忙しい&筆が進まないで投げ出しかけました。
次の話への繋ぎだと思って読んでいただければ
補給を終えた訓練兵たちは、崩れた壁と割れた窓から、ふたたびトロスト区の空へ飛び出していった。
満たされたガスボンベ。
新しい刃。
たったそれだけで、死を待つしかなかった体が、再び空を掴む。
「壁だ……!」
誰かの声が、瓦礫の街に弾けた。
その一言を合図にしたように、生き残った訓練兵たちは次々と屋根を蹴った。白い蒸気が尾を引き、錆びた刃が腰で揺れ、誰もがウォール・ローゼへ向かっていく。
勝ったわけではない。
何かを成し遂げたわけでもない。
それでも、帰れる。
その事実だけで、彼らの背中には一瞬だけ生の熱が戻っていた。
「クリスタ」
アルフレッドは、隣に立つヒストリアへ短く声をかけた。
「俺たちも行くぞ。まずは壁だ」
「……うん」
ヒストリアは小さく頷いた。
ユミルがそこにいるかもしれない。
少なくとも、壁へ辿り着いた者たちの中に、彼女の行方を知る者がいるかもしれない。
今ここで立ち止まっていても、何も分からない。
だから進むしかない。
そう自分に言い聞かせるように、ヒストリアは胸元を握りしめた。
だが、アルフレッドが屋根を蹴ろうとした、その時だった。
壁へ向かう流れの中で、数人だけが動いていない。
歓声にも似た声を上げて飛び去る訓練兵たちの中で、そこだけが妙に静かだった。
ミカサ。
アルミン。
ジャン。
ライナー。
ベルトルト。
アニ。
彼らは壁ではなく、本部前方を見つめていた。
「……何を見ている」
アルフレッドは無意識に、その視線を追った。
黒髪の巨人が、巨人たちに群がられていた。
先ほどまで巨人を蹂躙していた異形の身体は、今や無数の手に押さえつけられている。腕に噛みつかれ、肩を掴まれ、肉を食い千切られるたびに、傷口から白い蒸気が噴き上がった。
それでも、まだ動いていた。
折れかけた腕を振るい、食らいつく巨人の顔面を殴りつける。だが、その拳にはもう、先ほどまでの暴力的な勢いはない。
ミカサは、壁へ向かう訓練兵たちの声を背中に受けながら、その光景から目を離せずにいた。
「……どうにかしてあの巨人の謎を解明できれば、この絶望的な現状を打破するきっかけになると思ったのに……」
その言葉には悔しさが滲んでいるように聞こえた。
帰れるかもしれない。
生き残れるかもしれない。
その希望に背を向けてなお、彼女は黒髪の巨人を見ている。
アルフレッドは、ミカサの横顔を見た。
大切な人を失ったはずの少女。
それでもなお、目の前の理解不能な巨人に、人類が生き残るための可能性を見ている。
壊れかけているのか。
それとも、誰よりも冷静なのか。
判断がつかない。
「……同感だ」
背後から低い声が落ちた。
「あのまま食われ尽くされれば、何も分からずじまいだ。あの周りにこびりついてる奴らを俺たちで排除して、とりあえずは延命させよう」
「正気か、ライナー!?」
ジャンの声が裏返った。
「やっとこの窮地から脱出できるんだぞ!? 巨人を助けるために戦うって言うのかよ!」
その叫びは、当然だった。
巨人は敵だ。
人を食う怪物だ。
ようやくガスを補給し、壁へ戻れるところまで来た。
それなのに、わざわざ巨人を助けるために死地へ戻るなど、普通なら狂気の沙汰だった。
そこへ、アニの冷えた声が落ちる。
「もし、あの巨人が味方になる可能性があるなら、どんな大砲よりも強力な武器になる。……そう思わない?」
アルフレッドは、アニの横顔を見た。
必要以上に口を開かない女が、今はわざわざ黒髪の巨人を残す価値を口にした。
その違和感が、胸の奥に小さく引っかかる。
だが、言葉自体は間違っていない。
理解できない。
信用もできない。
それでも、利用価値はある。
アルフレッドが何かを言うより早く、黒髪の巨人が吠えた。
群がっていた巨人たちを振りほどき、最後の力を振り絞るように拳を振るう。
一体。
また一体。
肉を抉られ、足元をふらつかせながらも、執念だけで巨人を殴り砕いていく。
その姿は、もう戦っているというより、何かに取り憑かれているようだった。
最後の一体を石畳へ叩きつけた直後、黒髪の巨人の膝が折れた。
(……限界だな)
次の瞬間、巨体が地響きを立てて倒れ込んだ。
白い蒸気が噴き出す。
肉が崩れ、骨が溶けるように形を失っていく。
そして、うなじのあたりが不自然に裂けていた。
「……何だ?」
ジャンが呆然と呟く。
裂けたうなじの奥に、人影が見えた。
「……人?」
誰かがそう漏らした瞬間、ミカサが飛び出していた。
「ミカサ!」
アルミンの制止は届かない。
ミカサは蒸気の中へ一直線に飛び込み、次の瞬間、震える声でその名を呼んだ。
「エレン……!」
時間が止まった。
やがて蒸気が薄れる。
ミカサが、一人の少年を抱きしめていた。
エレン・イェーガー。
死んだはずの少年。
巨人に食われたはずの少年。
ミカサはエレンを抱き締めたまま、声を上げて泣いていた。
その姿を見た瞬間、ヒストリアの指が、アルフレッドの手を強く掴んだ。
袖ではない。
今度は、手だった。
「……クリスタ?」
アルフレッドがわずかに視線を落とす。
ヒストリアは何も答えなかった。
ただ、ミカサの腕の中にいるエレンを見ていた。
失ったと思った人が、戻ってくる。
もう二度と触れられないと思った人を、抱きしめることができる。
それは奇跡のはずだった。
けれどヒストリアには、その光景が少し怖かった。
もし、あの時アルフレッドが本当に自分だけを逃がして死んでいたら。
もし、自分が二度とこの手を掴めなくなっていたら。
私にもこんな奇跡が起こってくれたのだろうか。そう考えた瞬間、胸の奥が冷たく潰れた。
だから彼女は、言葉の代わりに、アルフレッドの手をさらに強く握った。
構成が下手すぎてテンポ悪い自覚はあります!丁寧に進めすぎですよねたぶん
要望等あれば感想で教えていただけると助かります