一通り愚痴に近しいものを互いにいい終えた後、ホテルのテーブルの上には飲みかけのお酒と空き缶が連なっていた。
「こんなに飲んだら明日は絶対に起きれないだろうね」
「そんなこと言って、全然酔ってないじゃん」
「少し余裕はあるけど、よってないわけではないよ。今もミサキがぼやけて見えてる」
「ならもっと近くで見たら」
そう言って再び体を寄せてくる。
けれど僕は逆にまだ少し残っているペットボトルの水を飲み干して、距離を取った。
「あまり僕はそういうのは嫌いかな。近すぎるのは一番疲れるから」
「...先生は疲れるって言うけど、怖いだけじゃないの」
「多分それもあると思う。だから今までもこれからもあまり深くは関わらないようにしていくつもりだよ」
「嘘。それなら私やアリウスの皆と関わる理由はない」
「いやはや困ったものでね。先生という立場は」
その声には熱もなければ寒さもない、ただ淡々と事実を述べるだけの声だった。
ミサキは先生の顔を見て、目を見張る。
そこには、人形より人形と呼べるほどに感情のこもっていない表情をした先生がいた。
自分は先生の何も感じ取れず、探ることも出来ない。そのことに無性に腹を立てる自分がいることには気づかない。
ただ彼女の手は爪が食い込むほどに硬く握られていた。
「キヴォトス全体を私一人でどうこうすることは出来ないし、したくもない」
「ここは生徒が全てを取り仕切る場所だから...出来る限り私はいない方がいいんだ」
「だから僕はそうなるように働いてる」
誰に話すためのものではない。強いて言うのなら自分自身にそう言い聞かせる。
そうだ。ここまで来るのに随分時間がかかってしまった。あと三年もすれば僕が必要ではなくなるだろう。
そうなるように制度を作り上げた。後は細かい調整やもしもの時のバックアップを作れば完成だ。
「ん、どうしたのミサキ?」
虚空に向かっていた目線を彼女へ向けると、そこには燃え尽きてしまったかのようなミサキがいた。
「何でもない」
平静を装った顔は痛々しく思える。そんな表情をこちらに向けてくきた。目の焦点が通常の人のようには合っていない。
お酒にでも酔ってしまったのだろうか?
なんて、自分でもわかっている答えに目をそらしながら、あくまでも気づかないふりを続ける。
「キヴォトスはいいところだとは思うけど、安心して暮らせるかというと違うからね」
「先生は私達と違って脆いからね」
「私が石だとしたら先生は豆腐」
「否定はしないけど、他人から言われると腹が立つね」
「ごめん」
「ミサキは他人じゃなくて相方だから謝らねくていいよ。不快にも思ってないからね」
フォローを入れながら彼女の機嫌を伺う。
彼女はどこか少し嬉しそうだった。その証拠に彼女の指先はリズムよく音を奏でている。迷惑をかけないためにか、音は小さかった。
ふと時計を見ると午後11時と示してあった。
「ミサキ、僕はもう寝るけれど、どうする?」
「どうするって?」
このホテルの一室にはベッドが二つ、隙間を開けて並べられている。
自分が座っているベッドの横をポンポンと叩いた。
「いや、今日はいいや」
そう言ってもう片方のベットに腰を掛ける。
生徒が成長して独立をした事を嬉しく思う反面、どこか悲しく思う。
そうして僕とミサキは同じ部屋で朝までぐっすりと眠りに着いた。