アオイロカグヤ!!   作:ゴータロー

4 / 10

 一時間、スイーツビュッフェが食べ放題。

 しかも、メニューもたくさん、ドリンクフリー!

 テーブル席からテラス席まで完備!

 食後には弾の補充までしてくれる……。

 まさに、地域密着型のお店なんだよ!

 ーーとあるスイーツ店の常連



#4 『キヴォトス的日常』

 

「みんな……お疲れ様〜!!」

 

 賑わう店内で、五人は行儀悪く、フォークを握って空中に高くかざした。

 かぐやとカズサたち、超シュガーラッシュのメンバーは、トリニティの近くにあるスイーツビュッフェを全員で訪れていた。

 理由はもちろん、大成功に終わったファーストライブの打ち上げだ。

 口から涎を垂らしたかぐやは、目の前に取り分けられた大きなパンケーキにフォークを突き刺し、瞬く間に一口で食べてしまった。

「パンケーキうっまぁ〜♡これで一時間食べ放題ってマジぃ?!」

「そうだよ。私たち四人でよく来るお店なんだ」

 かぐやはテーブルの上に並べられた色とりどりの甘味に、片っ端から口をつけてご満悦だ。

 かぐやの食べっぷりがいいので、他の四人も幸せそうな顔になる。

 人は自分自身よりも、隣で美味しそうに食事する隣人の存在にこそ、心動かされるものだ。

 

 メルト、そしてシュガーラッシュとしての新曲を三曲目に演じた彼女たちのライブは超盛況に終わり、ライブイベントを大いに盛り上げることに成功した。

 後から動画を見返すと、各々気になるミスはいくらかあったものの、全体では十分納得できる、及第点以上の出来であったと言っていいだろう。

「めちゃくちゃ伸びてるねえ、私たちのアカウント」

「どうしよっか、コレ……」

 話題の中心は、カズサたちが個人アカウントとは別に作った、グループ用のSNSアカウントのことだ。前回のライブ以降、フォロワー数が急増している。

 やはり曲数を増やしたのが功を奏したのだろう。自分たちでアップしたライブ動画も合わせて拡散されており、多数のインプレッションを生み出していた。

 複雑な表情をしているカズサたちに、かぐやは首を傾げた。

「ダメなの?」

「ダメってことはないけど……有名になっちゃうと、面倒も多いしさ」

「現実味がないっていうか、足元がふわふわした気持ちにならない?」

 カズサとヨシミは、放課後スイーツ部の中では比較的、リアリストだった。特にカズサは過去の自分のにぎやかな経歴から、目立ちすぎることの弊害をよく知っている。

 端的に言えば、自分たちにとっての黒歴史にならないかを、二人は心配していた。

「大丈夫! 歌ってみんなが喜ぶのは、絶対いいことだから! 進めば進むだけ、世界が私たちについてくる!」

「かぐやの前向きさは、強さだね。険しい未到の道を進んでいる最中は、通過点には気付かない。私も気にするほどじゃないと思うよ。カズサ、ヨシミ」

「うん、今は……私たち、頑張ってるんだって自分を褒めても、いいんじゃないかな?」

 一方、かぐや、ナツ、アイリの三人は楽観的だ。どうやら多数決では、議論の行方に勝ち目がなさそうだった。

 カズサはやれやれと首を振って諦めた。

「ま、いいか。ライブが上手く行くのは、確かに楽しいし」

「そうそう! 楽しまなくちゃ!」

 

 かぐやは手近な皿に取り分けられたものをあらかた食べ尽くしてしまったので、アイリを誘ってお代わりを取りに向かった。彼女は元気なだけでなく、健啖家でもあるらしい。

「でも、ほんとに……さぁ」

「かぐやの力、なのかな……」

 カズサとヨシミには、個人的な知り合いも含めたダイレクトメッセージが大量に届き始めていた。話はしていないが、ナツとアイリの二人も同様だろう。

 それは紛れもない、ブレイクの兆しだった。

 かぐやは連絡手段を持っていなかったため、ティーパーティーから一台、電話とチャットのみ可能な携帯端末ーーPDAを借用していた。

 今のところかぐやは、スイーツ部の四人のうち代わる代わる誰かと引っ付いて過ごしているため、それを使う機会は少ない。その頻度としてはカズサが一番多く、ナツが最も少なかった。

 カズサはチョコレートケーキの甘味を堪能しながら思案する。

 かぐやがネットでこの振る舞いを見せれば、そう遠くない将来、彼女はスターとしてブレイクしてしまうのではないか。

 カズサはさらに、ライブ中の一節を思い出す。

 三曲目のラスサビ前の間奏のことだ。

 

 ヨシミのギターの弦が一本切れ、唐突にコードが終わった。即座に異常に気付いたカズサとナツが目配せして、伴奏を予定以上に繋げねばならなくなった。

 事前練習で想定していなかったトラブルであり、主旋律のアイリとボーカルのかぐやが気付かなければ、パフォーマンスが破綻しかねない危機が訪れる。

 ヨシミが立て直すのを待つか、このまま行くかをステージ上で、一瞬で判断せねばならない。

 かぐやはそうしたカズサたちの考えを読んだかのように、観客との咄嗟のコール&レスポンスを挟み、ベースとドラムだけで繋ぐ貴重な時間を作り上げてしまった。

 彼女は、後ろから鳴らされる音の展開だけで、何が起きたのかを察したのだった。

 

 それは例えようのない音楽センスと、場慣れの経験というほかなかった。

 

「んあ、あれ? だってギターが止まって、カズサたちが困った感じの音だったじゃん。あっやべって。振りの中で、ヨシミが弦から手離してたの見えたし、あちゃーってなって、これは私が頑張らなきゃ! って」

 かぐやはこともなげに話す。

 それを初めて組んだグループの、初めてのライブでやってのけたのがおかしいのだが。

「ホントに助かった! かぐやはすごい!」

「うへへへへ! もっと褒めてもっと! かぐやは褒められて伸びるタイプ!」

 ヨシミは両手を合わせてかぐやに感謝している。ギターの弦が切れたのは事故とは言え、失敗を背にしたプレッシャーから逃げられたわけではない。

 さらにその後かぐやは、カズサを前に出して、無理矢理ボーカルに加えた。結果としてコードに制限のかかったギターから注目を逸らし、二人一緒のボーカルでラストまでを押し切ってしまったのだった。

 

「でも、かぐやちゃんのことを知ってる人は……」

「うん、アカウントの反応を一通り見てみたけど、知り合いって感じの書き込みはないね……」

 一つの成功を得たとしても、彼女たちが抱える大問題は解決していないのだった。かぐやはシュガーレスのアイスティーを、ストローでズゴゴゴと音を立てて啜った。

「はっきりさせておきたいんだけど、かぐやはこのまま……ってわけには、いかないんだよね?」

「ああ。確かにそれを確認しておくのは、大事なことだ」

 そう言ったのはヨシミだった。ナツも同意する。

 バンドもスイーツも共にしたかぐやに、友人としての情が移り始めているのだった。それは他の面々も同じだった。

 かぐやは困ったように笑う。

「ステージで歌ってたら、朧げには思い出してきたんだよ。ここはすごく楽しいし、美味しいものもいっぱい食べられる。歌って踊って、新鮮なことがいっぱい!」

 だけどね、とかぐやは言った。

「多分……このもやもやした心の中に、私にとって、大事なことが残ってるんだと思う。だから……うーん、カズサたちはとっても大事だけど、なんとか記憶、取り戻したいんだ」

 湿っぽい空気がテーブルを包んだのを察したのか、にひっ、とかぐやは口を押さえた。

「こんなの絶対ガラじゃない! もっと楽しく行こう!」

 そう宣言して見せたかぐやの笑顔は、作り笑いでも空元気でもない。

 本心からの、正直なメッセージだった。

「ま……かぐやに付き合うよ、最後までさ」

「そうだね。かぐやちゃんが絶対良かったって思える、思い出が作れるようにしたいもん」

「ううぅ……アイリぃ〜!!」

 かぐやが姿勢も表情も崩してアイリに抱きつこうとした瞬間、店の外から大きな爆発音が響いた。

 

「えっ、何?!」

 

 爆発による振動でぱらぱらと埃が天井から落ち、取り分けられたスイーツが乗った皿に降りかかっていく。

「はぁ〜……いい話だったのに、台無し……!」

 舌打ちしたカズサはこめかみに血管を浮かべると、椅子に置いた自身のアサルトライフルの銃把に手をかけ、立ち上がった。

 ヨシミ、ナツも各々の獲物を手に持ち、椅子から立ち上がる。

 穏やかな性格と、かぐやが考えていたアイリでさえ、彼女たちと同じようにした。

 この場の作法についていけないのは、かぐやだけだ。立ち上がった放課後スイーツ部のメンバーたちを、困惑したまま見上げている。

 じきに絶え間ない銃撃音が、外から聞こえてきた。何者かの抗争が始まっているらしい。

「かぐや、着いてきて。私たち放課後スイーツ部は、ライブだけしてる部活動じゃない」

「そうそう、スイーツを頂くことを邪魔されるならーー」

「私たちは、邪魔者を排除しないといけないから」

 カズサ、ヨシミ、アイリの三人は勢いよく店外へと出ていった。

「う゛え゛ぇ゛〜〜〜!!?? この名前なのに、そんなに過激な部活だったの?!!」

「まあ……この世界ではこんなものだよ、かぐや。対話より暴力の方が、大抵の場合は手っ取り早いからね」

 大丈夫、じきに慣れるから心配ないよとナツはかぐやを励ました。

「それ! 死ぬほど面白れ〜けど、ホントに撃っていいやつなの?!」

「ああ。普通に向こうは気にせず撃ってくるよ。死にはしないが、痛い思いをしたくないなら、先に相手を痛い目に合わせておく。だから無くならないんだね、戦いは」

 ナツも愛用のサブマシンガンと大きな盾を手に抱えて、店の外へ出て行ってしまう。

 かぐやは今更になって、この世界では料金先払いになっている店舗が多い理由を悟ったのだった。

 

 

 

 かぐやが慌てて後を追うと、看板や建物の柱に隠れたカズサたちが、ヘルメットを被った女生徒の集団と激しい銃撃戦を繰り広げているところだった。

 何もわからないまま流れ弾を受けてはたまらない。かぐやもカズサの近くに身を潜めた。

「遅かったね、あのヘルメット被ってる奴らが、私たちのスイーツを台無しにした張本人。二度とこの辺でグレネードなんて爆発させないよう、しっかりわからせておかないと」

「カズサちゃん。私はナツちゃん、ヨシミちゃんと行くから、かぐやちゃんお願いね」

「アイリ、めちゃ戦い慣れてるぅ……」

 かぐやは口笛を吹いた。

 アイリは銃撃が止んだ隙を見計らって飛び出す。彼女は物陰に潜みながら、応射してヘルメット団に攻撃を加えていた。

「一緒に戦うのは最初だから、かぐやの希望を聞いてあげるよ。派手だけど危ない方法、地味だけど確実な方法。どっちがいい?」

「そんなのーーもち前者っしょ!!」

 ふっと、カズサは笑った。意見が一致したようだ。

「オッケー。銃のセーフティ外した? じゃあ、一二の三で飛び出して、私の銃口が向いた相手を一緒に撃って」

「よっしゃあ! 任せとき!」

 カズサの体内の血が沸き立つ。

 さ、ひと暴れしようか。

 ライブもいいけど、戦って勝ち取った結果だって、同じくらい大事な思い出だもんね。

 

 カズサは駆け出した。

 速度を活かして手近な相手に喰らいつくのが、彼女の戦闘スタイルだ。

 まずはーーアイリたちに気を取られている、左翼の集団!

「行くよ! かぐや!」

 カズサはヤマネコのような俊敏な動きで、至近距離と言っていいほどの射程まで、一気に詰め寄る。

 死角から常識外れの突撃を敢行した二人に、ヘルメット団たちは対応が遅れる。

 慌てて銃口をカズサたちに向けるが、彼女たちはすでに、片膝をついて射撃体制を取っていた。

 走りながらではまともに銃を撃てない。狙いがブレてしまうからだ。

「遅いっ!」

「いっくよー!」

 二人のライフルのマズルが火を吹き、ヘルメット団に銃弾の雨を浴びせていく。遮蔽もなく真横から射かけられた弾幕をもろに浴びた彼女たちは、短い悲鳴を上げてばたばたと倒れていった。

「筋いいじゃん。前にもやったことある?」

「わかんない! でも、カズサと一緒に戦うのは楽しい!!」

 二人の奇襲に混乱しながらも、ヘルメット団たちは必死に体制を立て直し、反撃を試みる。

 しかし、射線を切れば、当然アイリたちはその隙を見逃さない。

 盾を構えたタンクのナツが飛び出して、一気に戦線を押し上げた。

 ナツは遮蔽物の影から軽機関銃の銃口を差し入れ、ゼロ距離射撃でヘルメット団たちを制圧していく。

「カズサ! 前から!」

「わかってる、よっ!」

 ヨシミの警告を受けて、カズサはかぐやの手を引き、手近な建物の影に身を潜めた。その後ろを銃弾が嵐のように通り過ぎていく。

「なかなか数が多いね……ほら、今のうちにリロードして」

 硝煙の残滓をまとったカズサは、撃ち切って空になったマガジンを次の弾倉に交換する。勿体無いから、マガジンは捨てない。捨てれば、少女たちは実費でそれを購入する羽目になる。

「いつもこんな感じなの?」

 かぐやも慣れない手つきで銃をリロードした。カズサはその倍も早かった。

「だいたいね。だからみんな銃を持ってる。授業より、戦ってる時間の方が長い日もあるし」

「うおお……戦国……!」

 カズサは物陰から、ヘルメット団が展開している正面を覗き込んだ。まだまだ十人以上はいるだろう。ちら、と横目にかぐやを見て問いかける。

「かぐやって、高いところ大丈夫?」

「もち! 何するの?」

 カズサは路地裏の非常階段を指で指し示した。その先は高みへと続いている。

 

「ーーかぐやがやったヤツ」

「あー!! 合点承知!」

 

 頷いた二人は階段を駆け上がり、手すりを大きく飛び越えて、屋根の上へ。

 そのまま建物を屋上伝いに二棟、三棟と走り抜け、路地裏からのサイドアタックを警戒するヘルメット団の歩哨の真上から、銃を片手に雪崩れ込んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。