アオイロカグヤ!!   作:ゴータロー

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 知り合いが何人も病院送りにされたんだ……!

 この世のモンじゃない! 悪魔のようなヤツだ!

 周囲に何もなかったのに、気付いたら立ってたのは自分だけだった!

 夢なのかって疑ったら、その瞬間には地面に突っ伏してた!

 あいつこそトリニティの魔獣、キャスパリーグだ!

 ーー怯える不良たちの証言



#5 『ヒットエンドラン』

 

「おい! 上だっーーぎゃあああああ?!」

 

 ビル壁の室外機を飛び渡って上空から急降下したカズサは、ヘルメット団の頭に着地して、ちょうどいい足場にした。

 もう一人の歩哨の背中には、同じく落下してきたかぐやの、超加速したニードロップが突き刺さる。めしめしと背骨が嫌な音を立てて、ヘルメット団の歩哨たちは硬い地べたに這いつくばった。

 まんまと戦場の裏取りに成功したカズサとかぐやは、短く指示を交わす。

「かぐやは右! 私が左! ザコは適当でいいから、リーダーの赤い奴だけ狙って!」

「オッケー! やっちゃうよー!!」

 ライフルを腰溜めに構え、二人は中腰のまま戦線の中央へと素早く走り抜けていく。

 予想もしていない方向からの急襲に、ヘルメット団はすぐに大混乱に陥った。

「撃て撃て! 近付けるな!」

「この距離で撃ったら味方に当たるだろバカ! イカれてるぞアイツら!」

 ヘルメット団が不平を口に出している間にも、カズサたちは息を呑むほどの近さまで接近していた。カズサは前進しながら、愛銃のトリガーを引く。

 突進しつつの銃撃なら、弾丸の横ブレは関係ない。それはさながら、装甲を貫くランスのように、敵の防衛網に穴を開けた。

「くそっ! なんでもいいから前のやつの足を止めろ! かき乱される!」

「やってる! ステップインの動きが早すぎて、全部かわされてるんだ!」

 猫のように縦横無尽に飛び回るカズサが、戦場の注目を集めており、後ろを走るかぐやからはターゲットを選び放題だ。

 彼女は初陣であったが、少なくともチャンスに引き金を引くことに躊躇はなかった。

 二人の時間差攻撃に、射撃体制を取ろうと身体を起こしたヘルメット団たちが、次々に倒れ伏していく。

「かぐや! 後ろ来てるっ!」

「あわわわっ?!」

 カズサの装弾の隙をかぐやが弾幕を張ってフォローし、かぐやの危なっかしいところをカズサが囮にして、敵兵たちを屠っていく。

 急場の連携とは思えないほど、二人の呼吸は噛み合っていた。

「あの二人、息が合いすぎだろ! 突破されるぞ!」

「前からも来た! うわああぁ!! 助けてくれー!!」

 銃弾、銃弾、銃弾。そして悲鳴。

 カズサたちの横撃を目にしたアイリたちが、機を逃さず、さらに前に出たらしい。

 ヘルメット団はすぐにスイーツ部の十字砲火を浴びる形となった。カズサたちは、倍以上の人数を個々の質と連携で圧倒している。

 ヘルメット団たちの戦意はすでに、跡形もないほどに打ち崩されようとしていた。

「上からの奇襲……! この突撃……まさか!?」

「あいつ、キャスパリーグじゃないのか?! トリニティの狂った魔獣だ!! 勝てるわけない!!」

 かぐやから見て、カズサが一瞬、動きを止めたように見えた。

 敵の口から漏れ出たキャスパリーグという単語を耳にしたカズサは全身を総毛立たせ、禍々しい雰囲気を纏っていた。

「いま、キャスパリーグって言ったヤツは……?」

「ひいいっ!」

「殺される!? 逃げろぉっ!」

 カズサは遮蔽物に逃げ隠れる敵集団に対して、クロース・クォーターズ・コンバットーーつまりCQCに移行した。

 腰を抜かして怯える敵にライフルの銃口を向け、容赦なく胸元を撃ち抜いていく。

 激痛に悶え苦しむ敵兵たちを蹴り飛ばし、目を細めて、一人ひとりヘルメットの奥の瞳を、記憶に刻み込むかのように睨み付けていた。

 もはや、彼女にはかぐやの援護すら必要ない。

 赤いヘルメットをつけたリーダー格の少女は、異常事態の到来に自身の危機が訪れたと悟ると、早々と逃げ去ってしまった。

 大将が逃げてしまえば、もはやあとはモラルをなくした、哀れなヘルメット団の殲滅戦だ。

 傷痕だらけのぼろぼろの抵抗線は、五人の猛攻に呆気なく打ち破られていく。

 それでもなお鬱憤を晴らすように暴れ回るカズサを、駆け寄ったアイリが押し留めた。

「か、カズサちゃん! そろそろ勘弁してあげようよ……!」

「……あ。ごめん。やりすぎたか」

 カズサの周囲には、恐怖と痛みで泡を吹くか、精神的衝撃の大きさで、意識を遠くにやっている不良たちが転がっていた。

 かぐやはその光景を見て若干引いている。

 すでに戦闘が終了したのは明白だった。

 

「カズサ……途中までカッコよかったのに、急にキレてどしたん?」

「大方アイツらにキャスパリーグって言われたんでしょ。ねえカ・ズ・サ!」

 ヨシミが茶化すと、カズサは猛然とした勢いで反論した。

「キャスパリーグって言うな! かぐやに無理させないように頑張っただけ!」

「いやいや、途中からの君は明らかにおかしかっただろう、キャスパリー、グッ……」

 食い気味に、カズサはナツを羽交締めにして、チョークスリーパーで彼女の首を絞めた。

 ギブ、ギブ、とナツは片手でカズサの二の腕をタップしてもがいている。

 とうとうかぐやが聞いてしまった。

「キャスパリーグって何?」

「うああああぁ……消えたい……」

 カズサはスリーパーホールドを解かないままうずくまった。ナツがぶくぶくと泡を吹いている。

「ねぇ〜カズサぁ……キャスパリーグって……何ぃ〜??」

「かぐや、あんまりそのネタでカズサをいじると、あんたもそこに転がるナツみたいになるわよ」

「まさか、かぐやに聞かれるハメになるとはね……」

 カズサは大きくため息を吐いてようやく、痙攣するナツから手を離した。

「キャスパリーグってのはまあ……私が昔自称してた、格好付けた呼び名ーー黒歴史だよ。それ以上はあんまり聞かないで欲しいんだけど」

 カズサは全員から視線を外して、ぼそりと呟いた。

「あー……そーいうヤツ? カッコいいじゃん! 私はそんなカズサもいいと思うよ!」

「はいはいありがと。はぁ……消えたい……」

 カズサは手で顔を覆っている。かぐやはバンバンと彼女の背中を強めに叩いた。

「ほんとだって! カズサはどんなカズサもカッコいい! 先陣切って、ヘルメットの子たちをバシバシやっつけてくの、まるでーー!」

 

 まるで、そう、かぐやの隣で戦っていたーー彼女。

 カッコよくて、強い、私のーー!!

 

「……まるで?」

「ああ〜〜〜!!! もう!! ここまで出てきてるのに!! どうして思い出せないの!!」

 訝しげな視線を送るカズサに、かぐやは地団駄を踏んだ。

 ようやく騒ぎを聞きつけたのか、黒い制服に身を包んだトリニティの風紀組織ーー正義実現委員会がわらわらと押し寄せてきた。

「いつも通り遅いな……片付けは任せて、逃げよ、みんな」

「そうねカズサ。そこで倒れてるナツ、アンタが担いでいきなさいよ」

 ヨシミが地面を示すと、ナツは安らかな顔で失神しているままだった。意識がない証拠に、ヘイローも消えている。

「えー? 手間かかるなぁ……」

「……結構ヤバいなカズサって」

 かぐやは引きつった表情を浮かべて、ナツを荷物のように抱えて走るカズサの後を追った。

 

 

 

「結局、あいつらはどうして騒ぎを起こしたの?」

「食べ放題の開始時間が、席についてからなのか、最初の皿を取ってからなのか、店から事前の説明がなかったんだって」

「はー……くだらな……」

 

 五人は学園内の広場まで戻ってきていた。

 さすがにあんなことがあった後では、打ち上げのやり直しをする気にもならない。

 ヘルメット団を終始優勢に圧倒したとは言え、戦いの後では疲労もあるし、制服もそこら中が火薬の匂いと埃にまみれている。

 かぐやは腕を組んで考え事をしていた。

「かぐや? 大丈夫? どっか撃たれた?」

「ううん、そう言うのじゃなくて。私、断片的に色々思い出してはきてるんだよね」

 数分前に意識を取り戻したナツが、一度整理してみてはどうだい、とかぐやに話す。

 かぐやは空を見上げながら、ぽつりぽつりとこぼした。

「ここに落ちて来た時、私はヘイローがなかったんだよね? 今は自由に出し入れできるけど……あんまりこれって、普通じゃないみたい」

「私たちが寝てる時とか、気を失ってると、消えるんだけどね。それ以上はあんまり気にしたことないかも」

 アイリがかぐやの疑問に答える。もちろん普通の生徒に、ヘイローの出し入れなんて器用な真似はできない。

「歌が上手いのは才能だとして」

「結構図々しいな」

「なんか腹立つ」

 カズサとヨシミは口を尖らせた。

 事実だが、だからと言って何を口にしても許されるわけではない。

「キーボードは……触ったことあるんだよね。やっぱり、かぐやちゃんが音楽やってたのは間違いないんじゃない?」

「それがさ……たぶん、私じゃないんだよな〜。すっげえ人が、隣にいたの! なんでもできる無敵の子!」

「かぐやがそれほど言うんだ。ぜひ、会ってみたいものだね」

 かぐやは遠くの空を見上げていた。

 顔の見えない誰かを思い出そうとする。

「カズサと一緒に戦ってた時も、デジャヴって言うのかな。こんなことがあったなー、って身体が自然に動いたんだよ! 敵陣に殴り込んでる瞬間、最高に楽しかったし!!」

 強敵を倒し、二人並んで駆け出して、ゴールへと向かって。

 

 ーーが危なくなったら、私が助ける!

 

 かぐやがミスったらーー私は置いてく。

 

 かぐやは息を呑んだ。

 もう、その面影まで思い出せている。

 最後のキーワードさえ、あれば……。

 

「よーっし! 今はこれ以上考えるの、やめ!」

「かぐや……いいの?」

 ヨシミがかぐやのことを、心配そうに見ていた。かぐやは表情をくしゃりと破顔させ、四人に笑いかける。

「悩むのは私らしくないって、その子なら言うと思う! だから、全力で今を楽しみたい! もっと大きなライブして、もっと美味しいスイーツ食べて、カズサたちと仲良ししたい!!」

「……そうね! かぐやの正体は気になるけど、私もかぐやに賛成! 難しいこと考えたって、お腹が減っちゃうだけだし!」

 かぐやとヨシミは両手を合わせてハイタッチした。

 歓声を上げ、きゃいきゃいとはしゃぐ二人の姿を見て、ナツとアイリは微笑んだ。

「かぐやが取り戻そうとしている記憶は、幸せなものなのかな。私は、そうであって欲しいと思うんだ」

「すっごくいい子だもんね、かぐやちゃん」

 その一方で、カズサは彼女たちと少し異なる考えを持っていた。

 夕暮れに翳る表情に、朱が差している。

「……友達になれたなら、別れたくはない、な」

「……カズサ?」

 今が幸せであればあるほど、未来に訪れる喪失感への恐れは大きい。カズサは、本能的にそれを悟ってしまっていた。

 かぐやはどんな時でも明るくて面白い、周囲を幸福に巻き込んでいく少女だ。そばにいたら、ずっと楽しい日々が続いていくのだろう。

「……私も、混ぜてよ!」

「うわっ?! なによ!」

 意を決したカズサはかぐやとヨシミの両肩を抱いて、顔を寄せ合う。

 だから今は。

 それでも今は。

 杏山カズサは、この日々を全力で、楽しむことに決めた。

 後悔を恐れて立ち止まる時間なんて、もったいない。

 ハッピーエンドは、自ら力を振り絞って目指さなければ、きっと辿り着けないものだから。

 

 その頃、通知が鳴り止まない超シュガーラッシュのアカウントには、一通のダイレクトメッセージが届いていた。

 大々的なフェスへの誘いーーステージ登壇数の少ないグループとしては、異例の招待状。

 報道を使命とするクロノススクールが急遽すっぱ抜いたその情報は、瞬く間にキヴォトス中を流れ、この世界すべての生徒が、かぐやとカズサたちの存在を知ることになったのだった。

 

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