岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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お久しぶりです


第十五話「5人は大きな一歩を踏み出す」

4日目朝6時。

 

俺は唇に当たった柔らかい感触で目を覚ました。

 

この柔らかいものはなんだろうか。目を閉じたまま考えてみる。

 

すると。

 

 

 

「えへへ、先輩に私のファーストキスあげちゃいました」

 

 

 

急いで目を開けると非常にニコニコした関根の顔が目の前に広がった。

 

まだ完全に起きていない脳をフル稼働させ、なんとか答えをはじき出した。

 

………うん、多分関根のキスで目覚めたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ〜んぱい♪」

 

 

 

現在時刻は朝の7時。関根のファーストキスから1時間経ったが、未だに関根は俺をホールドしたままだ。

 

そろそろ離れて貰わないとゆりが来てしまう。

 

別に関根に抱きつかれているのが嫌というわけではない。むしろ嬉しさも感じる。

 

ただ、今日はゆりとの約束が入っているため関根ばかりに時間を割くわけにはいかないのだ。

 

 

 

「おっじゃましま〜す!」

 

 

 

ほら、そんなこと考えてると早速来……ん!?

 

き、来ちゃった!?

 

 

 

「篠宮くーん!もう起きて……」

 

 

 

修羅場。

 

 

 

「な、なななななんで関根さんが!?」

 

「ゆ、ゆりっぺ先輩!?」

 

「ちょ、ちょっと!篠宮くん!なんで関根さんがいるの!?」

 

「あ〜っと…昨日関根が風邪を引いて…それで看病して……」

 

「そして夜になって熱は下がったんですけど、先輩がまたぶり返すと悪いから今夜は泊まってけって…」

 

「あ〜…なるほどね。そういう訳なら仕方ないわね」

 

 

 

良かった…ゆりが理解のある人で良かった……。

 

 

 

「それで?関根さんはもう良くなったの?」

 

「あ、はい!」

 

「そう、なら良かったわ。なら今日は気兼ねなく私とデートできるわね」

 

 

 

ブレることはないみたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて、篠宮くん!今からあなたを骨抜きにしてみせるわ!」

 

 

 

関根が部屋を出るやいなや堂々なにかを宣言してきた。

 

あ、別に関根は追い出した訳じゃないよ?ちゃんと先約だからって納得してもらったからね?

 

それよりも。

 

 

 

「え…?骨抜きって…?」

 

「知らないの?惚れさせるって意味よ」

 

「意味は知ってるけどさ…。興味本位でデートするんじゃないの?」

 

「……あなた本当に鈍いのね……」

 

 

 

ゆりが心底驚いたという感じでこちらを見てくる。

 

 

 

「え?なにが?」

 

「はぁ…岩沢さんとひさ子さんの言う通りだわ…。ちゃんと言わないとダメなのね…」

 

 

 

 

どういうことだ?

 

ゆりを見てみると大きく深呼吸している。

 

そして……。

 

 

 

「篠宮くん、大好きです!付き合って下さい!」

 

 

 

 

 

 

―――――――――

――――――

―――

 

同時刻、女子寮のとある一室。

 

そこには岩沢、ひさ子、関根、入江の四人が集まっていた。

 

入江以外の三人はどこか落ち着きがなく、表情も強張っているようだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

「はぁ……」

 

「はぁ〜……」

 

 

 

岩沢が溜息をついたのを皮切りに二人も釣られて溜息をつく。

 

 

 

「……一体誰が選ばれるんだろうな……」

 

「やめろよ岩沢…なるべく考えないようにしてるんだからさ…」

 

「ああ、ごめん…」

 

 

 

非常に空気が重い。

 

アフリカゾウ3匹分くらいの重さはあるんじゃないか。

 

この空気を作り出している三人は大して重いと感じていないが、問題は入江だ。

 

篠宮太一が誰を彼女にしようと入江にはほぼ関係ない。それなのにこの場にいる。

 

この重い重い空気に圧し潰されそうだ。

 

この状況を打破しようと様々な策を打ってきたが、全て逆効果となり、更に自分を追い込んでしまっている。

 

 

 

「じゃあもう一夫多妻制を認めて全員篠宮先輩の彼女になったらいいんじゃないですか!?」

 

 

 

咄嗟に出た言葉だった。

 

誰か1人を選ばせるという方法だから不幸になる人が出るんだ。

 

ならばみんなが選ばれればみんなが幸せなのではないか。

 

 

 

「そうか…その手があったか!」

 

「入江!お前天才かよ!」 

 

「流石みゆきち!そうだよね!なにも生きていた頃の法律に縛られる必要なんてないんだよね!」

 

 

 

普通ならば一夫多妻制と言うのは抵抗があるものだが、流石はガルデモと言ったところだろうか。この面子なら特に問題ないという顔をしている。

 

 

 

「よーし!そうと決まったら早速太一のところへ行くぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!篠宮先輩はゆりっぺ先輩と一緒ですよ?」 

 

 

 

関根が岩沢を止める。

 

 

 

「なあに、構うもんか。ゆりだって彼女になれるんだ。デートなんて必要ない」

 

「そう……ですね!もうデートなんて必要ないんですもんね!」

 

 

 

しかし、逆に納得させられてしまったようだ。

 

 

 

「よし!改めて篠宮のところへ行くぞ!」

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

「はぁ……三人とも篠宮先輩が認めるかについては考えてないんだね…」

 

 

 

入江の客観的な意見は三人の耳に届くこと無く、ただ一人の部屋の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

――――――

―――

 

「さて、骨抜きにするとは言ったけど……どうすれば骨抜きになってくれる?」

 

 

 

知らんがな。

 

以外なことにゆりは恋愛経験というものが無いようだ。さっきの告白も人生初なのだという。人生にカウントしていいのか微妙なところだが。

 

ゆりくらい美人なら恋愛経験の一つや二つあってもおかしく無いと思うのだが、人は見かけによらないようだ。

 

 

 

「う〜ん…キスはまだ早いわよねぇ…」

 

 

 

普通なら早いかもしれないが、幼馴染と姉御肌とイタズラ好きな後輩の例があるから別に違和感はない。

 

が、それを言うとキスを催促しているようなので、あえて言わないでおく。

 

 

 

「そう言えば篠宮くんって何が好きなの?」

 

 

 

おっと、ここに来てとても初歩的な質問。

 

 

 

「動物かな」

 

「へぇ〜。例えば?」

 

「基本的になんでも好きだよ。犬とか猫とか鳥とか……うん、本当になんでも好きだね」

 

「蛇とか蜘蛛とかでも?」

 

「うん、好きだね」

 

「へ、へぇ〜…」

 

 

 

なんだよ、その「うわっ、こいつマジでなんでも好きなのか」みたいな視線は。マジでなんでも好きなんだよ。

 

 

 

「ゆりは何が好きなの?」

 

 

 

逆に質問をしてみる。

 

 

 

「私?私は……そうねえ……篠宮くんかしら」

 

 

 

わーお。

 

 

 

「だめ?」

 

「………」

 

 

 

ダメじゃないし、嬉しいけど、肯定出来ない微妙なラインだ。

 

ガチャリ

 

俺が返答に困っていると部屋のドアが開いた。

 

 

 

「だ、誰よ?」

 

 

 

俺とゆりの目線の先に居たのは……

 

 

 

「よ、太一。久しぶり」

 

「二人っきりのところわりーな、ゆりっぺ、篠宮」

 

「ゆりっぺ先輩、篠宮先輩数時間振りです!」

 

 

 

雅美、ひさ子、関根の入江を除くガルデモメンバーであった。

 

 

 

「な、なななななななんであなたたちが来るのよ!?今は私の番でしょ!?」

 

「ゆり、それなんだけどもう必要無いんだ」

 

「必要ないですって?どういうことよ!」

 

 

 

なにそれ。俺も気になる。

 

 

 

「さっき話し合いをした結果、全員篠宮先輩の彼女になっちゃえばいいんじゃないか、ってことになりまして〜」

 

「そうすれば私も岩沢も関根もゆりっぺもみんな幸せだろ?」

 

 

 

あ〜、なるほど〜、そうすればみんなしあわ……んんっ!?

 

 

 

「そ、それはそうだけど…」

 

「ちょっと待ってよ!みんな彼女ってどういうこと!?」

 

「簡単に言えば太一がハーレム状態になるってことだな」

 

「一夫多妻制ですよ♪」

 

 

 

なんか俺の意見ガン無視だぞ!?

 

 

 

「それだと自分以外の人と付き合ってるってことになるけど、いいの!?」

 

 

 

そう、そこだ。通常彼氏彼女というのは一対一で構成されるもので一対複数というのは日本ではあまり聞かないというか聞いたこと無い。

 

なんか自分と付き合っていながら他の女の人とも付き合っているって複雑なんじゃないか?

 

しかし、返ってきた言葉は意外なものだった。

 

 

 

「私は別に気にしないぜ?太一と一緒にいれるならそれでいいんだ」

 

「私も岩沢の意見と同じだ。選ばれなかったら永遠に彼女になれないかもしれないけど、こうすれば篠宮の近くにいれるんだ」

 

「私も何番目でもいいから先輩の近くにいたいな〜って」

 

「………」

 

 

 

言葉を失った。

 

自分で言うのもなんだが、俺はここまで愛されていたのか。

 

雅美たちの目を見ると相当本気のようだ。

 

正直なところ、俺も誰か一人を選べと言われたら選べなかった。雅美を選んだとしてもひさ子を選んだとしても関根を選んだとしてもゆりを選んだとしても、選ばれなかった人の悲しむ顔を見たくなかったからだ。

 

この全員彼女案は俺にとってもありがたいもので、雅美たちにとってもありがたいものである。

 

 

 

「……そうね、話を聴いて納得したわ。そうすれば誰も不幸にならないわね」

 

 

 

ゆりも納得したようだ。

 

 

 

「私もそのハーレムの一員になってもいいのかしら?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「後は篠宮がオッケーを出したら成立なんだけどな」

 

「先輩、どうなんですか?」

 

 

 

全員から期待のこもった眼差しを向けられる。

 

さっきも言った通りこの提案は非常にありがたいものである。ここ数日の胃痛が一気に解消される。

 

しかし、それと同時に背徳感もある。複数の女の子と関係を持つなんて多から少なかれの抵抗はあるさ。

 

 

 

「先輩、背徳感とか気にしなくていいんですよ?私たちみんなが納得した上でこうなってるんですから」

 

 

 

関根は読心術が使えるのだろうか。俺が今気にしていることをドンピシャで当ててきた。

 

さて、ここで関根以外の人を見てみよう。みんな頷いて関根の意見を肯定している。

 

……そうだよな、隠れてこそこそやっているならダメだけど、みんなが納得した上でなら何にも問題なんて無いよな。

 

俺だって好意を向けられているのにそれを断るなんて嫌だし。よし、決めたぞ。

 

 

 

「わかった、その案、受け入れるよ」

 

「やったー!」

 

「ついに太一の彼女になれる…!」

 

「篠宮くんと甘い日々…」

 

「ふぅ…これで肩の荷が降りたぜ…」

 

 

 

俺が受け入れた瞬間全員から安堵の言葉が漏れる。

 

 

 

「改めてよろしく、みんな」

 

「よろしくな!太一!」

 

「よろしく頼むぜ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくね、篠宮くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜!久々の太一だ〜!」

 

 

 

問題が解決し、気持ちの整理が一段落したとき、急に雅美が右腕に抱きついてきた。

 

 

 

「あ!ずるいぞ岩沢!」

 

 

 

左腕にひさ子。

 

 

 

「あっ!私も!」

 

 

 

背中からゆり。

 

 

 

「みんなずるいですよ!私は……私の場所が無いじゃないですか!」

 

「まあまあ関根、ほら、あぐらの上に座って」

 

 

 

そう促すと大人しく俺のあぐらの上に座る。

 

 

 

「っていうか、彼女になったんですから下の名前で呼んでくださいよ」

 

「えっ?」

 

「岩沢先輩は雅美って呼んで、ひさ子先輩はひさ子って呼んで、ゆりっぺ先輩もゆりって呼んでるじゃないですか。私もしおりって呼ばれたいです!」

 

 

 

そう言えばそうだった。関根だけ苗字で呼ぶっていうのも変だよな。

 

 

 

「わかったよ。今度からしおりって呼ぶね」

 

「本当ですか!?やったー!」

 

 

 

振り返って俺を見ながら喜ぶ関根……もといしおり。だめだ、早く慣れないと。

 

 

 

「私もこれを機に太一って呼ぼっかな〜…」

 

「ひさ子さんも?じゃあ私も太一くんって呼ぼうかしら。いい?」

 

「べ、別に構わないけど……」

 

「ほんと!?じゃあ太一くんね!……なんだか新鮮な感じがするわね…」

 

「た、太一……。本当だ…。なんか新鮮だ」

 

 

 

喜んでもらえたようで何よりです。

 

 

 

「私も呼び方変えたほうがいいか?」

 

「なんて?」

 

「えっと……特に考えてないや」

 

 

 

考えてなかったんかい。そもそもこれ以外なんて呼ぶんだよ。

 

 

 

「雅美は今まで通りでいいからね?」

 

「うん…」

 

 

 

なぜかちょっと不満そう。これは本当になぜだろう。

 

 

 

「まあ、呼び方については追々慣れていくとして、ご飯食べに行こ?」

 

 

 

そう、まだ午前8時。ご飯食べてない。

 

 

 

「それもそうだな、よし行くか」

 

 

 

雅美の音頭で全員が部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂にやってきた。

 

いつものごとく雅美と俺はうどんを頼む。ひさ子は焼き鮭定食、ゆりは焼きおにぎり、せき…しおりはオムライスを頼んでいた。慣れねば。

 

それぞれの料理が出来、席を探す。

 

混雑している時間帯ではあったが、運の良いことに6人席が開いていたので、そこに座る。

 

 

 

「「「「「頂きま〜す」」」」」

 

 

 

5人声を揃えて合掌。なんか小学生みたいだが、大切なことだ。

 

席を巡ってちょっと揉めるかと思ったが、この4人にはそんな心配は要らないようだ。事前に決めてあったかのように左隣に雅美、右にひさ子、正面にゆり、左斜め前にしおりが座っている。

 

お、今回はすんなり言えたぞ。

 

雅美が一瞬うどんをこちらに差し出したが、すぐに戻してしまった。

 

流石に今の時間帯はNPCが多い。故にあーんしようものならとんでもなく目立ってしまう。ましてやガルデモの4人中3人からという素晴らしいメンバーだ。俺はNPCたちから襲撃に合うだろう。まあ、勝てるから良いんだけどね。

 

それぞれがご飯を食べ終わり、食器を返却口に置く頃にはもう既に時計は9時10分前を指していた。

 

 

 

「さて、これからどうする?」

 

「ちょっと太一くんには校長室に来てもらうわ」

 

「なっ!?ゆり!抜け駆けかよ!?」

 

 

 

雅美が問たてる。

 

 

 

「ち、違うわよ!普通に今度の作戦を伝えたりするだけ。あくまで仕事として来てもらうわ」

 

 

 

実にゆりっぽい答えだ。

 

 

 

「私だって本当は太一くんとイチャイチャしたいわよ……。でも仕事は仕事って割り切らないとリーダーとして示しがつかないでしょう?」

 

 

 

流石は我らがリーダー。公私の混合はしないようだ。

 

 

 

「冗談だよ、冗談。ま、仮にゆりが太一とイチャイチャしても後で私もするから良いんだけどな」

 

「!」

 

 

 

一瞬ゆりの眉毛がピクッとしたぞ?

 

 

 

「え…?私イチャイチャしてていいの…?」

 

 

 

おーい、リーダーとしての示しはどうした。

 

 

 

「でもそれだと示しがつかないんだろ?」

 

「そ、そうよね!やっぱり仕事が終わってからにしなくちゃだめよね!」

 

 

 

ひさ子の一言で戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がちゃりと校長室のドアを開け、ゆりと共に中に入る。

 

なんだか久しぶりだ。

 

 

 

「あ!篠宮くん!久しぶり!」

 

「大山!久しぶり!」

 

「おお、元気にしてたか?」

 

「音無も久しぶり!」

 

「はいはーい、そこらへんのあいさつはこれが終わってからにしなさい」

 

 

 

長引くと予想したのか、ゆりが話を遮った。

 

そして、一息つくと。

 

 

 

「遊佐さん、報告をお願い」

 

「はい、ギルドから『新しく武器を作ったから試しに来て欲しい』と連絡がありました」

 

「と、言うわけで、今日は再びギルドに潜るわよ」

 

「オールドギルドってことは対天使用のトラップがねーんだよな?」

 

 

 

ゆりの言葉に藤巻が反応する。

 

 

 

「ええ。だから絶対に天使にバレないように行かなきゃいけないわ」

 

「ということは陽動を使えばよろしいのでは?」

 

 

 

高松……だったっけ?陽動班を使って天使をおびき寄せる提案を出す。

 

 

 

「そうしたいところは山々なんだけど、生憎ガルデモのメンバーの準備がちょっとできてないのよ」

 

 

 

みんな『ああ〜』という目線を俺に向けてくる。

 

一応ここ数日の事情は知ってるみたいだ。

 

 

 

「じゃあどうするのさ?」

 

「今回は少人数でグループを作って時間別に分けてギルドへ向かうわ。少人数ならバレにくいでしょ?」

 

「成る程な。しかも少人数ならギルドに入った時に個々が試す時間が多くなるしな」

 

 

 

日向が賛同する。

 

 

 

「誰と組むかは自由だけど、多くても4人よ。あと、私と太一くんが組むのは決まってるから」

 

 

 

さっきとは違ってものすごい勢いの視線が飛んでくる。すごい勢いの視線の意味がわからないと思うが、とにかくすごい勢いの視線なのだ。なんとなくニュアンスで伝わって欲しい。

 

そんな視線の中で一番勢いが凄いのが野田だ。

 

しかし、初日の恐怖感が残っているのか視線だけでなにも行動は起こしてこない。

 

 

 

「それじゃあメンバーが決まったら私のところに報告に来て頂戴。期限は正午まで。それじゃあ解散!」

 

 

 

ゆりの解散の一言で校長室内に会話が溢れ始める。

 

そんな中、日向が近づいてきた。

 

 

 

「篠宮、ゆりっぺを選んだのか?」

 

 

 

こそこそと小声で訊いてきた。

 

 

 

「いや…ゆりを選んだというか……」

 

「全員選ばれたのよ」

 

 

 

声の発信源を聞いて日向が一瞬焦った顔をした。

 

が、それよりも発言内容の方が気になったようだ。

 

 

 

「全員選ばれたってどういうことだよ…?」

 

 

 

まあ、そんなリアクションになるわな。

 

 

 

「そのまんまよ。岩沢さんもひさ子さんも関根さんも私も全員篠宮くんの彼女ってこと」

 

「「「「えええええええぇぇぇぇぇ!?」」」」

 

 

 

その場にいた全員から驚愕の声が上がる。遊佐と椎名は除くが。

 

 

 

「……意外と篠宮くんやるねぇ…」

 

 

 

一拍置いて大山からそんな言葉が漏れる。

 

 

 

「いやいや、俺はそんなんじゃないよ」

 

「そうよ、篠宮くんは女をたぶらかすような人じゃないわ」

 

「いや、そこまでは言ってないけど……」

 

 

 

うん、言ってなかった。

 

 

 

「一夫多妻制は確かに抵抗があるかもしれないけど、本人たちが幸せならそれで良いじゃない」

 

「ま、まぁ、それなら……良いんじゃねえか?」

 

 

 

日向が若干納得(?)したようだ。

 

しかし、次の瞬間しびれを切らした野田が襲いかかってきた。

 

 

 

「ゆりっぺは俺の物だあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

「あんたの物の訳無いでしょ!」

 

「ぐはっ!」

 

 

 

ゆりに顔面を蹴られて沈んだが。

 

 

 

「さ、私たちのことはいいから、さっさとメンバー決めちゃって頂戴」

 

 

 

みんながゆりの一言で再び相談を始める。

 

 

 

「篠宮、一緒に組まないか?」

 

 

 

再び場が一瞬静まった。

 

そして。

 

 

 

「うおおおおおおおおお!!!椎名が喋ったああああ!!!!!!」

 

 

 

日向、うるさい。

 

 

 

「椎名が自ら話しかけるなんてそうそう無いぞ……」

 

「ああ、俺も久々に見た気がするぜ」

 

「俺は初めて見たぞ……」

 

 

 

あっち側で松下五段と藤巻と音無が盛り上がっている。

 

 

 

「それで?私は一緒に行って良いのか?」

 

「べ、別にいいけど……ゆりは?」

 

「別にいいわよ」

 

「じゃあ一緒に行こうか」

 

「よしっ」

 

 

 

ん?なんか小声で『よしっ』って言わなかった?

 

……気のせいか。

 

 

 

「じゃあ、私は他の仕事に取り掛かるから、正午になったら再び報告しに校長室に来て頂戴」

 

 

 

そう言い残してゆりは校長室を出て行った。

 

俺も雅美たちのところへ行こうかと思った瞬間。

 

 

 

「篠宮、ちょっと私に付いて来てくれ無いか」

 

 

 

まさかの椎名からのお誘いがあった。

 

 

 

「別に良いけど……」

 

「そうか、じゃあ行こう」

 

 

 

周りの反応は見て無いけど、大体雰囲気でわかる。

 

口をぽかーんと開けて俺と椎名を見ているんだろう。

 

そんなことは気にしても仕方ないので、スルーさせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ」

 

 

 

校長室を出て椎名についていくこと10分。

 

見たこと無いところへ連れてこられた。

 

洞窟(?)の入り口のようだ。

 

 

 

「ここは私がこの世界に来て初めて来た場所だ。いまは練習場として使っている」

 

 

 

へぇ〜。いくら椎名でもトレーニングは欠かさ無いのか。

 

 

 

「どうだ。一戦交えてみないか?」

 

「えっ!?」

 

 

 

まさかだ。椎名から戦いを申し込んでくるとは。

 

 

 

「以前から篠宮の身体能力に興味があった。どうか一戦お願いしたい」

 

 

 

今度は頭を下げられる。

 

正直乗り気にはなれ無い。

 

いくら相手が望んでいるからと言っても暴力は良く無い。

 

天使の場合はどうしようもなかったが、極力無駄な争いごとは避けたい。

 

 

 

「ごめん、できない……」

 

「そうか……」

 

 

 

少し残念そうな顔をする椎名。期待に応えられなくて申し訳ない。

 

が、次の瞬間、椎名は地面を蹴り、俺に向かってものすごい勢いで飛んできた。

 

さすがはくノ一、とんでもなく速い。恐らく常人なら目で追えず、突き飛ばされるだろう。

 

が、俺にははっきりと見える。

 

仕方が無い、戦いはしないが、力ずくで止めよう。

 

椎名との距離はあと3m、2m……と、ここであることに気づいた。椎名が木刀を持っている。

 

俺は咄嗟に木刀を掴み、抱きしめる形で椎名を止める。

 

椎名を見てみると驚愕の表情を浮かべている。

 

 

 

「……本当に何者だ?これを防げたのは今までにいない……。と言うか木刀を持っていると見破った者もいない……。それどころか余裕の表情をしているじゃないか……」

 

 

 

よほどショックだったのか、俺の胸の中でボソボソとつぶやき続けている。

 

 

 

「……椎名、なんでいきなり襲いかかってきたの?」

 

 

 

ちょっと怒り口調で聞いてみた。

 

再発防止のためだ。

 

 

 

「……篠宮の…実力を知りたかった…」

 

 

 

少し怯えながら答えた。珍しいな。

 

 

 

「実力とやらは、わかった?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあもうやらないね?」

 

「ああ…篠宮には到底敵わないとわかった……。もう二度としない……」

 

「ん、わかった。もうやらないって聞けたからいいよ」

 

 

 

椎名の頭をポンポンする。

 

すると、少し安心したような表情になり、俺の胸へと顔を埋めた。

 

しばらくすると、椎名の方から離れていった。

 

 

 

「すまない、軽率な行動だった」

 

「もう大丈夫だよ」

 

「しかし…いざ目の当たりにすると化物みたいなやつだな」

 

 

 

むっ。失礼なやつだ。

 

 

 

「ああ、すまない。褒め言葉のつもりだったんだ」

 

 

 

俺的には褒められた気はしなかったが、椎名的には褒めたようだ。

 

 

 

「好きだ」

 

「……うん?」

 

 

 

なんて?

 

 

 

「聞こえなかったか?好きだ」

 

「な、なんで?」

 

「私は自分より強い男が好きなのだ。しかし、今まで出会った男に私の条件を満たす男はいなかった」

 

 

 

そうでしょうね。

 

 

 

「何百年も条件に合う男を探してきた」

 

「何百年も…?」

 

「そうだ。もう数えるのはやめたが、私がこの世界に来たのは少なくとも300年前だ」

 

 

 

そんな長いこといたのか……。

 

 

 

「そんな頃から待っていて、つい数日前やっと私の求める条件の男を見つけた。篠宮だ」

 

 

 

俺の目をまっすぐ見て言う。

 

思わず引き込まれるような綺麗な瞳だ。

 

 

 

「ゆりの話によると、どうやらお前は一夫多妻になっているらしいな。どうだ、私もその中に入れてくれないか」

 

「……俺さ、まだ椎名と話したりしたことがあんまりないんだよね。だからさ、お互いをもっと知り合ってからでどう?」

 

 

 

今すぐにはOKと言えない。

 

本当に椎名のことはよく知らないし、椎名も俺のことはよく知らないだろう。

 

 

 

「なんだ、そんなことか。それならば問題ないぞ」

 

「え?」

 

「篠宮太一。誕生日は7月5日。身長174cm、体重63kg。血液型はA型。得意なことは歌うこと、苦手なものは心霊現象。非常に温厚な性格をしており、滅多なことでは怒らない。岩沢とは生まれた時からの幼馴染でよく一緒に風…」

 

「ストーップ!なんで知ってるの!?」

 

 

 

そんな誰にも言っていないような個人情報素スラスラと……。

 

 

 

「遊佐から聞いた」

 

 

 

あっさりと情報源をバラす椎名。

 

そもそも遊佐もなんで知ってるんだ!?

 

 

 

「この学校の名簿に全部書いてあったと言ってたぞ」

 

 

 

なんで名簿持ってるんだよ!ってかその名簿こえーなおい!

 

 

 

「それで?篠宮は私の何が知りたいんだ?」

 

「何が知りたいって……」

 

 

 

急にそんなこと言われても思いつかないよ。

 

 

 

「無いのか?」

 

「なんていうか…無理やり聞き出すより自然とわかった方がいいかな〜って……」

 

「ふむ……一理あるな。まあ今日は一緒に行動するわけだ。機会はいくらでもあるだろう」

 

 

 

この場しのぎ感がすごいが、今は気にしないでほしい。

 

断っておくと椎名のことを避けたいからとか嫌いだからだということはない。

 

気持ちの整理がつかないので保留したいだけだ。

 

 

 

「付き合わせてすまなかったな。また午後に会おう」

 

 

 

そう言って椎名はどこかへと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、せんぱ〜い!お待ちしてました!」

 

 

 

ドアを開けるや否や、関根が俺の元へ駆けつけてきた。

 

正午まで暇なので久々のガルデモの練習にやってきた。

 

 

 

「おう太一。今日はもう終わったのか?」

 

 

 

関根の次に口を開いたのはひさ子だった。

 

 

 

「いや、正午からギルドに潜るよ」

 

「ぎ、ギルド!?大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫だよひさ子。今回は天使用のトラップとか無いから」

 

「っていうかそんなのがあっても太一ならなんとも無いだろ」

 

 

 

ごもっとも。あれが襲ってきても特に問題無い。

 

 

 

「……それもそうだな。よし、時間もないし練習再開するか」

 

 

 

納得したひさ子の音頭で練習を再開する。

 

久々ということもあり、みんないつもより気合が入っている。

 

しかし、いくら気合が入っているとはいえ、疲れるものは疲れる。

 

少し音に張りがなくなってきたのを機にひさ子が休憩のコールを出した。

 

 

 

「よーし、休憩!」

 

 

 

張り付いめていた緊張感が一気に消え、和やかな雰囲気になる。

 

 

 

「太一〜!」

 

「おっと…」

 

 

 

雅美が自分の定位置とでも言うかのように左腕に抱き着いてきた。

 

それを皮切りに、ひさ子は右腕、しおりは背中から抱きついてくる。

 

正直ちょっと暑い。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

みんななんか話をするわけでもなく、ただただ俺に抱き着いている。

 

 

 

「え…っと……」

 

「ん?どうしたの?みゆきち」

 

「……これなんの時間?」

 

 

 

それ、俺も聞きたい。

 

 

 

「太一に抱きつく時間に決まってるだろ」

 

 

 

そんなの常識だろ?とでも言うように返す雅美。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

再び静寂が訪れる。

 

10分くらい経っただろうか。耳を澄ませてみると、三人から寝息が聞こえてきた。

 

 

 

「寝ちゃいましたね〜…」

 

「寝ちゃったね」

 

 

 

ここ数日色んなことがあって疲れが溜まっていたのだろう。

 

 

 

「先輩は眠く無いんですか?」

 

「別に大丈夫だよ。どうして?」

 

「岩沢先輩たち以上に色々疲れてるんじゃ無いかな〜って思いまして…」

 

 

 

まあ、色々あったと言えば色々あったが、しっかり睡眠もとっていたので大丈夫だ。

 

 

 

「特になんとも無いよ」

 

「……やっぱりすごいですねぇ……」

 

 

 

あれ?若干呆れられてる?

 

 

 

「それより、岩沢先輩たちどうするんですか?」

 

「とりあえず横にさせようと思っているんだけど……全然離れてくれないんだよね…」

 

 

 

俺があぐらをかいてその周りで俺にしがみつきながら寝ているという状況だ。

 

何度か離そうと思ったのだが、離れてくれない。

 

仕方ないのでこのままをキープしているというわけだ。

 

 

 

「話は変わりますけど、ちょっと先輩に質問してもいいですか?」

 

 

 

質問?なんの質問だろう?

 

特に断る理由もないが。

 

 

 

「別にいいよ」

 

「好きな食べ物は何ですか?」

 

 

 

初歩的すぎる。

 

 

 

「えっと……スイカだけど……」

 

「じゃあ、好きな曲はなんですか?」

 

「……Crow Song」

 

「好きな飲み物は?」

 

「…玄米茶」

 

「好きなアーティストは?」

 

「…SAD MACHINE」

 

「好きな動物は?」

 

「…猫」

 

「好きな…」

 

「ストップ!」

 

「どうしました?」

 

「なにその小学生みたいな質問のオンパレード!」

 

「あれ…?だめでした?」

 

 

 

別にだめではないけど……。

 

 

 

「篠宮先輩と二人っきりになった時色々聞いてみようかと思って考えていたんですけど……」

 

 

 

とても残念そうな表情をする入江。

 

そんな顔されたら続けざるを得ないじゃないか。

 

 

 

「ご、ごめん!続けて!」

 

「はい〜!じゃあじゃあ、好きな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局この一方的な質問は雅美たちが起きるまで続いた。




ユイと天使をハーレムに入れるか悩んでいます。入れたほうが良いかどうかを是非活動報告を覗いて、教えて下さい。
お願いします。

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