☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:人見小夜子腹パン部
混乱から立ち直り、政府や配信者――要するに“野次馬”どもが本格的にダンジョンへ向かい始めるまで、意外と時間がかかった。
十二時間。
たった半日。
されど、先行者利益を食い尽くすには十分すぎる時間だ。
その間、俺が何をしていたのか。
決まっている。
駆ける。
【原初の火】を叩き込む。
魔石で癒やす。
次へ行く。
それだけだ。
永田町周辺に発生したF級ダンジョンは、俺の知る限り六十。
地下鉄の死角、雑居ビルの地下一階、工事中の通路、閉鎖された地下駐車場、公園の東屋の下、古い防空壕の名残にまで口を開けたそれらを、俺は文字通り“踏み荒らして”いった。
入口に飛び込む。
人差し指と中指を揃える。
詠唱。
焼却。
激痛。
報酬回収。
魔石消費。
移動。
それを、十二時間。
普通なら発狂する。
いや、実際、端から見れば発狂していたかもしれない。
だが、俺の脳は違う意味で焼けていた。
「そうだ……これだよ……!」
誰もいない路地裏を走りながら、俺は笑っていた。
「楽しい……! 楽しい! 楽しい!」
この、どうしようもないキャラクターを。
最底辺の☆1を。
ゴミみたいな初期ステータスを。
ちまちまと、執拗に、だが確実に強化していく感覚。
完成へ近づけていく感覚。
より効率の良いチャートを組む楽しさ。
移動時間、消費魔石、取得種火、ダンジョン密度、周辺交通、野次馬発生率、警察の規制線、全部を頭の中で計算して、最適化して、削って、繋いでいくあの感覚。
脳を溶かしながら、ハムスターみたいに周回する。
ただ同じことの繰り返しなのに、同じじゃない。
一周ごとに少しずつ強くなって、一周ごとに少しずつ楽になって、一周ごとにもっと上手く回れるようになる。
ああ、最高だ。
痛みはある。
当然ある。
【原初の火】を撃つたびに全身が内側から灰になるみたいな激痛が走る。
何度体験しても慣れないし、正直二度と味わいたくはない。
だが。
楽しさが勝つ。
世界が現代ダンジョンになった。
社会がソシャゲになった。
ということは。
現代人を、ソシャゲキャラみたいに育成できるということだ。
レアリティ。
クラス。
スキル。
素材。
限界突破。
クラスアップ。
全部ある。
そして俺には、それ用の知識も、周回手段もある。
なら当然、やるべきことは一つだ。
育てがいのある人間を見つける。
できれば、低レア。
できれば、世間に見捨てられているのに、育て切れば化けるやつ。
できれば、俺が手を入れる価値のある個体。
そういうのを拾って、鍛えて、仕上げて、環境に刺す。
それが一番楽しい。
そのためにも、まずは俺自身の足場を固める。
俺は人気の消えたオフィスビルの非常階段に腰を下ろし、アイテム欄を開いた。
視界の端に、半日分の成果がずらりと並ぶ。
種火。
素材。
魔石。
武器の欠片。
クラスアップ用の媒質。
その量を見て、喉の奥で笑いが漏れた。
「まずは経験値だな」
【種火【小】】をまとめて選択。
続けて【種火【中】】も叩き込む。
ウィンドウが連続で弾けた。
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【種火を使用しました】
対象:火賀灯真
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【レベルアップ】
Lv1 → Lv3
Lv3 → Lv6
Lv6 → Lv10
Lv10 → Lv15
Lv15 → Lv20
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【現在のレベル上限に到達しました】
クラスアップ条件を満たしています。
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身体の芯が、熱を持った。
筋肉が締まる。
視界が澄む。
魔力の流れが少しだけ太くなる。
劇的な変化じゃない。高レアみたいに“格が上がる”感じではない。
だが、確かに底上げされていた。
弱いな、と俺は思う。
そして同時に、十分だとも思う。
☆1がレベル20。
序章の半日としては破格だ。
「よし」
これだ。
現状の天井までは最短で来た。
なら次。
クラスアップだ。
俺は躊躇なく【実行】を押した。
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【クラスアップ】
キャスター → キャスターⅡ
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【効果】
・レベル上限解放
・装備機能解放
・基礎ステータス補正微増
・スキル成長上限解放
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足元に散らばっていた、さっきまで用途不明だった灰色の素材片が、ふわりと浮いた。
「……あ?」
使い道を確認する前に、そいつらは勝手に俺の胸元へ吸い込まれていく。
煤けた鉱石、魔物の牙の欠片、毒々しい色のゼリー質、焦げた骨粉。
ぜんぶ、勝手に。
どうやらこの世界のクラスアップ素材は、“装備する”んじゃない。
取り込まれる。
低級職の成長なんてそんなもんだ、とでも言いたげな雑さで、システムが俺の肉体へ素材を流し込んでいく。
胸の奥が一瞬ひやりと冷えた。
続けて、新しい通知。
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【新規パッシブスキルを獲得しました】
【猛毒耐性】
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【猛毒耐性】
毒属性による肉体侵食・継続ダメージ・機能阻害を軽減します。
効果はスキルレベルと対象毒素の格に依存します。
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「……外れだな」
即答だった。
毒耐性。
もちろん、無いよりはマシだ。
終盤まで腐らない防御系パッシブの一種ではある。
ゲーム的に見れば、地味に便利枠。
積み重なれば効く。
だが、今の俺には噛み合わない。
俺の役目は広範囲一撃殲滅。
入口から焼き払って、戦闘を開始ごと終了させる役だ。
長引く毒沼戦や、継続ダメージを耐えながら押し切る泥仕合向きの耐性を貰っても、正直ありがたみは薄い。
……とはいえ、これも知っている。
原作でのキャスターが便利で強い周回性能の代わりに、成長の枝がちょくちょく噛み合わない。
嫌がらせみたいな横道が混ざる。
そうやってバランスを取らされていた。
まあそれでも好きだったんだが。
「ほんと、性格悪い調整してるよな……」
毒耐性を獲得した俺は、呆れ半分で笑った。
その後、解放された装備欄を確認して、俺は思わず姿勢を正した。
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【装備機能が解放されました】
初期装備を受領してください。
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「おっ」
これは、ありがたい。
早速戦利品を取り出した。
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【焼け残りの指揮杖】
分類:杖
品質:並
効果:通常枠での攻撃力100%アップ
解説:かつて誰かが戦場で振るった、半ば炭化した指揮杖。
燃え尽きず残った執念が、持ち主の火力を僅かに押し上げる。
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杖自体は初心者用だ。
原作でも散々見た。
いわゆる“最初に持たされる無難な棒”で、上位勢からすれば繋ぎにもならない代物。
「通常枠100%アップ……うん、今は十分だ」
原作だと、終盤の火力役は通常枠で常時1000%前後の攻撃バフが盛られていた。
そこへこれを足しても1100%になるだけ。
言ってしまえば誤差だ。
乗算型バフや別枠補正のほうがよっぽど強い。
だから初心者武器と呼ばれていた。
だが、今の俺は違う。
バフ皆無。
装備皆無。
まともな補正も無い裸同然の☆1だ。
そこへ通常枠100%アップが乗るなら、体感はまるで別物だ。
俺は即座に杖を装備し、立ち上がった。
「続きだ」
それから先は、また周回だった。
ダンジョンに駆け込む。
【原初の火】を叩き込む。
前よりわずかに広く、わずかに深く、わずかにきれいに焼ける。
激痛。
魔石で治療。
回収。
次。
レベルが上がる。
スキルが伸びる。
種火を使う。
また上がる。
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【レベルアップ】
Lv20 → Lv24
Lv24 → Lv28
Lv28 → Lv33
Lv33 → Lv40
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楽しい。
あまりにも楽しい。
それでも、永遠には続かない。
夕方を回る頃には、主要地点の封鎖が始まった。
警察だけじゃない。自衛隊も、自治体も、報道も、ようやく“ただの騒ぎではない”と理解し始めたらしい。
規制線。
検問。
ドローン。
無人のはずの路地に増えていく人影。
「……頃合いか」
俺は最後のF級ダンジョンを後にして、小さく息を吐いた。
十分だ。
欲を言えばもう少し回りたかったが、ここから先は目立ちすぎる。
今の俺が国家と正面からやり合う意味はない。
こちらの仕様理解が一方的に優位な今だからこそ、引き際も重要だ。
帰るか。
そう判断した俺は、改造済みのスマホをポケットへしまい、何食わぬ顔で人混みへ紛れ込んだ。
■■■■
その日の夜。
東京はまだ、半ばパニックのままだった。
SNSは地獄だった。
ダンジョンの動画。
能力覚醒の報告。
高レア自慢。
行方不明者情報。
デマ。
陰謀論。
「俺もスキル貰った!」という浮かれた投稿。
「娘が帰ってきません」という泣きそうな文章。
全部が一つのタイムラインに押し込まれて、世界の温度がバグっていた。
その片隅で、別の話題が伸び始めている。
【灰の魔人】。
最初は、ただの目撃談だった。
『永田町の地下で灰まみれの男が炎ぶっぱなしてた』 『ダンジョンから出てきたと思ったら次の場所へ全力ダッシュしてた』 『敵か味方かわからん』 『人型のモンスターじゃね?』 『動画ある』
次に、荒い縦動画が拡散された。
暗い地下通路。
悲鳴。
眩い閃光。
次の瞬間には、画面の向こうの空間ごと焼けている。
そして炎が引いた後、灰色にひび割れた男が、壁に手をつきながらふらついている。
それが、また次の動画では別の場所にいる。
地下駐車場。
工事現場。
駅の裏手。
雑居ビルの階段。
どこでも同じように焼いて、同じように灰化して、同じように消えていく。
人々はそれを見て、勝手な名前をつけた。
【灰の魔人】。
政府も、もちろんそれを無視はしなかった。
◇
「敵対種の可能性は?」
霞が関の一室。
臨時招集された対策会議で、一人の官僚がそう言った。
机の中央モニターには、複数の動画が並んでいる。
すべて、灰色にひび割れた一人の青年――いや、男か――が、ダンジョン周辺で高熱攻撃を行っている映像だった。
「現時点では不明です」
情報班の職員が即答する。
「身元未確認。映像上は人間に酷似していますが、攻撃規模が異常です」
「人間への直接攻撃は?」
「確認されていません。ただし、ダンジョン封鎖前の危険区域へ多数侵入。違法侵入と見られる痕跡も複数あります」
「……要するに?」
「放置できない不明戦力です。敵対的存在である可能性も、協力可能な手駒である可能性も、どちらもあります」
沈黙が落ちた。
誰もが疲れた顔をしている。
世界が半日で変わったのだ。余裕などあるはずもない。
その中で、若い分析官がためらいがちに手を挙げた。
「一つ、補足を」
「何だ」
「映像上、彼は毎回攻撃後に重度の自己損傷を負っています。あれがコストなら、少なくとも無制限に暴れられるタイプではないかと」
「弱点がある、と?」
「ええ。ただ……」
「ただ?」
「それを差し引いても、行動が合理的すぎる。行き当たりばったりではありません。ルート選択も、侵入地点も、初回踏破の順番も、あまりに無駄がない」
「……奴はこのイカれちまった世界の仕様を知っているみたいだな」
誰かが、冗談めかして言った。
だが、その場で笑った人間はいなかった。
■■■■
帰宅後、俺は風呂にも入らず、自宅の安アパートでスマホを握っていた。
机の上にはコンビニ飯。
開けてもいない。
その向こう、部屋の隅には魔石が積まれている。
青白く、淡く、脈打つように揺れる結晶群。
百二十一個。
国家インフラに口を出せる量。
企業なら社運を賭けてでも欲しがる量。
探索者から見れば、一生遊んで暮らせるどころではない量。
日本国の心臓に、じかに手を突っ込める量のエネルギー。
いや、本質的にはそれ以上だ。
願望機。
現実改ざん用の燃料。
その夢みたいな鉱石の山を背に、俺がやっていることは一つだった。
SNSで、血眼になって人を探すこと。
「E級を回すには、俺一人じゃ足りない」
F級ならいい。
入口から焼けば終わる。
魔石で治してまた走れる。
だがE級からは話が変わる。
ダンジョン構造が少し複雑になる。
敵の耐久も、数も、属性も増える。
入口ワンパンで終わらないケースが混じる。
焼き残しの処理役。
バフ役。
場合によっては壁役も要る。
つまり、編成だ。
俺は検索欄に片っ端から条件を打ち込んでいく。
【☆2 僧侶】
【覚醒失敗】
【スキル 微妙】
【探索者 無職】
【☆3 盗賊】
【クリティカル】
【やばい】
荒れた投稿が次々に引っかかる。
『☆2僧侶なったけど回復じゃなくて意味不明なバフで草』
『これマジ外れだろ』
『クリティカル時に追撃? で?』
『ダンジョンに放り込んだら死ぬんじゃね』
俺は投稿を読み込み、動画を止め、コメント欄を掘り、アカウントの過去ログまで遡る。
そしてめぼしいのが二人見つかった。
☆2僧侶。
女。
年齢は二十六前後。
無職。
自己評価低め。
スキルは一見ハズレ。普通に使えばよっぽどセンスが良くない限り機能しないバフ。何より現段階では微妙。
しかし
当たりだ。
普通の連中には分からない。
だがこいつは、正しく運用すればボス戦のダメージレースを壊せる。何より周回効率を爆発的に上げられる。求めていた人材
そして、☆0盗賊。
こっちは、もっと当たりだ。
男。
素行不良。
窃盗歴あり。
人格もだいぶ危ない。
だが無差別に弱者を殴って喜ぶタイプではない。
そして何より【死滅願望】持ちだ。
原作で終盤最強にまで化けたスキル
あれを持っているなら、今どれだけゴミ扱いされていても拾う価値がある。
育成難度は高い。人格も面倒だろう。だが、それ込みで価値がある。
「……見つけた」
俺は二つのアカウントを画面に並べた。
一方は、自虐と諦めが滲んだ、妙に丁寧な女の投稿。
一方は、刺々しくて、口の悪いで、でもどこか“本気で壊れ切ってはいない”男の投稿だった。
まずはこの二人だ。
E級ダンジョンを回すために。
その先のD級へ進むために。
そして何より、“サ終シナリオ”を回避するための手札を揃えるために。
俺は魔石の青い光に照らされながら、唇を吊り上げた。
「待ってろよ」
誰に向けて言ったのか、自分でも分からなかった。
未来の仲間か。
この世界か。
それとも、クソみたいなバランスで人類を詰ませる予定の、見えない運営にか。
「育てがいのあるキャラ共よ、俺がちゃんと育成してやる」
スマホの画面を、指で弾く。
次の行き先は、もう決まっていた。
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ここまで読んでいただけて嬉しいです。