのか」

 

「世界の側がゲームに似た仕組みへ変わった以上、それを理解する人間が有利になるのは当然です」

 

 反論は出なかった。

 

 画面の隅には、火賀灯真が公開している攻略WIKIが表示されている。初心者は火力より生還手段を優先すること。帰還の紙片を必ず所持すること。未鑑定品を使用しないこと。高レアは基本的に強いが、低レアの固有能力は条件次第で代替不能になること。死者を出して周回速度を上げる行為は、長期育成効率を下げること。

 

 それは軍事教本ではない。

 

 しかし現場の兵士や探索者たちは、既に正式な教本より頻繁に読んでいた。

 

「全部門へ命令を出してください」

 

 国家安全保障担当補佐官が言った。

 

「国内の☆0から☆3まで、過去に戦力外と判断された覚醒者を再調査します。固有スキルの原文、成長履歴、対象条件、装備相性まで洗い直す」

 

「人数は数百万人規模になります」

 

「AIを使う。guide-GPT使って既存の軍事AI部門と、ゲーム分析企業を統合させろ」

 

「ゲーム企業を国防計画へ参加させるのですか」

 

「今日見たものを、まだ娯楽だと思っているのか」

 

 命令は、その日のうちに発効した。

 

==================

【米国防総省・暫定指令】

 

一、低レアリティ覚醒者に対する一律戦力外判定を凍結する。

二、固有スキルの再解析を実施する。

三、装備・支援・条件付き能力の組み合わせを研究する専門部門を新設する。

四、日本政府へ、エリュシオン式育成および高位ダンジョン攻略に関する共同研究を正式要請する。

五、火賀灯真より供与された種火について、単純な高レア集中投入を停止し、特殊能力保有者への試験配分枠を設ける。

==================

 

 表向き、その専門部門には無難な名称が与えられた。

 

 新世代能力運用研究室。

 

 だが現場の人間たちは、別の名前で呼んだ。

 

 エリュシオン研究班。

 

     ◇

 

 同時刻、中華人民共和国。

 

 国営放送では、日本への非難声明が読み上げられていた。

 

『我が国領内に存在するダンジョン資源は、中国人民に帰属するものであり、外国人探索者による不法な侵入と資源収奪は断じて容認できない――』

 

 画面には、火賀灯真の過去映像が映されている。日本国内でダンジョンを焼き払う灰色の姿、国外と思われる場所から一瞬で消える映像、高位魔石を手にする姿。

 

 中国国内で誰が撮影したのか、どこから流出したのかも分からない粗い映像ばかりだったが、敵を作るには十分だった。

 

 党内部からは、連日のように強硬論が上がっている。

 

 逮捕しろ。

 

 拘束しろ。

 

 魔石とアーティファクトを没収しろ。

 

 日本政府へ正式抗議を行え。

 

 灯真と接触した国内協力者を粛清しろ。

 

 しかし、その夜。

 

 中南海の一室で、総書記はたった一人の側近と向かい合っていた。

 

 机上には、火賀灯真の中国国内における推定移動履歴が置かれている。だが、その資料には推定証拠は山程あっても決定的な証拠が何一つなかった。

 

 ある都市のダンジョンから魔石が消え、数百キロ離れた別の迷宮で内部だけが焼失する。監視部隊が到着した頃には、誰もいない。

 

「軍は追跡部隊の増強を求めています」

 

 側近が言った。

 

「公安も同意しています。地方党委員会からは、日本への報復措置を求める声が強まっています」

 

 総書記は報告書をめくった。

 

「増強を認める」

 

 側近の指が、ごく僅かに止まる。

 

「捕縛を?」

 

「違う」

 

 総書記は顔を上げなかった。

 

「追っていると、党内へ見せるためだ」

 

 部屋には二人しかいない。盗聴対策は幾重にも施されている。それでも側近は、声を落とした。

 

「火賀灯真が国内のダンジョンを攻略することを、今後も容認されるのですか」

 

「我が国が今、高位魔石を大量に得ればどうなる」

 

「国力が増します」

 

「誰の国力だ」

 

 側近は答えなかった。

 

 魔石によって強くなるのは、中国という抽象的な国家だけではない。共産党、人民解放軍、公安、地方政府、党内派閥、幹部一族のうち、誰が先にそれを手にするかによって、国家内部の均衡そのものが崩れる。

 

 魔石一個で、既存技術では不可能な現象を起こせる。人体を強化できる。兵器を改造できる。病を治せる。電力を生み出せる。

 

 そのようなものが大量に国内へ流れ込めば、国家が強くなる前に、国家内部の誰かが強くなりすぎる。

 

「低級魔石だけでも、既に地方で隠匿が始まっている。軍の一部は上層部へ報告せず、自部隊の強化へ使用した。党幹部は家族の治療と身体強化を優先し、地方政府は中央への納入量をごまかしている」

 

「はい」

 

「高位魔石が加われば、次は何が起こる」

 

「……派閥間の武力均衡が崩れます」

 

「火賀灯真は、中国から資源を奪っている」

 

 総書記はそこで初めて、薄く笑った。

 

「だから今は、それでいい」

 

 側近は黙っていた。

 

 その判断が中国の利益なのか、総書記個人の権力維持なのか、あるいは両方なのか。確かめる意味はなかった。

 

「しかし、永遠には続けられません」

 

「分かっている。彼も永遠に持ち去るつもりではない」

 

「信用されているのですか」

 

「していない、全く」

 

 即答だった。

 

「信用ではなく、利害だ。彼は中国を滅ぼしたいわけではない。育成できる人口が減ることを嫌がっている」

 

 側近の顔に、理解しがたいものを見る表情が浮かぶ。

 

「それは、我々にとって安心材料なのでしょうか」

 

「人民を消耗品と見る者より、育成対象と見る者の方が、少なくとも回収と再投資を惜しまない」

 

 総書記は署名した。

 

 火賀灯真追跡作戦の拡大。

 

 表面上は、強硬派の要求を受け入れた命令書である。だが実際の任務は、接触回避、党内部隊の監視、現場における偶発衝突の防止へ書き換えられていた。

 

「追え」

 

 総書記は言った。

 

「ただし、近づくな。軍にも、公安にも、地方にも、彼を捕まえられると思わせておけ」

 

「党には敵が必要で、総書記には時間が必要だと?」

 

「違う」

 

 総書記は、配信映像の中で笑いもせず魔石を拾う火賀灯真を見た。

 

「中国に、時間が必要なのだ」

 

     ◇

 

 欧州連合では、配信翌日の朝から緊急公聴会が開かれた。

 

 議題は、覚醒者の人権と高位スキルの国際管理。

 

 だが、公聴会開始の二時間前には、欧州緊急医療機構が日本から帰還の紙片二十万枚、識別紙片五百万枚、永久水筒三千個を購入する契約へ署名していた。

 

「我々は昨夜、人体を弾丸にする能力の実演を見ました」

 

 壇上で、フランス出身の議員が声を上げる。

 

「さらに、人間の行動対象そのものを全体化する能力、男性の自由意思を奪って自害させる能力まで確認された。このようなものを、民間組織の裁量へ任せてよいはずがありません」

 

 拍手が起きる。

 

 続いて、ドイツの法律家が高位鑑定について問題を提起した。

 

「対象の能力だけでなく、心理傾向や過去まで読み取れる鑑定行為は、個人情報保護法の枠組みでは処理できません。本人同意のない使用は、人格そのものへの侵入です」

 

 議論は続く。

 

 原初の贄。

 

 女神視線。

 

 楽園解放。

 

 高位鑑定。

 

 guide-GPTによる人材選別。

 

 どれも、既存の法律へそのまま当てはめることができない。

 

 しかし会場後方で、ポーランドの災害医療担当者は、配布資料を閉じた。

 

「帰還の紙片の輸入契約を止めますか」

 

 隣の議員が顔をしかめる。

 

「この議論の最中に、その話をするのか」

 

「国境地帯のダンジョンで、昨夜だけで二十七人が帰還できずに死にました」

 

「だからこそ、安全性の確認が」

 

「安全性を議論している間にも、人は死にます」

 

 議員は口を閉ざした。

 

 帰還の紙片を持っていれば、生きて帰れたかもしれない。永久水筒があれば、血液と薬液を劣化させずに運べたかもしれない。識別紙片があれば、治療薬に紛れた呪物を見分けられたかもしれない。

 

 火賀灯真が初期に無償提供した魔石によって、欧州各地の避難所や地方病院には既に独立電源設備が試験導入されている。医療用魔石の安全な使用手順も、灯真が失敗例まで含めて公開した記録を下敷きに標準化が進められていた。

 

 人類は、魔石を発見しただけでは資源として使えなかった。

 

 灯真が試し、壊し、治し、結果を公開したことで、初めて社会へ組み込めるものになったのだ。

 

「危険だから禁止するのではないのですか」

 

 議員が言った。

 

 医療担当者は、疲れた声で答えた。

 

「危険だから規格化するのです。禁止して、我々だけが持たない状態が最悪です」

 

 その日の午後、欧州委員会は二つの決定を同時に発表した。

 

 【原初の贄】、【楽園解放】、【女神視線】を含む高危険度能力について、欧州共通の監査基準を策定する。

 

 同時に、日本製アーティファクトおよび魔石利用技術の緊急輸入枠を拡大する。

 

 批判しながら買う。

 

 規制しながら使う。

 

 嫌悪しながら学ぶ。

 

 それが、欧州の出した答えだった。

 

     ◇

 

 同じ頃、世界各国の政府機関へ、火賀灯真の攻略WIKIを翻訳した内部資料が回り始めていた。

 

 国家によって、題名は違う。

 

 低レアリティ覚醒者再評価指針。

 

 条件付き固有能力運用要綱。

 

 ダンジョン人材育成暫定教本。

 

 日本式探索者生存戦略。

 

 だが中身は、ほとんど同じだった。

 

 高レアは強い。低レアは弱い。ただし、弱いことと、役割がないことは同じではない。死なせず、識別し、帰還手段を持たせ、能力単体ではなく組み合わせで評価しろ。

 

 そして世界中で、それまで見捨てられていた低レアリティ覚醒者の記録が、もう一度開かれ始めた。

 

 Aランク攻略配信は、エリュシオンが強いことを世界へ示しただけではない。

 

 世界そのものへ、育成を始めさせたのだった。

 

 だが、思想だけで人は育たない。初期装備も治療費も生産施設も必要であり、能力の検証中に本人と家族が生活していくための資金までなければ、どれほど珍しい固有スキルも日の目を見る前に消えてしまう。

 

 その問題へ最も早く手を入れたのも、火賀灯真だった。

 

 ダンジョン攻略報酬、余剰魔石とアーティファクトの売却益、世界配信による広告収入、各国から支払われる攻略協力費。個人が保有するには異常な額の資金が、guide-GPTの管理下で世界各地の育成支援へ流されていた。

 

==================

【火賀灯真・育成環境整備基金】

 

累計支出:

 

初心者装備購入補助:二千八百四十一億円

負傷探索者治療費:千三百二十七億円

生産職・加工職開業支援:九百九十八億円

攻略情報翻訳・サーバー維持費:二百七十四億円

種火・紙片・装備輸送費:千四百六十二億円

治安・消防・救助組織への緊急支援:千五百十三億円

遺族および扶養家族への補償:六百九十六億円

==================

 

 灯真本人は、支援対象者の名前をほとんど知らない。

 

 個別の申請書にも目を通していない。guide-GPTが詐欺、不正受給、反社会的組織への流出を選別し、灯真が定めた基準に従って資金を配分していた。

 

 有望な能力が、初期装備を買えないという理由だけで消えるのは非効率。生産職が、工房を借りられないせいで成長機会を失うのは損失。探索者が治療費を払えず引退するのは、投入した種火と経験値の無駄。

 

 彼の理屈は徹底して合理的で、慈悲という言葉からは少しずれている。

 

 それでも、金を受け取った側の人生は、確かに救われていた。

 

     ◇

 

 東南アジアのある都市では、一人の☆2生産職が、灯真の基金から支給された開業資金によって小さな工房を開いた。

 

 固有スキルは【継ぎ接ぎ】。

 

 壊れた装備二つから、使用可能な装備一つを作る。

 

 新品を作れないため、覚醒直後は外れ能力と評価されていた。壊れた武器を二つ消費して性能の落ちた一つを作るだけなら、新品を買った方が早い。本人もそう説明され、探索者になることを諦めていた。

 

 だが低級ダンジョンへ入る人間が増え、破損した初心者装備が大量に持ち込まれるようになると、話が変わった。

 

 女は支給された資金で作業場を借り、工具を揃え、同じく戦闘へ向かない覚醒者を十二人雇った。半年後、その工房は新品の三分の一の値段で初心者用装備を供給し、装備を買えず作業用の鉄棒や家庭用包丁を持ってダンジョンへ入る若者を減らしていた。

 

 廃棄されていた武器と防具が、もう一度使われるようになった。

 

 戦えないと切り捨てられた十三人が、戦う人間を生かす仕事を得た。

 

「火賀灯真さんは、私たちを助けようと思っていたのでしょうか」

 

 取材で訊かれた女は、少し考えてから首を振った。

 

「たぶん、そんな立派なことは考えていなかったと思います」

 

「では、なぜ資金を?」

 

「使える能力が、金がないという理由だけで消えるのは効率が悪い、と申請結果に書いてありました」

 

 彼女は、小さく笑った。

 

「私は、それでも救われました」

 

     

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。