☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:人見小夜子腹パン部
年配官僚が絶句した。
実務側の男が反射的に立ちかける。
鈴木碧だけは表情を崩さなかったが、目だけははっきりと細くなっていた。
たった三日足らず。
それでも、もうこの国でこれの価値を理解していない政府の人間はいない。
今、政府は【スキル】を得た超人と、【ダンジョン】という危険地帯と、【アーティファクト】という遺物を、どうにか秩序へ組み込もうと地獄を見ている。
その中で、最重要素材と呼ばれ始めていたのがこれだ。
【魔石】。
数個で、原子力発電所一基分の年間発電量すら即座に、ノーリスクで生む。
“電力となれ”と命ずるだけで、送電網だの燃料棒だの変換効率だの、そういう現実の構造を無視して電力をもたらす。
医療に使う。
末期癌患者ですら即座に治す。
欠損や重篤な障害を、理屈をねじ曲げて補修する。
わずかな細胞自体の若返りにすら使える、神代の万能薬。
物質の構成を変えろと言えば入れ替わる。
石を金に変える現代の賢者の石。
いや、それ以上だ。
「……要求は?」
いい返しだ。
まず数を数えず、価値に怯えず、要求を聞いた。
この男はやっぱり当たりだ。
「一つ目。封鎖されたダンジョンへ、優先的に入れてほしい」
年配官僚の眉が動く。
俺は手を上げて制した。
「とはいえ、多くは望みません。未踏破ダンジョンは、そのまま魔石の入手先というリソースです。日本がいち早く気づいたところで、他国もすぐ気づく。ここから先は国家間での魔石争奪戦になる」 「……」 「ただ、これはそこまで優先事項じゃない。本命は別です」
俺は魔石の横へ、青白い火片をいくつも取り出して並べた。
今度は別のざわめきが走る。
「【種火】です」
鈴木が目を細める。
年配官僚は明らかに初見らしい。
実務側の男は、どこかで見たか回収済みか、そんな顔をした。
「例えば、こんなふうに使う」
俺は一本を指先で弾き、掌の上へ浮かせた。
光の粒が静かに揺れる。
「そうやって使うものだ、って発想さえ起これば、誰でも使えます」
「……レベル上昇用資材、ということですか」
鈴木が低く言った。
「そうです。今のところ探索者もあなたがたも、まともにレベルアップしてないでしょう」
誰も否定しなかった。
図星だ。
だが、種火の説明だけでは弱い。
この場にいる連中は、もう“現実にあり得ないもの”を見すぎている。だから逆に、言葉だけでは動かない。
証拠が要る。
「実演します」
そう言うと、年配官僚の眉が跳ねた。
「ここで、ですか」 「ここでです」 「対象は誰に」 「覚醒済みの人間なら誰でもいい」
俺がそう言うと、部屋の空気が少しだけ変わった。
鈴木が一度だけ横を見る。
視線の先は、ずっと黙っていた実務側の男だった。
「……石井さん、覚醒済みでしたね」
短髪の男が、無言で頷く。
「昨日の夜に登録済みです。☆2ファイター。スキルは【剛腕】」 「レベルは?」 「1のままです」
そりゃそうだ。
普通は上がらない。上げ方が分からないんだから。
「協力いただけますか」
鈴木がそう尋ねると、石井と呼ばれた男は一度だけ俺を見た。
警戒。
疑念。
だが、それ以上に“使えるものなら今すぐ欲しい”という現場の顔だった。
「……必要なら」 「助かります」
俺は種火を一本、石井へ向ける。
「立ってください」 「ああ」
石井が椅子を引いて立ち上がる。
会議室の中央、狭い空間に、妙に重い緊張が落ちた。
「今から種火を使います。抵抗しないでください」 「了解」 「痛みはたぶんありません」 「たぶん?」
年配官僚が小さく突っ込んだが、無視した。
「対象、石井さん」
光が弾けた。
細い火の粒が、俺の掌からまっすぐ石井の胸元へ吸い込まれていく。
石井の肩がぴくりと震えた。だが苦悶はない。
むしろ、熱が身体の芯へ落ちていくみたいな、奇妙な違和感に戸惑っている顔だった。
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【種火を使用しました】
対象:石井
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【レベルアップ】
Lv1 → Lv3
Lv3 → Lv6
Lv6 → Lv10
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静かになった。
石井は数秒、その場で固まっていた。
手を開く。閉じる。
自分の腕を見る。肩を回す。
次に、呼吸が変わった。
「……軽い」
低い声だった。
だが、はっきりとした実感が混じっていた。
「何がですか」
鈴木が即座に聞く。
石井は自分の脚を見下ろし、拳を握る。
「身体が、です。力が入る……いや、力が入るっていうより、無駄が減った感じですね。視界も少しクリアです。足裏の感覚も、妙に分かる」
そこで石井は一瞬ためらったが、会議室の端へ歩いて行き、壁際に置いてあった重い折りたたみ机を片手で持ち上げた。
昨日の夜の登録上、彼は一般成人男性の範疇内の上の上程度の能力しか出ていなかったはずだ。
だが今は、明らかに動きが違う。持ち上げ方が雑なのに、机が軽そうに見える。
年配官僚が目を見開いた。
「石井君、君、昨日の測定ではそこまで」 「ええ。そこまでじゃありませんでした」
石井は机を下ろし、今度は自分の拳を見つめた。
「分かります。上がってます。少なくとも、覚醒直後よりはっきり強い」
「数値化できますか」
鈴木の問いに、石井は首を振る。
「この場では無理です。ただ……」
そこで一度、息を吐く。
「分かる人間には分かります。身体能力、反応、踏み込み、全部。昨日までの自分とは違う」
会議室が沈黙した。
今のは派手な奇跡じゃない。
死者蘇生でも若返りでもない。
ただ、覚醒したばかりの男が、その場で“強くなった”と実感しただけだ。
だからこそ重かった。
現実味がありすぎる。
国家が一番欲しい類の、再現可能な強化手段だった。
もしこれが量産できるなら、探索者は“偶然見つかる才能”じゃなくなる。
国家は探索者を、発見するだけでなく育成できる。
「……追加で使えば、さらに上がります」
俺がそう言うと、年配官僚が反射的にこちらを見た。
実務側の石井ですら、一瞬だけ視線を寄越してくる。
欲が見えた。いい顔だ。
「ただし、これは使い方を知っているかどうかで差がつく」
俺は残りの種火を机へ置いた。
「だから教えます。使い方も、優先順位も」
鈴木が黙って種火を見ている。
年配官僚はさっきまでより明確に顔色を変えていた。
石井はもう一度だけ、自分の拳を握り直した。たぶん、あの一瞬で“昨日までの訓練”が別の意味を持ち始めたのだろう。
「現状、探索者の強化は偶然と根性に任されすぎています」 「……」 「そんなものは、攻略の仕組みが整うまでの話です」
俺は椅子へ深く座り直した。
「ついでに、俺の余った種火も政府側へ配布します」
今度ははっきりと部屋がざわついた。
「……配布?」 「はい」 「なぜ」
年配官僚の問いは、警戒半分、困惑半分だった。
当然だ。ここまでの俺の行動原理を見れば、無償提供なんて怪しすぎる。
だから先に言う。
「初心者が雑に死ぬ環境は嫌いなんです」
全員が黙った。
「死んだら終わりの世界で、仕様を知らないまま外れ扱いされて消える低レアを量産されるのは、見てて気分が悪い。育成環境としても最悪だ」
年配官僚がなんとも言えない顔をした。
鈴木は無言のまま次を促す。
「目的は人命救助です」
今度は、ざわめきでは済まなかった。
実務側の男が思わず顔を上げ、鈴木ですら一瞬だけ視線を止めた。
たぶんこの場にいる全員が、俺の口から出る台詞としてそれを想定していなかった。
だから俺は続ける。
「誤解しないでほしいんですが、魔石とユニークアイテムとユニークイベントは、俺と育成対象で根こそぎ回収するつもりです」 「……正直ですね」 「ええ。そっちは取り合いなので」
鈴木が小さく息を吐いた。
苦笑に近い。
「ですが、それに関係ない部分では全力で育成します。人の命は、育成対象になるかもしれない命でもあるので。何より、俺の情報で他人を育てるのが楽しいので」 「言い方がかなり怖いんですが」 「本音です」
年配官僚が頭を押さえた。
理解しがたいが、悪意は薄いと踏んでいる。そんな顔だった。
「そのために、攻略サイトを作らせてほしい」
俺は机を指先で軽く叩く。
「政府公認でも、政府協力でも、匿名でもいい。とにかく、初心者が必要な情報へ最短で辿り着ける仕組みが要る」
「具体的には」
「例えば、初期探索者向けの生存優先ビルド。ダンジョン入場前の最低チェック項目。クラス別の“死ににくい最初の装備”。それから、初心者が最初に目指すべき装備ルートです」
ぽかんとした顔が二つ。
鈴木だけが続きを待つ。
「まず【鉱石】シリーズの装備情報です」
「……」
「HPを通常枠で100%上げる鎧装備です。初心者に必要なのはまずこれと、【生命】シリーズのHPを固定値で50上昇させるアクセサリ」
「……」
「固定値で上がったところに、割合ブーストがかかる。レベル1の探索者は【ナイト】クラスでもない限り、☆6でもHP100いきません。そこへ生命のペンダントで固定値を足し、鉱石シリーズで割合を乗せれば、最低でもHPは三倍近くまで跳ねる」
会議室の空気が一瞬だけ妙なものになる。
ゲーム丸出しだ。何を言っているんだこいつは、と思う奴がいて当然だった。
だが同時に、誰も笑えなかった。
世界そのものが、どうしようもなくゲームになっている現実を、もう嫌というほど見せつけられているからだ。
「デスペナがキャラロストっていう異常に重い仕様なんです。要するに死んだら終わりだ。だから序盤は火力より耐久を優先する」
実務側の男が、初めてはっきり頷いた。
「……それは正しい」
「でしょう」
俺は続ける。
「【鉱石】シリーズが取れる場所とレシピは出します。ついでに、俺が虐殺で大量に確保した【生命のペンダント】もばらまきます」 「ばらまく?」 「攻略サイトを見て、そこへ辿り着いた探索者には無料で配る。政府側で配布窓口を作ってもいい。登録所、避難所、病院横、好きにやってください」
年配官僚がようやく言葉を取り戻す。
「火賀さん、あなた、自分で言っていておかしいと思いませんか」 「かなり」 「かなり、で済ませるんですか」 「世界の方が先におかしくなってるので、今さらでしょう」
鈴木が目元を押さえた。
笑いを堪えているのか、ただ疲れているだけなのか、正直分からない。
「……続けてください」 「ありがとうございます」
話が通じる相手で助かる。
「それと、もう一つ。これは今すぐ公表しなくていい。というか、雑に広めると現場が壊れるので扱い注意ですが」
俺は少しだけ声を落とした。
「SSS級ダンジョンには、死者蘇生アイテムがあります」
完全な沈黙。
今度こそ、全員の表情が止まった。
「……それは、確度の高い情報ですか」
鈴木の声は、さっきまでより明らかに低かった。
「高いです」 「証明は」 「今の時点ではできません」 「なら、なぜそこまで断言できるのですか」 「知ってるからです」
年配官僚の喉が鳴る。
実務側の男の拳が、机の下でぎゅっと固まったのが見えた。
もう既に、死者は数百人を超えている。
この国の中枢でその数字を知らない人間はいない。
だからこそ、その一言の重みは冗談では済まなかった。
「無理に取りに行けとは言いません。今の戦力じゃ死体が増えるだけだ。ですが、存在だけは忘れないでほしい」
俺は淡々と言う。
「人はまだ、戻せるかもしれない」
そこでようやく、鈴木が長く息を吐いた。
「……火賀さん」
「はい」
「あなたが明らかに正気の人間ではない、という評価は今この場でかなり固まりました」
年配官僚がぎょっとした顔をする。
だが鈴木は続けた。
「ですが同時に、悪性でもない、とも判断しつつあります」 「それは良かった」 「良くはありません。扱いが非常に難しい」 「でしょうね」 「ええ」
そのやり取りで、かえって場が少し落ち着いた。
鈴木はタブレットを閉じ、机の上の魔石と種火を見た。
百個の魔石。
攻略サイト構想。
無料配布の生命ペンダント。
蘇生アイテムの存在。
どれも常識外れだ。
どれも魅力的で、どれも危険だ。
だからこそ、この男は切り捨てなかった。
「一点だけ確認させてください」
鈴木が言った。
「あなたの情報を公的に流す以上、誤情報で死者が出た場合の責任は非常に重い」 「分かっています」 「それでも、検証前提で出すことに異論は?」 「ありません。検証に手間をかけるぶん、更新速度は落ちますが」 「そこは政府側で人を出します」 「助かります」
そこから話は一気に実務へ寄った。
攻略サイトは、政府協力の外部情報集約基盤として立ち上げる。
掲載内容は火賀灯真提供情報と明示しつつ、政府側で最低限の検証を挟む。
登録窓口と避難所でURLと簡易冊子を配布。
【生命のペンダント】配布は登録探索者限定で段階的に行う。
封鎖ダンジョンへの優先侵入権は個別案件ごとに交渉。
魔石接収は当面保留。国家安全保障上の案件では協力要請を行う。
要するに、互いに相手を使う。
そういう合意だった。
嫌いじゃない。
会議が終わる頃には、水の入った紙コップは三回変わっていた。
誰も笑わないし、誰も安心していない。
でも少なくとも、ここにいる全員が「何もしないよりはマシな前進」を掴んだ感触はあった。
俺が席を立つと、鈴木も立ち上がった。
「火賀さん」 「何ですか」 「次に情報を持ってくる時は、せめて魔石百個を机にぶちまける以外のやり方を検討してください」 「インパクトが必要かと思って」 「十分すぎました」
少しだけ、笑った。
ああ、やっぱり当たりだな、この男。
庁舎の廊下へ出た瞬間、guide-GPTが静かに補助ウィンドウを開いた。
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【guide-GPT】
評価:交渉成功。
副次効果として、使用者は「危険だが有益」「発想が極めて極端」「倫理観は一応ある」と複数回判定されました。
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「一応って何だ」
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【guide-GPT】
客観評価です。
なお、攻略サイトの初期構成案を作成済みです。
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口元が少しだけ上がる。
「それは偉い」
世界はまだ終わっていない。
だが、終わらせないための手札は、少しずつ揃い始めている。
そして何より――
攻略サイトが立つ。
初心者が死ににくくなる。
使える低レアが埋もれにくくなる。
つまり、育成対象の母数が増える。
「……悪くない」
俺はそう呟いて、庁舎を後にした。
さあ。作るぞ。攻略サイト。