ところ変わって俺の部屋。
「さてと、どこから話そうか……」
俺とひさ子はテーブルを挟んで向かい合わせに座っている。
自分から聞きたいと言っておいてあれだが、やはり人の過去を聞くというのは少し緊張する。
だから、自然と正座になってしまう。
「……別に正座になって真面目に聞く必要はないんだぞ?」
「あ、いや、雰囲気的にというか……」
「ま、いいんだけどさ。それより話、始めるぞ?」
そう言ってひさ子は自分の過去について話し始めた。
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――――――
―――
私は幼い頃に両親を失った。原因は交通事故。
別に両親を失ったことはどうだっていい。むしろ私にとっては嬉しいことだ。
父親はアル中で頻繁に暴れまわり、母親は「躾」と称して私に暴力を振るった。
そんな両親から開放されるとなると喜ばずにはいられなかった。
しかし、問題もあった。
このとき私はまだ5歳。当然大人が一緒にいないと生活などできないのだ。
両親の葬式の後、集まった親戚で今後私をどうするかという話し合いが行われた。
なんせあんな二人に育てられた子どもだ。まともに育っているはずがない、と親戚たちは思っていたようで、私を引き取ろうとする人は中々現れない。
そんな中で唯一私を引き取ると言ってくれた人物がいた。
遠い親戚のおじさんだった。
おじさんに引き取られてから、私の人生は大きく変わった。
両親とは違って暴れなければ暴力も振らない。
これだけでも十分なのに、更に私に優しく接してくれる。
もう私にとっては幸せすぎる日々へと変わった。
きちんと洗ってあるきれいな服、何もしなくても出てくる食事、そして静かで清潔な家。
何もかもが十分すぎる程だった。
そんな日々を過ごしていたある日……。
「おじさん、何してるの?」
「ん?ギターのお手入れだよ」
「ギター?」
「ほら、これ」
「わ〜……」
「こうやって弦を弾くと音が出るんだ」
ジャーン
「すごーい!」
「ひさ子ちゃんはこういうのに興味があるのかい?」
「うん!」
「はっはっはっ、じゃあちょっとやってみようか」
このことをきっかけに私はギターを始めた。
おじさんも共通の趣味を持ってくれたのが嬉しかったのか毎日私にギターを教えてくれた。
そんな幸せな日々を過ごし始めてから3年、変化は突然起きた。
私が学校から帰ってくるとおじさんが倒れていたのだ。
原因はクモ膜下出血。私はすぐに救急車を呼んだが手遅れだった。医師も最善を尽くしてくれたが、搬送先の病院で死亡が確認された。
その後、おじさんの葬式も終わり、私がおじさんの死の悲しみに明け暮れる中、私を引き取ると言ってくれた人物がいた。
一見すると優しそうな遠い親戚のお兄さんだった。
親族からの信頼も厚いらしく、すぐにそのお兄さんとの共同生活が始まった。
初めは優しかったけど、1週間ほど経ったある日、そいつが突然変わった。
暴力を振るうようになったのだ。
調べたところによると、そいつは覚せい剤をやっていて、どうやらそれが切れたようだった。
私は怖くなってそいつの親戚に相談したが、「あの人がそんなことするはずがない」と言われ、終いには私が変人扱いされたさ。
それから地獄のような毎日が続いた。
覚せい剤が切れる度に思いっきり殴られ、蹴られ、体中が痣だらけになった。
そいつもこのまま学校に行かれるとバレると思ったのか、私を部屋の中に監禁しやがった。
毎日毎日狭い部屋の中に一人閉じ込められ、食事もまともに与えられず、風呂に入るのも週に一回程度。トイレ以外はその部屋を出して貰うことは許してもらえなかった。
そんな中で私を支えてくれたのがおじさんの形見のギターだった。
毎日ずっと部屋で練習していたから、皮肉なことにギターの腕だけは着々と上達していった。
そんな日々を過ごし、私は中学生の年齢になった。
その頃になると流石にもう諦めがついていたね。ああ、私はここで死ぬんだって。
そんな時に一つの光が差し込んできたんだ。
家に警察がやってきた。
別に私を助けに来たわけじゃない。そいつが覚せい剤を持っているのがバレたから家宅捜索に来ただけだ。
それでも私は嬉しかった。この生活からやっと開放されるんだって。
警察に保護された私は孤児院に入れられた。
私の学力は小学校低学年で止まっていたので、まず独学で小学生の勉強を始めなければならなかった。
しかし、私にとってそんなことは大した問題ではない。
勉強をしている方があの生活よりも数百倍マシだと思えば勉強が楽しくて仕方がなかった。
高校に入るまでには同年代の奴らと同じくらい、いや、少し高いくらいの学力を習得したさ。
私はそこそこの高校に入り、新聞配達、コンビニの店員等のバイト、そしてたまに路上ライブをしながら生活費を稼ぎ、生活を送っていた。
しかし、ここでも問題が起きた。
どっかの誰かが私の過去について聞き出したのか、私が小、中とまともに学校に行っていないことを噂し始めたんだ。
あるものは私を避け、あるものは汚物を見るような視線を送ってきて、またあるものは私をいじめの対象にした。
別に前の2つはどうだってよかった。問題なのはいじめの対象になったということだ。
そのいじめというのも陰湿なもので、財布から金を取られるだの、教科書を捨てられるだののそういう類のものだった。
自分で生活費を稼いでる身としては金のありがたみが物凄くよくわかる。
私はなんとしても許せなかった。
先生に相談したが、学校の評価を気にしているのか相手にしてくれず、終いには「お前の勘違いだろう」とまで言われた。
これを機に私は学校を退学した。
あんなクソみたいな奴らとクソみたいな教師に金をむしり取られてたまるもんか。
ここからは岩沢と被るところがあるんだけど、私も路上ライブを本格的にやりながらレコード会社のオーディションとかを受けまくった。
初めは中々結果は振るわなかったものの、徐々に知名度が上がっていき、少しずつではあるが希望の光が見えてきた。
しかし、18歳になったある日、事件は起きた。
路上ライブをやっている最中に変な男から声をかけられた。
見るからに陰湿そうで、いかにもヤバいやつ。
話を聞くと、いわゆる「性交渉」というやつだった。
もちろん断ったさ。でも、相手もしつこくてね。
何度も何度も断っている内に相手が見るからに苛立っているのが分かった。
本能的にヤバいと判断し、ギターを持って逃げたが、もう手遅れだった。
奴の隠し持っていた出刃包丁によって私は腕と頭を刺された。
そこからのことはよく覚えていない。
気づけば病院で横になっていた。
幸いにも傷は浅く、手術をすれば命に別状はないとのこと。
しかし、血液が足りていない。医者は急いで輸血の準備をしていたようだ。
思い返せばこの輸血がいけなかった。この輸血で大きなミスが起こった。
医者が私の血液型を間違えていたのだ。
普通はありえない医療ミス。なのに私の時は起きてしまった。
そしてそのまま私は死んだ。
死因は不適合輸血による血液凝固のショック死。
こうして私は夢を掴みかけた一歩手前で全てを失った。
―――――――――
――――――
―――
「と、まあこれが私の過去だ」
「……凄い人生だったんだね……」
「まあここに来てる奴らはみんな酷い人生を送ってきてる奴らだからな。別に私だけじゃねーよ」
ひさ子は努めて明るく言うが、目が笑っていない。
それもそうだろう。あんな辛い人生を思い出したんだ。
未だに引きずっている所はあるに違いない。
余計な迷惑かもしれないが、少しでも楽になってもらいたい。
「……よく頑張ったね」
「え……?」
そう言って俺はひさ子を抱きしめる。
「よく頑張ったよ、ひさ子は」
「え…ちょ、おい、なに篠宮が泣いてるんだよ……」
そりゃあ、あんな話を聴けば涙くらい出るだろう。
「辛かったよね……辛かったよね……」
俺は更に力を込めて抱きしめる。
すると……。
「…………ああ、辛かったさ……なんであの時おじさん死んじゃったんだろう……」
ひさ子の声が震え始めた。
「なんで私を置いて行っちゃったんだろう……なんで……なんであんな野郎に閉じ止められて……なんで……なんで……」
おじさんを思い出し、ひさ子は本格的に泣き始めた。
「ぐすっ……う…うう……ひっく……」
普段のひさ子からは想像も出来ない姿。
大粒の涙をこぼしながら俺に思いっきり抱きついてくる。
俺はそんなひさ子の背中を優しくさする。
そして5分後。
「落ち着いた?」
「ああ……」
ひさ子の涙がようやく止まった。
「なんか……暗い空気になっちまったな」
「………」
俺は何も言うことが出来ない。
この俺よりも壮絶な人生を送りながらも明るく振る舞い続けた少女に、なんと声をかけて良いのかわからないのだ。
過去を聞きたいと言ったのは俺だ。その俺が何も言えないなんて情けない話だ。
「……でも、こんな人生だったおかげで篠宮に出会えたんだよな……そう考えるとこれで良かったのかもな……」
「ひさ子……」
「なーに暗い顔してんだよ。はい、この空気はここでお終い!切り替えるぞ」
パンパンと手を叩きながら強引に空気を変えるひさ子。
表情を見るといつも通りのひさ子に戻っているようだ。
多少気が引けるものの、俺自身もこの空気を引きずるのは嫌だったので、ひさ子の提案に乗ることにした。
しかし、切り替えると言っても現在時刻は午後3時。
何かをするにも中途半端な時間だ。
「……切り替えるのは良いけど、なにするの?」
「何しようかねぇ……」
またもや無の時間。
生前の世界なら借りてきたDVDだのを見て過ごす時間なんだろうが、生憎この世界にそんなものはない。
どうしようか悩んだ挙句、出した答えは……。
「俺はまたギター教えて欲しいかな〜って…」
「ダメだ」
「え〜……」
「絶対に抜かれたくない」
一蹴されてしまった。
「じゃあどうするのさ」
「私は今度はなんか篠宮から教わりたいな」
「俺から?何を?」
「何をって……得意なもんでいいよ」
得意なもの……得意なもの……なんかあったかな。
「ほら、歌とか」
「あれは俺自身どうやって歌ってるとか意識したこと無いから教えられないよ」
「そうなのか……」
少し残念そうだ。
「なにか教えられるものかぁ……」
「篠宮って何が趣味だったんだ?」
「趣味……趣味ねぇ……」
強いて言えば動物と触れ合うことくらいだろうか。
動物だけは俺を避けずに心を癒やしてくれる。
しかし、本能的に怯えているのか、どの動物も慣れ始めは足が震えていた。
でも時間が経つにつれ、無害だと分かってくれるのか、懐いてくるのだ。
今頃あいつらはなにしてるだろう……。
「し、篠宮?」
思考が脱線していた俺はひさ子の呼びかけで元に戻った。
「ん……?ああ、ごめんごめん、ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔のことって……大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、思い出したのは悪い思い出じゃないから」
「そうか……ならいいんだけど。んで、趣味は思い浮かんだのか?」
「思い浮かんだけど……この世界じゃちょっと出来ないことなんだよね」
「なんだよそれ」
「動物と触れ合うこと」
「へえ……確かにこの世界じゃできないな……」
やっぱり無理よね。
他のことを考え始めた時、ひさ子がなにかを思いついた。
「でも、似たようなことならさせてやれるぜ?」
「え?」
なんだろうあの笑顔。なにか悪いことでも考えてなければいいんだけど。
「ちょっと待ってろ。すぐ戻るから」
「な、何しに行くの?」
「ヒ・ミ・ツ♡」
そう言うとひさ子は俺の部屋を出てどこかへ行ってしまった。
5分後、ドアが開いた。
ひさ子が帰ってきたのだろう。そう思い玄関まで出向くと、そこには俺の想像を超える光景があった。
「篠宮、ただいまだにゃん♪」
俺、フリーズ。
ちょっと待て。なんだこれ。
今目の前にいるのは紛れもなくひさ子だ。しかし、猫耳としっぽが付いている。
はて……彼女はこの短時間でなにか悪いものでも食べたんじゃないか。それともどこかに頭をぶつけたんじゃないか。
どう考えてもおかしい。俺の知っているひさ子はこんなことする奴じゃない。
猫耳としっぽを付けた挙句に語尾に「にゃん」だと?
この世界に来てから五本の指に入るくらいの衝撃だ。
あ、パラレルワールドか?俺はパラレルワールドっていうやつに来ちゃったのか?参ったな〜、どうやれば帰れるんだろ?
と、色々考えていると。
「どうしたんだにゃ?早く入れてほしいにゃ!」
ああ、ひさ子さん、色々破壊力抜群です。
私はとりあえず説明を求めたいです。
「ま、まあ……とりあえず入って……」
「お邪魔しますにゃ♪」
ひさ子をソファーに座らせ、事情聴取開始。
「とりあえずひさ子、その格好とその喋り方はなに?」
「篠宮が動物と触れ合うのが好きって聞いたからちょっとでもそれに近づけようと思っているんだにゃ」
「キツくない?」
「…………………正直キツい」
手で顔を覆うひさ子。
やっぱりそうですよね。キツいですよね。ずっと顔真っ赤ですもの。
確かに可愛いですよ。それを否定する気は一切ありませんよ。
ただ、語尾に「にゃ」をつけるのはどう考えてもひさ子のキャラではない。
「その……無理しなくてもいいんだよ?」
「……わかった。やっぱり慣れないことはするもんじゃねえな」
「えっと……俺が動物と触れ合うのが好きだって聞いて猫耳としっぽを付けてきたんだよね?」
「ああ、そうだ。愛する篠宮の為ならこれくらいのことはやるさ」
さらりと嬉しいやら恥ずかしいやらの情報を伝えてくる。
「そっか……ありがとね」
俺は猫耳を付けた状態のひさ子の頭を撫でる。
すると、気持ち良さそうに頭をスリスリしてきた。
「ちょ…なにしてるの?」
「いや、猫っぽいかなって」
「っぽいけどさ……」
「にゃ〜ん」
( ゚д゚)
「にゃあ?」
( ゚д゚)……?
「にゃ♪」
( ゚д゚)……
「……ちょっとはリアクションしてくれよ」
「……わいい…」
「ん?」
「可愛い〜!」
もう我慢できない。
俺の動物愛護心が思いっきり愛でろと指示を出してくる。
生きていた頃は動物園に行ってライオンだのトラだのとも仲良くしてたじゃないか。それのもっと大人しくなったやつだぞ。
え?ライオンだのトラだのと直に触れ合ったのかって?
もちろんだ。
どうやって触れ合ったのかは秘密だけどな!
と、ここで猫耳ひさ子に目をやると、不思議そうにこちらを見ていた。
撫でまくってやる。
「ああ〜、よしよし」
「にゃ、にゃ〜?」
「んー!可愛い〜!」
ギューッと抱きしめる。
「し、篠宮……ちょっと苦しい……」
「「にゃあ」でしょ?」
「え……?」
「ひさ子は今猫なんだから」
「……にゃあ」
「あーよしよしよしよし!」
2時間後。
「し、篠宮……そ、そろそろ良いんじゃないか……?」
「え〜……」
「疲れた……」
息を切らしながらぐったりした様子で訴えかけてくるひさ子。
確かに長い時間頑張ってくれたもんな。この続きはまた今度としよう。
「はぁ…はぁ…ちょっと寝ていいか?」
「そんなに疲れた?」
「疲れたさ……あんなムツゴロウさんの超強化バージョンみたいなのを2時間もやられたら……」
確かにちょっとやり過ぎた感は俺にもある。
体中を撫で回すのは当たり前、首の下をこしょこしょしたり、しっぽの付け根を割りと強めに撫でたり。
ライオンとか相手だったらあれでも大丈夫なんだけどなぁ……。
ま、ひさ子は人間だし、それはそうだよね。
「わかった、夕飯の時まで休んでて」
「ありがとう……」
「あ、それとひさ子」
「なに?」
「ありがとうね、俺のためにここまでしてくれて」
そういった瞬間、ひさ子の目が少し見開き、顔がほんのりと赤くなった。
「そう言われたらやりがいがあったってもんだ」
ぼそっと呟く。
「ああ、どういたしまして」
そのままひさ子は眠りに着いた。
さて、問題はここからだ。夕飯までの時間、なにをして過ごそうか。
今寝ると夜に響く。かと言ってすることもない。
部屋にあるものといえば勉強道具、辞書、参考書、食器類、そしてなぜか毎週届く生鮮食品(in冷蔵庫)くらいだ。
生鮮食品でも使って昼飯のお礼になんか料理でもしようか…………ちょっと待て、Good idea。
そうだ、夕飯までの時間で夕飯を作ればいいんだ。そうすればわざわざ外に出る必要もないし、食券を消費する必要もない。
おまけに食堂では食べられないメニューも作れる(かもしれない)。
そうと決まれば早速調理開始だ。
2時間後。
「よし、完成!」
「ん〜……どうしたんだ〜?篠宮〜」
丁度ひさ子も起きた。
と言うか今の声で起きたのかな?
「おはよう、ひさ子」
「おはよ……」
ひさ子は寝起きがあまり強くない方なのだろうか。
まあそんなことはどうでもいい。
「夕飯の準備出来てるからソファーに座って待ってて」
「はいよ〜……ん?」
「どうしたの?」
「夕飯の準備出来てるって、篠宮が作ったのか?」
「うん」
「ほぅ……」
なにやら嬉しそうな笑みをこぼすひさ子。
「楽しみに待ってる」
そう言うと台所を出てソファーに座った。
そして……。
「はーい、お待たせ」
「お、来た来た」
若干食い気味。別に上手いこと言ったとは思ってないっすよ。
「はい、ピザ」
「ピザぁ?」
ひさ子はちょっと予想外だったのか素っ頓狂な声を上げた。
「学食のメニューにもないし、好きかなーって」
「いや確かに好きだけどさ……」
「よかった。食べよ?」
「まあ……いただきます」
「いただきます」
ピザを一切れ手に取り口へ運ぶ。
もぐもぐ。うん、美味い。今回も上手くできたね。
チラッとひさ子の方を見ると。
「………美味い……」
目を真ん丸にしながら驚いていた。
「美味いっ!篠宮!美味い!」
なんだか興奮しているようだ。お気に召して頂いたようでなによりだ。
「そんながっつかなくても大丈夫だよ」
「美味いんだから仕方ないだろ!」
なんか昼飯の時と逆だね。
そして、あっという間にひさ子はピザを平らげた。
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
「昼間料理教わればよかったなー。ってかなんで趣味聞いたとき料理って言わなかったんだよ」
「趣味って言うほどのことじゃないしなーと思って」
「……ちなみにレシピのレパートリーはどんだけあるんだ?」
「う〜ん……細かいのも入れたら400くらいかな?」
親が作らないなんてザラにあったから自ずと料理をするようになったんだよな。うん。
「…………そうだな、趣味(の領域)じゃないな」
「でしょ?」
その後は洗い物と台所の掃除をパパッとやって、あっと言う間に時計は8時半を指していた。
「ふぅ〜、おつかれ」
「篠宮こそおつかれ」
「さて、お風呂に入るか」
「うし、んじゃあ私は帰るかな」
「えっ?」
予想外だった。
てっきり一緒に入るもんだと思って入浴剤入れちまったよ。
「流石に一緒に風呂に入るのは楽しみに取っておくよ」
「楽しみって……」
「なんだよ、篠宮は楽しみじゃないのかよ」
「いや、まぁ………」
男ですから。あとは察してね。
「んじゃまあ、そんなことで私はそろそろ帰るわ。篠宮も疲れてるだろうから早く寝るんだぞ」
「うん、わかった。送っていかなくて大丈夫?」
「大丈夫」
「そっか。おやすみ、ひさ子」
「おやすみ、篠宮」
ひさ子が玄関のドアを閉めようとした瞬間。
「あ、そうだ。忘れてたわ」
「ん?なにか忘れ物?」
チュ
「へっへ〜、あっぶねー。んじゃ、また今度な!」
そう言い残しひさ子は部屋を出ていった。
俺はというと。
「…………」
ただただそこに立ち尽くすしか無かった。
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