TALES OF THE ABYSS Re:Birth 作:ばっしー171
導師イオン急逝。
その報せは、本部に重い沈黙を落とした。
誰も大声を出さない。
誰も走らない。
誰もが何かを失った顔をしているくせに、誰も本気で悲しんではいないようにルークには見えた。
形式だけの沈痛。
整えられた哀悼。
綺麗すぎる空気だった。
腹が立った。
訓練場へ向かう。
木剣を取る。
振るう。
振るう。
振るう。
打ち込みが荒いと叱責されても止めなかった。
「死体みてえな顔してるぞ」
背後から声。
振り向くと、リグレットが腕を組んで立っていた。
「うるせえ」
「口の利き方」
「今さらだろ」
リグレットは少しだけ目を細める。
「……泣かなかったのね」
「泣く理由ねえ」
即答した。
だが、声は少し掠れていた。
リグレットはそれ以上追及しない。
代わりに紙を一枚投げて寄越す。
「次の配属よ」
ルークは受け取り、目を通す。
そこに書かれていた名を見て、眉をひそめた。
「……ラルゴ?」
「ええ」
「何であんただめなんだよ」
「教師冥利に尽きる言葉ね」
棒読みだった。
「私は基礎担当。ここから先は別の人材が向いている」
「知らねえよ」
紙を握り潰す。
「行きたくねえ」
「行きなさい」
「嫌だ」
「却下」
反射的に顔をしかめる。
聞き慣れた言葉だった。
リグレットは少しだけ笑った。
「戦場を学びなさい、ルーク」
「もう戦ってる」
「遊びの範囲でね」
その一言だけ、やけに冷たかった。
翌朝。
指定された訓練区画は、本部外れの石造倉庫だった。
人気がない。
兵士たちも近寄らない。
扉を開ける。
中には、一人の男がいた。
大きかった。
最初に目へ入るのは、それだけだった。
岩のような肩。
柱のような腕。
ただ立っているだけで空間が狭く見える。
髭面の奥の目だけが、妙に静かだった。
男はルークを見る。
それだけで、ルークは本能的に一歩下がりそうになった。
踏みとどまる。
「……あんたがラルゴか」
男は頷いた。
「ルークか」
低い声だった。
床が震えた気さえした。
「そうだよ」
「細いな」
「喧嘩売ってんのか」
「事実だ」
会話が終わった。
ルークは待つ。
説明を。
訓練内容を。
予定を。
何もない。
ラルゴは壁際の武器棚へ歩き、木剣を一本投げて寄越した。
受け取る。
「で?」
「来い」
次の瞬間だった。
視界が揺れた。
気づけば床へ転がっていた。
息が詰まる。
何をされたのか分からない。
ラルゴは同じ位置に立っている。
「……は?」
「遅い」
「何が!」
「全部だ」
ルークは飛び起き、木剣を握り直す。
踏み込む。
速さには自信があった。
リグレットにも褒められていた。
横薙ぎ。
避けられる。
突き。
受け流される。
足払い。
逆に崩される。
また床へ転がった。
「くそっ!」
三度。
四度。
五度。
そのたびに転がされた。
汗だくになった頃、ラルゴが初めて近づいてくる。
「お前は速い」
「知ってる」
「軽い」
「……」
「怒ると前しか見えん」
返せなかった。
全部当たっていた。
「戦場では死ぬ型だ」
その言葉だけ、やけに重かった。
昼。
休憩と言われ、水だけ渡された。
パンもない。
肉もない。
「飯は?」
「帰って食え」
「ここまで来るの遠いんだよ!」
「鍛えられる」
「ふざけんな!」
ラルゴは相手にしない。
座ったまま武器の手入れを始める。
無骨な手つきだった。
だが無駄がない。
ルークは舌打ちしながら水を飲んだ。
「……あんたさ」
「何だ」
「何でこんなとこいるんだ」
少し沈黙。
「必要だからだ」
「答えになってねえ」
「十分だ」
会話が切れる。
イオンならもう少し話した。
リグレットなら皮肉が返ってくる。
この男は違う。
言葉を使わない。
午後。
今度は荷物を背負わされた。
砂袋だった。
重い。
しかも二つ。
「走れ」
「は?」
「山道三周」
「訓練じゃねえのかよ!」
「訓練だ」
ルークは罵声を吐きながら走った。
一周目で息が上がる。
二周目で脚が鈍る。
三周目の途中で転んだ。
起き上がろうとした時、目の前に影が落ちる。
ラルゴだった。
「立て」
「……無理だ」
「戦場でそう言うのか」
ルークは歯を食いしばる。
膝が笑う。
肺が痛い。
それでも立った。
ラルゴはそれ以上何も言わない。
ただ先へ歩く。
追え、ということだった。
夕方。
ようやく終わった頃には、全身が鉛のようだった。
「殺す気か……」
「まだ死なん」
「死ぬわ!」
「なら弱い」
ルークは石を投げた。
避けられた。
「元気だな」
「うるせえ!」
帰り道。
珍しくラルゴが隣を歩いた。
夕焼けが巨体を赤く染める。
「何でイオン様のとこから俺なんだよ」
ぽつりと漏れた本音だった。
ラルゴは少しだけ考える。
「考える顔を覚えた」
「は?」
「前は噛みつく顔しかなかった」
「誰のせいだ」
「次は、生き残る顔を覚える」
ルークは黙った。
意味は分からない。
だが、少しだけ背筋が冷えた。
数日後。
訓練はさらに過酷になった。
重い荷を背負って移動。
狭所での組み伏せ。
複数相手の逃げ方。
暗所での気配察知。
剣技より、泥臭いものばかりだった。
「こんなの騎士の訓練じゃねえ」
ルークが吐き捨てる。
ラルゴは短く答える。
「騎士は飾りだ」
「……は?」
「死ぬ時は皆同じだ」
その言葉が妙に残った。
ある日。
倉庫裏で若い兵士数人がルークを笑っていた。
「総長のお気に入り」
「今度は大男の玩具か」
「子供は楽でいいな」
ルークは木剣を抜きかける。
その前に影が落ちた。
ラルゴだった。
兵士たちは一瞬で青ざめる。
「何か問題か」
低い声。
誰も答えない。
「ないなら失せろ」
蜘蛛の子を散らすように去っていく。
ルークは呆然と見ていた。
「……あんた、庇ったのか」
「違う」
ラルゴは歩き出す。
「うるさかった」
それだけだった。
だが、その背中は妙に大きかった。
夜。
宿舎の寝台で、ルークは天井を見る。
イオンの笑顔。
リグレットの銃声。
ラルゴの背中。
次々と浮かぶ。
気づけば、自分は誰かに育てられている。
その事実が少し癪で、少しだけ心強かった。
翌朝。
倉庫へ入るなり、ラルゴが言った。
「明日から外へ出る」
「外?」
「任務同行だ」
ルークは目を見開く。
「実戦か」
「見学だ」
「つまんねえ」
「生きて帰れたら文句を言え」
低い声だった。
その瞬間、胸の奥で何かが鳴った。
---
遊びは終わる。
そう理解した翌朝は、空気の味まで違って感じた。
まだ夜明け前だった。
本部の外門前には荷車が二台、武装した兵士が六人、そしてラルゴが立っていた。
冬の朝靄の中でも、その巨体だけははっきり見える。
「遅い」
開口一番、それだった。
「まだ時間前だろ」
「来るなら先に来い」
「意味分かんねえ」
「分からなくていい。覚えろ」
ルークは舌打ちした。
眠い。
寒い。
腹も減っている。
それでも胸の奥だけは妙に熱かった。
初任務。
見学だろうと何だろうと、訓練場の外へ出る。
それだけで血が騒いでいた。
目的地は本部から半日ほど離れた山道だった。
街道を通る商隊が、近頃何度も襲われている。
相手は野盗崩れ。
統率も装備も甘いが、数だけはいる。
「討伐じゃなく護衛だ」
道中、ラルゴが言う。
「逃げる奴を追うな。荷を守れ」
「倒した方が早いだろ」
「子供の発想だ」
「うるせえ」
「敵を倒して荷を失えば負けだ」
ルークは黙る。
イオンの言葉に少し似ていた。
守るべきものを見失うな、という理屈。
山道へ入る頃には日が昇っていた。
荷車の車輪音。
馬の鼻息。
兵士たちの短い会話。
全てが張り詰めて聞こえる。
ルークは木剣ではなく、初めて実剣を腰に下げていた。
重い。
だが心地よい重さだった。
「抜くなよ」
ラルゴが前を見たまま言う。
「何でだよ」
「抜きたがる顔をしている」
図星だった。
しばらく進んだところで、鳥が一斉に飛び立った。
次の瞬間。
矢が飛ぶ。
一本が荷車の板へ突き刺さる。
「伏せろ!」
兵士の怒号。
左右の林から男たちが飛び出してくる。
粗末な剣。斧。棒。
目だけが飢えていた。
ルークの身体は先に動いた。
剣へ手がかかる。
だが、その手首を掴まれる。
ラルゴだった。
「見る」
「離せ!」
「見るんだ」
低い声が胸へ落ちる。
ラルゴはそのまま前へ出た。
一人目の斧を、踏み込みだけで間合い外へずらす。
返しの拳で顎を砕く。
二人目の剣を腕で受け流し、腹へ膝。
三人目の肩を掴み、後ろの男へ投げつける。
無駄がない。
派手でもない。
ただ、圧倒的だった。
兵士たちも応戦する。
短い怒号。
金属音。
馬のいななき。
混乱は十分も続かなかった。
野盗たちは散り散りに逃げた。
「追うな!」
ラルゴの声が飛ぶ。
数人の兵士が足を止める。
ルークだけが止まれなかった。
逃げる背中が見えた。
勝てる。
そう思った。
走る。
林へ飛び込む。
一人の野盗が振り返る。
若い男だった。
痩せている。
怯えた目をしていた。
ルークは剣を抜く。
男も短剣を構える。
「どけ!」
叫びと同時に突っ込んだ。
浅い一閃。
男の腕が裂ける。
悲鳴。
その声に、ルークの足が止まる。
訓練では聞かなかった音だった。
男は涙目で短剣を振るう。
滅茶苦茶な動き。
避けきれず、頬が切れる。
熱い。
反射的に、二撃目を振った。
首筋へ入った。
男が崩れる。
血が地面へ広がる。
音が消えた。
風の音だけが残る。
ルークは剣を落とした。
手が震える。
「……は」
呼吸が浅い。
目の前の男は動かない。
さっきまで生きていた。
怒鳴っていた。
怯えていた。
それが、もう何もない。
胃がひっくり返った。
その場で吐いた。
背後で枝が鳴る。
ラルゴだった。
何も言わず、倒れた男を見る。
次に、吐き続けるルークを見る。
「……追うなって言ったろ」
責める声ではなかった。
ルークは返せない。
喉が焼ける。
涙まで出た。
「俺……」
言葉が続かない。
「殺した」
ラルゴは頷きもしない。
否定もしない。
ただ、近くの木へ寄りかかる。
「そうだ」
短い肯定だけだった。
ルークは地面を睨む。
「こんなの……」
「綺麗だと思っていたか」
返事はない。
「思ってなくても、初めてはこうなる」
ラルゴは水袋を投げて寄越した。
口をすすぐ。
手がまだ震えている。
「吐いたら終わりか」
「……え?」
「次に立てるかどうかだ」
ルークは顔を上げる。
ラルゴは遠くを見ていた。
「吐くのはまともだ」
低い声だった。
「何も感じん方が壊れている」
その言葉は、救いにも呪いにも聞こえた。
荷車のもとへ戻ると、兵士たちは何も聞かなかった。
頬の傷だけ見て、包帯を投げてくる者がいた。
「初陣でそれなら上等だ」
茶化すように笑う。
ルークは笑えなかった。
帰路。
荷車の揺れが気持ち悪い。
目を閉じれば、あの男の目が浮かぶ。
若かった。
自分と大差なかった。
腹が減っていたのかもしれない。
誰かを養っていたのかもしれない。
知らない。
知らないまま斬った。
「考えすぎるな」
隣のラルゴが言う。
「無理だ」
「なら考えろ」
「どっちだよ」
「次に同じことをする時、少しでも間違えんためだ」
ルークは黙った。
夜、本部へ戻る。
寝台へ倒れ込む。
眠れない。
剣を振る感触。
肉を裂く手応え。
喉の奥の吐き気。
全部残っている。
扉が叩かれた。
ティアだった。
「顔色、最悪ね」
「うるせえ」
彼女は黙って椅子へ座る。
少しして、水差しを置いた。
「……死んだ?」
ルークは答えなかった。
沈黙が答えだった。
ティアは目を伏せる。
未来で知っているルークは、もっと慣れた顔をしていた。
だが今は違う。
まだ、壊れていない。
「眠れないなら、眠らなくていい」
「は?」
「その代わり、明日も起きなさい」
イオンに似た言い方だと、ルークは思った。
腹が立った。
少しだけ、楽にもなった。
翌朝。
また夜明け前。
門前にラルゴが立っている。
「来い」
「……今日もか」
「今日からだ」
ルークは顔をしかめる。
昨日までが前座だったとでも言うような声だった。
「お前、吐いたな」
「……だから何だ」
「良かった」
ルークは目を見開く。
ラルゴはそれ以上言わない。
ただ背を向け、歩き出す。
その背中を追いながら、ルークは少しだけ呼吸がしやすくなっていることに気づいた。
まだ終わっていない。
終われない。
そういう場所へ来てしまったのだと理解した。
---
訓練は続く。
任務も続く。
昨日一人斬ったからといって、今日の敵が消えるわけではない。
吐いたから終わりでもない。
眠れなかったから休みでもない。
それが戦場だった。
ラルゴの同行任務は増えていった。
商隊護衛。
山道偵察。
物資搬送。
掃討後の残敵確認。
どれも地味で、泥臭く、英雄譚から遠いものばかりだった。
「つまらねえ」
最初にそう言った時、ラルゴは鼻を鳴らした。
「生き残る仕事は大体つまらん」
「派手に勝つ方がいいだろ」
「派手に死ぬぞ」
返す言葉がなかった。
数週間後。
山間の補給路で任務があった。
小規模な荷車一台。
護衛兵三人。
ルークとラルゴ。
相手は盗賊崩れ数名との情報だった。
甘い仕事に見えた。
だがラルゴは出発前から機嫌が悪い。
「何だよ」
「少なすぎる」
「何が」
「情報も荷も敵もだ」
意味が分からなかった。
山道へ入って一刻ほど。
先導の兵士が叫ぶ。
「倒木!」
道を塞ぐ丸太。
荷車が止まる。
その瞬間だった。
左右の斜面から石が落ちる。
後方から矢。
前方から男たちが飛び出した。
伏兵。
しかも想定より多い。
「散るな!」
ラルゴの怒号が響く。
兵士二人が慌てて荷車の陰へ入る。
一人は矢を肩へ受け倒れた。
ルークは剣を抜く。
今度は迷わなかった。
正面から来た男の踏み込みを外し、膝裏を斬る。
崩れたところへ柄頭を打ち込む。
倒れる。
次。
横から斧。
受けるには重い。
半歩退いて避け、腹へ蹴り。
息が止まった男の顎へ追撃。
動かなくなる。
「後ろ!」
兵士の叫び。
振り向く。
矢が飛ぶ。
間に合わない。
その瞬間、巨体が割り込んだ。
ラルゴの腕へ矢が刺さる。
構わずそのまま射手へ突っ込み、岩のような拳で沈める。
「余所を見るな」
低い声だった。
「……悪い」
「後で言え」
戦闘は短く終わった。
敵は散り、二人逃げた。
追うか迷った兵士へ、ルークが叫ぶ。
「行くな! 荷車守れ!」
兵士が一瞬戸惑う。
だが従った。
ラルゴがこちらを見る。
何も言わない。
ただ、一度だけ頷いた。
それだけで胸が熱くなった。
帰路。
矢傷の手当てを受けながら、ラルゴは平然としていた。
「痛くねえのか」
「痛い」
「顔に出せよ」
「意味がない」
「可愛げねえな」
「お前に言われたくない」
少しだけ、笑った気がした。
その夜。
ルークは一人、倉庫で木剣を振っていた。
以前と違う。
速さだけでは足りない。
怒りだけでも足りない。
見ること。
守ること。
退くこと。
それらが少しずつ身体へ入っていく。
扉が軋む。
ラルゴだった。
「まだやるのか」
「寝れねえ」
「なら振れ」
短い答え。
隣へ立つ。
巨体が同じ型をゆっくりなぞる。
「肩に力が入っている」
「うるせえ」
「肘が浮く」
「細かいな」
「死ぬぞ」
結局、最後はそこへ戻る。
数日後。
若い兵士たちとの模擬戦が組まれた。
以前なら年上に押されていた相手だ。
開始の合図。
一人目の突進を捌く。
二人目の横撃を利用して一人目へぶつける。
三人目の足元を払う。
終わり。
兵士たちは呆然とした。
ルーク自身も少し驚いた。
「今の……」
「見えるようになったな」
壁際のラルゴが言う。
「前は自分しか見えていなかった」
「褒めてんのか?」
「半分」
「半端だな」
「まだ半端だからだ」
悔しいが、否定できなかった。
冬の終わりが近づく頃。
ヴァンから呼び出しがあった。
総長室。
相変わらず整いすぎた部屋だった。
「成長したようだな」
ヴァンは穏やかに笑う。
「別に」
「ラルゴも評価している」
ルークは少しだけ目を見開いた。
あの男が、そんなことを口にするとは思えなかった。
「次の配属を決めた」
嫌な予感がした。
「研究区画へ回れ」
「……は?」
「ディストの下につける」
即座に顔をしかめる。
「嫌だ」
「即答だな」
「変人じゃねえかあいつ」
「学べることは多い」
「ラルゴでいいだろ」
ヴァンは少し笑う。
「珍しいな」
「何が」
「人に残れと言うのは」
言葉に詰まった。
違う。
そういう意味じゃない。
ただ。
まだ終わっていない気がした。
総長室を出ると、廊下にラルゴが立っていた。
聞いていたらしい。
「嫌そうな顔だな」
「当たり前だ」
「行け」
「即答すんな」
「学べるうちに学べ」
「またそれかよ」
ラルゴは壁にもたれたまま、低く言う。
「剣だけでは足りん」
イオンの言葉がよぎる。
世界を学べ。
守る理屈を学べ。
今度は別の方向から同じことを言われている気がした。
「……あんたは」
少し迷い、口を開く。
「何で俺に構うんだ」
ラルゴはしばらく黙った。
やがて短く答える。
「似ている」
「誰に」
さらに沈黙。
「昔の馬鹿にだ」
意味は分からない。
だが、それ以上聞く気にはなれなかった。
別れの日。
倉庫の前には誰もいない。
見送りなど、この男らしくないと思っていた。
扉を開ける。
中でラルゴが武器の手入れをしていた。
「来たか」
「来たよ」
「遅い」
「最後までそれか」
ラルゴは棚から短剣を一本取り出し、投げて寄越す。
受け取る。
重心の良い、実用一本だった。
「護身だ」
「剣あるだろ」
「寝る時も持て」
「物騒だな」
「世界がな」
ルークは鼻を鳴らす。
「……世話になった」
言った瞬間、自分で驚いた。
ラルゴも少しだけ目を細める。
「聞こえん」
「二度と言うか!」
「そうか」
それで終わりだった。
倉庫を出る。
数歩進む。
背後から声が飛ぶ。
「ルーク」
振り返る。
ラルゴが立っていた。
夕日を背に、相変わらず山のようだった。
「死ぬな」
たった三文字だった。
だが、今までのどの長い説教より重かった。
ルークは口元を歪める。
「そっちこそ」
歩き出す。
もう振り返らなかった。
一年目で立つことを学んだ。
二年目で、人の上に立つ者の重さと世界の歪みを知った。
三年目で、血の温度と生き残る術を知った。
そして次に待つのは。
狂気と才覚の年。
4/20改訂
譜銃について
音素の力を弾丸のように撃ち出す武器
通常の火薬銃ではなく、譜術技術と銃器を組み合わせた兵装。
ジアビス世界では万物が音素で構成されています。
譜銃はその音素を制御し、圧縮、指向性を持たせる、射出することで攻撃に使用。
リグレットのレイジレーザー等、音素を取り込むことで効果、属性が変わるためルークでも同様なことができないか模索中。
超振動を銃で打ち出せたらやばいのでは(ロマン)