☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:ちんこ良い肉
「このボスは、今の俺たちでは倒せません」
「攻略できるって言った直後に何を言ってるのよ」
「普通に戦えば、という意味です」
【フォールンハート】は、【天上のアーデルハイド】時代に開催された高難度イベント、【登頂は誰が為に】の最終層へ出現したボスだった。
実装直後の評価は、地獄絵図、初見殺し、持ち物検査、廃課金専用、運営はユーザーを殺したいのか、と散々なものだった。攻略掲示板の利用者三人は怨嗟を撒き散らし、引退宣言と罵倒と長文お気持ち表明が乱れ飛んだ。
しかし研究が進み、行動条件、ダメージ計算、スキル回しが解明されるにつれて、その評価は変わった。必要な育成を終え、役割を理解し、正しい手順で挑めば、戦っていて非常に楽しい。作中でも屈指の良ボスとして、後年まで復刻を望まれ続けた存在である。
ただし、それは十分なドーピングを行い、スキルレベルを上げ、転生を繰り返し、専用装備まで揃えたプレイヤーにとっての話だ。
現在の世界には、そこまで育った人間が一人もいない。
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【フォールンハート:確認済み能力】
【鼓動】
戦闘領域内で敵対者が行動するたび、対象全体へ防御無視ダメージを与える。
現行エリュシオン基準未満の探索者は、一度の発動で致死圏へ到達。
【インビジブル】
最大体力の四分の一以上に相当するダメージを一度に受けた場合、十秒間の完全無敵状態へ移行。
【堕落胎動】
自身の攻撃一回ごとに、強力な追加ダメージを発生させる。
追加ダメージ量は、戦闘時間の経過に応じて上昇。
【イクリプス】
単一対象へ十五連続攻撃。
各攻撃に【堕落胎動】の追加ダメージが発生。
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「最悪じゃないっすか」
円が顔をしかめた。
「円さんは特に相性が悪いですね。【死滅願望】による追加攻撃一回ごとに【鼓動】が発生する可能性があります。連鎖を伸ばせば、敵を削る前に自分が消し飛びます」
「俺の長所が、そのまま死亡スイッチになるんすね」
「はい」
「嬉しそうに言わないでもらえます?」
久連も相性が悪い。
【鼓動】は、ガッツを一回ずつ剥がしていく。【十二試練】で攻撃そのものを停止できたとしても、停止解除後に再開した連撃が久連の残機をまとめて削る可能性が高い。
さらに戦闘時間が延びれば、【堕落胎動】の追加ダメージは際限なく上昇していく。
高火力で一気に削ろうとすれば【インビジブル】が発動し、十秒の無敵時間中に【鼓動】と【堕落胎動】でこちらが崩れる。細かく削れば行動回数が増え、やはり【鼓動】で死ぬ。
強引な火力だけでは勝てず、耐久だけでも勝てない。
適切な育成と専用対策を要求する、完成された高難度ボスだった。
「迷宮の外に出た場合、どうなりますか」
鹿野が訊いた。
「世界が滅びます」
俺は正直に答えた。
「現在のエリュシオンでは、流出後の討伐は不可能です。魔王でも成長前に倒した【暴食】異典・金剛龍帝や、非戦闘型の【嫉妬】カオナシとは比較になりません。【汝、苦痛を愛せよ】のSS級ボス、【ペインフル・チェイン】とも次元が違います」
金剛龍帝は、本来なら育ち切った後に多元宇宙すら噛み砕く怪物だが、俺が倒した時点では、まだ黒いトカゲに近い初期状態だった。
フォールンハートは違う。
最初から完成しており、最初から世界を終わらせられる。迷宮外殻が保つ九十三日のうちに倒せなければ、育成を待つという選択肢そのものが消える。
だからこそ、迷宮という檻の中にいる今のうちに倒す価値があった。
SSS級ダンジョンの守護個体からは、規格外アーティファクトが一定確率でランダムドロップする。加えて、極めて低い確率ではあるが、死者蘇生を可能にする【ユグドラシルの雫】が落ちる。
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【ユグドラシルの雫】
推定ドロップ率:〇・〇〇〇〇一%
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一千万分の一。
現実的ではない。
だが、ゼロではない。
「パパ……ママ……」
久連が、ほとんど息のような声で呟いた。
彼女の両親は、火災から久連を庇って死んでいる。
ユグドラシルの雫が本当に死者を蘇らせるなら、二人を取り戻せる可能性がある。死後経過時間、魂の状態、肉体の有無、復活対象の同意といった不確定要素は多いが、少なくとも現在の世界で確認されている中では、最も明確な蘇生手段だった。
俺は、安易に「生き返らせられる」とは言わなかった。
一千万分の一を、希望の言葉だけで飾るべきではない。
「まず、一回目を突破します」
久連が顔を上げる。
「今回使う方法は、初回突破専用です。同じ贄を二度使うことはできません。しかし初回報酬とフォールンハートのドロップで円さんたちの装備を更新し、二周目以降は通常編成へ落とし込みます。これは一千万回分の弾を用意する話ではなく、一千万回周回できる環境へ到達するため、最初の一回だけ壁を壊す話です」
「一千万回、本当に倒すつもりなのですか」
「必要なら」
確率は、試行回数で殴るものだ。
百回で出ないなら千回、千回で出ないなら一万回。一万回で出ないなら、同位体、転移、再入場処理、周回班の増設を使って、単位時間あたりの試行回数を引き上げればいい。
それがソーシャルゲームである。
久連は画面から目を離さなかった。
希望と呼ぶには確率が低すぎ、それでも諦めるにはゼロではない。俺は彼女へ安易な約束をせず、ただ周回計画の作成をguide-GPTへ命じた。
そして、感情とは別に、攻略上欲しいドロップもある。
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【堕落・無痛・抱擁】
分類:SSS級アクセサリ
回避成功時、攻撃者へ通常攻撃による即時反撃を行う。
――痛みを拒め。痛みへ触れず、その傍らを通り過ぎよ。
堕ちてくる世界を避け続けた者だけが、最後に世界を抱き返す。
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円の完成形に必要な回避カウンター装備。
【死滅願望】で会心連鎖を起こし、【死線心眼】によって会心するほど回避率を上げ、【堕落・無痛・抱擁】で回避するたび通常攻撃による反撃を行う。その反撃が会心すれば、再び【死滅願望】と【死線心眼】が動く。
攻撃すれば連鎖し、攻撃されても回避し、反撃から再び連鎖する。
円という☆0アサシンを、敵が動くだけで自動的に加速する永久機関へ近づける装備である。
「大将」
円が嫌そうな顔で俺を見る。
「両親を生き返らせるアイテムの次に、俺の装備の話するのやめてもらえません?」
「どちらも重要です」
「同じ棚に並べるなって言ってるんすよ」
なぜだろう。
蘇生アイテムも最終装備も、どちらもSSS級ボスを周回する十分な理由だ。
スノーボールという概念がある。
早い段階で強くなれば、その強くなった力によって、通常なら挑めないハイリスク・ハイリターンの試練へ手を伸ばせる。そこでさらに強力な報酬を得れば、次はより高い難度を、より短い時間で攻略できる。
最初の小さな差が、やがて誰にも追いつけない資源差へ広がっていく。
俺が世界へ与えた初期資源アドバンテージも、それだった。
ならば今度は、エリュシオンの最高戦力を優先的に完成させ、SS級以上のダンジョンを次々に潰していくべきだ。その報酬を他の探索者へ回し、育った探索者がさらに別の高位ダンジョンを攻略する。
合理的だ。
計算上は、迷う理由などない。
それでも、感情だけがその計算結果を受け入れようとしなかった。
「勝てるんですか」
鹿野が訊いた。
その声には、不安だけでなく、既に何かを察した人間の怯えが混じっていた。
「勝てます」
俺は即答した。
「勝率は?」
「一〇〇パーセントです」
guide-GPTのシミュレーションでも、同じ結果が出ている。
【フォールンハート】の【インビジブル】は、最大体力の四分の一以上のダメージを受けた後に発動する。つまり、一撃目で最大体力のすべてを削り切り、無敵化の処理へ移る前に死亡判定へ到達させればいい。
必要なのは、一発。
ただの高火力では届かない。
俺の【原初の火】でも足りず、【天刻拍動】や【覇道】を重ねても届かない。
だが、【原初の贄】なら可能性がある。
生命を撃つ必要はない。
所有者にとって、命よりも大切なものを贄にすればいい。
俺は震える手で、改造スマートフォンを持ち上げた。
ソシャゲ200個を掛け持ちしているそれを
首から下を弾にした時、俺の手は震えなかった。
今は、スマートフォン一つを持ち上げるだけで、指がまともに動かなかった。
「秘策は、俺のグラブルのアカウントデータです」
部屋が静まり返った。
「……はい?」
真由が聞き返す。
「十年ものです」
俺は十年間、毎日ログインした。
仕事で上司に詰められ、会社のトイレで吐きそうになった日も、退勤が深夜を回った日も、熱を出した日も、何もかも嫌になって死にたいと思った日も、画面だけは開いた。古戦場を走り、イベントを回り、素材を集め、武器を凸し、キャラクターを育て、季節限定を引き、天井し、爆死して、それでも続けた。
課金額は、およそ五百万円。
時間については、計算したくない。
俺が会社員として生きた十年のうち、楽しかった日も、辛かった日も、何も感じなかった日も、すべての横にそのデータがあった。
友人より長く付き合っている。
会社より信用している。
家族より毎日顔を合わせている。
俺が何者でもなかった頃から、毎日少しずつ積み上げ続け、誰にも奪われず、誰にも評価されず、それでも確かに俺の中へ残っていた成果だった。
これを失うくらいなら、全裸フルマラソンでも食糞でも選ぶ。凌遅刑についても、かなり真剣に比較検討する。
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【guide-GPT:贄弾出力比較】
比較対象一:
火賀灯真の頭部を除く全身
推定変換出力:一〇〇
比較対象二:
火賀灯真が十年間継続運用したゲームアカウント
推定変換出力:三七四〇
比較倍率:三十七・四倍
判定:
当該情報資産は、火賀灯真本人の肉体よりも、喪失時の精神的損害および自己同一性への影響が大きいと算定されます。
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「本当に命より大事なの……?」
真由が、引きつった声で呟いた。
「だから最初からそう言っています」
俺の声は、自分でも分かるほど震えていた。
「鹿野さんが【原初の贄】を使用し、俺がアカウントの永久消失へ同意します。アプリを削除するだけではありません。運営サーバー上のデータ、バックアップ、購入履歴、認証記録、復旧申請に必要な情報を含め、俺のアカウントとして再構成可能なものをシステム上から完全に消滅させる。その喪失を贄弾へ変換すれば、フォールンハートの最大体力を一撃で削り切れます」
「嫌です」
鹿野が、今までで一番強い声を出した。
「なんでですか」
「火賀さんが、頭だけになった時より辛そうな顔をしているからです!」
「そんなことはありません」
「血の涙が出てるわよ」
真由に指摘され、俺は頬へ手を当てた。
本当に血が付いていた。
なるほど。
苦痛聖杯を使うほどではない。
「大将、やめましょうよ」
円が、心の底から俺を心配する顔をしている。
「他に方法を探せばいいじゃないっすか」
「外殻崩壊まで九十三日です。現時点で、確実に勝てる手段はこれだけです」
「でも、それ、大将にとって本当に大事なやつなんすよね」
「はい」
「俺の装備なんて後でいいっすよ」
「よくありません」
円の完成が遅れれば、その分だけ次の高位ダンジョン攻略が遅れる。ユグドラシルの雫へ届く試行回数も減り、世界へ配布できる高位資源も減少する。
これは一つのゲームデータと、一つのダンジョンを比べる話ではない。
最初の雪玉を、さらに大きくするための投資だ。
合理性は疑いようがない。
だからこそ、辛い。
「他の人の大切な物を使うことはできないのですか」
久連が静かに訊いた。
「できます」
俺は答えた。
「世界中から志願者を募れば、家族の形見、人生をかけて作った作品、研究者の生涯研究、企業家がすべてを注いだ会社、それに近い出力を持つものは見つかるでしょう」
「なら――」
「使いません」
久連の言葉を遮った。
「他人が人生を注いだものを、俺の周回開始用アイテムとして消費する気はありません。使うなら、俺のものです」
鹿野が、苦しそうに眉を寄せた。
「身体の時もそうでしたけど、火賀さんは、どうして自分なら消費していいと思うんですか」
「俺の所有物だからです」
「火賀さん自身もですか」
「少なくとも、他人よりは俺に処分権があります」
「そういう話をしてるんじゃありません」
鹿野の声が震えている。
俺には、何が違うのかよく分からなかった。
「……それを失っても、火賀さんは大丈夫なんですか」
久連が訊いた。
俺は答えようとして、言葉に詰まった。
十年。
五百万円。
数え切れない周回。
上司に詰められた夜、家へ帰って画面を開いた時に迎えてくれたキャラクターたち。【天上のアーデルハイド】とは違い、今もサービスが続いている世界。俺がこの世界へ来る前から育てていた、もう一つのアーデルハイド
大丈夫か。
そんなわけがない。
「勝てます」
俺は、質問とは違う答えを返した。
「一〇〇パーセント」
視界が赤く滲んでいる。胸が痛く、首から下を弾にした時よりも、遥かに苦しかった。
それでも、勝てる。
作戦上、戦闘領域へ入るのは俺と鹿野だけであり、鹿野には【身代わりの石】とガッツ効果を重ねる。guide-GPTの再現では、【原初の贄】の着弾処理と死亡判定が【鼓動】の反撃処理より先に行われるため、初撃でフォールンハートを殺し切れば、敵対行動への反応が完了する前に戦闘そのものが終了する。
失敗の可能性は、シミュレーション上存在しない。
上司に詰められ、死にたくなった日にも欠かさず積み上げ続けた、俺の十年と五百万円を撃ち出せば、SSS級ダンジョン【失心天蓋】の最上階に座す【フォールンハート】を一撃で殺せる。
勝率、一〇〇パーセント。
俺は血の涙を流しながら、震える指で【転移の指輪】を起動した。