☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:ちんこ良い肉
それは、ある別世界における究極文明――ルアルの文明圏へ属する、とある宇宙で誕生した神だった。
その宇宙には、知的生命体の信仰が神秘を生み出すという、こちらから見れば冗談としか思えない現象が、れっきとした物理法則として組み込まれていた。
暗闇の奥には恐ろしい怪物が潜んでいると人々が信じれば、何も存在しなかった闇の中から、本当に魔物が這い出してくる。太陽には三本足の巨大な烏が住んでいると信仰されれば、恒星の内部で怪鳥が羽ばたき、その翼によって太陽風の流れすら変化する。
想えば成る。
願えば果たされる。
夢のような宇宙であり、それ以上に悪夢のような宇宙だった。
ヤントイッヒは、そこに住む知的生命体が抱いた「全知全能の神」という信仰から生まれた。
全てを知り、全てを行い、世界の始まりから終わりまでを見通し、祈る者の前へ必要な時に現れる、絶対にして唯一の神。
そのような存在を人々が信じた結果、本当にそのような神が発生したのである。
故にヤントイッヒは、その宇宙に最初の星が生まれる以前から存在しており、同時に、宇宙が終わった後に何が起こるかまで知っている。
知的生命体の信仰から生まれたはずなのに、知的生命体はおろか宇宙が誕生するより前から存在するのはおかしくないか。
意味のない疑問だ。
未来に生まれる知的生命体が、始まりから神がいてほしいと願った。だからヤントイッヒは、信仰が発生した瞬間から過去へ遡り、宇宙誕生以前に生まれた。
それだけのことである。
真なる神秘に、因果関係や整合性を求めてはいけない。矛盾していようと、それが成り立つよう世界の方が書き換わる。
それがヤントイッヒだった。
「待って」
俺の説明を聞いていた真由が手を上げた。
「さっきから、普通にとんでもない話をしてるわよね。未来の信仰によって、過去に神が発生したの?」
「はい」
「原因より先に結果が存在してるじゃない」
「全知全能ですから」
「説明になってないわよ」
「全知全能について考える時は、説明になっていない説明が一番正確なんです」
ヤントイッヒは、煌々と輝く人型の光として描かれていた。
その宇宙の知的生命体が、全知全能の神を自分たちと同じ人型だと想像した結果である。神が自分たちと似た姿をしていると考える時点で、知的生命体側も相当に傲慢だと思う。
ただし、ヤントイッヒ本人の傲慢さは、その比ではない。
なにしろ、全知全能である。
全能とは、全てを行える力だ。
全能者へ「自分では持ち上げられない石を作れるか」と問う、有名な逆説がある。作れないなら何でも作れる全能ではなく、作った石を持ち上げられないなら何でもできる全能ではない、という理屈だ。
だが、その程度の言葉遊びは、真の全知全能には通用しない。
ヤントイッヒが望めば、自分には絶対に持ち上げられない石が生まれ、同時に、その石を何の苦労もなく持ち上げられる。
矛盾している。
だから何だという話である。
持ち上げられないことと、持ち上げられることが同時に成立するよう、世界の規則そのものが変更される。観測者は二つの現象を同時に目撃し、どちらも正しいと理解させられる。
世界のルールブックそのものを所有する者へ、ルールの穴を突こうとする方が間違っている。
ただし、全能存在が複数存在し、その意思が正面から衝突した場合だけは事情が変わる。
一方の全能が「必ずこうなる」と決定し、もう一方の全能が「絶対にそうはならない」と決定すれば、どちらも本来なら完全に成立するはずの命令でありながら、同じ世界へ同時に反映することはできない。
その時に結果を決めるのは、権能そのものの強度、世界へ命令を押しつける優先度、能力の運用効率、そして全能を特定の結果へ集中させた密度だった。
全能だから全て同格なのではない。
何でもできる者同士であっても、その「何でも」をどの程度の強さで、どれほど無駄なく、どこまで一つの目的へ集中して行使できるかによって勝敗は生じる。
「必ず勝利する能力を持つ相手でも、ヤントイッヒより優先度が低ければ同じです」
俺は説明を続けた。
「ヤントイッヒへ挑めば、勝利と同時に全滅します。あるいは『必ず』という部分が書き換えられ、それ以上の優先度を持つ絶対勝利によって普通に負けます」
「勝ったのに全滅するんすか」
「します」
「それ、勝ったって言わなくないっすか」
「全知全能が勝利だと言えば勝利です」
「クソゲーじゃないっすか」
「ようやく分かりましたか」
俺は深く頷いた。
ヤントイッヒは、魔王であろうと、恒星間戦争を繰り返す超文明であろうと、一切区別しない。奴にとっては、石ころと同じようなものである。
究極文明ルアルが保有していた、最後にして究極の切り札。
それが全知全能神ヤントイッヒだった。
育ち切った【暴食】を考慮しなければ、七大魔王が全員で襲いかかっても勝負にすらならない。
ヤントイッヒが【死ね】と命じれば、それで終わる。
いや、命じる必要すらない。
不快だと感じた時点で、相手が存在しない結果を選択できる。
さらに全知によって、【暴食】が将来どれほどの怪物へ育つかも知っているため、成長するより前に殺すこともできる。
つまり、今ここでヤントイッヒへ接続し、お願いすればいい。
頭を下げ、土下座し、靴を舐め、心の底から真摯に願えば、七大魔王を全て滅ぼし、久連の両親を蘇らせ、俺のアカウントデータを完全復元し、今後ダンジョンによって死ぬはずだった全人類までまとめて救える可能性がある。
この時点で、ハッピーエンドを獲得できる。
いや、土下座も靴舐めも必要ない。
あいつは変なところで寛容なのだ。
こちらが礼を尽くさなかった程度で、助けを拒むことはない。
『頼む時に頭を下げなかったからといって、私が助けるのを拒むわけがないだろう。犬が腹を見せなかったことを無礼と呼ぶ方が、よほど間抜けだ』
おそらく、平然とそう考える。
蛮族も、貴族も、富豪も、浮浪児も、神にとっては全員等しく小さな生物であり、そこに身分差など存在しない。
極めて平等だ。
差別的なほど、平等だった。
「……いい神様じゃないですか?」
鹿野が恐る恐る言った。
「いい神です」
俺は即答した。
「極めて真面目に神をしています。人間が少し困った程度で軽々しく介入することはありませんが、本当に全てを捨てても叶えたいほど願い、それが叶わなければ死ぬほど苦しむのであれば、必ず自分から動きます」
ヤントイッヒは、悲劇が悲劇のまま終わることを許さない。
誰かが泣き続ける未来を許さない。
究極文明ルアルは、人類の努力と愛と科学が辿り着いた終着点であり、誰もが幸福に暮らす楽園のような文明だった。その成立に、人類自身の努力が大きかったことは間違いない。
だが、ヤントイッヒが立派に神を務めていたことも、決して小さな理由ではなかった。
「なら、どうしてそこまで嫌いなんですか」
久連が訊いた。
俺は【全能の鍵】を見た。
見ているだけで吐き気がする。
「嫌いすぎて嫌なんです」
「理由になってないわよ」
「あいつへ頼るくらいなら、FGOのアカウントも追加で消します」
「さっき、グラブルのデータが消えて一時間血を流して泣いてた人間の台詞じゃないわね」
「それくらい嫌いです。大嫌いです」
円が少し考え、何かに気づいた顔をした。
「でも、その神様、大将と同族じゃないっすか」
「おえええええええええっ!」
俺はその場で四つん這いになり、胃の中身を吐き出した。
「ちょっ、大将!?」
「同族……俺と、あれが……おえっ……」
「すみません、俺が悪かったっす。そこまでとは思わなかったっす……」
円が本気で謝りながら背中をさすってくる。
失礼にも限度がある。
俺とヤントイッヒのどこが似ているというのだ。
確かに奴も、できる限り多くの人間を救い、幸福な未来へ到達させようとする。人間一人一人の善悪や感情よりも、世界全体の最終的な結果を重視する点も、俺と少しだけ似て見えるかもしれない。
「いや、大将も自分の正しさをほとんど疑わないところは似てるっすよ」
円が、余計な追撃を加えた。
「おえっ……」
「また吐いた!」
「自分の身体を平然と消費して、他人を助けるところも似てるわね」
真由まで加勢する。
「やめてください……本当に気分が悪くなってきました……」
「さっきから本当に吐いてるじゃない」
似ていない。
断じて似ていない。
奴は何もかもを一息で終わらせるが、俺は違う。
俺は育成する。
そこには、超えられないほど大きな差がある。
「ルールの中で育成するのが楽しいんです」
俺は口元を拭い、立ち上がった。
「限られた種火、限られた魔石、限られた人材、限られた装備をどう配分するか考え、死なせないよう育て、組み合わせを試し、少しずつ攻略可能な範囲を広げていく。それが楽しいんでしょう」
足りないものを工夫で補い、外れだと思われた能力へ役割を見つけ、失敗から学び、次の周回を速くする。
攻略とは、そこに至る過程を含めて攻略なのだ。
「それなのに、あのMOD野郎は起動した瞬間にルールそのものを破壊します。素材も、育成も、編成も、攻略手順も全部無視して、いきなりエンディングを流すんですよ」
全能者にも様々な種類がいる。
他の希少NPC――ではなく、他の全能者たちは、多くの場合、そこを弁えている。できるからといって何でも解決せず、試練や対価や条件を設定し、世界の内側にいる人間が自分の足で進める余地を残す。
だがヤントイッヒに、その侘び寂びはない。
本人が本物の願いだと判断した瞬間、最短、最善、完全無欠の結果を押しつけてくる。
「起動した瞬間にエンディングが流れるゲームなんて、話にならないでしょう」
「それが嫌いな理由なの……?」
真由が信じられないものを見る顔をした。
「九九・九九九九パーセントは、それです」
「ほぼ全部じゃない」
「ただし、それを抜きにしても純粋に嫌いです」
ヤントイッヒは、自分が善であることを一度も疑わない。
正確には、疑う必要がないと思っている。
全知によってあらゆる過去と未来を知り、全能によって望む結果を生み出せる以上、自分の判断が間違う可能性など存在しないと理解している。
『我の考えこそが善の基準である』
奴は、本気でそう思っている。
人間へは、殺してはならないと説く。
『汝、殺すなかれ。人間は善悪も未来もろくに理解できず、一度奪った命を元へ戻すこともできない。故に、人を殺すことは許されない』
そこまでは分かる。
だが、その直後に平然と付け加える。
『私は間違えない。殺した者も、殺された者も、それ以外の全ての者も、最大の幸福へ至る時点で蘇生させられる。故に、私が人を殺すことは善である』
「最悪でしょう」
「理屈だけなら通ってるような……」
鹿野が困った顔をする。
「通っているから嫌なんです」
ヤントイッヒには、迷いがない。
『私は何一つ間違わない。全ての決定権は私にあり、私の言うことは絶対である。私が正しいと言ったことが正しいのだ』
『神が行えば善となることも、人が行えば、これ皆悪となり罪となる』
傲慢の極みだった。
しかも、それだけ傲慢でありながら、本当に善神なのが腹立たしい。
あらゆる生命を差別的なほど自然に見下しながら、その生命を守るためなら、自分の命も、誇りも、神としての座も一切惜しまない。
原作におけるヤントイッヒも、最後まで善神だった。
オリジナルのシナリオでは、完全に成長した金剛龍帝が、七大魔王や無数の全能存在を食らい、あらゆる世界を滅ぼしながらルアルへ迫った。
ヤントイッヒは全知全能だった。
しかし、全能存在の中では弱い部類に入る。
奴は生まれた瞬間から全能だった。
自分より強い敵へ怯えた経験も、限られた資源を奪い合った経験も、敗北から能力の運用方法を改善した経験もない。人類を守り、文明を導き、病を消し、死者を戻し、宇宙法則を調整するために、あまりにも広大な全能を、広く均等に使い続けていた。
一方、金剛龍帝は違った。
複数の全能存在を食らい、それぞれの全能を自分の内部へ取り込み、より強度の高い権能として束ねていた。さらに全能でありながら生存競争へ揉まれ、戦い、傷つき、失敗し、そのたびに能力の使い方を最適化している。
文明の維持。
生命の創造。
死者の蘇生。
宇宙環境の調整。
そのような戦闘以外の全能権を切り捨て、全てを相手の殺害と自己生存へ集中させる。
万能であることを捨て、戦闘における絶対性だけを異常な密度まで高めた怪物だった。
全能同士の衝突では、できることの広さより、衝突する一点へどれだけ強く権能を集中できるかが勝敗を分ける。
文明全体を守るため、無数の奇跡へ力を分散していたヤントイッヒと、全存在を食らうことだけに特化した金剛龍帝。
相性は、最悪だった。
ヤントイッヒは勝てなかった。
それでも奴は逃げなかった。
神の権能を捨てた。
神の座から自ら堕ちた。
人型の光として崇められていた姿を捨て、3センチの芋虫の様な姿へ変わった。
最も大切にしていたプライドさえ燃やし尽くし、あらゆる苦痛を永遠に負い続けることを代償として追加した。さらに、金剛龍帝以外のあらゆる存在には絶対に敗北するほどまで自分を弱体化させ、全ての力、全ての未来、全ての可能性を、たった一匹の龍を滅ぼすための光へ変えた。
そこまでして、敗北した。
そしてヤントイッヒ自身も食われ、その全知全能まで上乗せした金剛龍帝によって、全ての世界が終わった。
それが、【天上のアーデルハイド】における元のシナリオだ。
「全知なら、負けることも最初から分かっていたんじゃないの?」
真由が訊いた。
「そこだけは、原作でも謎です」
なぜヤントイッヒの全知が正常に働かなかったのか。
金剛龍帝に食われる未来を知っていたうえで、それでも他に手段がなかったのか。あるいは龍帝の権能が全知の外へ出ていたのか。全知によって見えた未来そのものが、既に龍帝に食われていたのか。
最後まで明言されなかった。
ただ一つ確かなのは、奴が生命と世界を守るため、命を捧げることへ一瞬も躊躇しなかったことだけだった。
真由は少し考えてから言った。
「界王神みたいね。ほら、強い神様なのに相手が悪すぎて噛ませにされるところとか。人間を自然に見下してるのに、その人間を守るためなら命を捧げるところも」
「鳥山先生が作った魅力的な神キャラクターと、あのMOD野郎を一緒にしないでください」
「そこまで怒る?」
「怒ります」
そもそも、俺個人だけがヤントイッヒを嫌っていたわけではない。
「あいつ、アーデルハイドの人気投票で、ぶっちぎりの最下位でしたからね。死ね票を八千票くらい獲得していました」
「死ね票って何よ」
「嫌いなキャラクターへ投票する部門です」
「公式が用意する部門じゃないでしょう」
「攻略掲示板の自主開催です」
真由が嫌な予感を覚えたらしく、目を細めた。
「その掲示板、利用者は何人いたの?」
「三人です」
「八千票の内訳は?」
「俺は千票しか入れていません」
「三人しかいない掲示板で、一人が千票入れておいて“しか”と言わないで」
「残りの二人で七千票です。つまり、俺の主観を除外しても客観的に嫌われています」
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【guide-GPT】
標本数三名、重複投票あり。
統計的有意性は確認できません。
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「余計な補足は要りません」
「人工知能にも否定されてるじゃない」
「投票総数は八千票です」
「人数を無視して票数だけ見るなっすよ」
「他の二人はともかく、俺はどこにでもいる一般人です。それに、ルアルの上位存在たちからも、面倒くさいOBのように扱われていました」
「全知全能の神が面倒くさいOB扱いされる文明って何なのよ……」
ともかく。
ヤントイッヒへ頼らないという判断は、合理的なものではない。
今この場で鍵を使えば、全て解決する可能性が高い。
俺のアカウントは戻る。
久連の両親も戻る。
七大魔王は消える。
今後起きる災害も、戦争も、ダンジョン事故も、ヤントイッヒが最善の形へ修正するだろう。
全てが終わる。
誰も泣かなくて済む。
それでも使いたくない。
俺が自分で集めた人材を育て、自分で築いた編成を使い、自分たちで世界を攻略したい。
奴が用意した完璧なエンディングではなく、失敗し、苦しみ、遠回りしながら、それでも俺たちが選んだセーブデータを残したい。
それは、俺のエゴだった。
しばらく【全能の鍵】を睨んだあと、俺はそれを拾い上げた。
「捨てないの?」
真由が訊いた。
「捨てたいです」
心の底から答えた。
「今すぐ養豚場へ持っていき、最も臭い糞尿槽へ沈め、その上から高強度コンクリートを流し込み、地図上から場所ごと消したいです」
「じゃあ、どうするんすか」
俺は振り返り、久連の前まで歩いた。
「平良さん」
「はい」
久連は、少し緊張した顔で俺を見上げる。
俺は彼女の手を取り、その掌へ【全能の鍵】を一度だけ載せた。
「使用権を預けます」
「使用権?」
「物理的な保管は、guide-GPT管理下の封印庫で行います。鍵へ平良さんを最終承認者として登録し、本人の自由意思による許可がなければ起動できないよう制限してください」
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【guide-GPT】
設定可能です。
推奨される追加措置:
・封印庫を複数の空間隔離層へ分離。
・火賀灯真、平良久連、安里真由による三者認証。
・平良久連本人の承認を最終必須条件として設定。
・精神操作、脅迫、魅了、認識改変下における認証を無効化。
・強制奪取時、鍵を封印空間へ自動転移。
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「全て採用してください」
「そこは徹底するのね」
「世界を一息で終わらせられる物を、平良さんのポケットへ入れて帰らせるわけにはいかないでしょう」
久連の掌から鍵が浮かび上がり、guide-GPTが開いた小さな空間孔の中へ吸い込まれていく。
物理的な鍵は封印庫へ送られたが、その使用を決める権利は久連に残る。
「どうしてもの時に使ってください」
久連の指が、何もなくなった掌を閉じた。
「どうしてもの時、とは」
「最終の、最終の、最終の、最終の、最終の、最終の、最終の手段です」
「最終を何回重ねるのよ」
「七回です」
「数えてたんすか」
「それくらい最後という意味です」
俺が死んだ時。
エリュシオンが全滅した時。
七大魔王へ敗北し、世界が滅びる時。
どれだけ周回してもユグドラシルの雫が得られず、他に久連の両親を蘇らせる方法が完全に失われた時。
その時だけは、ヤントイッヒへ頼ればいい。
「ただ」
俺は久連の閉じた手を、両手で包んだ。
「その前に、俺を信じてください」
久連が俺を見る。
以前の俺なら、絶対などとは言わなかった。
一千万分の一という確率を無視し、結果だけを保証する言葉は無責任だと思っていた。何度試せば出るかなど誰にも分からず、確率が存在する以上、最後まで出ない可能性も理論上は消えない。
だが今、俺が約束しようとしているのは、結果が偶然こちらへ転がり込むことではない。
俺自身が、結果を得るまで試行をやめないということだ。
出るまで周回する。
倒せないなら育てる。
時間が足りないなら同位体を増やす。
俺が途中で死ぬなら、死なない仕組みを作る。
確率へ絶対を要求することはできない。
自分の行動なら、絶対にできる。
「絶対に、生き返らせます」
一千万分の一なら、一千万回倒す。
一千万回で足りないなら、それ以上周回する。
「絶対に、魔王を倒します」
育成が足りないなら育てる。
装備が足りないなら集める。
人材が足りないなら、世界中から探し出す。
「絶対に、奴が介入した場合より幸せなセーブデータ……ゲフンゲフン、世界を作ります」
完全無欠ではなくてもいい。
途中で誰かが泣き、誰かが間違い、俺自身が何度も灰になったとしても、最後にはそれらを全部取り戻す。
神が一息で書き換えた結果ではなく、俺たちが一つずつ積み上げた結果へ辿り着く。
「だから、それまでは使わないでください」
久連は長い間、何もなくなった掌を見つめていた。
両親を今すぐ取り戻せるかもしれない鍵の使用権が、そこに残っている。
呼びかけるだけで、あらゆる願いが叶うかもしれない。
それでも彼女は手を強く握り、やがて俺を見上げた。
「分かりました」
その声には、迷いがあった。
未練も、恐怖も、期待もあった。
当然だ。
その全てを抱えたまま、久連は続けた。
「火賀さんを信じます」
「ありがとうございます」
俺は頷き、彼女の手を離した。
これでいい。
全知全能の神へ頼らず、世界を救い、魔王を倒し、死者を取り戻す。
難易度は、ほんの少し上がった。
だからこそ、攻略する価値があった。
この5日後復活した【嫉妬の魔王】、最弱の魔王によって、俺は人生最大の苦戦を強いられたが
作中に登場するヤントイッヒは究極の生命
https://syosetu.org/novel/348083/に登場するキャラクターです。筆者様に許可をいただき使わせていただきました。一話見て合えば、そのまま最終話まで読み込んで脳を焼かれるタイプの作品です。即死チートとかヤントイッヒとか究極の生命が戦う超インフレバトルにエグいまでの生物知識とデルウハ殿みたいな合理性がついたSFです。読んでいただけたら嬉しいです。