3日目朝、俺の部屋はいつもよりも少し騒がしかった。
ゲホっ!ゲホっ!
部屋に鳴り響く咳の音。
その音源である関根を見てみると。
「ゲホっ!ゲホっ!」
完全に風邪を引いていましたとさ。
遡ること30分。
俺は関根の訪問に備えていた。
あの元気一杯な関根のことだ、朝とは思えない程ハイなテンションでやってくるに違いない。
どんなやばいテンションで来ても対処できるようにしておかなければ。
そんなことを考えていると。
ガチャ
ドアが開いた。
さあ、来い!どんなテンションでも受け止めやる!と、意気込んでいたが。
「お邪魔しま〜す……」
俺の予想に反してかなりのローテンションで関根はやってきた。
よく見ると顔色が良くない。
「ど、どうしたの?」
「なんでもないですよ〜……ズズッ」
鼻水も啜ってるし……まさか。
「風邪?」
「ギクぅ!」
わかりやすいなぁ。
「いえいえ!風邪なんて引いてないですよ!ほら!この通り私は元気一杯……」
言い終わる前に足がふらつき、倒れそうになる。
「おっ…と、大丈夫?」
倒れそうになる関根を支えながら声を掛けてみたものの明らかに大丈夫ではない。
支えている腕から伝わってくるのは平熱とは思えない熱い体温。
間違いなく風邪だ。
「だ、大丈夫ですよ〜!今日は先輩とのデートなんですから…へっくょん!」
「関根、今日は諦めて寝たほうがいい」
「そ、そんな〜……」
「またこの埋め合わせはするから、ね?しっかり休んで体調を整えたほうがいいよ」
「で、でも!」
「でもじゃないの…っと」
俺は関根をお姫様だっこする。
「わっ!わっ!わっ!せ、先輩?」
「俺のベッド使っていいから、今日は安静にしなくちゃだめだよ」
そう言いながら関根をベッドに寝かしつける。
「うぅ……すみません……」
そんなこんなで今日は関根の看病をする日となった。
「そういえばなんか朝ごはんは食べた?」
「食欲無くて食べてないです……ズズッ」
普段たくさん食べる関根も流石に風邪を引いた時は食べれないようだ。
「食欲無くてもちょっとは胃にものを入れないと……お粥なら食べれそう?」
「はい……」
食べれそうか……よかった。
「ん、それじゃあちょっと待ってて」
そう言って俺は台所に行き、お粥を作り始めた。
5分後。
「お待たせ」
お粥ができた。
炊いてあったお米を沸騰した鍋の中に入れてそこに溶き卵を入れるだけというシンプルなものだが、まあ風邪の時はこれくらいが丁度いいだろう。
「あ…先輩……ありが…ごほっ!ごほっ!」
「無理して起きなくていいから」
ベッドから出ようとする関根を止める。
「大丈夫です……それより先輩、一つ我儘言っていいですか?」
「なに?」
「その……あーんして欲しいな〜なんて……」
風邪を引いてる時くらい多少の我儘はオッケーだ。
まあ、あーんに関しては風邪を引いてない雅美とひさ子にもやったけど。
しかし、ここで問題発生。
「うん、いいよ。はい、あ〜ん」
「あ〜…あっち!あっ…ゲホっ!ゲホっ!」
うっかり冷まさずに、出来立てのお粥をダイレクトに入れてしまった。
「あ、ごめん!」
そりゃあ出来立てのお粥は熱いさ。
俺は反射的に謝った。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないれす……」
「とりあえず水持ってくるから待ってて!」
「はひ……」
急いで台所まで行き、コップに氷と水を入れる。
「はい、水」
「ありがとうございます…んぐっ」
「本当にごめん……」
今度は反射的でなく、心からの謝罪だ。
「い、いえいえ!これは事故ですから仕方ないですよ!」
風邪を引いていてもやはり関根は関根だ。周りに対する配慮だとかを怠ることはない。
っていうか病人に気を使わせるなんて、俺ダメだな…。
「それより先輩!ふーふーしてからあ〜んしてくだ…ゲホっ!」
「う、うん…ふーふー…はい、あーん」
「あ〜……ん」
今度はしっかり咀嚼をする関根。
「どう?」
「う〜ん……鼻詰まっててわからないです…」
うん、まあ、そうですよね。鼻詰まってたらわかんないっすよね。
「あっ、決して不味い訳じゃないんですよ!ただ何というか……」
「別にいいよ、そりゃあ風邪引けばわからなくなるよ。それよりもう一口、ほら、あーん」
「あ〜……あっち!」
「あっ!ごめん!」
そんなこんなでお粥は食べ終わった。
あの後も何回か関根に熱い思いをさせてしまったのは反省している。
「さてと、片付けも終わったし、ちょっと購買に行って風邪薬とか、あれば体温計とか買ってくるよ。なんか欲しいものある?」
「う〜ん…先輩からの熱いキッスとか…キャーっ!」
顔を赤くしながら手で隠す。
セリフだけ聞いていれば元気そうなんだけどな……。
「それは風邪が治ったらね」
「えっ!?風邪治ったらしてくれるんですか!?やった……ゲホっ!」
デートがまだだから、その時にするという意味だ。
「熱いキッス以外でなんかない?」
「無いです!それだけ貰えるってわかっただけでも十分です!」
「ん、わかった。じゃあ購買行ってくるから、大人しくベッドで横になってるんだよ」
「はーい!」
会話を終えると俺は少し急ぎ足で購買へと向かった。まあ、俺の急ぎ足と言っても普通の人の全力疾走よりも早いのだが。
部屋を出てから1分もしない内に購買に到着した。
流石に体温計無いかな?と内心思っていたが、あった。それに加え、水枕や冷却ジェルシートまでもが売っていた。しかも水枕に関してはもう水を入れて凍らせてある。
どんだけ品揃えがいいんだこの学校。
俺は取り敢えず風邪薬と体温計と水枕と冷却ジェルシートを購入することにした。
ちょっとでも早く良くなって貰いたいからここら辺をケチるということはしないさ。
おばちゃんにお金を払い、すぐ様部屋へと戻った。
「ただいまー」
「早っ!行って帰ってくるだけでも15分はかかりますよ!?」
関根が驚くのも無理はない。部屋を出てからものの5分で帰ってきたのだから。
「まあまあ、それよりほらこれ、水枕」
「え?あ、はい…ありがとうございます…ってか水枕なんて売ってたんですね……」
やっぱりそこは驚くよね。
「ちょっと水持ってくるから待ってて」
「あ、はーい」
薬と水を用意して関根に差し出す。
「んぐ…んぐ…ぷはぁ。はい、ありがとうございます」
「ん、それじゃあ体温を測って」
コップを受け取り体温計を差し出す。
「あ、あの…先輩……」
「ん?」
「少しの間向こう向いててもらえますか…?その…下着とか見えちゃうかもしれないんで…」
「ああ!ごめん!」
俺は即座に回れ右をする。
「すみません…良いって言うまで振り向かないで下さいね」
ピッ…がさがさ…
体温計から電子音が発せられた直後、布の擦れる音がする。あまり想像するのはよろしくないが、恐らく俺の後ろでは少し肌を露出した関根がいる。
振り返りたい。超振り返りたい。だって男だもの。
しかし、そんなことは常識的に考えてしてはいけない。
体温が測られている数分の間、俺はこの葛藤に耐えなければいけないのだ。
体温計さん、早くして下さい。
ピピピピッピピピピッ
何分経っただろうか。ほんの3分くらいなのだろうが、俺にとっては30分くらいに感じた。
やっと関根の体温が測り終わった。
「先輩、ありがとうございました。もう振り向いても大丈夫ですよ」
「ん、何度だった?」
「3は…ごほっ!ごほっ!38度7分です…」
「結構高いね。今日中に熱が下がればいいけど……」
明日はゆりとの約束があるので看病ができない。
まあ、ゆりなら事情を話せば予定を先延ばしさせてくれるだろう。でも今日中に熱が下がったならそれに越したことは無い。
「ま、ゆっくり寝て体を休めるしかないね」
「は〜い……」
「俺もここにいるから、なんかあったら遠慮なく言ってね」
「えっ、先輩ここにずっといるんですか?」
「一応そうする予定だけど……だめ?」
「い、いえ!全然だめじゃないです!むしろ嬉しいですけど……その…暇じゃないかな〜って…」
ああ、そこね。
「別に暇じゃないよ。やること結構溜まっててさ」
「ほ、本当ですか?」
「うん、本当。だから関根も安心して寝てていいから」
「あ、ありがとうございます…」
ガサゴソっと布団の中に潜る関根。熱があるからか、若干顔が赤くなっている。
「それじゃあ先輩、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
その挨拶から5分もしない内に関根はスースーと寝息をたて始めた。
さて、なにをしよう……。
関根にはやることが溜まってると言ったが、あれは関根に気兼ねなく寝て貰うための口実であり、実際はなんにもやることがない。
ひさ子から教わったギターでも練習しようかと思ったがうるさくなるので出来ない。
こういう時は……。
……掃除でもするか。
「よし、こんなもんかな」
関根が寝てから2時間、俺はひたすら部屋を掃除していた。もちろん音を出さないように拭き掃除オンリーだけど。
なんだかんだで3日間くらい掃除できてなかったから、スッキリした。
ついでに洗濯機も回して、洗濯物を干すことが出来たので、この2時間は中々に有意義に使えただろう。
さあて、次はなにを……。
「んん……先輩?」
っと、関根がお目覚めだ。
「どうしたの?」
「いま何時ですか?」
「丁度12時くらいだよ」
「はわわ〜…じゃあ私2時間くらい寝てたんですか……」
「ぐっすり寝てたよ」
今日中に風邪治るんじゃないかっていう勢いでな。
「もうお昼だけど、うどんとかなら食べれそう?」
「あ、はい。少しなら……」
「じゃあ半玉くらい茹でてくるね」
「なにからなにまでありがとうございます……」
「いいんだって。それじゃあ俺台所行くから」
そう言うと俺は関根に背を向け、台所へと入っていった。
うどんを茹でると言っても雅美みたいにあんな本格的にはやらない。
袋に入ったものをお湯で茹でるだけの簡単なものだ。
あとはつゆを作って器に注いで、そこに茹でたうどんと刻んだネギと卵を落としたら完成。
超簡単月見うどんの出来上がり。
出来上がったうどんを関根の元へと運ぶ。
またあ〜んでもしてやろうかと思ったが、関根から丁重にお断りされた。
朝の失敗もあるし、麺類ということで危険性も上がっているからだそうだ。
まあ、俺が関根なら確実に断るな。
半玉しか茹でてないということもあり、すぐに完食した。
その後、何故か話題は俺のことについてとなった。
「先輩って風邪とか引いたりしないんですか?」
「そういえば引いたこと無いなぁ」
「やっぱり免疫力とかも滅茶苦茶なんですかね?」
「多分そうかも。雅美がインフルエンザになったとき付きっきりで看病したけどなんとも無かったし」
24時間体制でマスクもせずに同じ部屋に居たが、本当になんともなかった。
「なんだかちょっと羨ましい気もしますね…」
「羨ましい?俺が?」
「あ、いえ!気に触ったらすみません…。ただ、私は非力だし、今みたいに風邪を引くときだってあるし……。その点先輩は力も強いし健康じゃないですか。ちょっと羨ましいって思う部分もあるかな〜って…」
「別に気にしてないから大丈夫だよ。でも力が強いって言っても限度があるからねぇ。これは明らかに強すぎだよ」
確かに便利な場面も無くはない。
ただ、これのせいで避けられてしまったらその便利さなんて要らないものだ。
「こうなっちゃってからしばらくは苦労したんだよ…。まずものを持とうとしたらなんでも粉々になっちゃうんだよ。茶碗だって箸だって持てないし」
「え?じゃあどうやってご飯食べてたんですか?」
「初めの内は母さんから、少し経ったら雅美から食べさせて貰ってたよ」
多分それが母さんが俺に対して普通に接した最後の時だろうな。
関根はああ〜、と納得した表情を見せた。
「じゃあどうやって物を持てるようになったんですか?」
「初めは公園とかに落ちてる木の枝を箸に見立てて練習してたんだよ」
「岩沢先輩と一緒にですか?」
「そうだな、大体一緒だったね」
そう言えば当時からずっと側にいてくれてたな。
「そんで猛練習を重ねて3ヶ月後には普通に物も持てるし、人と握手をすることもできるようになったんだよ」
「へえ〜……やっぱり先輩にとって岩沢先輩は特別な存在なんですね…。少し悔しいですけど……」
確かに特別と言えば特別だな。幼い頃からずっと一緒だったし、色々お世話になった。
「あ〜あ、私も先輩みたいな幼馴染欲しかったな〜」
「俺みたいな?」
「先輩みたいに格好良くて優しくて頼りになる人なんていくら探しても見つからないですよ」
それは過大評価しすぎじゃないか?
「おまけに家事も卒なくこなして……。賃貸物件で例えたら、東京の都心部で駅から徒歩1分、3LDK、26階のオートロック、プールとジム完備、それで月12000円くらいの超好物件ですよ」
なんで賃貸物件に例えたは分からないが、確かにそれは超好物件だ。
でもそれって事故物件なんじゃ……。
「しかも事故物件じゃないやつです」
それは凄い。
「こんな物件なら1人じゃなくてみんなで住もうってなるじゃないですか」
「いや、意味わかんない」
意味わかんない。
「まあ私も見切り発車で話し始めましたからね」
関根もわかってなかったんかい。
「はいはい、いい感じで落ちたところで薬飲むよ。持ってくるからちょっと待ってて」
「あ、は〜い」
関根の食べ終わった食器を持ち上げ、台所へと運び、コップに水を入れる。
そして薬とともに関根へ手渡す。
「俺は食器とか片付けてるからその間に体温測っておいてね」
「は〜い」
俺は再び台所へと行き、食器を洗い始めた。
と言っても洗う量は少ないからすぐに終わるんだけどね。
食器を洗い終わり、乾燥機に入れてスイッチを押し、関根のいる部屋へ行く。
しかし、この時はまだ関根は体温を測っている途中なわけで……。
「せ、先輩!あっち向いてて下さい!」
「ああ!ごめん!」
一瞬ではあるが、関根の下着を見てしまった。
色?まあ……関根らしい色だったよ。
それから少し経つと。
ピピピピッピピピピッ
測り終わったようだ。
「先輩、もういいですよ」
「ふぅ〜…ごめんごめん、忘れてた」
「その…見えました?私の下着……」
「え、え〜っと…その……」
「そうやって誤魔化すってことは見えたんですね?」
はい。ご名答です。
コクリと頷く。
「はぁ…まあ事故ですからいいです」
「ごめん…」
「気にしないで下さい。それより体温言いますよ?」
「な、何度だった?」
「37度9分です」
朝より下がったな。
とはいえどもまだまだ熱はある。
「先輩の看病のお陰で熱が下がりまし…ゲホっ!」
「まだまだ安静にしなくちゃね。冷却ジェルシート買ってきたから貼るよ?」
「あ、そんなものまで。ありがとうございます」
ピタっと関根のおでこに貼り付ける。
「んん〜!気持ちいい〜!」
「水枕冷やしてる間はそれでしのいでてね」
「はーい」
「んじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「んん……」
「ん?起きた?」
「はい…おはようございます…」
関根が再び眠りについてから5時間。
少し顔色が良くなったかな?
「関根、ちょっと熱測ってみて」
そう言って体温計を手渡す。
今度こそ学習したぞ。直ぐに回れ右をして色々なものが見えないようにしたぞ。
そして数分後。
ピピピピッピピピピッ
「どうだった?」
「37度2分です」
おお、かなり下がってる。
「体調は?」
「朝より大分楽になりました」
「そう、良かった。食欲は?」
「結構お腹空いてきました…」
本当に良くなったみたいでなによりだ。
「ん、じゃあ夕飯作ってくるからちょっと待ってて」
「は〜い」
そう言って俺は本日3度目となる調理を開始した。
しばらく経って……。
「はーい、できたよ」
「わぁ〜!餃子ですか!」
本日の夕飯は餃子にしてみた。
理由?個人的に俺が食べたかったっていうのが8割かな。
そこにスープとご飯を用意して食べる準備ができた。
それでは、手を合わせて…。
「「頂きまーす」」
余程食欲があったのか、関根はぺろりと餃子を平らげてしまった。
「いや〜、先輩の料理は美味しいですね〜」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「今日は本当にお世話になりました。朝より随分楽になりましたし、なにより美味しいご飯も食べれて幸せでしたよ〜」
今日一番のとびっきりの笑顔を見せてくれる関根。
元気になった姿を見れば看病した甲斐があったというものだ。
その後は他愛もない雑談をし、時計を見ればもう9時になっていた。
「それじゃあ先輩、今日はありがとうございました!」
「ん?帰るの?」
「はい!これ以上先輩に迷惑をかける訳にもいかないんで、今日はもうお暇させて頂きます!」
いくら体調が良くなったとは言えまだ本調子ではない。
気を抜いてぶり返すなんてこともあり得る。
「関根、今日は泊まってって」
「えぇ!?泊まってってって……えぇ!?」
予想に反してリアクションが凄い。
「そ、そんな……い、一応勝負下着ですけど……。それにしてもまだ心の準備が……」
んん!?
「な、なんか勘違いしてない?」
「へっ?」
「風邪がぶり返すといけないから、今晩は外に出ないで俺の部屋で泊まっていったほうが良いっていう意味だったんだけど……」
俺がそう言うと、ほんの少し時間が止まった。そして関根の半端ではない赤面と共に時間は動き始めた。
「そ、そそそそそそそそうですよね!やだ私ったら!すみません!勘違いしちゃって!」
「あ、いや…」
「あーびっくりした!私ってば嫌ですね!もう!先輩がそんないきなり誘うわけないですもんね!あっはっはっは!」
照れ隠しのマシンガントークが止まらない。
「お、落ち着いて……」
「落ち着いてられないですよ!こんな恥ずかしすぎる盛大な勘違いを好きな人に聞かれるなんて!」
「俺は気にしてないから……」
「私が気にしとんじゃー!」
あ、これどうしよう。多分しばらく手に負えない。
どうやって収拾をつけようか考えた結果……。
収まるまで観察することにしました。
観察している間は、手で顔を隠したり、赤くなった顔を仰いだり、あたふたしたりと、様々な関根を見ることができた。
しばらく経って。
「落ち着いた?」
「はい…取り乱してすみませんでした……」
「ううん、いいよ。なんだかんだで元気になったって改めて分かったからさ」
関根の頭をぽんぽんする。
「あうぅ……」
「さ、遅くまで起きててまた体壊すと悪いし、もう寝よっか」
「は、はい……」
「それじゃあ関根はベッドを使って……」
「あ、あの!」
「ん?」
「今日最後の我儘言ってもいいですか?」
このタイミングでか?まあ、多少の我儘はオッケーって決めたからな。
「うん、いいよ」
「その…添い寝していただけませんか?」
「………へっ?」
そんなこんなで俺の隣には関根が寝ている。
あ、別にやらしい意味じゃないよ?
普通に睡眠を取るだけだからね?
「先輩……」
「な、なに?」
「えへへ、なんだか本当に恋人になったみたいで嬉しいです」
とびっきり笑顔で腕に抱きついてくる。
ひさ子の様な柔らかな感触は少ないが、細く可憐で女の子らしい感触が伝わってくる。
「せ、関根」
「はい?」
気持ちは嬉しいが正直離れてもらわないと色々マズイ。
「離れて」と言えれば良いのだが、こんなに良い笑顔の関根には非常に言い辛く……。
「どうしました?」
「その……おやすみ!」
「はい!おやすみなさい!」
結局言えずにそのまま一晩過ごすこととなった。
さあ、ここから長い夜が始まるぞ。
ちょこっとオリジナル設定
風邪を引くこともある