岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第十話「関根に始まり関根に終わる」

雅美とひさ子の告白から一週間、二人は以前より積極的になったように思える。

 

例えば練習の合間の休憩時間には飲みかけのペットボトルを渡してきたり妙に体を密接させてきたり、食事の時にはあーんとかしてきたり……。

 

関根と入江はそんな俺たちの様子を見てキャーキャー言ってる。もちろん関根も入江も雅美とひさ子が告白したのは知っている。なんせみんなの前で告白したのだから、そりゃあ噂は瞬く間に広がるさ。

 

ちなみに今はガルデモメンバーでまた雅美の部屋に集まっている。なんでも今度のライブの打ち合わせをするらしいのだが……。

 

 

「はいは〜い!岩沢先輩は篠宮先輩のどこに惚れたんですか?」

 

 

とまあ関根主催ただの雑談会になっているのだ。

 

 

「んー、特にどことかはないな。私は太一の全てが好きだ」

 

 

よくもまあそんな恥ずかしいセリフをスラスラと……。

 

 

「ひさ子先輩はー?」

 

「なっ!?私も言うのかよ!?」

 

「私もひさ子先輩の聞きたいですね〜」

 

「入江まで……」 

 

「ひさ子、言うしか無いみたいだぞ?」

 

「うぅ……」

 

 

ひさ子が頬を赤くしている。こりゃあ珍しい。

 

 

「も、元々良い男だとは思っていたけど……」

 

「思っていたけど?」

 

「ギルドのとき私を助けてくれただろ?あの時抱きしめられて……その……すごい安心したんだよ……」

 

「ひさ子先輩も乙女チックですねぇ〜」

 

 

にやけながらひさ子を見る関根にどこか落ち着かないひさ子。珍しい組み合わせだね。

 

 

「それじゃあ最後に篠宮先輩!どっちのほうが好きなんですか!?」

 

「うえぇ!?」

 

「太一!どっちなんだ!」

 

「篠宮!」

 

「ちょ、ちょっと!二人とも近い!」

 

 

二人がグイッと顔を近づけて迫ってくる。どちらの顔を見ても期待のこもった目で見てくるのでたちが悪い。

 

 

「はぁ……どっちかなんて選べないよ……」

 

 

そう、これが本心だ。雅美は雅美で良いところがあるし、ひさ子もひさ子でいいもころがある。それに二人とも飛び切り美人だ。見た目で判断するのは良くないとは思うが、そこだって一種の重要なポイントだろう。

 

 

「じゃあ岩沢先輩とひさ子先輩で対決してみたらどうですか?」

 

「対決?」

 

「対決って……まさか殴り合うのか!?私とひさ子で!?」

 

「ち、違いますよ!そんな物騒なことさせるわけないじゃないですか!」

 

 

雅美さん、そんなあなたたちの姿は見たくないです。

 

 

関根からの提案をまとめてみるとこういう事になる。

 

雅美とひさ子でそれぞれ一日ずつ俺の彼女となり生活してもらう。そして両者との生活が終わった時点でどちらのほうが彼女として相応しいか俺に決めてもらう、というものだ。

 

 

「順番はどうするんですか?」

 

 

入江の一言に二人ともハッとする。この場合後にやったほうが前の者を見て学習できるし、印象にも残りやすい。後攻の方が断然有利だ。

 

 

「私は昔からの付き合いもあるし先でいいよ」

 

「おっ?岩沢先輩強気ですね〜」

 

「当たり前だ。何年一緒だと思ってるんだ」

 

「幼馴染っていうのは大きいですね〜」

 

「だろ?だからひさ子が後でいいよ」

 

「畜生……舐めやがって……いいだろう!私に有利にしたのを後悔させてやる!」

 

 

まあそんなこんなで決まった。公平性を保つために今日はこれで解散、明日になるまで俺との接触を断ち切ることになった。

 

それはそれで寂しいんだが……。

 

 

「はーい、それじゃあ太一、また明日な」

 

「ほ、本当にやるのか?」

 

「ここまで決めたんだから当たり前だろ。あ、部屋は507で良かったよな?」

 

「合ってるけどさ……」

 

 

あ、ギルドから帰った日にちゃんと日向に俺の部屋を教えてもらいました。はい。もうホームレスじゃないですよ?

 

 

「じゃあまた明日。楽しみにしてるからな!」

 

 

そう言われながら半ば強引に部屋から追い出された。集まれって言ったり出て行けって言ったり……。振り回されっぱなしだなぁ。

 

 

「先輩、ここからは私と行動してもらいますよ!」

 

「ん?ああ、関根?なんでお前と?」

 

「公平性を保つためです!」

 

 

一緒に部屋を出てきたらしい。全く気づかなかった……。

 

 

「それじゃあ先輩、まずはご飯でも食べに行きましょうか?」

 

「ああ、まあ確かに腹は減ってるけど……」

 

「じゃあ行きましょ!ほら!早くぅ〜」

 

「わかったから手引っ張るなって!」

 

 

 

 

 

 

食堂。

 

 

「せんぱ〜い、どれにしますか?私もうお腹ペコペコで〜」

 

「まあまあそう急かすなって。どれにしようかな〜?」

 

 

俺がどれにしようか悩んでいると

 

 

「えいっ!」

 

「あっ!なにすんだよ!」

 

 

勝手に押しやがった……。そして出てきた食券を見てみると……。

 

 

「麻婆豆腐?」

 

「あちゃ〜…先輩すみません……」

 

「え?」

 

「それ、辛すぎて誰も注文しないメニューなんですよ……」

 

「ほ〜う?」

 

「だから先輩、私がお金払いますんで選び直しても……」

 

「いや、いいよ。これ食べてみる。そんなの聞いたら興味出てきたよ」

 

「無理しなくても……」

 

「いいんだって」

 

 

関根の頭を撫でてやる。

 

 

「ううぅ……」

 

「俺が食べたいから食べる。いい?」

 

「は…はい……」

 

 

下を向きながらもじもじしている。これもまた珍しい。

 

 

「さ、行こっか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「辛っ!辛い辛いっ!水水水!」

 

「せ、先輩!水です!」

 

「んっ…んっ…んっ…ぷはぁ……」

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「はぁ…はぁ…正直舐めてた…」

 

 

ここの麻婆豆腐を目にした瞬間これはやばいと俺の本能が警告したが、案の定やばかった。

 

口に入れた途端に全身が火傷をしたかのような衝撃が走り、数秒間息ができなくなる。こんな危険なもの普通に売るなよ!

 

と、さっきまで思っていたが、だんだんと後味が良くなってくる。

 

 

「あれ……?美味い……?」

 

「え〜……?」

 

 

おい関根、こいつ頭おかしくなったんじゃねーのって言う目で見るな。

 

 

「いやマジだって!後味スッゲー美味いんだって!」

 

「ほんとですか〜?」

 

「疑うなら食べてみろって!」

 

 

俺はスプーンの上に麻婆豆腐を乗せて関根の口の前に差し出す。

 

 

「あの〜…篠宮先輩?これは俗に言うあ〜んってやつですか?それに関節キス……」

 

「あ、悪い」

 

 

異性と関節キスなんて誰だって嫌だろう。

 

そう思ってスプーンを戻そうとすると。

 

 

「あ、いえいえ!いいですよ!頂きます!」

 

 

そのままパクっと一口。別に気にしない人なのかな?

 

 

「ひゃぁ〜〜!!辛い!辛い!」

 

「はい、水」

 

「んぐ…んぐ…んぐ…ぷはぁ……」

 

「どう?」

 

「辛いですよ!」

 

 

そりゃあそうだ。

 

 

「あれ…?でも……」

 

「な?」

 

「はい……後味が凄く良いです……先輩、もう一口!」

 

 

まさかのおかわり。ま、食欲が旺盛なのはいいことだよ。

 

 

「はい、一口」

 

「あ〜ん♪」

 

 

上機嫌でまた一口。

 

 

「やっぱり辛い!ヒィ〜!」

 

 

この子はアホなのかな?

 

 

「でも美味しい!」

 

「良かったな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

その後は無事に食事を終え、今は二人で屋上にいる。

 

 

「良い天気ですね〜」

 

「そうだな」

 

「こんな日は昼寝したくなりますね〜」

 

 

あくびをしながら背伸びをする。なんか猫みたいだ。

 

 

「じゃあ寝る?」

 

「いえいえ、先輩もいるので寝るわけには…ふぁ〜あ……」

 

 

またあくび。

 

 

「ちょっとだけでも寝なよ。ほら、あそこにベンチあるし」

 

「うぅ〜……じゃあ……少しだけ……」

 

 

ベンチへ移動。

 

 

「おー、ここは一際日があたって気持ちいいな」

 

「はい〜そうですね〜……ふぁ〜あ……」

 

 

もう目がトロンとしてる。

 

 

「先輩ごめんなさ〜い……。そしておやすみなさ〜い♪」

 

 

ドサッと俺の膝に倒れてきた。いわゆる膝枕という体制だ。

 

やられた時はビックリして退かそうと思ったが、関根の気持ち良さそうな寝顔を見ているとそれもできなくなる。

 

というか男のひざなんかに頭乗っけて気持ちいいか?

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

もう寝息立ててるし……。まあいいか。幸せそうだし起きるまでこのままにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

関根が寝てから30分、異変が起きた。

 

 

「うっく……ひぐっ……」

 

「関根!?」

 

 

突然泣き始めた。

 

 

「ひっく……ズズズっ……ゲホゲホ!」

 

「だ、大丈夫か!?関根!」

 

「せ、先輩……?」

 

「関根!どうしたんだ!」

 

「うぇ〜ん!せんぱ〜い!」

 

「うおっ!?」

 

 

泣きながら抱きついてくるなんて……相当なことがあったに違いない。

 

 

「うぇ〜ん!」

 

 

いやうぇ〜んって。随分幼い泣き方を……。でもまあ本当に泣いてるんだし、とりあえず落ち着かせなきゃ。

 

 

「関根、大丈夫。大丈夫だから」

 

 

関根の背中に手を回し、背中を擦る。

 

 

「ううう……せん…ぱい……ぐすっ」

 

「どうした?何があったんだ?」

 

「先輩が……先輩が〜!」

 

「俺がどうしたんだ?」

 

「先輩が成仏しちゃった〜!」

 

 

ん!?

 

 

「ちょ、ちょっと待て、関根。俺は成仏なんかしてないぞ」

 

「へっ?」

 

「ほら、お前が抱きついてるの」

 

「………せんぱ〜い!」

 

「おわっ!?」

 

 

俺を確認すると更に泣き出した。なんなんだよもう……。

 

関根が泣き止んだのは5分後のことだった。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「はい……すみません……」

 

「どんな夢を見たんだ?」

 

「先輩が成仏する夢です……」

 

 

さっき言ってたね。

 

 

「私先輩がいなくなるなんて……悲しくて悲しくて……」

 

 

また涙目になる。

 

 

「……私、岩沢先輩とひさ子先輩が篠宮先輩に惚れた理由が分かった気がします」

 

「え?」

 

「先輩……凄く優しいんですもん……。ますます好きになっちゃいました」

 

「好き……って?」

 

「私も岩沢先輩とひさ子先輩と同じように篠宮先輩が大好きなんですよ!」

 

「………いつから?」

 

「初めて見た時からです。一目惚れってやつですよ」

 

「………」

 

「でも先輩には岩沢先輩がいるって分かってましたから……。それに、ひさ子先輩まで……」

 

 

こんなに寂しそうな顔の関根は初めて見る。

 

 

「だから先輩のことは諦めて忘れようとしなのに……どんどん好きになっていくんですよ……!」

 

「………」

 

「今日だって私に優しくしてくれて……本当に大好きです」

 

「関根……」

 

「岩沢先輩とひさ子先輩がいるのは分かってます。でもそれを承知の上で言わせて下さい。篠宮先輩、私と付き合って下さい」

 

 

驚いた。関根が俺に告白をしてくるなんて思ってもみなかったからだ。

 

でも関根の言った通りまだ雅美とひさ子の件もある。

 

 

「………ごめん関根。今は答えられない」

 

「分かってますよ。今を逃したらずっと言えない気がして言っただけです」

 

「言っただけって……」

 

「いいんです。今日は私の気持ちを伝えられただけで太鼓判なんです」

 

 

関根はどこか満足げな顔をする。

 

 

「だから先輩、明日明後日のデートの後、私ともデートして貰いますからねっ!」

 

「あ、ああ……」

 

「それじゃあ公平性を保つために私も自分の部屋に帰ります。また明日お会いしましょう!」

 

 

そう言い残すと関根は走って屋上から出ていった。

 

残された俺は……

 

 

「関根もか……」

 

 

そうぽつりとつぶやいて空を見るしか無かった。




まさかの関根回でした。
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