食人キメラ系ツンデレショタの初恋 作:ショタコンでなく
身長150cm体重40kg年齢12
好きな色は黒で好きな食べ物はカレー
世の中で一番美味しいと思う食べ物は人間で、嫌いな食べ物も人間
正義の味方として、『人仇』なんていう人喰いのバケモノを退治する仕事をしている。
そんなプロフィールを持つのが、
そんな蜚蠊には3人の部下がいる。
救世主の生まれ変わりだとかいう生意気なクソガキと、魔女の孫を名乗るリアリストを気取った厨二病。
そして、元生贄の巫女。
三人とも、決してよく出来た人間とはいえない。
もしもこの部下達が他の部隊に異動すれば、蜚蠊は手を叩いて喜ぶことだろう。
それくらいには、蜚蠊はその3人のことを嫌っている。
特に、元生贄の巫女のことが、蜚蠊は気に食わない。
何が気に食わないって、アイツ、一日中無表情だし、しかも他人と一言も話さないのだ。
いやまぁ、自分と話さないのはまだわかる。
巫女からすれば自分は嫌な上司だろうし、そもそも、自分のような捻くれ者と話しても何も楽しくはないだろうから。
でも、巫女が自らの同僚達……クソガキと魔女の孫とも話さないのは癪に障る。
まずはクソガキについてだ。
クソガキの性格は言うまでもなく、明るい。
うるさいくらいによく喋る。
上司である自分にもタメ口をついてくるし、アイツが他の部隊の人間にも馴れ馴れしく話しかけている所を、蜚蠊は何度も見たことがあった。
そしてそんなクソガキは当然、同僚である巫女にもよく話題を振っている。
だが、巫女がそれに返答した所を見たことがない。
全部無視しているのだ。
せっかくクソガキが、同僚が話しかけてくれたっていうのに、無視するなんてとんでもない。
巫女は笑って同僚にコミュニケーションをとるべきだ、と、蜚蠊は常日頃思っている。
それに、魔女の孫とのコミュニケーションにしたって巫女はダメだ。
まぁ魔女の孫は、自分ほどではないけれども、少し捻くれたところがあるから、話しづらいのもわかる。
ただアイツは、それはそうとして人に構って欲しいと思っているタイプの捻くれ者だ。
誰かに話しかけられた嬉しそうに対応するくらいの素直さや、仲良くなりたいと思った人間に自分から話しかけるくらいの度胸もある。
そしてなんでだか知らないが、魔女の孫は巫女のことをまぁまぁ気に入っているようで、クソガキほどの頻度ではないにしろ、魔女の孫が巫女に話しかけるところもちょくちょく見る。
だけどやっぱり、巫女はその全てを無視するのだ。
やはり本当に気に食わない。
無表情で、黙って、周りとの関係を絶って、それでものうのうと生きているなんて、周りの人間に甘えすぎている。
ああいうヤツは、周りの人間が去るか死ぬかした後になって、もっと話しとけばよかったと自分勝手に後悔するんだ。
「やっぱり僕はアイツが嫌いだ」
食堂で、夕飯のカレーうどんを食べながら蜚蠊はボヤく。
「そんなこと言って、隊長はあいちゃんのこと大好きじゃないですか!!実際一昨日も、『人仇』のヤツらに腕を食い千切られながらも、逃げ遅れたあいちゃんのこと助けに行ってたし。隊長の性格からして、嫌いな人をあんな必死に助けたりしないでしょう?」
「タイチョー。男のツンデレとか、なんの需要もありませんよ〜?」
蜚蠊のボヤきに、目の前にいる二人の男女が反論してくる。
赤い目の、金髪を短く刈り上げた好青年と、肩に黒猫を乗っけた、気だるげな目をした少女。
蜚蠊の部下である、救世主の生まれ変わりと魔女の孫だ。
「ツンでもデレでもねぇよ。僕はストレートに、噛み潰したいくらいにアイツが嫌いなんだ」
そんな蜚蠊の言葉に、金髪の青年……
「隊長はなんでそんなに、あいちゃんに冷たくするんですか?」
「アイツが他人と関わろうとしないからだよ」
「ほれ見てみろ」、そう言って蜚蠊は首を回した。
食堂の周りの机には、蜚蠊達3人と違って、一つの机に4人ずつ、他の部隊の隊員が座っていて、一緒に夕飯を食べている。
楽しそうに歓談しながらだったり、黙々と食べていたり、雰囲気はその卓によって様々、だが、どの卓も机の周りには4人が欠けずに座っている。
そうでないのは蜚蠊達の机だけだ。
「民衆を守るためだかなんだか知らないけどさ、とにかく、僕達は自分の命を危機に晒してまで、『人仇』なんていうよく分かんない人喰いのバケモノを退治してるワケだ。僕達は、いつヤツらに食い殺されてもてもおかしくない。そんな、常に死と隣り合わせのこの仕事において一番大事なのは、自分の命と背中を預ける仲間だろ?」
蜚蠊の言葉に、メフと魔女の孫は反論しない。
「僕達の上司もそのことが分かってるから、『今日も1日頑張りました、明日も一緒に頑張りましょう』って励まし合って気合入れて、仲間との団結を深めるために、わざわざ『食事は同じ隊の人と一緒に』なんてルールを作ってるワケだ。それなのにあの元生贄の巫女は一人だけ自由行動して、一緒に食事どころか、俺達とコミュニケーションすらしようとしない。なぁメフ、
「よゆ〜で預けられますよ〜。あいちゃんがいい子なのは知ってるので」
蜚蠊のグチに対して、魔女の孫……
失の隣で、メフもウンウン、と頷いている。
「……お前らは甘ちゃん過ぎるんだよ」
蜚蠊は苛立たしげにカレーうどんをすすって、このクソガキ共が……、と、心の中で悪態をつく。
「そもそもなぁ……」
飽きもせず蜚蠊が愚痴を続けようとすると、「おい!!」と、いきなり他の隊の男が蜚蠊の肩を掴んできた。
「今探知班から、隊員の誰かが外の危険エリアに一人で進入したって情報が入ったんだが、なぁそれって、お宅の
「えッ!!」
「あちゃ〜」
男の言葉に驚く、側にいるメフと失のことを尻目に、蜚蠊は立ち上がった。
「あっ!ちょっと待って!落ち着いてください隊長!!」
そんなメフの言葉を無視して、カレーうどんを残したまま、蜚蠊は自らの装備を取りに自室に向かって走っていった。
▲▼▲
『人仇』
それはその名の通り、人に仇なすためだけにある概念であり、蜚蠊達が所属している組織……『フロール』がその根絶を目標に掲げている存在だ。
その形状や生態は個体によって様々だが、そのどれもが例外なく、人を殺すのに適したカタチをしている。
故に、『人仇』を駆除する蜚蠊達の仕事は常に命がけだ。
だからこそ、背中を、命を預ける仲間達との信頼関係の重要度はナニゴトにも勝る。
だっていうのに、そんな仲間との関係を蔑ろにするような態度をとる
この感情に偽りはない。
ただそれはそれとして、生が仲間なのもまた事実だ。
いくら憎たらしく思っても、仲間である生を見捨てられるほど、蜚蠊は薄情にはなれない。
なりたくもない。
「あのバカヤローめ!!」
そう悪態をつきながら、蜚蠊は危険エリアを突き進んでゆく。
危険エリア……『外海の森』は、『人仇』達が湧き出る源泉の近くにある森林だ。
『フロール』の上層部は、『人仇』の個体数が他の地域と比べて非常に多いこの地域での単独での行動を禁止し、最低でも4人以上で固まって森の中に入るよう義務付けている。
だがそれはあくまで万全を期すための、『フロール』の構成員に誰一人として死人を出さないようにするために作られたルールだ。
実際のところは、平隊員でも2人で一緒に行動すれば、まず死ぬことはない。
ましてや、人外の力をもった蜚蠊ならば、一人でもなんの問題もなかった。
「生!どこだ!?」
大声を張り上げながら、森の中を駆け回る。
そんなことをしたら当然、森にいる大勢の『人仇』達が蜚蠊に気づき、襲いかかってくるが、蜚蠊はそれを意にも介さず蹂躙した。
時には手に持つ刀で切り裂き、貫き
時にはその手で殴り潰し、蹴り飛ばし
蜚蠊の通ったあとには、身体のどこからしらを著しく欠損した『人仇』達の死体が転がる。
とある昆虫と人間の
そして、森に進入してから大体10分、蜚蠊は視界の端に、見覚えのある背中を見つけた。
すぐさま、その背中に向かって駆けていく。
「隊長、どうしてこんな所に」
足音に気づいたのだろう。
生は振り返って、そしてこちらに向かってくる蜚蠊と目が合った。
生が喋ったのが意外だった、というか、蜚蠊は生の声を聞くのも始めてだった。
生は、蜚蠊が何度声をかけても無視していたから。
「お前……」
こんな声をしていたのかと驚いた。
だけど、今はそんな場合じゃない、と、蜚蠊はその感情と感想を飲み込む。
意思疎通が取れるなら僥倖だ。
蜚蠊はそのまま、生に向かって口を開く。
「どうしたもこうしたも、お前を助けに来たんだよ。不本意なことにな」
生の足下をよく見ると、東西南北の方向にそれぞれ一枚ずつ、『護法』と書かれた御札が貼ってある。
「『人仇』避けの
「……それは良いけどよ。そもそもどうして、立って『外海の森』の外に逃げねぇんだよ。お前の力なら、一人でもここから抜け出すのは容易だろ?」
「私も早くこんな所からおいとましたかったんですけどね、ほら」
生は座ったまま、自らの足を蜚蠊に向かって持ち上げた。
抉られた痛々しい傷跡と、痛いほどの朱が蜚蠊の視界に映った。
「油断してたら、
足を持ち上げたまま、たたみかけるように生は言った。
これ以上、その血の
強い風に揺られる木の枝が視界に映った。
「そもそもさ、どうしてお前は立ち入り禁止のはずの
「……泣き声が聞こえたんです」
「泣き声?」
「えぇ……ほら、出ておいで」
生がそう言うと、生の服の中からキューキューという音と共に、長い耳の生えた、白いモフモフの生きモノが姿を現した。
「うさぎ?」
「えぇ、たぶん産まれたての。『外海の森』の周辺で『人仇』を殺して回ってたら、この子の声が聞こえたので」
「あっちを見てください」、生はそう言いながら、蜚蠊から見て右側を指差した。
「アレは……」
そこには、重なるように横たわるうさぎ達がいた。
彼らの白い毛皮は、ところどころ赤色で、彼らの内から溢れ出た血液で染められている。
心臓の動く音も聞こえない。
つまり、死んでいた。
下手人は一体誰か、なんて考えるまでもない。
『人仇』に決まってる。
ヤツラの定義は、人に仇なす存在である、ということだが、それ以前に、ヤツらは機械じゃなくて生きモノだ。
定められたこと以外のことでも、快楽のためにやるのが、生きモノってモンだろう。
ヤツらは気まぐれに、娯楽として人間以外の生きモノも殺す。
そして今回は偶々、この森に住んでいたうさぎの一家に、その凶刃が向けられたというだけのことなのだろう。
「あの死体達に守られるように、この子が死体の底にいたんです。でもこのままじゃ、産まれたばかりで一人ぼっちのこの子はすぐに飢えて死ぬか、『人仇』に殺させれてしまう。家族が死んだ時に、一緒に死ねなかった。死に損なった。死ぬタイミングを間違った。無為に生き残ってしまったっていうのに、結局すぐに何もなせずに死ぬなんて、この子が可哀想でしょう?」
生は胸元のうさぎを撫でる。
「この子を助けたら一瞬気が抜けちゃって。足下にいたザコに気づかずに、足を壊されちゃってこの様です」
「バカだな」
「返す言葉もありません」
「そんなにその子兎が憐れだったのか」
「えぇ。生き残ってしまった意味を残すまでは、この子は絶対に死にたくないでしょうから」
「ハッ、どうだか」
蜚蠊は生の言葉を鼻で笑った。
「死に損なったからこそ、一刻も早く死にたいんじゃないか。いやまぁ、こんな獣畜生の心の内なんて、僕は知らんがね」
そう言いながら、蜚蠊は座り込む生をおぶった。
「まぁなんにせよ、お前がこの森に入った理由は分かった。気に食わないけど、納得もした。そのうさぎ、落とすなよ」
「……」
一人と一匹をおぶったまま、『外海の森』の外に向かって蜚蠊は歩き出す。
「なぁ、おい」
「……」
声をかけるが、返ってくる声はない。
どうしてか急に、生はいつも通りの黙りん坊に戻ってしまった。
はぁ、とため息をついて、会話を諦めた蜚蠊は、今回の出来事を思い返す。
なぜかは知らないが、今はともかく、さっきまでの生は酷く饒舌だった。
こんなにちゃんと話したのは初めてだったが、喋ってみると意外と、生は悪いヤツじゃなかったなと、蜚蠊は思う。
特に、家族を殺されたうさぎをわざわざ助けたところが、蜚蠊は気に入っていた。
蜚蠊とは合わないが、良い趣味をしているな、とも思った。
蜚蠊の他の二人のバンド……メフと失も、こういう偽善者然としたヤツは好みのはずだ。
外海 生はこんなヤツだったぞ、と、蜚蠊は二人に言うことが楽しみになってきた。
それを期に、隊の仲が深まればいいなと思った。
「……ん?」
ふと、後ろから視線を感じた。
殺気のこもった視線だ。
きっと今から1秒もしない内に、自分を殺し得るナニカが来る。
だから、今おぶっている生と子兎を降ろして、それに対処しようとして……だけど、間に合わなかった。
「あ……」
背にいた二人を降ろして、視線の放たれた方向に向いた時には、既に、蜚蠊の腹に5つの穴が空けられていた。
▲▼▲
「隊長の腹に穴空けたヤツ、俺達が来たのに気づいて逃げちゃったね」
「懲らしめられなくて残念〜、と言いたいところだけど、正直動けない隊長とあいちゃんを庇いながら戦いたくはなかったから、結果的に運が良かったね〜」
メフが蜚蠊を、失が生をおぶりながら、彼らは『外海の森』の外の道を草原を歩いていた。
「助けてくれてありがとうございました。それと、私のせいで隊長をこんな目に合わせてしまって、本当にすいません」
申し訳なさそうに生は目を伏せたが、それに対してメフは、気にするなとでも言うように笑った。
「いいよいいよ。隊長はゴキブリと人間の
実際、蜚蠊に空いた5つの風穴は既にほとんど塞がっている。
もうすぐにでも、蜚蠊は目を覚ますだろう。
何にしても、この程度じゃ蜚蠊は死ねない。
「そういえばさ〜、恥ずかしがりやのあいちゃんは、隊長とまだ喋れてないの?」
「……」
ニヤニヤと、煽るように、失は自らの背中の上にいる生に問いかけた。
「あいちゃん隊長と話さないし。それに隊長の前じゃ俺達とも話さないから、隊長があいちゃんは隊の皆が嫌いなんじゃって心配してたよ」
「……だって、隊長と話すの恥ずかしいんですもん。それに、隊長とは話せないのに、二人とは当たり前に話せるところを隊長に見られたら、私が隊長にイジワルしてるって思われるかもしれないじゃないですか」
少し拗ねたように、生は頬を膨らます。
「それじゃあせめて〜、一瞬にご飯は食べよ〜?あいちゃんが『人仇』を憎んでるのは知ってるけど、食事の時間くらい休みなよ〜」
「……分かりました。明日からは、皆さんと一瞬に食堂に行きます」
「うん、良きかな良きかな〜」
蜚蠊のいないところでは、メフと失、そして生は普通に話している。
ちなみに、メフと失の二人がそのことを蜚蠊に教えていないのは、面白がって、だ。
「……ん」
メフの後ろで、モゾモゾと蜚蠊が動く。
「あ、隊長、目が覚めました?」
「この寝坊助め〜」
霧がかった脳内が、聞き馴染みのある二つの声で晴れていく。
そうすれば当然、蜚蠊は目を開けようとするワケだが……前提として、現在蜚蠊はメフにおぶられている。
そしてメフの隣には、生をおぶっている失が並んで歩いている。
そうなればもちろん、目を開けた蜚蠊の目線の先には……
「よかったぁ」
生からすれば、自分を助けに来たせいで蜚蠊はあんな目にあったのだから、心配するのは当たり前。
そして無事に目覚めてくれた時にどんな反応をするかは、言うまでもない。
生の、安堵から来るそのとびきりの笑顔は必然だった。
その笑顔そのものには、なんの問題もない。
問題があったとすれば、それは、その笑顔を見た少年の方であろう。
「あ、う、え……」
世には、一目惚れ、という言葉がある。
蜚蠊は「一目惚れ?相手の内面を見ずに、外見で惚れるなんて、そんなのただの性欲じゃないか。くだらない、ああいうヤツには僕はなりたくないね」とか言ってしまうタイプの人間だ。
だが、世の中は大抵、「自分は大丈夫」とか思ってる人間ほど、痛い目を見るように出来ている。
無表情の、色のない顔をした生しか、蜚蠊は知らなかった。
そんな蜚蠊に向けられた、とびきりの笑顔。
それは蜚蠊の脳髄に、計り知れない桃色の衝撃を与えた。
まぁ、つまりはいわゆるギャップ萌えというヤツなのだが。
なんにせよ、恋を知らず愛も疑わないような、無垢で罪深い蜚蠊少年には、その笑顔は些か刺激が強過ぎた。
「隊長〜?どうしたの〜?」
「……」
失が声をかけるが、蜚蠊は顔を真っ赤にして固まってしまっていて、失が自分に話しかけたことにすら気づいていない。
「……
夜空に、薄汚れてしまった少年の声が響く。
自覚はないが、これが、12歳蜚蠊少年の初恋であった。