岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

18 / 28
第十六話「再びギルドへ」

正午。再び校長室。

 

既にメンバーは全員集まっている。

 

そして、いつもは端っこにいるはずの椎名が俺の隣にきている。

 

 

「さーて、みんないるわね?ギルドに行く順番を発表するわよ!はずはじめに私と太一くんと椎名さん、時間は午後1時から。二組目に日向くんと大山くんと音無くん。時間は……」

 

 

俺たちがはじめに潜るのか。

 

 

「みんなわかったわね?前に行った組が戻ってこなくても、指定した時間になったら行って頂戴。それじゃあ、各自時間になるまで解散!」

 

 

再びゆりの号令で校長室から話し声が溢れる。

 

 

「よ、篠宮。ちょっと時間あるだろ?一緒に昼飯でもどうだ?」

 

 

日向だ。

 

 

「うん、別にいいよ」

 

 

特に誰かと食べる約束もしていないので、OKだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、お待たせ」

 

「お待たせ〜」

 

 

俺のほうが先に料理ができたので場所取りをしていた。そこへ日向と大山がやってくる。

 

 

「さて、じゃあ食べるか」

 

 

日向の言葉で食べ始める。

 

2人とも余程お腹が空いているのか、無言で食べ進める。

 

半分ほど食べたところで日向が口を開いた。

 

 

「そういや、さっきは椎名とどこに行ってたんだ?」

 

「ん?なんか知らない洞窟の入り口」

 

「ああ〜、多分椎名さんのいた洞窟じゃない?」

 

「おお!あそこか!懐かしいな」

 

「知ってるの?」

 

「知ってるもなにも……あれは忘れらんねえよね?大山」

 

「そうだねぇ……あれは忘れようにも忘れられないね」

 

「なにがあったの?」

 

「まー、話してやりてーのは山々だが、今は時間がない。お前、1時からだろ?」

 

 

日向の言葉で俺は時計を見る。

 

既に12時50分。あと10分しかない。

 

 

「ほんとだ!また後でね!」

 

「おう!また後でな〜」

 

「また後で〜」

 

 

別れの挨拶も早々に食器を返却し、校長室へと向かう。

 

まあ、俺の足なら1分とかからないから若干余裕はあるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さっきまで食堂にいた筈じゃ…?」

 

 

校長室に入るなり、ゆりにそんなことを言われた。

 

指定された時間に間に合うように走ってきただけなのに……。

 

 

「ゆり、なんで知っているんだ?」

 

 

椎名の口から疑問が発せられる。

 

確かにそうだ。なんで知ってるんだ?

 

 

「ギクゥ!」

 

 

わっかりやすいなー。

 

絶対良からぬこと企んでたでしょ。

 

 

「そ、それは……」

 

「それは?」

 

「……」

 

「……」

 

 

いい感じの言い訳が思い浮かばなかったんだろう。

 

ゆりは冷や汗をかいて目を泳がせている。

 

 

「まあまあ、椎名。そこまで咎めることじゃないよ」

 

 

ちょっと可哀想だ。助け舟を出そう。

 

 

「……篠宮がいいというなら、私はなにも口出ししない」

 

「ほっ……」

 

 

安心した表情になるゆり。

 

まあ、これに関しては後々聞き出そう。

 

それより。

 

 

「もう時間だけど、行かなくていいの?」

 

「おっと…そうね、早く行きましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお、よく来たな」

 

「あなたが呼び出したんじゃない」

 

「そうだったか?」

 

「そうよ」

 

 

オールドギルドに着くや否や、夫婦漫才のようなやりとりを始めたゆりとチャー。

 

あ、本当の夫は俺ですけどね?

 

 

「ま、いいわ。新しい武器は?」

 

「こっちに揃ってるぜ」

 

 

チャーが武器が揃っているであろう方に向かって歩き出し、俺とゆりと椎名があとをついていく。

 

 

「これだ」

 

 

ほぉ〜、と、思わず感嘆の声を上げてしまった。

 

この世界に来て間もない俺でもこれは凄いと分かるほどの武器が揃っていた。

 

種類は判らないがとにかく凄そうなのも沢山ある。

 

 

「ほらよ、これだろ?ベレッタM92F」

 

「ありがとう」

 

 

よくわからない名前のものが出てきた。恐らくハンドガンと呼ばれるものだろう。

 

 

「あとM4-M1」

 

「これももう出来てたの?やるじゃない!」

 

 

いやいやいやいやいや。ちょっと待って。

 

 

「な、なにそれ?」

 

「ん?アサルトカービンだけど…知らない?」

 

「知ってるわけないじゃん!」

 

 

銃マニアだとかそういうのが好きっていう人なら知ってるかもしれないが、生憎、俺はそういうものには疎い。

 

 

「ま、いいわ。それより篠宮くんの武器は?」

 

「それはこれから作る。ちょっとついてこい」

 

 

これから作る?

 

そう疑問に思いつつもチャーについていく。

 

 

「ここでお前の身体能力を測る。それに応じて武器を作るって訳だ」

 

 

案内された場所を見ると、メジャーが置いてあったり、線が引いてあったり、砂が敷いてあったりと、学校で見たことがあるあの光景が広がっていた。

 

 

「まずは握力からだ」

 

 

そう言われ、握力計を手渡される。

 

しかし……。

 

 

「チャー、振り切っちゃった」

 

 

まあ予想通りだろう。128kg以上は絶対あるって。

 

 

「だろうな。だが、そんなことは想定内だ。特別にその10倍まで測れるものを作っておいた」

 

 

用意周到だね。

 

ってことは1280kgまで測れるのか。

 

 

「じゃあ、やってみるよ?」

 

「おう」

 

 

お?ちょっと抵抗がある。この身体になってから初めての感覚かもしれない。

 

が、ほんの少し力を入れると、パキッという音と共に抵抗がなくなった。

 

握力計を見てみると。

 

 

「ごめん、振り切った」

 

 

振り切ってしまっていた。

 

 

「……そうか」

 

 

呆れたような表情になるチャー。

 

この結果には俺自身も呆れてるよ。

 

 

「…まあいい。次はシャトルランだ」

 

 

なぜシャトルラン?

 

握力は武器を持つ上で必要なのはわかるが、シャトルランの意味はあるのか?

 

 

「ね、ねえ、シャトルランって武器作る上で要らなくない?」

 

「持久力を測って、どれくらいの長さまで戦えるか知るんだよ。弾数とかも決まってくるしな」

 

 

ああ、なるほど。

 

 

「それじゃあ早速スタートラインに立ってくれ」

 

 

チャーの指示通り、スタートラインに立つ。

 

 

「いくぞ?よーい、スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご苦労だったな」

 

 

結果:完走。

 

正直全く疲れていない。

 

 

「ってか最後の方ってあんな感じなんだね」

 

「……ああ、俺も初めて聴いたよ」

 

「次は?」

 

「…重量挙げだ」

 

 

重量挙げ?そんな種目あったっけ?

 

 

「武器を作る上でのテストだ。普通に学校でやっているテストじゃあ測れやしねえよ」

 

 

確かに学校のやつでは武器を持つための測定ではない。

 

というかそうであってはいけない。

 

 

「あ、でも、多分重量挙げは測定いらないと思うよ?」

 

「どういうことだ?」

 

「実はさ、生きてる頃に戦車を持ち上げたことがあってさ」

 

「…………お前はどんな人生を送ってきたんだ?」

 

 

銃のパーツとか構造とか暗記してる人に言われたくない。

 

 

「……ちなみにその戦車の重さは?」

 

「80トン?」

 

 

確か。

 

それを聞いてチャーは本日何度目かわからない呆れ顔をする。

 

 

「……じゃあ重量挙げは必要ねえな…。次は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。測定が終わった。

 

 

「ゆりっぺ、結果が出た」

 

「お疲れ様。それで?どうだった?」

 

「こいつに武器は必要ねえ。存在自体が兵器だ」

 

「存在自体が兵器って……そんな言い方しなくてもいいじゃない」

 

 

ちょっと口を尖らせながら講義をするゆり。

 

 

「じゃあちょっとこれを見てみろよ」

 

 

手渡されたのは俺の測定結果。

 

 

握力:測定不能(少なくとも1280kg以上)

シャトルラン:完走(未だ余裕あり)

重量挙げ:測定不能(少なくとも80t)

反復横とび:目視不能

跳躍力:測定不能(少なくとも10m)

50m走:目視不能

 

 

俺自身兵器と言われても仕方ない気がする。

 

 

「……」

 

 

ゆりも目を丸くして結果を眺めている。

 

 

「……まさかここまでとは……」

 

「な?」

 

「え…ええ……」

 

「全く…とんでもねえ新人だよ。こいつなら天使を倒せるかもな」

 

「そうだ。篠宮なら天使を倒せる」

 

「椎名さん?」

 

「私の惚れた男だ。倒せないわけがないだろう」

 

 

チャーを含めギルドメンバーの視線が集まる。

 

 

「ほ、ほれ?」

 

 

動揺を隠しきれないゆり。

 

 

「そうだ。私は篠宮のことが好きだ。私もハーレムの一員に入れて欲しい」

 

「椎名さん!それはあんまり言っちゃダメ!」

 

「なぜだ?」

 

「そういうこと言うと……」

 

「ゆりっぺ、ハーレムってなんだ?」

 

「ほ、ほらぁ〜……」

 

 

チャーが興味を示した。

 

ちなみに俺は質問攻めに合うのを見越して天井に張り付いて身を隠している。

 

飛んでいい感じの凸凹を掴んでぶら下がるだけの簡単な技だ。

 

 

「そ…その…ハーレムっていうのは……」

 

「ゆり、岩沢、ひさ子、関根の4人が篠宮の彼女になっているということだ」

 

 

ゆりがなにか良い言い訳を考えようとしている隙に椎名がど真ん中の豪速球を放った。

 

 

「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 

 

その瞬間ギルドメンバー全員から驚愕の声が上がる。

 

 

「お前ら黙れー!」

 

 

チャーの一言で辺りが静かになる。

 

流石はこのギルドの長である。

 

 

「こういうのは張本人に直接聞くのが一番だ。なあ?篠宮?そろそろ降りてこいよ」

 

「ギクゥ!」

 

 

ば、バレていたのか……。

 

 

「そういえば太一くん…どこ?」

 

「上だよ、上」

 

「上?」

 

 

そこにいた全員の視線が俺に集まる。

 

バレてしまっては仕方ない。降りるか。

 

 

「よっ……と」

 

 

無事着地を決める。

 

何人かに呆れた顔をされたのは言うまでもない。

 

 

「な、なんで太一くんは天井に…?」

 

「いや〜、どうせ質問攻めに合うだろうから先に逃げないとな〜って……」

 

「だからと言って天井なんていう逃げ道があるか」

 

 

ごもっとも。次からはもうちょっと考えるよ。

 

 

「まあ、お前の予想した通りこれから質問攻めに合って貰うんだけどな」

 

 

不敵な笑みを浮かべるチャー。

 

嗚呼、とっても怖いです。

 

 

「よーし、お前ら!質問あるやつは手ぇ挙げろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふへぇ〜……終わった……」

 

「お…終わったわね……」

 

 

俺たちは今ギルドから帰路についている。

 

こんなに披露困憊なのは言うまでもなくあの質問攻めのせいだ。

 

ざっと50個くらいは答えたんじゃないか?

 

 

「椎名…今度から発言するときは時と場所を考えてね……」

 

「す、すまない……」

 

 

ちょっと申し訳なさそうな表情をする椎名。

 

 

「まあまあ、過ぎたことは良いじゃない。それより私的には椎名さんのあの発言の方が気になっているんだけど?」

 

「ああ、篠宮が好きだというやつか?」

 

「そう、それよ」

 

「私は篠宮のことが好きだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

ゆりの目をまっすぐ見て言う椎名。

 

 

「……太一くん」

 

「はい?」

 

「あなたって罪な男ねえ……」

 

 

どういう意味だ。

 

 

「あの椎名さんまで惚れさせるなんて……」

 

「それでだ、ゆり。私もハーレムの一員に入れて欲しいのだ」

 

「ああ〜…そんなことも言ってたわね」

 

「ダメか?」

 

「入れてあげたいのは山々だけど……私だけじゃ判断できないわ」

 

「ふむ…ならば岩沢たちに許可を貰えば良いということか」

 

 

簡単な話だとでも言うような言い方だ。

 

確かにあの3人なら普通にOKをしてくれそうだけどさ。

 

 

「そうと決まったら行くぞ。場所はどこだ?」

 

「ええっと…多分今の時間なら空き教室かな?」

 

「いつも篠宮たちが練習しているところか?」

 

「うん」

 

「よし、じゃあ早速行くぞ、ゆり、篠宮」

 

「わ、私も行くの?」

 

「当然だ」

 

 

そう言うと椎名は雅美たちがいる教室の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き教室に着き、ドアを開ける。

 

今は練習中であり、みんなこちらに視線を向けるが、演奏する手を止めることはない。

 

いまやってる曲は確かAlchemyだっけ。

 

椎名とゆりも思わず聞き入っているようだ。

 

少しすると演奏が終了した。

 

 

「ゆりに椎名?どうした?」

 

 

ひさ子が近づいてきた。

 

 

「ちょっと椎名から大事な話があるみたいでさ…」

 

「大切な話?」

 

 

雅美、ひさ子、しおり、入江が思わず身構える。

 

 

「ま、立ち話もなんだから椅子出そ?」

 

「…そうだな」

 

 

端に寄せてあった椅子を人数分出し、円陣を組むようにして座る。

 

 

「さ、椎名さん、話して頂戴」

 

「ふむ…単刀直入に言う」

 

 

4人が身を乗り出して構える。

 

 

「篠宮が好きだ。私もハーレムの一員に入れて欲しい」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

しばらくの間、沈黙が教室を支配する。

 

そして、最初に口を開いたのは雅美だった。

 

 

「なーんだ、そんなことか」

 

「そんなこととは、どいういう意味だ?」

 

「だって太一だぜ?」

 

「?」

 

 

ひさ子としおりとゆりは「うんうん」とうなづいている。

 

入江はなんかわかるようなわからんようなっていう顔をしている。

 

俺にはなんのこっちゃさっぱりなんだが。

 

 

「こんなにいい男だ。好きになるなという方が無理だってことだよ」

 

「そうですよ」

 

 

ひさ子の言葉にしおりが賛同を送る。

 

なんか過大評価しすぎじゃないか?

 

 

「つまり、私はハーレムに入っていいのか?」

 

「もちろんだ」

 

「私たちと同じ感情を抱いていて入れないなんて酷ですもん」

 

「い…いいのか!?」

 

「ああ」

 

「篠宮ーーーー!!」

 

「わっ!?」

 

 

ギューッという感じで抱きしめてくる椎名。

 

そんでもってすりすりしてくる。

 

 

「椎名さんがここまで感情的になるのも珍しいわね……」

 

「ま、まあ私たちもあんな感じになりましたし…」

 

 

まじまじと見つめるゆり。

 

それに対しフォローっぽいものを入れるしおり。

 

 

「なにはともあれ、一件落着だな」

 

「よーし、私たちは練習再開するぞー」

 

「えぇ〜……」

 

「練習はしなきゃだめだよ、しおりん」

 

 

しおり以外は練習をする気でいっぱいなようだ。

 

それに流される形でしおりも練習を再開することとなった。

 

ただ、一つ問題がある。

 

 

「あ、あの……」

 

「どうしました?太一先輩」

 

「俺はどうすれば……」

 

 

俺も練習に混ざりたいのは山々なのだが、絶賛椎名に抱きつかれ中なのだ。

 

 

「椎名さん、太一くんはいまから練習しなきゃいけないから、離れて頂戴?」

 

「……」

 

 

ゆりに言われるもギュウっと抱きしめる力が強くなる。

 

 

「ま、また後で会えるから、ね?」

 

「……後って、いつだ?」

 

「え?えーっと……夕飯の時?」

 

「ふむ……もう3時間ほどか……」

 

「それくらいなら我慢できるでしょ?」

 

「…………」

 

 

考え込んでいるようだ。

 

 

「椎名さん、我が儘言わないの。私だっていますぐにでも抱きつきたいのよ?」

 

「……」

 

「私だけじゃないわ。岩沢さん、ひさ子さん、関根さんもみんな我慢してるのよ?」

 

 

ゆりの言いたいことを理解したのか、椎名は離れた。

 

 

「……軽率な行動を取ってしまった。すまなかった……」

 

 

ぺこりと俺たちに向かって頭を下げる。

 

 

「いや、大丈夫だよ。な?みんな?」

 

「そうそう、太一を目の前にしたらそうなるって」

 

「だから気にする必要なんてないぜ?」

 

「仕方のないことですよ!」

 

 

あれー?てっきり「気にしてない」っていう返答が来るかと思ったら「仕方がない」っていう返答が来たぞ?

 

なんだか小っ恥ずかしいな。

 

 

「ありがとう……」

 

「それじゃあ練習の邪魔して悪かったわね」

 

「じゃあ篠宮、またな」

 

「うん、また後でね」

 

 

ゆりが椎名の手を引っ張り教室から出て行く。

 

 

「いや〜、椎名先輩までも虜にするなんて、流石ですね〜」

 

 

にやにやという視線を送ってくるしおり。

 

 

「それにしても、椎名があそこまで感情的になったのは初めて見たな」

 

「岩沢もか?」

 

「ああ、ちょっと驚いた」

 

「普段は誰よりもクールなのにな……」

 

「恋の力って偉大ですねえ……」

 

 

三人が何かしらの雰囲気に浸っている。

 

そこへ。

 

 

「あ、あの〜…」

 

「ん?みゆきちどうしたの?」

 

 

今まで口を閉じていた入江が口を開いた。

 

 

「そろそろ練習しませんか?」

 

 

ごもっとも。

 

 

「おっと、そうだな。悪りぃ、時間使わせちまって」

 

 

ひさ子が入江に謝る。

 

 

「あ、いえ、全然大丈夫ですよ」

 

「よーし、ここからは真面目にいくぞー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。自室。

 

俺は1日の疲れを取るために風呂に入っていた。

 

 

「太一、かゆいところは?」

 

 

………雅美と一緒に。

 

 

 

ことの発端は夕食時。

 

何気なく俺が「今日は久しぶりにゆっくり風呂に入るか」と言ってしまったことだ。

 

すぐ様5人が「風呂!?」と食いついた。

 

その後はすぐ様、誰が一緒に入るかという話になった。

 

いくら設備がいいとはいえ所詮は学生寮、二人も入ればいっぱいだ。

 

当然話し合いでは決まることもなく、最終的にじゃんけんで決めることとなった。

 

お分かりの通り、雅美がじゃんけんで勝ったのだ。

 

 

 

はい、回想終わり。

 

ちなみに今は二人とも水着を着用している。

 

もう彼氏彼女の関係だからいいんじゃね?と思うかもしれないが、俺たちは高校生、健全なお付き合いがモットーなのです。

 

まあ、雅美からは水着なんていらないって言われたけどさ。

 

頑張って説得したよ。

 

 

「ん〜♪」

 

 

超上機嫌で俺に抱きつてくる。

 

 

「太一…」

 

「ん?」

 

「キス……」

 

 

突然すぎる。

 

顔を赤らめ、目を閉じ、唇を突き出している。

 

何これ超かわいい。

 

キスまでは健全だよね?っていうか以前してるから問題ないよね?

 

ほんの一瞬だけ考えて、雅美の要望に応える様にキスをした。

 

数秒…十数秒…数十秒……。

 

今までした中で一番長いキスだ。

 

 

「…ぷはっ」

 

 

1分を超えた頃、雅美の唇と俺の唇が離れた。

 

雅美の顔を見てみると、目がトロンとしている。

 

 

「太一……」

 

 

再び抱きついてくる。

 

先ほどとは明らかに雰囲気が違う。

 

……オトナノカイダンノボルノカナ?




健全なお付き合い?なにそれ?おいしいの?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。