鯱。   作:パイナップル手榴弾

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劇場版闇金ウシジマくん(一作目)
第一話 【奸人】(かんじん)


「それで、その尚也ってやつのツラは割れてんのか」

 

「はい、どうやらBUMPS(バンプス)というイベサーに所属しているみたいです」

 

「バックにケツモチは?」

 

「いません、ただ」

 

「ただ?」

 

「数日前から家の前を張ってるんですが、一向に出てきません」

 

部下からの報告を受け、深い溜息をついた鯱鉾(しゃちこ)は、空虚を睨みつけながら紫煙を燻らせた。

 

 

 

事の発端は今から1週間前。

自身の経営する高級デリバリーヘルスの人気嬢であったアヤが、出勤日を連絡もなしにブッチして、太客の予約枠を潰した。客側には懇切丁寧に謝罪、説明したうえで、代打のキャストにそのまま予約枠をスライドするか、無償でバラす(キャンセル)かで対応し、事なきを得たが、問題が発覚したのはその後のことだった。

 

普段からアヤは他のキャストに比べて出勤日数も多く、それでいてサービス面で客からの評判が良い、店のエースだった。この仕事に対してプライドも持っていたし、サービスにおける講習会などにも積極的に参加していた。今まで決して連絡無しに休んだことはなく、それどころかプライベートにおける体調管理などにも気を使う真面目な性格であった。

当然、そんなアヤがいきなり仕事をブッチしたとなれば、理由(わけ)を聞かなければ納まりがつかない。

鯱鉾は自らアヤの自宅に訪れ、物腰柔らかく宥めるように彼女に尋ねた。

 

その結果、返ってきた答えは腸が煮えくり返るような胸糞悪いものだった。

 

「以前、しつこく店外を誘ってきた客とたまたま、バーで出会ったんです」

 

「…あの、NG客か?」

 

「はい…それで、話しかけてきたので他愛もない会話でやり過ごして、タイミングを見計らって店を出ようとしたんです」

 

「…」

 

「そしたら、お酒を飲んでいるうちに意識が遠のいて、気がついたらホテルのベッドで」

 

アヤは以前、六本木の高級クラブで働いていた。実際、鯱鉾が他のキャストも連れ立って飲みに行った際、明らかに常人に比べて酒が強い様はこの目で見ている。酔いつぶれるほど飲ますにはそれこそ、高度数のカクテルを何十杯も飲ませるしかない。

 

その時点で鯱鉾は、そのNG客がアヤの飲んでいた酒に何かしらの薬を盛ったことを察した。

眉をひそめ思案をめぐらせていると、俯いたアヤの黒髪越しに涙が滴っているのに気がついた。思わず、傍らにあったティッシュを何枚か取り出し、手渡した。

 

アヤは鼻をすすりながら言った。

「部屋から逃げようとしたんです、そしたら腕を強く掴まれて、首をしめられて」

 

「…クソだな」

 

「抵抗したらベルトで何度も叩かれました。」

 

そう言いながら、アヤが上着の腹部をめくると、痛々しい青痣ができていた。

 

その後、話を聞くと、そのゲス野郎はスキンなしで挿入した挙句、事後は笑顔の写真を強要し、そそくさと部屋をあとにしたという。

説明が終わる頃には、普段比較的穏健な鯱鉾の内心には強い殺意が芽生えていた。彼にとって商売に最も欠かすことのできない大切な存在は、店のキャストである。

デリヘルの他にもガールズバーやコンカフェを経営する彼にとって、そこで働いてくれている女の子たちは何よりも守らなければならない娘であり宝と言っても過言ではなかった。

 

そんな宝を傷物にしたそのクソ野郎の身柄(ガラ)をなんとしてでも捕らえなければ、気がすまない。

鯱鉾は説明を受けた後、アヤに対して見舞金を目一杯渡して部屋をあとにした。

 

その後、取った行動は部下、そしてケツモチに対する連絡だった。電話の締めくくりには同様にこう述べている。

 

『徹底的にやる』

 

と。

 

 

 

 

 

 

第1話

【奸人】(かんじん)

 

 

 

 

 

 

数日後、クソ野郎の素性はあっさりと割れた。

名を尚也といい、都内の大学生で結成されたイベントサークルBUMPSの一員で、巷で人気のサークル内のグループ、イケメンゴレンジャイのメンバーであることが発覚した。

その他、住所から親族関係、よく出入りしている店や交友関係に至るまで様々なことが判明した。

 

その中でわかったことはその尚也という男は、頻繁に無理ウチで同意の取れていない性交を女性に強要しているという。いわゆるレイプが趣味のクズ野郎であり、相手に対して笑顔の写真を強要し、和姦であるという見え透いた逃げ口を作っていることだった。

 

素性が判明した今、尚也を追い詰めることは赤子の手をひねるよりも簡単だ。本人を追い詰めつつ、逃げ道をなくすために親族までもじわじわと包囲網を広げていく。

最終的には親などの血縁者が示談を持ちかけてきたところで、徹底的に絞り取り、尚也本人には長期の海外旅行に行くという話をでっち上げて、ロシア経由で太平洋北部(ベーリング海)へと行ってもらう予定だった。

 

しかしながら、部下からの報告の内容では、久しく自宅のマンションに入ったきり一度も出てきてないという。というのも、怪しげなファーコートを着た大男が、奴の後をつけ、隙をついて部屋に押し入ったところを部下も目撃していたらしく、その大男に監禁されてる可能性が高いらしい。

 

「ファーコート…ファーコート」

 

季節は夏。うだるような気温でファーコートを着る人間なんてよほどの変わり者か、頭のネジが何本も抜けているような奴に違いない。ふと、脳内の片隅にあった不気味な情報を思い出した。

 

「そのファーコート、色は緑だったか」

 

「はい、おそらく深緑かと」

 

「…そうか。」

 

面倒なやつが出張ってきたと、再びため息をつく。手に持っていたタバコを灰皿に押しつけて火を消すと、鯱鉾は部下に対して重要事項だと前置きして言った。

 

「少し前、強盗殺人を犯したイカれたやつがいてな。その他にも、噂じゃ強姦やら恐喝やら、歩く先々で事件を起こすような危険人物だ」

 

「…え」

 

「お前も名前は知ってるはずだ、店入ったときブラックリストとして紹介したろ、そいつが電話かけてきたらすぐに切れって」

 

「まさか」

 

「肉蝮だ。」

 

 

この仕事をしていると、裏社会におけるアウトローの噂はよく耳にする。それは、本職から半グレに至るまで種類は様々だが、基本的には敵対的な関わりを持つことは避けるし、対峙するときには用意周到に策を練ったうえで対処する必要があるような危険人物たち。

 

熊倉

丑嶋

犀原

般田

象山

鰐戸

它貫

 

そんな奴らの中で、最も異質なのが肉蝮だ。

年齢や住所、親族に至るまで素性は不明。図体がデカく、獣のような顔つきと、通年ファーコートを身に着けている異様な出で立ち。法律という言葉を知らず、倫理観がすっぽりと抜け落ちたような化物だ。

 

正に自己中の権化とも言え、己の快、不快のみで物事を判断するようなイカレ野郎。

当然、そんな奴の噂は裏社会ひいては水商売を営む者にとってはよく知られており、特に風俗関連の経営者は軒並み肉蝮を出禁にしている場合が多い。

奴の趣向がサドなのかマゾなのかは定かでないが、相手するキャストがただで済むとは思えないほど異常な凶暴性を持っている。

 

そんな男が今回、アヤを傷物にしたクズ、尚也に因縁を持っているともなれば、必然的にこちらの出方も変わってくる。双方目的は一緒だが、確実に相容れない存在だ。下手をすれば尚也から派生してこちらに矛先が向くかもしれない。

 

思った以上に、慎重にならざるを得ない状況に思わず眉間をつまんだ。悩んだ末、鯱鉾が出した答えは

 

「一応、ケツモチに活きのいいやつを融通してもらえるか話しておけ」

 

「え、()るんすか」

 

「仕方がないだろう、このまま黙って静観するのは論外だ」

 

「で、でも肉蝮なんですよね。危険なんじゃ…」

 

「あぁ、だからお前らは絶対に接触するな。引き続き見張りと包囲網は保ってもらうが、奴に勘付かれたらすぐ逃げろ」

 

「…」

 

「今回は、俺が出る。」

 

 

対立であった。

 




鯱鉾(32)
本作の主人公。
都内に複数のコンカフェやガールズバー、ラブホテルなどを経営し、AV女優や読者モデルなども所属する高級デリヘルも運営している。叔父が若琥会の本部長をしておりそのコネもあってか叔父の組織のシマでは格安のみかじめ料で店を運営している。一応はカタギ。
元々、大関を目指せるほど将来有望な力士で最高位は東十両10枚目。先輩力士から理不尽なかわいがりを受ける若手力士を庇うために暴力沙汰を起こし、複数名を病院送りにしたため引退した。
身長196センチ体重104キロ
強さはウシジマくんの世界の中でもトップクラス。
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