午前9時45分。校長室から出た俺はまたもや道に迷っていた。
「あれ〜?こっちだったっけ?」
「はい。そっちで合ってますよ」
「うわぁ!?」
「どうされましたか?」
声のする方を振り向いてみるとそこには昨日お茶を運んでくれた金髪の女の子がいた。
「えっと……確か……」
「遊佐です」
「そうそう、遊佐さんだったね。名前思い出せなくてごめん」
「いえ、これから覚えて頂ければ結構ですよ」
寛容な子だ。
「ところで篠宮さん、道に迷っていませんか?」
そうだ、俺は道に迷っている最中だった。
「うん。迷ってるよ」
「私が案内しましょうか?」
「本当!?ありがとう!」
「それではついてきて下さい」
むぅ……。無表情だな……。人形みたいというかなんというか……。やっぱり過去に何かあったのだろうか?それとも生まれつきだろうか?……いや、人の過去を模索するもんじゃないな。
「私の顔に何か?」
しまった。顔を見ながら考えていたら気づかれてしまった。……まあ気づくわな。
さて、なんて返事をすればいいのか……。
「いや、別に何でもないよ」
「そうですか」
これを最後に会話が止まった。こちらとしてはとても気まずいのだが、遊佐は全く気にしている様子はない。なるほど、沈黙に耐えられる子なのか。
最後の会話から5分後、遊佐の口が開いた。
「こちらです」
どうやら練習教室に着いたようだ。しかし、なぜか中から楽器の音は聞こえない。まあいいか。
「ありがとうね、遊佐さん」
「いえいえ、それでは頑張ってください」
そう言うと遊佐さんはどこかへ行ってしまった。次の仕事に向かったのだろうか。まあ今はどうでもいいことだ。
「よし」
そう意気込んで教室のドアに手をかける。
「ごめん!遅くなった!」
遅れることは伝えてあるが、一応謝っておく。謝るや否や、関根がいきなり近づいてきた。
「篠宮先輩!こっちです!こっち!」
いきなりなんだ?
「実は今岩沢先輩から篠宮先輩について説明して貰ってたんですよ」
俺の説明?っていうか俺は新しいおもちゃかなにかか。
「俺の説明って?」
「太一がガルデモに入りやすくなる為に太一の説明をしていたんだ」
「具体的にどんな?」
「篠宮先輩の昔話ですよ!」
関根がテンション高く答える。
「岩沢が川に流された時に篠宮が助けた話とかさ」
「あ〜、小学生の頃か」
「覚えてるのか?」
「そりゃあ覚えてるさ。雅美が死ぬんじゃないかと思って本当に焦ったよ」
「あの時はありがとな」
「ははっ、どういたしまして」
少し懐かしい気持ちになっていると、関根が横から口を挟んできた。
「はいは〜い!次は岩沢先輩の話を聞きたいで〜す!」
「わ、私の話!?」
「だって篠宮先輩の話、結構聞いたじゃないですか。岩沢先輩の話もしないと不公平ですよね?篠宮先輩?」
関根がキラキラした目で見てくる。
「うん、そうだな」
「ねっ!ですよね!」
関根、テンションMAX。
「た、太一〜……」
雅美、テンションDOWN。
「それで?どんな話を聞かせてくれるんだ?」
なんだかんだで興味津々なひさ子。
「出来るなら二人でどこかに出掛けた話とか聞きたいですね〜」
結構具体的な注文をしてくる入江。
「出掛けた話……出掛けた話ねぇ……」
なんかあったっけ。有ったような……無かったような……。
「あ!思い出した。二人で花火を見に行った話とかどう?」
「は、花火!?いいですね〜!」
「ん〜!なんか甘酸っぱそうですね!」
「ほう、岩沢もそういうの見に行くんだな」
三人とも食い付いた。雅美は少し顔を赤くしながら下を向いている。
「確かあれは中3の時だったね。二人で花火を見に行こうって計画を立ててたんだ。でも俺って避けられてたじゃん?だから屋台とか出てたり人が集まったりするところはやめて二人っきりになれるところに行こうっていう話になったんだ」
「二人っきりにですか!?」
「ちょっとしおりん、話の途中だよ!」
「だって二人っきりだよ!?二人っきりで花火だよ!?」
「まあまあ落ち着けって関根。それで?続きは?」
「うん、続けるよ。まず二人っきりになれる場所を考えたんだよね。別に自分の部屋でもよかったんだけどそれじゃあ味気ないってことで山に登って頂上から見ようってなったんだ。山って言ってもそこまで高い山じゃなくて標高250mくらいの小さい山」
それからしばらく話していると雅美が顔を真っ赤にしながら止めに入ってきた。
「た、太一!もういいだろ?」
「いや良くねえよ。これからクライマックスなんじゃねえか」
「そうですよ!ひさ子先輩の言う通りですよ!」
「邪魔しないでくださいよ!」
入江、邪魔ってちょっとトゲがあるぞ。
「だって……もう恥ずかしくて……」
雅美の頭から湯気が出そうになっている。
「それで、花火が始まったら岩沢先輩はどうなったんですか?」
「え?ああ、えっと……。確か寝ちゃったんだよ」
「え?」
「寝ちゃった?」
みんなが呆気にとられた表情になる。特に雅美だ。
「そ、寝ちゃった。仕方ないからそのままおぶって家まで送ったよ」
「な〜んだ。そんなに恥ずかしがること無いじゃないですか」
「ちぇっ!つまんねー結末だな」
「た、太一」
雅美が何かを言いたそうだがアイコンタクトを送って黙らせる。
雅美が何か言いたそうなのには理由がある。実はこの時雅美は寝ていないのだ。二人で花火を見た後帰ろうとすると、いきなり後ろから抱きついてきて「今日はありがとう。よければまた来年も行こう」と言ってきた。流石にそのエピソードは雅美も話されるのが嫌だろう。だから寝たことにして全部無かったことにした。
アイコンタクトを送られた雅美は話に深入りさせないように練習を始めようとしていた。
「もういいだろ?それより太一も来たことだし練習しようぜ」
「え〜?」
「もうちょっと話を聞きたいっていうかなんていうか……」
「それは明日以降。今日は練習だ」
雅美がそう言うと渋々ではあるが関根と入江が従った。ひさ子に関してはもうギターのセットが完了している。
「さ、始めようか」
「ちょ、ちょっと待ってください!いま急ピッチでチューニングしますから!」
「なんだよ関根。まだチューニングしてなかったのか?」
「だって花火の話最後はあれでしたけど途中まですごい面白かったんですもん!なんですか!昼間二人で川に入って水を掛け合うとか!カップルですか!恋人ですか!」
こ、恋人!?俺と雅美が!?そ、それは嬉しいけど…………なんて言うか………雅美の気持ちが………。
「どうした篠宮、顔赤いぞ」
「え?い、いや!なんでもないよ!」
「そうか?ならいいんだけど」
危ない危ない。こんなの気づかれて雅美に知られたら今までの関係が崩れてしまう。それだけは避けたい。
その後は真面目に練習をしてお昼を食べてあっという間に3時40分になった。もうすぐギルド降下作戦が始まる時刻だ。