岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第一話「入隊、挨拶、そして再会」

……ここは、どこだ?

 

目を開けると、見覚えのない場所にいた。

 

いや、見覚えがないというより、状況が分からない。確か俺は、雷に打たれて……。

 

……俺は、死んだのか?

 

頭の中でそんな考えが浮かんだ直後、目の前にいた女の子が口を開いた。

 

 

「ようこそ、死後の世界へ。突然だけど入隊してくれないかしら?」

 

 

……え?

 

いや、待って。情報量が多い。

 

死後の世界? 入隊? 突然だけど?

 

目の前の女の子は赤い髪にカチューシャをつけていて、かなり顔立ちが整っている。整っているんだけど、今はそれよりも言っている内容の方が問題だった。

 

死後の世界って、今言った?

 

 

「なによ。ぼーっと人の顔を見て」

 

 

「あっ、いや、ごめん」

 

 

「別に謝れって言ってるんじゃないわよ」

 

 

またごめん、と言いそうになって、慌てて飲み込んだ。

 

危ない。今謝ったら、また同じ流れになるところだった。

 

何か言葉を返さないと。

 

 

「えっと……ここはどこ?」

 

 

「ここは死後の世界よ。たった今言ったばかりじゃない」

 

 

「ご、ごめん……」

 

 

「だから謝らなくていいわよ」

 

 

また謝ってしまった。

 

駄目だ。完全にペースを握られている。

 

 

「えっと……ここは……死後の世界ってことでいいんだよね?」

 

 

「随分と飲み込みが早いのねぇ」

 

 

女の子は少し驚いたように目を細めた。

 

 

「ま、まあ……」

 

 

実際、飲み込めているかと言われると怪しい。

 

ただ、俺は多分死んだ。そして、目の前の彼女はここを死後の世界だと言っている。

 

なら、今はそういうものとして話を進めるしかない。

 

 

「飲み込みが早くて助かるわ。とりあえずあなた、入隊しなさい」

 

 

「に、入隊って……?」

 

 

「……っと、そうね。いきなりそんなこと言われても困るわよね」

 

 

そりゃあそうだ。

 

死んだかもしれない直後に入隊しろと言われて、はいそうですかとはならない。

 

 

「そうねぇ……まずはどこから話そうかしら……」

 

 

女の子は顎に手を当てて、少し考え込むような仕草をした。

 

そして。

 

 

 

 

 

三十分後。

 

 

「……という訳なの」

 

 

「なるほど……」

 

 

大体分かった。

 

ここは死後の世界。この世界には神がいて、理不尽な人生を歩まされた者たちは、その神に抗うために戦っている。

 

ただし、神に直接会えるわけではない。まずは神の手先だという天使をどうにかしなければならない。

 

大まかにはそんなところだ。

 

……いや、大まかすぎるな。

 

普通に考えたら、かなりとんでもない話だ。

 

でも今の俺には、それよりももっと重要な問題があった。

 

 

「あ、あのさ!」

 

 

「ん?なに?」

 

 

「名前……なんて言うの?」

 

 

「おっと、そうだったわね。自己紹介がまだだったわ。私の名前は仲村ゆり。あなたは?」

 

 

「お、俺は篠宮太一」

 

 

「篠宮くんね?自己紹介も済んだことだし、入隊してくれないかしら?」

 

 

どうしても入隊させたいようだ。

 

 

「入隊したらどうなるの?」

 

 

「少なくとも悪いようにはしないわよ。それに、入隊しなかったらNPC以外の人たちから孤立するわよ」

 

 

「孤立」という言葉に、体が少しだけ反応した。

 

さっきNPCについても説明を受けた。話を聞く限り、あれは本物の人間ではないらしい。

 

なら、まだ本物の人間と関わる方がいい。

 

孤立。

 

その言葉は、俺にとってあまり聞き流せるものではなかった。

 

 

「わかった。入るよ」

 

 

「ほんと!?やったわー!」

 

 

ゆりはぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。

 

リーダーという言葉から想像していた姿とは、少し違う。

 

いや、まだリーダーかどうかもよく分かっていないけど。

 

 

「それじゃあ今から戦線の本部に行くわよ!」

 

 

「えっ?ちょ……今から?」

 

 

「善は急げよ!」

 

 

ゆりは俺の手をグイッと引っ張った。

 

 

「そんなに急かさなくても行くよ!」

 

 

 

 

 

校長室前。

 

扉の前まで来ると、ゆりは特に迷う様子もなく手を伸ばした。

 

ここが戦線の本部らしい。

 

校長室を本部にしている時点で、かなり好き勝手やっている気がする。

 

いや、死後の世界で神に抗う組織なんだから、そもそも校則とかを気にする方がおかしいのかもしれないけど。

 

 

「みんなー!新人を連れてきたわよ!」

 

 

ゆりが勢いよく扉を開ける。

 

中にいた何人もの視線が、一斉にこちらへ向いた。

 

 

「おおー!また新人か!」

 

 

青髪の男がこちらを見る。

 

 

「けっ!使えるやつなのかよ?」

 

 

「まあまあ藤巻くん、そう言わずに仲良くしようよ」

 

 

「確かに体格は良いとは言えんな」

 

 

「そりゃあ松下五段に比べたらそうだろ」

 

 

「あさはかなり」

 

 

「What's your name?」

 

 

……賑やかなところだなぁ。

 

死後の世界で、神に抗う戦線。

 

そう聞くともっと重苦しい場所を想像していたけど、今のところかなり騒がしい。

 

 

「はーい、みんな注目!って、あれ?岩沢さんは?」

 

 

ん?

 

岩沢さん?

 

 

「そういや、まだ来てねーな」

 

 

「岩沢さんが遅れるなんて珍しいね」

 

 

「……ま、そのうち来るわね。話を進めるわ」

 

 

ちょっと待って。

 

今、岩沢って言った?

 

いや、まさかな。

 

そんなはずがない。

 

あいつはもういない。

 

同姓に決まっている。

 

 

「今連れてきたのが、篠宮太一くん!新しい戦線のメンバーよ!」

 

 

「……」

 

 

「し、篠宮くん?」

 

 

「……え?あ、ああ」

 

 

まずい。

 

雅美のことを思い出して、完全に話を聞いていなかった。

 

 

「お前、ゆりっぺの話を聞かないとは良い度胸してるな」

 

 

ハルバードを持った男が、露骨に敵意を向けてくる。

 

いや、ちょっと待ってほしい。

 

こっちは死んだ直後に知らない場所へ来て、知らない人たちに囲まれて、しかも「岩沢」という名前を聞いたばかりなのだ。

 

多少ぼーっとしても仕方ないと思う。

 

 

「いっぺん……死ねえええぇぇぇ!!」

 

 

「えっ?う、うわっ!」

 

 

ハルバードが振り下ろされる。

 

反射的に、俺はそれを掴んだ。

 

そして、そのまま男ごと投げ飛ばした。

 

ついでに壁に穴を開けてしまった。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

校長室が静まり返る。

 

しまった。

 

これは、やった。

 

こんなものを見られたら、また孤立する。

 

せっかく本物の人間がいる場所に来たのに、また化け物みたいに見られる。

 

そう思った。

 

けれど。

 

 

「す……すげー!」

 

 

「なになに!?なに!?今の!?」

 

 

「……え?」

 

 

返ってきたのは、悲鳴でも恐怖でもなかった。

 

驚きと、興奮。

 

予想外すぎて、俺の方が戸惑う。

 

 

「篠宮くん!あなた何をしたの!?」

 

 

「えっと……ハルバードを掴んで……投げました……」

 

 

「篠宮くん」

 

 

「は……はい……」

 

 

「是非仲間になって頂戴!」

 

 

「えっ?」

 

 

それは、予想外の肯定だった。

 

 

「うわ〜!あんなの初めて見たよ〜!」

 

 

「……少なくとも使えるやつだな……」

 

 

「どうやって鍛えたらああなるんだ……?やはり山籠りを強化しなくてはいけないのか……!」

 

 

「え……えっと……」

 

 

なんだろう。

 

怖がられると思っていたのに、みんな普通に受け入れている。

 

いや、普通ではないか。

 

かなり騒いでいる。

 

でも、それは俺を遠ざける騒ぎ方ではなかった。

 

 

「篠宮くん、あなた一体何者?」

 

 

「ただの人間ですけど……」

 

 

「ただの人間があんなことできるわけないじゃない!」

 

 

「……」

 

 

どうしよう。

 

なんて説明すればいいんだ。

 

 

「おいおい、ゆり、過去を模索しないんじゃないのか」

 

 

オレンジ髪の男が助け舟を出してくれた。

 

 

「……そうだったわね。リーダーのあたしがそれを守れないなんてね……ごめんなさい」

 

 

「悪かったなぁ、新人。うちのリーダーが迷惑かけて」

 

 

「い、いや、大丈夫だよ。えっと……名前は?」

 

 

「俺か?俺は日向って言うんだ」

 

 

「大丈夫だよ。日向くん」

 

 

「そうか?ならいいんだけど」

 

 

日向くん。

 

覚えた。

 

助け舟を出してくれたあたり、かなり話しやすそうな人だ。

 

 

「っていうか、ここにいる人たちの名前が分からないんだけど……みんな教えてくれないかな?」

 

 

「そうだったな、自己紹介がまだだったな。俺は音無。ついこの間入ったばっかりだ」

 

 

オレンジ髪の男は音無というらしい。

 

 

「ちょっと!あたしの仕事取らないでよ!」

 

 

「はははっ、悪い悪い」

 

 

どうやらメンバー紹介はゆりの仕事らしい。

 

 

「それじゃあ改めて紹介していくわね。そこにいる背の低い男の子が大山くん。特徴が無いのが特徴よ」

 

 

「へへへ、よろしく」

 

 

大山くんは愛嬌のある笑顔を向けてくる。

 

特徴が無いのが特徴という紹介はどうなんだろう。

 

本人があまり気にしてなさそうだからいいのだろうか。

 

 

「その隣の木刀を持った目つきの悪いのが藤巻くん」

 

 

「さっきは悪かったな。使えるのかなんて言って」

 

 

言葉遣いは悪いが、根は悪い人ではなさそうだ。

 

 

「その隣の体格が良いのが松下くん。柔道五段だから、みんなは敬意を込めて松下五段と呼んでるわ」

 

 

「よろしくな」

 

 

頼りになりそうな人だ。

 

かなり強そう。

 

 

「んで、さっきから部屋の隅っこにいるくの一みたいな格好をしているのが椎名さん」

 

 

「あさはかなり」

 

 

……よく分からなそうな人だ。

 

いや、悪い人ではなさそうだけど。

 

「あさはかなり」と言われても、どう返せばいいのか分からない。

 

 

「Come on! Let's dance!」

 

 

「なっ、なに!?」

 

 

突然、英語のようなものが飛んできた。

 

 

「彼はTKよ。本名もなにも分からない謎の男よ」

 

 

……もっとよく分からなそうな人だ。

 

この戦線、癖が強い。

 

 

「ああ、あとさっき投げ飛ばしたのは野田くん。別に覚えなくていいわよ」

 

 

あっ、そういうポジションの人か。

 

少しだけ扱いが雑である。

 

 

「で、あとは陽動班の……」

 

 

「遅れてごめん!」

 

 

その声が聞こえた瞬間、心臓が止まったような気がした。

 

えっ…………?

 

聞き間違えるはずがない。

 

その声を、俺は知っている。

 

 

「おっ、丁度来たわね。彼女は……」

 

 

「えっ……?」

 

 

「えっ……?」

 

 

思わず声が出た。

 

相手も同じだった。

 

校長室の入口に立っていた彼女が、俺を見て固まっている。

 

俺も、彼女を見たまま動けなかった。

 

 

「あら、二人共知り合いだったの?」

 

 

知り合いも何も。

 

そんな言葉で済ませられる相手じゃない。

 

 

「………ま、雅美?」

 

 

「た、太一?」

 

 

「「…………」」

 

 

沈黙。

 

多分、一秒か二秒。

 

でも、俺にはもっと長く感じた。

 

生前、会いたくて、会いたくて、仕方なかった相手。

 

もう二度と会えないと思っていた相手。

 

俺にとって、大切な大切な人。

 

岩沢雅美が、目の前にいた。

 

 

「「ええええぇぇぇぇぇ!!??」」

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