アオイロカグヤ!!   作:ゴータロー

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#9 『Ex-SUGAR RUSH!!』

 

「「えええぇ〜〜〜っ!!?」」

 

 かぐやたち五人は、スタッフから説明された内容に、驚きのあまり叫び声を上げた。

「私たちが……!」

「大トリに変更!?」

 スタッフも困り果てていた顔だった。

 何やら、昨日のリハで出演者のブッキングが発覚し、スケジュールの変更が急遽行われたらしい。

 と言っても、それなりに名の知られたグループが多い中、すでに発表済みかつ、チケットも販売済みのタイムテーブルを調整するのは難しい。

 その結果、ほぼ新人で発言力が皆無に等しい超シュガーラッシュに白羽の矢が立ち、フェスのステージと、出演順の変更が行われたのだった。

「リハや集客はこれからでも手伝います、と言うのはありがたいが……」

「なんか、本当にすごいことになっちゃった……」

 アイリは呆然としている。

 フェスのトリ、というのは一長一短だ。

 お目当てのグループを観にチケットを購入した観客は、ずっと会場に残っているとは限らない。

 むしろピークは最終日の昼から午後辺りになることが通常で、最終盤はよほど音楽通の客しか残らないことだってある。

 つまり、かぐやたちは貧乏くじを引かされたと言えないこともない。

 しかし一方では、他のライブが併催されない状況で、全ての集客を独り占めすることもできる。

 ハイリスクハイリターンな出演順、それがフェスのオーラス……最終の出演者なのだった。

「みんな! これはすっげ〜〜〜チャンスでしょ!!」

 かぐやはいつも通り、超前向きだ。

「ヤッチョもそう思うな〜。シュガーラッシュのみんななら、目の前のファンが一人でも、一万人でも、きっといつもと変わらず全力でライブする。そうでしょ?」

 ヤチヨはカズサたちとライブ練習を共にしている。彼女たちが押しかけるファンの前で見せる、魂を燃やすようなパフォーマンスをちゃんと見ていたのだった。

「……今さら考えても、仕方ないもんね」

「ここまで来て、逃げ出すわけにもいかないし」

 カズサとヨシミは、やれやれと首を振った。

 それにヤチヨの言う通り、もともと彼女たちは挑戦者。失うものは何もない。

 ならばこそ、自分たちにできる最高のライブを、ただひたむきに、真っ直ぐに演奏するだけだ。

「……精一杯演ろう! みんな!!」

「全くもう……ずっと変わらないよね、かぐやは!」

 かぐやは二本の指を前に突き出した。

 向かいに立つ、ヤチヨもそうする。

 

「全部思い出したんだ、この後どうするか!」

 

 かぐやとヤチヨに倣って、カズサたち四人も指を前に出す。

 十二本の指は六つの頂点を作って、大きな星を形作る。

 かぐやが流れを説明すると、カズサは恥っず、と照れも露わに笑った。

 六人は指をすっと後ろに引いて、両隣に立つ相手と指の頭をくっ付ける。そのまま斜めにした指を互いに差し入れ、交互に指を組んだ。

 最後に、三本の指でキツネの頭を作って、それを輪の中心で口付けするように重ねる。

 かぐやとヤチヨが、彩葉と数えきれないほど繰り返した、仲良しのやつ。

 しかしこのメンバーでは、ファーストライブがそうだったように、仲良しで、大成功のやつにする。

「よーし!! さらにやる気出てきたー!」

 

 心は決まった。

 

 あとは、赴くまま。

 

 

「超シュガーラッシュ?」

「聞いたことないけど……」

 会場を駆け回っているのは、あの日超シュガーラッシュの練習を訪れていた、トリニティの一般生徒たち。

 彼女たちは手分けして学校や会場周辺で、トリに回された超シュガラの宣伝をしていた。

 誰からも強要されたわけではない。

 ただ、自然発生的な行動だった。

 会場のキャパシティからすれば、超シュガーラッシュだけでラストステージの入り込みを埋めるのはかなり厳しいように思われる。

 彼女たちは、自分たちに少しでもできることを考え、実行していたのだった。

 超シュガーラッシュのポストを宣伝し、口コミで周囲に広め、即席のビラを作って、道行く人に配布する。

 熱を持った行動に興味を持ってくれた人もいたが、いかんせん稼働している人数には限界がある。

 それでも、彼女たちは諦めなかった。

 一枚でも多くチケットを売って、一人でも多く、超シュガラのライブに呼び込む。

 ファン活動に全力で打ち込むそれは、紛れもない一つの青春の形で、迸る熱狂の発露だった。

「……どう?」

「悪くないけど……」

 会場内で足を止める人は限られている。

 声をかけても、見向きすらされない時もある。

 それでも、それでも、それでも……。

 

 少女たちは、けして止まらない。

 自分の好きを、絶対に否定しないために。

 

「私にも……一枚、いただけますか?」

 

 だから、奇跡はきっと起きる。

 その生徒は、ビラを取る立ち居振る舞いまで優雅だった。

 

「ナギサ、様……」

 

 思わぬ人物の登場に、唖然として、生徒の手から離れたビラを、空中で掴み取った髪の長い少女。

 

「まあ……私たちも、出来る限りイブキを楽しませたいですからね」

 

 宣伝、お手伝いしますよ、みなさん。

 万魔殿の名に賭けて。

 

 ナギサとイロハは共犯者じみた視線を交わす。

 ーー配信よりは、生で観た方がいいに決まっていますからね。

 

 

 

 

「うわわ……」

 

 観客がーー多い!!

 袖から覗き込んだ超シュガーラッシュの六人は、動揺を隠しきれない。

 超シュガラのステージ前は、主催者の想定を遥かに超える入り込みを見せていた。

 物販は当然完売。

 キヴォトス三大校の二つ、トリニティとゲヘナの生徒会のサポートが入ったのだから、それも当然だった。

 フェスというのは面白いもので、ステージに人が増えると、興味を惹かれた観客がさらに続いて会場入りしてくる。

 正の連鎖が続いた結果、今ではトリニティとゲヘナ以外の生徒や観客も、大勢がステージの始まりを待っていた。

 トリのメリットが、最大限に発揮された形だ。たとえ知らないバンドでも、最後を任されたからには観客も期待してくる。

 当て擦りのように回された順番であっても、歌唱力と技術の担保がなければ、そもそも選ばれることすらないのだ。

 

 かぐやたちの持ち曲は三曲。

 シュガーラッシュのオリジナルの『彩りキャンバス』、初音ミクのカバー『メルト、』、そして新曲の『ココログラデーション』。

 三曲目は、ファーストライブの披露時に弦が切れるトラブルがあった曲だった。

 ヨシミ、カズサは入念に楽器の弦をチェックしている。スタッフの厚意で、予備のベースとギターも借りることができた。

 

 本当に怖いのは、失敗ではない。

 

「みんな! 楽しもう!」

「かぐや……みんな! 最高のライブに!」

「私たち、全力で行くよ!」

「今だけは遠慮なんてしないで……!」

「私たちの、本気を出す時だ」

「みんなならーー絶対大丈夫! ヤッチョが保証します! 楽しんできて!」

 

 本当に怖いのは、恐れること。

 未知に飛び込もうとするその勇気が、挑戦する心が、萎れてしまうこと。

 

(でもーーこの五人なら、絶対上手く行くよ!)

 

 ヤチヨは舞台の袖で手を振って、ステージに駆け出す五人を満面の笑顔で送り出した。

 観客の大歓声が、眩いばかりのスポットライトが、刺激の洪水となって、フェス会場を包んだ。

 ライトが五人の服を映し出す。

 いつもと同じで、ちょっとだけ違う、おろしたてのライブTシャツ。

 

 『超シュガーラッシュ』のライブが、始まる。

 

 

 

「次の曲は〜……ココログラデーション! 会場のみんな! 応援頼むよ〜!!」

 

 一曲目、二曲目とアップテンポな二曲は大いに盛り上がった。

 集団で参加しているトリニティとゲヘナのオーディエンスのパワーは演者に届く力強いものがあり、五人は何度も彼女たちに感謝の気持ちを込めて、視線を送った。

 打って変わって三曲目は、少ししっとりしたテンポの曲だ。

 リスクを考えると、土壇場で構成を変える判断はできなかった。

 それにこの曲ならトリに相応しい、しっかりと聴衆の心に染み入る曲になってくれるだろう。

 キーボードのイントロが始まり、カズサとヨシミがメロディを作っていく。

 額から汗を流したかぐやがボーカルを乗せると、観客から静かなざわめきが起きた。

 初聞きの聴衆からすれば、元気MCかつパワーボイスのかぐやが曲調を変えたことで、意外に感じられたのだろう。

 ここまでブレない、ナツの安定感も大したものだった。

 ドラムはバンドの屋台骨ーーその飄々とした性格で、三曲通して大崩れしないのが、ナツの強みだった。

 捉えどころのない性格で、カズサやヨシミとは衝突も多かったが、ナツはバンドにおける自分の役割をよくわかっていた。

 ベースを器用にこなすカズサとドラマを淡々と刻む仕事人のナツが、シュガーラッシュのライブパフォーマンスを縁の下から支えていたと言ってもいい。

 

 間奏に入ると、かぐやのMCが始まった。

 今度はコードを途切れさせない。

 ヨシミの気迫のギターピッキングが始まる。

 ヨシミはどちらかと言えば努力型だ。

 彼女は誰にも言わないでいたが、前回のライブで弦が切れたことを一番気にしていた。

 だから、みんなに隠れて必死に練習した。

 後悔を残さないように、足を引っ張らないように、爪をぼろぼろに痛めながらも、練習をやめなかった。

 そんな彼女が、ここぞの大一番で失敗するはずがない。

 曲の合間に設けられたギターソロパートを乗り切って、ヨシミは会心の笑顔を浮かべた。

 

 アイリのソロパート。彼女は、本来控えめな性格だった。

 しかし、バンドで演奏している時だけはそれが鳴りをひそめ、大胆な振る舞いを見せる。

 アイリは自分を変えたいと願っていた。

 言葉にできない、自分だけの何かをずっと探していた。

 

 それでいい、それがいい。

 そのために、私はーー挑戦する!

 

 彼女にあるのは、挑戦する心。

 現状を俯瞰して、やりたいことを見つけ出す強い想い。

 彼女がいなければシュガーラッシュも、超シュガーラッシュも生まれることはなかった。

 ヨシミと同じように、ソロを笑顔で弾き切る。

 観客が気付かないほどのミスはあった。

 しかしそれも、またこれからアイリが一つ一つ成長するための因子にすぎない。

 彼女はそれを、喜んだ。

 

 ボーカルがかぐやとカズサに戻ってくる。

 パワーボイスのかぐやと、ハスキーボイスのカズサ。

 鼓膜を揺らす二人のシンクロした歌声は、超満員の観客を次々に虜にしていく。

 

 かぐやの視界から、最前列に、『ファン』が見えた。

 

 両手を組んで、祈るように、けれどずっと目は、ステージの上から離さない。

 

 それは、ただの無名の一生徒だったのかもしれない。

 しかし、かぐやも、カズサも、他のメンバーも、全部知っていた。

 SNSで宣伝する彼女たちを、会場を駆けずり回る彼女たちを、トリニティとゲヘナが集う奇跡を起こした彼女たちの活躍を、ちゃんと見ていた。

 ステージに立つかぐやたちの背中を押したのは、今ここにいる全員だった。

 誰でもない、少女たちが作り上げた青春の群像だった。

 

 余韻を残して、曲のアウトロが終わる。

 かぐやが高々と右手を上げた。

 耳をつんざく、津波のような轟音が彼女たちを包み込む。

 

「ありがとー!! みんな!! 本当にありがとー!!」

 

 かぐやたちは何度も観客に頭を下げて、ステージを後にしようとしてーーそのコールは、必然的に発生した。

 

『アンコール! アンコール!!』

 

『アンコール!! アンコール!!!』

 

 観客が叫ぶアンコールの大合唱に、五人は顔を見合わせる。

 もう、超シュガーラッシュの持ち曲は、ない。

 大トリだからこそ許される、本当に最後の一曲。

 かぐやたちは舞台袖で大いに慌てた。

「そうだ! アンコール……ど、どうしよう?!」

「どうしようたって……同じ曲やるしかなくない?」

「急だったし、用意するなんて……」

 

「みんな、お困りかにゃ〜?」

 そこに、ライブTシャツを着たヤチヨが現れた。手にはシンセサイザーを持っている。

 かぐやは丸く目を見開いた。

 ヤチヨが何をしようとしているのか、見当もつかないが、彼女は大変なことを考えている。

 

「ノンノン、せっかくのラストがそれじゃあ、つまらないでしょ!」

 

 ヤチヨが指を鳴らすと、会場のライトが落ち、薄暗さが辺りを包む。

 舞台袖には、観客の甲高いざわめきが聞こえてくる。

「最高のエンディング、目指しちゃおっ! 月見ヤチヨにお任せあ〜れ〜!」

 ヤチヨは小さなヤチヨを何体も作り出し、それぞれがカズサ、ヨシミ、アイリ、ナツの頭上に乗る。

「私たち、ヤチヨの曲なんて知らないよーー?!」

 困惑するカズサたちに、ヤチヨは悪戯っぽく微笑みかけた。

 

「ぜ〜んぶ大丈夫! 『ヤチヨインストール』!!」

 

 ヤチヨがそう言ったかと思うと、分身のヤチヨたちが消失し、カズサたちの脳内にヤチヨの記憶、そして手業が流れ込んできた。

 たった今まで知らなかったはずのコードが、メロディが、フレーズが、手に取るようにカズサたちの頭に浮かんでくる。

「な、何これーー?」

 ヨシミは突然の出来事に動揺している。他の三人も同様のようだ。

「ちょーっとだけ、ヤチヨがみんなにインチキしたんだ。チートじゃないよ。これは、私からのお礼だよ!」

 

 ーーさっ、観客のみんなが待ってる。

 

 かぐやはヤチヨの選んだ曲がわかった。

 いつか、彩葉とヤチヨとかぐやの三人で演じた、あの曲。

 ステージ前面のモニターに映されていた超シュガーラッシュのロゴが、七色に煌めき、書き換えられる。

 

『Ex-SUGAR RUSH!!』

 

 緑色のレーザービームが会場を乱舞し、アンコールに沸く客席の期待をさらに盛り上げていく。

 暗いままのステージに登場したのは、ヤチヨを含めて六人。ヤチヨの担当は先程から手に抱えていたシンセサイザーだ。

 六人は目配せして、頷いた。

 泣いても笑っても、これが本当にラストの一曲。

 

「アンコール!! 最後まで、全力で着いてきて〜〜!! 『Ex-Otogibanashi』!!」

 

 かぐやたちの瞳孔に、光が灯る。

 EXの二文字が浮かび上がる。

 大歓声が響き渡った。

 

 圧倒的で絶対的で、無敵な超青春のライブが始まる。

 

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