さてどうしよう。目の前のサングラス男は両手を合わせ少しの申し訳なさが見える笑顔を浮かべている。が、全く隙がない。今攻撃しても逃げ出しても対処されて終わりだろう。うーん……
「とりあえずスマホ探したいんだけど手伝って貰えたりする?」
「おう、良いぞ。じゃあ俺あっち側探してくるわ」
ダメ元で時間稼ごうとしたらあっさり通った。どころか背を向けて家の反対側に歩き始めた。えぇ……? 何これ。俺1人逃げ出しても余裕って事か? まあ確かにあの隠密考えると逃げた所で気がついたら後ろにとか考えられる……じゃねえ!!
「待って! ちょっと待った! 一緒に探そうぜ!」
「効率悪くねぇか? まあ良いけど」
そうじゃん! こいつ視界から外してまた隠れられたらヤバいじゃん! 次背後取られても気付けるかわかんないぞ。
幸いサングラス男は素直に頷いてから屈んでスマホを探し始めてくれた。
……意外と何もしてこないな。まだ時間を稼げそうだ。
「で、そろそろ色々と聞きたいんだが良いか?」
サングラス男はこちらに背を向けたまま言った。ダメじゃん。フラグの回収が早すぎるだろ。
「まだ考え纏まってないからもう少し時間来れない?」
「悪いんだがこっちもそんなに時間かけられねぇんだよな」
振り向きながら言ってきた。笑ってはいるが目がもう逃さないと言っている。いやどうしよ……
一旦先手打ってみるか。
「あー、とりあえず俺から質問。敵? 味方?」
「そっちの話聞かないとなんとも。とりあえずお前の幼馴染2人の味方ではある」
適当にはぐらかされるか無視されて質問されると思ったが意外とちゃんと答えてくれた。ていうか滞斗と風花の味方なの? じゃあめちゃくちゃ味方じゃん。
いや、信じれるか微妙か。でもここで滞斗と風花が出てくる辺り俺の事も知られてるし、そもそも俺じゃコイツどうにも出来ないから敵だったら割と詰みだし信じるしか無いよなぁ……
「色々考えてる所悪いが次はこっちの質問だ。どこまで知っててどうやって知ったよ?」
「どこまでって難しいなぁ……多分風花が本人すら知らないうちに命狙われててそれに気付いた滞斗が多分異能力に覚醒してバレないように風花を助けてる。これ合ってる?」
「……合ってる。確証は無かったのか。どうやって知った? 多分情報流した奴とか居るだろ」
「いや推理」
「……は? マジ?」
「親父ならともかく俺そんな特殊な人脈持ってないし」
「……一人で推理したのか?」
「こんなのに他人巻き込めないだろ」
「マジか……マジかぁ……」
折角だから自分の推理が合っているのか確認しながら答えてたらサングラス男は額を抑え蹲ってしまった。何でだよ。
「……推理の過程聞いて良いか?」
「その前に次は俺の質問、滞斗の異能力って何?」
「分からない。異能力者として覚醒したのは確かだがそれがどういう異能力かは滞斗本人含めて分かっていない」
推理の答え合わせを続けようと思ったら思わぬ情報が出てきたぞ?
とりあえず滞斗本人含めてって言ってる辺りコイツは滞斗に聞いたりしてるな。そう考えると思ってた以上にしっかり味方なのか。
で、滞斗が自分の異能力がわからないっていうのは……正直何とも言えないな。わからないのは嘘でなんか理由あって黙ってる気がする。それに俺の逆行も予想に過ぎないし言わないでおくか。
「ふむ……まあ良いか。じゃあ推理の過程についてだな。大体一週間前、滞斗の表情が少し、1mmくらい険しくなってるのに気付いた。その時ははぐらかされたがその後も表情は晴れず常にどこか悩んでる感じだった。で、ある時滞斗が小声で風花を守るって言ってるのを聞こえた。他は誰も気付いて無かったけどな。親友の俺には筒抜けだった訳だ。で、そこから風花は命を狙われてて滞斗は守るために何かしてるんだろうなって気付いた。異能力に目覚めたのが分かったのは体育とかであからさまに力をセーブしてる動きでぎこちなかったから。あ、今思い返せば日常生活でも重心とか少し変わって……何?」
「いや……え? 本気で言ってる?」
「……? 当たり前だろ」
「気持ち悪……」
聞かれたから答えただけなのにドン引きされた。解せぬ。まあ良いか、次は俺の番だ。
「じゃあ俺の質問。風花は何で命を狙われてる?」
「ここでは言えないな。色々話したい事も増えたから俺らの拠点に来てくれ」
這潜はいつの間にか見つけたらしい俺のスマホを渡しながら言ってきた。うわ、液晶バキバキだし血が付いてる。新しいのに買い換えよ……折角だし最新機種で。
で、拠点ね。まあ行くか。断ったら力づくで連れて行かれそうだし。向けられる視線からして俺はもう向こうから無視できない存在になったっぽい。
「了解。こっちも色々聞きたいし」
「よし、じゃあ連れて行くから手を握ってくれ。俺は
「それ言って良いのか?」
「良くはないが、俺なりの信用だと思ってくれ」
信用ね。本当に滞斗達の味方ならそれはこっちからもありがたい事だ。もし刺客が地獄耳じゃなくて這潜さんだったなら俺はもう死んでるだろう。正直な所俺ならどうにかなるだろって舐めてた。これ一人じゃどうにも何ないわ。異能力者ってずるい。
ていうか見えず聞こえず匂いもしないってやばくないか? 我ながら良く気付けたな。
ともあれ味方としてなら心強い。
「よし、俺も信じるわ。知ってるだろうけど俺は天与 彩葉。異能力は無い一般人だ。よろしくな、這潜さん」
「いや、一般人では無いと思うぜお前は」
信用して手を握ったら微妙な表情をしながらそんな事を言われた。いや、我ながら色々出来るとは思ってるが異能力者に若干引かれてるのは納得いかない。
☆☆☆
そうしてどこかに短く連絡をしてから地獄耳を担いだ這潜さんに手を引かれて着いていく事しばらく。俺は裏路地の一角、寂れたビルに来ていた。
「ここ?」
「ああ」
這潜さんは短くそう言ってビルに入り、奥にあった扉を開く。中は事務所のようになって居るが誰も居ない。もしかして騙されたか? それともこんな所を拠点にしないといけないくらい極貧なんだろうか。
「いや、ここじゃねぇから。そんな目で見るなよ。あともう手は離して大丈夫だ」
そう言って手を離した這潜さんは奥にあった大きい机を何回か触った。するとすると机はスライドするように動き地下に続く階段が出てきた。見える範囲だと中はこの部屋とは違って少し近未来チックになってる。
「ここの下が俺らの拠点」
「すご……技術力どうなってんだよ」
「常識とか無視してめちゃくちゃする奴が居るんだよ」
少しげんなりとした様子で言った這潜と共に階段を下りる。するとそれまでの近未来チックなのとはまた変わって普通の、アニメとかであるような地下基地みたいな感じだった。おかしいだろ。
「内装どうなってんの?」
「階段周りだけやって飽きたって言って辞めたんだよ……」
地獄耳を廊下の脇に投げながら疲れた表情で言ってきた。中々の自由人が居るっぽい。
「それ、そんな雑に放置して良いのか?」
「後で誰かしら回収する。お前はとりあえず今からうちのリーダーに会って貰う。こっちだ」
歩きだす這潜に着いていく。基地の廊下は見える範囲には人は居ないけど遠くから足音は聞こえる。あ、扉開けて入った。一瞬ではあるが扉の中からそこそこの数の足音と声はうっすら聞こえたな。聞こえた距離的にこの場所結構大きそうだしそう考えるとかなり大きな組織なんじゃないかここ?
「ここだ。……どうした?」
「いや遠くから足音聞こえてさ、結構広いし人も多そうだなって」
「お前怖いよ……」
また引かれた。しかも結構なドン引きだった。いや俺からしたらお前らの方がよっぽど怖いよ?
「んんっ。まあとりあえず入るか。
這潜さんは咳払いをしてから扉を開けた。中は簡素でソファ二つと間に机が一つ。そしてソファに座った鋭い眼つきで俺を見ている女の人。この人がリーダーか。ふむ、座ってるから正確には分からないけど身長は162くらい。見る限り鍛えてはいそうだけど這潜さん程強くは無さそう。いや、異能力分かんないから何とも言えないんだけど。でも何となく戦うより裏で指令とか出すタイプのリーダーな気がする。こっちを探るようにじっと見てきてるし。
「来たか。とりあえず座ってくれ」
とりあえず言われた通りに向かいのソファに座る。這潜さんは警戒の為か立ったまま壁に背を預けてこっちの様子を見ている。この人に真顔でじっと見られるのめちゃくちゃ怖いんだが。
「そんなに怖がる必要はない。私達が君に大きな危害を加える事はないと約束しよう」
「小さな危害を加える事はあるの?」
そわそわしてたらリーダーの人、愛守さんが安心させるような口調で不穏な事を言った。
「まずは自己紹介をしよう。私はこの組織、『プロテクター』のリーダーをしている
しかもこっちの疑問は素知らぬ顔で無視すると来た。いや良く見ると動揺してか少し瞳が揺れている。それはそれでどうなんだ。
「俺は天与 彩葉です。知ってるとは思いますけど」
「そうだな。滞斗君から聞いてもいるし、調べさせても貰った。天与 彩葉、16歳。父親は世界的アパレルブランドの社長で母親共々世界中を飛び回っていて幼少から実質的な一人暮らし。小さい頃から優秀で小学生低学年の頃は手当たり次第にコンクールや大会に出場し毎回最優秀賞や優勝。小学生の時に父親の金目当てで襲ってきた誘拐犯を返り討ちにした。……これは本当の話か?」
「基本滞斗と風花の家に遊びに行って泊まる事が多かったんで一人暮らしって言うのは微妙ですね。他は全部合ってますよ」
「合っているのか……そうか……」
愛守さんからも引かれた。まあ誘拐犯返り討ちにしたのは流石におかしいから引かれても仕方ないか。
それにしても懐かしいな。昔は周りに言われるまま色々やっていた。途中で滞斗達との時間が減るって事に気付いて辞めなければ俺は今頃世界的有名人だったのではないだろうか。
……それは嫌だな。滞斗と風花と会えなくなりそう。
じゃないわ、風花について聞かないと。
「そろそろ風花と滞斗が巻き込まれている事について聞きたいんですけど。」
「ああ、そうだな。まず君が知った経緯などを聞かせて欲しい。這潜からはそこまで深く聞けていないんだ」
話を進めようとしたら愛守さんはすぐに真面目な表情になって問いかけてきた。ここなら時間はあるししっかりと細かく話そう。
そうして俺はどうやって気付いたかの説明を始めた。
☆☆☆
「おかしいだろう……! それは……!」
で、頭を抱えて机に突っ伏した愛守さんが生まれたって訳。ちょっと申し訳ないかもしれない。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ……いや混乱はしてるが、そういう物だと飲み込もう。それで、覚島 風花についてだったな」
ふぅ、と愛守さんは短く息を吐いて話し始めた。
「覚島 風花は異能力者だ。とは言っても異能力は完全には覚醒しておらず身体能力もそのまま。だから本人も気付いていない。そして肝心の異能力は他者の異能力の覚醒。滞斗君が異能力者になったのはこれが原因だ」
「他にも風花の異能力で覚醒した人は居るんですか?」
「いや、現状は滞斗君だけだ。おそらく現在は本人が意図せず微弱な力を常に流していて、それを受け続けると異能力に覚醒すると考えられる。つまり現状覚醒し得るのは覚島 風花と長期間一緒に居た人物だけだ」
「それで俺とか風花の両親が覚醒してない理由は?」
「わからない。が、覚島風花の気持ちの向き先等が考えられる」
なるほど、風花が他人の異能力を覚醒させる異能力で滞斗はそれで異能力に覚醒したと……
風花の気持ちの向き先なら滞斗が覚醒するのは当たり前だろう。とはいえ二人とも異能力者なのに俺だけ仲間外れみたいで少し寂しいな……
「それで、風花を狙ってるのは誰なんですか?」
「奴らは『ディスラプター』、今の社会を破壊して支配しようとしている連中だ」
「なるほど、風花を狙ってる理由は多分異能力を利用する為なんだろうけど命狙ってる理由は? 殺しちゃダメでしょ」
「わからない。向こうに死者の復活等の異能力が居て死体でも確保出来れば問題無いか。そもそも他の組織に渡さない為に殺そうとしているだけか」
死者の蘇生とかもあるのか。常識が通じないのは分かってたけど本当に何でもありなんだな……
「最後に、何で風花に普通に生活させてるですか? やって欲しくは無いけど拉致って監禁でもした方が安全でしょう。」
「まだ子供だからな。自由に健やかに生きて欲しい。そういう大人のエゴだよ。滞斗君や君も知らずにそう過ごして欲しかった」
愛守さんは優しく微笑んでそう言った。
めちゃくちゃ良い人じゃんこの人。いやでもそのせいで多分風花は何回も死んでて滞斗の顔も曇ってるんだよな……まあそこはこれから先俺が上手くやれば良い。滞斗と風花の為なら俺は何でも出来る。ディスラプターだろうが一人で壊滅させられる。……流石にそれは無理かもしれない。
ともかく目標は定まった。風花と滞斗を守っていつも通りの日常を取り戻す。その為にはこの人達との協力は不可欠だ。
「俺も一緒に戦わせて下さい」
真剣な表情で言うと愛守さんは俺の側まで歩いてきた。そして優しい表情で俺の頭に手を置き
「悪いがそれは無理だ」
「あ……?」
ちからがはいらない。
「私の異能力は記憶の書き換えだ。君は戦った事も、私達と話した事も忘れる」
あたまがはたらかない。
「ディスラプターからの刺客を倒してくれた事は感謝している。だがやはり子供の、しかも無能力者の君を戦いに巻き込む事は出来ない。すまないな」
もう い しき が
目を覚ます。時計を見るといつも通り五時、今日も気持ちの良い朝だ。
まずは滞斗と風花のお弁当をつめて完成させよう。昨日作ったっけな、珍しく思い出せない。まあ確認すれば良いか。
何も無い。コンロの上も冷蔵庫の中も完成された品が何も無い。流石におかしい。俺は昨日何をした?
二人と登校して、二人と昼を食べて、風花を焚き付けてデートに行かせて、俺は……普通に帰って疲れてたから寝たんだっけか……?
おかしいおかしいおかしい! 疲れるような事何もしてないし疲れてたとしても二人のお弁当のおかず作らずに寝るとかありえない。米すら炊いて無いぞどうなってんだ!
絶対何かされてる。異能力者か? だとしたら記憶に作用する異能力の可能性が高い! 他の違和感も探せ……! 何か……何か……ん、滞斗の動きが変だ。まるで力を抑えてるみたい、な……
「滞斗異能力者だ! で風花が命狙われてる!!」
思い出した、全部思い出した。愛守さんの異能力で記憶を書き換えられたんだ! 二人への愛情の前には無力だったようだがな!!
こうしちゃ居られない。早くプロテクターの拠点に押しかけよう。現在時刻は五時五分、記憶を取り戻すのに五分もかけてしまった。
サクッと着替え、滞斗と風花とのグループに学校を休むのと昼は用意出来ない事を連絡して家を飛び出す。道は覚えてる。全力で街を駆け抜け裏路地へ、そして寂れたビルの一階、奥の扉を開けると
「…………」
「向かって来てるかもって連絡あったけどマジで来るのかよ。やっぱ一般人じゃねぇよ、おかしいよお前……」
口を開けて唖然としている愛守さんと苦笑いしながらドン引いている這潜さんが居た。
這潜 透
異能力は存在感を消す。姿が見えず、音も出ず、匂いもしなくなる為奇襲されるとまず対処が出来ない。速度付けて攻撃されるのは無理だが後ろから近付いて普通に触ろうとするくらいなら彩葉は勘で避けられる。
廻辺 愛守
異能力は記憶の書き換え。相手の頭に触れる事で記憶を書き換える事が出来る。書き換えられた記憶の違和感を見つけ辿っていくと解除出来るが基本的に違和感を持てず、持ててもそういう事もあるか。程度で済む為解除される事は稀。
滞斗と風花へのお弁当に負けた。