アオイロカグヤ!!   作:ゴータロー

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 言われてみれば、私たちの中にこのタイプっていなかったかも?

 明るくて破天荒で、何をやる時も笑顔でいる存在。

 あえて言うならヨシミちゃんが近いけど、ちょっと違うかなあ。

 普通の女の子には見えないけど、もしずっと前から知り合いで、友達になれてたなら。

 絶対、この学校生活はもっと賑やかで、きっと楽しかったよね。

ーー栗村アイリ



#2 『超シュガーラッシュ始動!』

 

「それで? どうすんのよ、かぐやは」

 

「はいっ! かぐやは、楽しいことがしたい!」

「……だってさ」

 四人と一人は学園内の、自分たちの部室へと戻ってきていた。

 放課後スイーツ部の部室は、普段よりかぐや一人ぶん多いため、少し狭く感じる。

「それはいいけどさ。なんかこう……自分に関係する、思い出せることないの? 特技とか、好きなこととか」

「ん〜? かぐやは楽しいことが好き! 難しいことマジ無理! 我慢とかできない感じだった気がする!」

「性格は、前からこんなのってことか」

 かぐやは白を基調とした、トリニティの制服に着替えていた。ウサ耳も外れて、美しい金の長髪をサラサラとたなびかせている。

 かぐやはティーパーティーの帰り際に、手土産にとして渡された菓子箱から、小分けに梱包されたマカロンを取り出し、一口で食べてしまった。

「マカロンうまぁ〜♡美味しいの好き! 食べるのも好き!」

「いい食べっぷりだね。ほら、かぐやにはもう一つあげよう」

 ナツは色の違うマカロンでかぐやを餌付けしている。彼女はそれもぺろりと平らげ、満足そうだ。

「そう言えば、カズサたちはあのとき屋上で何してたの?」

「ん? ああ、バンドの練習。トリニティの中で音楽イベントがあって、それに呼ばれちゃってさ」

 私たち、シュガーラッシュってバンドやってるんだ。カズサはそう言って、部室の壁にかけられたTシャツをかぐやに示した。

 そこには、アルファベットで『SUGAR RUSH』とバンド名が綴られている。ライブTは、揃いのステージ衣装でもあった。

「おお〜! めちゃ楽しそう! ね、なんか歌ってるやつ聞かせて? 聞いてみたい! カズサたちの曲!」

「うぇ? 誰か、音源か動画持ってる?」

 かぐやは飛び跳ね出さんばかりに、期待が抑えきれない様子だ。アイリが自身のスマホを取り出して、音楽プレーヤーを起動した。

 ギターサウンドの軽快なイントロが流れ出し、カズサのボーカルが狭い部室に響いていく。

 かぐやは頭を揺らしながら、目を閉じて、黙って聞き入っていた。

 三分弱の曲が終わると、かぐやは「もう一回!」とアイリにリピートをねだる。

 アイリは照れくさそうにして、再びスマホの再生ボタンを押した。かぐやは指でリズムを取りながら、ふんふんと鼻を鳴らしている。

 

「シュガラ……めちゃいい! 超良い曲じゃん、この『彩りキャンバス』!! みんなすっげぇ!」

 

 それから同じ曲を計四回リピしたかぐやは、カズサたちの演奏を絶賛していた。目の前でここまで素直に褒められると、さすがに四人も悪い気はしない。

「ま、まあね? トリニティの学園祭でも、それなりに人気出たんだよ、私たちは」

「あの時はちょっと、騒ぎになっちゃって大変だったもんね……」

 ヨシミの控えめな自慢とアイリの謙遜を耳にして、すごいすごい、とかぐやがはしゃいでいる。

「そう、いろキャンのサビが良かったな〜! カズサの歌い方、こんな感じでさ……」

 かぐやはシュガーラッシュの楽曲ーー彩りキャンバスのサビをおもむろに歌い始める。はじめにカズサが、その後に他の三人が驚いた。

 かぐやは、今聞いたばかりの曲にも関わらず、メロディラインを完璧になぞっている。

 かぐやはそのままアカペラで、ワンコーラスをきっちり歌い切ってしまった。

 四人は呆気に取られていた。

「かぐや……めちゃくちゃ歌上手いじゃん……」

「私たちの努力って……」

 ボーカルのカズサとヨシミは、二人揃って肩を沈め、気落ちした。決して二人が見劣りするわけではないのだが、かぐやの歌唱力は圧倒的だった。

「いやあ〜、歌上手かったんだ、私って。なんかやってたんかな、そういう感じのこと」

「そうかもしれないね。歌手、アイドル……この狭い世界なら、少しくらいかぐやの名前が知られていても良さそうなものだけど」

 鼻高々のかぐやを前に、ナツは腕を組む。思い当たる名前は浮かばなかった。

「探してみたら、他にもかぐやちゃんが歌える曲とか、あるんじゃないかな?」

 アイリの思いつきで、四人はそれぞれのスマホで流行の楽曲を探し始める。

 かぐやはその間も、今ほど覚えた彩りキャンバスを、曲の頭からハミングしていた。

 

 

 

 

「え、初音ミクは知ってる?」

 

「この曲とこの曲、多分わかる! 流してみて!」

 かぐやは有名シンガーの曲のイントロを聴くと、歌詞を見ずにそらで歌い出す。

 一連の流れに澱みはなく、確かに元から曲を知っていなければ出てこないメロディだった。

「もしかして、初音ミクの関係者なんじゃない……?」

「いや、でもまさか……」

 ヨシミとカズサは戦々恐々としている。

 電子の歌姫初音ミク。

 もしもそうなら、彼女はこの世界の大人気アイドルだ。とてもじゃないが、自分たちと行動を一緒にし続けられるとは考えられない。

「記憶をなくす前から知ってたとか?」

「でも、これだけ上手いんだよ? 本人じゃないの?」

 それは……とカズサが口ごもる。

 しかし、かぐやと初音ミクでは、言葉にできない、決定的な雰囲気の違いがあるような気がする。

 かぐやの性格を表現するなら、あまりにも突飛で有機的なのだ。アイドル、というよりはエンターテイナーのように見える。

「みんな、私に一つ考えがある」

 黙りこくって考え込んでいたナツは声をひそめて、かぐやを含めた四人を手招きした。

 少女たちは耳を寄せ合う。

 ごにょごにょと口を動かすナツの言葉が終わらないうちに、かぐやが飛び上がった。

 

「やるっ!! 絶対やる! 面白すぎでしょそれっ!」

「……かぐやを……」

「シュガーラッシュのボーカルに、かぁ……」

 

 ナツは再び話し始めた。

「まあ最後まで聞いてほしい。カズサとヨシミのパートを全部減らすわけじゃない。あくまでリードボーカルとして、かぐやを入れてみたらいいんじゃないかな、と思ってね」

 ナツの考えはこうだった。

 次のライブで、シュガーラッシュに謎のゲストとして、かぐやを参加させる。

 もし彼女が音楽関係者であれば、何かの目に留まって正体が明らかになるかもしれない。

 そうでなくとも話題になれば、それだけ人目に触れることが増え、かぐやの正体が判明する手がかりに繋がるのではないか。

「私たちもライブで何曲も持てるほど、持ち曲が多くあるわけじゃない。その分、初音ミクのカバーなら知名度もあるし、かぐやの歌唱力なら、上手くやれるはずだ」

「ナツにしてはまともな提案ね……」

 『ナツにしては』は余計だろうと、ナツは口を三角にして、ヨシミの反応に苦言を呈した。

 カズサとアイリも首肯する。

「なるほどね。ボーカルがいるなら、私とヨシミもベースとギターの練習に集中できる。ホント、【ナツにしては】良案だよ」

「あはは……私は普通に、良いアイデアだと思うよ、ナツちゃん」

 結局、ナツの提案に反対するメンバーはいなかった。

 嬉々としたかぐやは言うまでもなかったし、カズサとヨシミも、自分の練習量が減ることを素直に喜ぶべきだと思っていた。

 それに、なんと言っても持ち曲を増やせるのはありがたい。

 放課後スイーツ部の彼女たちにとって、バンドは本業ではないとはいえ、ステージに立てば、オーディエンスの期待は重いものだ。

 ライブを控えたこの時期に、かぐやがボーカルとして参戦するのは、もはや必然と言っても良かっただろう。

「じゃあ……かぐやは、仮入部ってとこかな」

「するする! 仮入部する!」

 かぐやは二本の指を前に突き出した。

 突然の動きに、ヨシミが戸惑っている。

「かぐや、何してんの?」

「なんだっけ? こんなこと、やってた気がするんだよね。このあと、どうするんだったかなあ……」

 カズサも同じようにして、人差し指と中指をかぐやに向けて突き出した。

「まあわかんないけど、みんなでこうしたらさ、星形みたいになって、いいんじゃない?」

 カズサがそう言ったので、残りの三人も二本指を揃えて出した。

 少女たちの指先どうしが触れ合うと、十本の指が、五つの頂点を持った星に生まれ変わる。

「あー!! なんかすごいこんな感じだった!! これ、私の記憶に絶対関係あるよ!」

「こうやってれば、かぐやちゃんの記憶も思い出せるかもしれないね」

 全身で喜びをあらわにするかぐやを、アイリが優しく宥めていた。

 

「バンド名、どうしよっか」

 一通り話が終わると、イベントの主催に、バンドと楽曲の情報を伝える日取りが近付いていることに少女たちは気付く。当初はもちろん、シュガーラッシュの名義で届け出る予定だった。

「カズサは、かぐやが増えた分だけ変えたいってこと?」

「まあ、やっぱこういうのってさ、フィーチャリングとか、ウィズとか、その時だけの名前もあるじゃん? シュガラはやっぱり、私たち四人だけのグループ名にしたいんだよね」

 かぐやには、ちょっと悪いけどね。とカズサは悪戯っぽく舌を出した。

 しかし、当のかぐやにそれを気にする風はない。むしろ当然と言わんばかりだった。

「私もそれがいい! カズサたちのファンに後ろから刺されたくないし!」

 そうと決まれば、全員で新しい名前を考えなくてはならない。

 少女たちのお喋りの勢いで様々な候補が浮かび上がっては、波間の泡のように霧散していった。

「いっそさ……シンプルでいいんじゃない? お客さんに私たちって名前が伝わればいいんだから」

「あ、ヨシミちゃん、いいの思いついたかも」

 そう告げたのはアイリだった。

 四人は彼女の発言を待つ。

 

 ーー超シュガーラッシュ。

 

「どう? これなら絶対私たちってわかるし、すごいことが起きそうな感じがしない?」

「ふむ……私としては賛成だよ。それに、この名前ならーー」

 ナツはテーブルに置かれた付箋を取り、すらすらと文字を書き込んで、壁にかかったTシャツの胸に貼り付けた。

「この通り、既存のライブTシャツに一文字足すだけで完成だよ。それだけでも、採用に値する名前だと思う」

 全員が納得して頷いた。ワッペンやステッカーをシャツに着けてアレンジすれば、違和感なく利用できるのは便利だ。

「いいね! 超シュガーラッシュ!! 私は超シュガラ、ボーカルのかぐや!」

「ベースのカズサーーほら、ヨシミ」

「ギターのヨシミ。ねぇ、今これやる意味ある?」

「キーボードの栗村アイリとーー」

「ドラムの柚鳥ナツ……決まりのようだね」

 五人は一呼吸置いてから、声を揃えて笑った。

 

 超シュガーラッシュは、こうして始動した。

 

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