TALES OF THE ABYSS Re:Birth 作:ばっしー171
失ってから気づいた
そして——もう一度歩き出す
風が、低く鳴っている。
足元に広がるのは、かつて人が生きていた大地——ホド。
すべてが奪われ、すべてが始まった場所。
「……ここから、見えるのね」
世界は、救われた。
預言に縛られない未来。誰かに決められるのではなく、自分で選ぶ世界。
それは確かに、望んだ形だった。
それでも——
「……なのに」
そこに、彼はいない。
「……ルーク」
名前は風に溶ける。
約束は確かにあった。それでも、その先は誰にも分からない。
残された課題は山積みだ。
レプリカたちの居場所、向き合うべき現実。
それでも世界は前に進んでいる。
それでも。
「……これで、よかったなんて」
言えない。
彼は選んだ。
皆が自由に生きる世界を。
なら、自分は。
「……未練なんて」
息が詰まる。
「ないわけじゃない」
静かに認める。
「……あの人がいない世界に」
慣れることなど、できるはずがない。
それでも世界は進む。止まることはない。
分かっている。
「……でも、もし」
声がわずかに震える。
「救える可能性があるなら」
その瞬間、風が止まる。音が消える。
世界が、わずかに歪む。
「……誰」
振り向く。
そこにいるのは、ルークに似ている何か。
けれど、違う。
似ているのか、似せられているのか。判別がつかない。
思考がほどける。
声だけが、響く。
「可能性は、残っている」
理解より先に、身体が応じる。
「……まだ……」
言葉が崩れる。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
もし、もう一度会えたなら。
今はこんなにも、伝えたいことがあるのに。
ありがとう。
ごめん。
よかった。
どれも、足りない。
「……ルーク」
名前だけが、残る。
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息を吸う。
違う。空気が違う。
視界が低い。身体が軽い。
「……ここは……」
見覚えのある街。
まだ何も始まっていない時間。
「……ユリアシティ……」
理解する。戻っている。
兄の思惑も、何も知らなかった頃へ。
「……可能性が、残されているのね」
拳を握る。小さな手。幼い身体。
それでも。
「なら……今度は、私が」
選び直せる。
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足音が、やけに軽い。
身体は小さく、視界は低い。
違和感は消えない。
それでも足は止まらない。
向かう先は分かっている。
そこに、いる。
理由はない。だが確信だけがある。
市長室の扉の前で足が止まる。息を整える。
まだ何も始まっていない。だから、間に合う。
手をかける。開ける。
そこに、いた。
小さな背中。赤い髪。
振り向く。
「……え?」
目が合う。
「だれ……?」
その声、その顔、その存在。
間違いない。
「……ルーク」
声が震える。
抑えきれないものが、喉を押し上げる。
彼は戸惑ったまま、こちらを見る。
「なんで、名前……」
踏み出す。止まらない。
「……っ、ルーク」
抱きしめる。
「え、ちょっ……!?」
小さく、軽く、温かい。
確かに、生きている。
「く、苦しいって……!」
現実に引き戻される。
「あ……ごめん」
腕を緩める。距離を取る。
「……ほんとに、だれ?」
言いかけて、止まる。今はまだ違う。
「……ティア」
「ティア……?」
頷く。
何も知らない目。何も背負っていない顔。
ここから、始まる。
「……よろしくね、ルーク」
「……変なやつだな」
それでも、少し笑う。
その笑顔を見て、確信する。
間に合う。
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朝。
「……起きて」
低くはない。強くもない。
それでも、逃げ場のない声音。
「……あとちょっと」
「あとちょっとで日が落ちるの?」
「そんなわけねーだろ……」
もぞもぞと起き上がる。寝癖が跳ねている。
「……じっとして」
手が伸びる。無駄のない動きで整える。
「……なんだよ」
「整えただけ」
「……母さんかよ」
指が一瞬止まる。すぐに離す。
「違う」
短く言う。それ以上は続けない。
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食卓。
簡素だが整っている。
「ちゃんと食べてる?」
「食ってるって」
「ちゃんと」
言いながらも、ルークの手は止まらない。
空腹に素直で、最後まで残さない。
ティアは向かいに座り、黙って見ている。
皿を少しだけ寄せる。取りやすい位置に。
ルークは気づかない。気づかないまま食べる。
その様子を、少し離れて見ている人物がいる。
テオドーロ・グランツ。
腕を組み、静かに観察している。
言葉は挟まない。
やがて、わずかに口元が緩む。
姉弟のようだ。
血の繋がりはない。
それでも、無理のない距離がそこにある。
干渉しすぎず、放っておきすぎない。
その均衡が形になっている。
テオドーロは何も言わない。
ただ、そのまま見ていた。
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昼。
市場へ出る。
「持てる?」
「余裕」
袋を受け取る。最初は軽い。
歩くうちに、腕が下がる。
「重いなら言って」
「言わねえ」
「意地を張らないで」
「張ってねえって」
それでも、歩ききる。
玄関で袋を置いたとき、わずかに息が上がる。
「……水」
差し出す。
「……サンキュ」
一気に飲む。喉が鳴る。
「次は分ける」
「最初からそうしろよ……」
文句を言いながら、笑う。
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洗い物。
水が跳ねる。
「流す前に、残りを落とす」
「めんどくせえ」
「あとが楽になる」
「今がめんどいんだよ」
そう言いながらも手は動く。
順番が少しずつ整う。
「いい」
一言だけ落とす。
「それ、褒めてんの?」
「事実よ」
「……ふーん」
口元が少しだけ緩む。
外。
空き地。
「ここでは、これだけ」
木の枝を渡す。
「剣じゃねえのかよ」
「まず、持ち方」
構えを作る。
力は入れない。
「振るのは三回だけ」
「少なっ」
「少なくていい」
一振り。
二振り。
三振り。
「終わり」
「マジで?」
「マジ」
「意味あんの?」
「ある」
短い会話。
それ以上は増やさない。
自衛に足りる形だけを残す。
それ以上は、今は要らない。
夕方。
屋根の上。
風が通る。
「……なあ」
「何」
「ここに、いつまでいんの」
軽い調子。だが、芯がある。
「必要な間」
「それっていつだよ」
「分からない」
曖昧な答え。
「……なんだよそれ」
「事実よ」
沈黙。
「……外、行っていい?」
一瞬だけ言葉が止まる。
それでも。
「……いいわ」
短く許可する。
「日が落ちる前に戻ること」
「分かった」
軽く手を振って出ていく。
扉が閉まる。
止めない。止めないと決めている。
それでいい。
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季節が巡る。
暑さが過ぎ、風が変わる。
寒さが差し、また緩む。
一年。
木の枝から剣に代わり、剣の振り方も変わるようになってきた。立ち方が変わり、目も変わった。
「……」
ティアは見ている。何も言わない。
だが、分かっている。
間に合っている。
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ある日、空気が変わる。
「来い」
低い声。
扉の向こうに、ヴァンが立っている。
「……ルーク」
名を呼ばれる。
「しばらく預ける」
短い。
「は?」
「必要だからだ」
それだけ。
ルークは不満を浮かべる。
だが、拒絶はしない。
この一年で学んでいる。
流れに逆らっても意味がないことを。
「……どこに」
「行けば分かる」
曖昧な返答。
ヴァンは背を向ける。
「来い」
命令。
ルークは一瞬だけ、ティアを見る。
「……じゃあな」
軽い調子。だが、完全に軽くはない。
「……ええ」
短く返す。
それ以上は言わない。
ルークは歩き出す。振り返らない。
扉が閉まる。
静かになる。
止めない。止めないと決めている。
「……行きなさい」
声は届かない。それでもいい。
「……大丈夫」
言葉は小さい。だが、確かだった。
視線を逸らさない。最後まで、見送る。
物語は、もう一度動き出す。
大昔に考えていたものを改めて形にしていこうかと思い執筆しはじめました。ティア逆行が主題ではありますが、ルークの成長が主な話となります。アッシュ(オリジナルルークはファブレ公爵家に帰還済み)