岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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お久しぶりです


第十八話「ネコ」

「……なぜ新曲がバラード?」

 

「いけない?」

 

「陽動にはね」

 

 

現在の状況を説明しよう。

 

戦線の幹部が全員校長室に集まり、雅美の新曲を聴いている。

 

 

「その、陽動ってのはなんなんだ?」

 

「トルネードの時聴いてなかったの?」

 

 

音無は首を傾げる。

 

 

「彼女は校内でロックバンドを組んでいて一般生徒の人気を勝ち得ている。私たちは彼らに直接危害は加えないけど、時として利用したり、妨げになる時はその場から排除しなくてはならない。そういう時彼女たちが陽動するの」

 

「NPCのくせにミーハーな奴らだなぁ…」

 

 

音無の言う通り、話を聞く限りではミーハーである。

 

それよりも。

 

 

「その…トルネードって何?」

 

「あ、そっか。篠宮くんはまだやったことなかったっけ」

 

「音無より後にこの世界に来たからな」

 

 

大山と日向が俺の質問に乗ってくれた。

 

 

「さっき『時として利用する』って言ったじゃない?その利用するの代表格みたいなものね」

 

「つまり?」

 

「NPCから食券を巻き上げるのよ」

 

「巻き…えぇっ!?」

 

 

巻き上げる!?強盗!?恐喝!?ダメダメダメ!そんなのダメ!

 

 

「多分篠宮くんの想像しているのと違うわ。風の力を利用して食券を巻き上げるのよ」

 

「なーんだ、風の力を利用して……えぇっ!?」

 

 

それもそれでびっくりだよ!

 

あ、ちなみにゆりが俺のこと「篠宮くん」って呼んでるけど、公私の混合はしないという理由でみんなの前では苗字で呼ぶらしいです。

 

それよりも。

 

 

「風の力って何!?」

 

「その辺は今度やる時の楽しみにしときなさい。それより、本題に戻るわよ」

 

 

今度って…そんな物騒なオペレーションちょくちょくやってんのかよ……。

 

 

「岩沢さん、改めてバラードはちょっとダメね。しんみり聴き入っちゃったら私たちが派手に立ち振る舞えないじゃない」

 

「そ、じゃあボツね」

 

 

ゆりの言うことも尤もだが、そんな簡単に新曲をボツにしてもいいのだろうか。

 

 

「それじゃ気を取り直して総員に通達する。音無くん、カーテン閉めて」

 

 

そうこう思っているうちに新しい説明があるようだ。

 

ゆりの後ろの巨大なモニターが光始めた。

 

 

「今回のオペレーションは天使エリア侵入作戦のリベンジを行う。決行は3日後」

 

「「「「「おぉ〜」」」」」

 

 

周りから感嘆の声が漏れる。

 

 

「その作戦ですか……」

 

 

あまり乗り気では無い様子の高松。

 

 

「ですが、前回は……」

 

 

そこまで言ったところでゆりに止められた。

 

 

「今回は、彼が作戦に同行する」

 

 

そう言って椅子を少し移動させると後ろから小柄なメガネをかけた少年が現れた。

 

 

「よろしく」

 

 

無表情で平坦に挨拶をする。

 

 

「椅子の後ろから!?」

 

「メガネ被り……」

 

「ゆりっぺ、なんの冗談だ?」

 

「そんな青瓢箪が使いもんになるのかよ」

 

 

相対的にこちらは全員動揺を隠せ無いようだ。

 

それと、高松。それはいまはいいだろ。

 

 

「まあまあ、そう言わ無いでくれる?」

 

 

ゆりは笑顔のまま表情を変えない。よほどこの少年を信用しているのか。

 

 

「っはぁ!なら、試してやろう!」

 

 

野田がハルバートを少年に向けるも、少年はビクともしない。

 

 

「お前、友達いないだろ」

 

 

音無、ナイス突っ込み。

 

 

「ふっ…」

 

 

少年が微笑む。と、そのとき。

 

 

「3.1415926535897932384626433832795028841971……」

 

 

円周率を唱え始めた。

 

懐かしいなー。たしかその続きは693993751058209749445923078164だっけ?

 

なんかふざけ半分で見てたら結構覚えたんだよな、これ。

 

ここで野田を見てみよう。

 

 

「ぐっ……ぐぅぅあぁ…やめろお!」

 

 

なぜか床でのたうち回っている。

 

 

「まさか円周率だとぉー!?」

 

「メガネ被り…」

 

「やめて!その人はアホなんだ!」

 

 

いやいやいや、アホにしても限度があるでしょ。

 

あと高松、後でじっくり話し合え。

 

 

「そう、私たちの弱点はアホなこと」

 

 

あ、認めるんっすか。リーダー認めちゃうんっすか。

 

 

「リーダーが言うなよ…」

 

 

ほら、音無も同意見。

 

 

「前回の侵入作戦では我々の頭脳の至らなさを露呈してしまった」

 

 

なにそれ超気になる。

 

 

「しかし!今回は天才ハッカーの名を欲しいままにした彼、ハンドルネーム竹山くんを作戦チームに登用。エリアの調査を念密に行う」

 

「…いまのは本名なのでは…?」

 

「僕のことは……クライストとお呼びください」

 

 

最高の決め顏をする竹山。

 

しかし、あれは本名だったな。ハンドルネームが竹山で本名がクライストなんて有り得ないし。

 

 

「ははは…」

 

「見ろ……かっこいいハンドルが台無しだ…さすがゆりっぺだぜ…」

 

 

ああ、さすがゆりだ。

 

 

「で?天使エリアっていうのは?」

 

 

そう、そこ。俺と音無はわかっていない。

 

 

「天使の住処だ」

 

「「天使の住処?」」

 

 

俺と音無の声が被った。

 

天使のことだから空に浮かぶお城にでも住んでいるのだろうか?

 

……そんなわけないか。

 

 

「中枢はコンピュータで制御されてるんだよ」

 

「「えぇ?!機械仕掛け(か)!?」」

 

 

またも被った。

 

天使のことだからなんか動くお城にでも住んでいるのだろうか?

 

んなわけねーな。

 

 

「そのどこかに神に通じる手段があるの」

 

「それはとんでもない作戦だ!」

 

「2度目ということもある。あっちも前以上に警戒しているはずよ。ガルデモには一丁、派手にやってもらわないとね」

 

「ん、了解」

 

「え〜っと、俺はどうすれば?」

 

「太一くんは今回はガルデモの護衛に回って頂戴。ステージに上げたいのは山々だけど、いかんせん今回は作戦が作戦だから失敗は許されないわ。もし篠宮くんが上がってNPCたちが動揺してライブが盛り上がらないなんてなれば困るもの」

 

「オッケー、了解」

 

 

そうだよね、今回の作戦は相当重要なものだもんね。

 

雅美もちょっと残念そうだけど納得したような顔してるし。

 

 

「よし、それじゃあ解散!」

 

「Get Chance&Luck!!」

 

 

TK、なんでこのタイミングで入ってきた。

 

 

「太一、行こっか」

 

「うん」

 

 

各々が校長室から出て行く。

 

俺と雅美もそれに乗ろうとした時。

 

 

「待て」

 

「椎名?」

 

 

椎名に止められた。

 

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと話がある。岩沢、篠宮を借りていいか?」

 

「あ、ああ…別に構わないけど」

 

「よし、行くぞ」

 

「え?ちょ…行くってどこに!?」

 

「私は先に教室に戻ってるからなー!」

 

 

そして椎名に腕を引っ張られながらどこかへ連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、到着したようだ。

 

 

「……ここは?」

 

「体育館裏だ。人目につかなくていいだろ?」

 

 

確かに人目につかない。でもなんでこんなところに?

 

そう思った矢先、椎名が草陰からダンボールを取り出した。

 

 

「これだ」

 

「っ!?こ、これは!?」

 

「にゃー」

 

 

そこに入っていたのは猫だった。

 

 

「か、可愛いいいぃぃぃぃ!どうしたの!?この猫!」

 

「先週あたりにこの辺を歩いていたら偶々見つけたんだ」

 

 

まあそうでしょうね。そんな感じだとは思ってましたよ。

 

 

「へぇ…この世界にも動物はいるんだね」

 

「いや、それなんだが…」

 

「どうしたの?」

 

「私も長いことこの世界にいるが動物を見たのは初めてだ」

 

「え?じゃあ本来はこの世界に動物なんていないってこと?」

 

 

その問いかけに椎名はこくりと頷いた。

 

なるほど、この猫はイレギュラーな存在だってことか。

 

さて、この猫を改めて見てみよう。

 

毛の長さは短く、色は白をベースとして後は茶色と黒で構成されている。

 

 

「三毛猫だね」

 

「ほう、この猫はみけねこというのか」

 

「うん。3色の毛が生えてるから三毛猫。単純でしょ?」

 

「確かに見た目通りの名前だな」

 

 

再びダンボールの中にいる三毛猫に目を向け、手を伸ばしてみる。

 

かなり怯えているようだが、こんなことはいつも通りだ。

 

みんな本能的に勝てないと悟っているのかこんな感じだ。

 

 

「その…篠宮。相当怯えられているようだが?」

 

「大丈夫大丈夫。すぐに懐くから」

 

 

そう、すぐに懐く。

 

ものの5分もあれば懐く。

 

ほーら、怖くないよー。と言いつつ猫を抱きかかえ、5分待つ。

 

ほら、足の震えとかおさまった。

 

「にゃー」と、俺に向かって文字通りの猫なで声を出してくる。

 

 

「…本当に懐いたんだな」

 

「ね?」

 

 

なんか椎名が羨ましそうな目線を送ってくる。

 

 

「抱いてみる?」

 

「い、良いのか!?」

 

「もちろん」

 

 

そう言って椎名に猫を手渡そうとする。

 

 

「にゃ!にゃ!にゃ!」

 

 

足をジタバタさせて嫌がる猫。

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

椎名に手渡すのをやめ、再び俺の腕の中に戻す。

 

 

「にゃ〜♪」

 

「……」

 

 

猫の機嫌と反比例する椎名の機嫌。

 

俺と三毛猫を見る視線は羨ましさと悔しさが混ざっている。

 

 

「ま、まあ、ほら。だんだん懐くと思うよ?」

 

「篠宮は出会って5分で懐いたのにか?」

 

「俺は昔から懐かれやすかったんだよ」

 

 

納得がいっていない様子だ。

 

まあそれはそうだろう。

 

少なくとも椎名は俺よりも前にこの猫に出会っていた。

 

恐らくだが、水やら餌やらもあげたことだろう。

 

それなのに出会って10分も経っていない俺に懐いて自分は懐かれない。

 

確かに猫は気まぐれと言えども理不尽ではある。

 

 

「ほら、お前を助けてくれたんだからお礼くらいは言わないと」

 

「…ナ〜…」

 

 

うっわ、すっげえ渋々って感じだ。

 

 

「一応お礼は言ってるみたいだよ?」

 

「そうか…毎日土手煮をやってたのにその程度か……」

 

 

ん?いまなんて?毎日土手煮?

 

 

「ど、土手煮って…?」

 

「知らないのか?牛すじ肉を味噌やみりんで長時間煮込んだものだ」

 

「いや、それは知ってるけど…なんで土手煮なんかあげてたの?」

 

「犬も土手煮を食べる。だから猫も食べると思ってだな」

 

 

いやいやいやいやいやいやいや。食べないってわけじゃないけど、動物にあげるには味が濃すぎるよ、土手煮。

 

 

「椎名、多分懐かれないのは土手煮を食べさせ続けたからだよ」

 

「そ、そうなのか!?」

 

 

なんで心底驚いたって感じなんですかね。

 

 

「まさか、その土手煮にネギは入っていないよね?」

 

「上に添えてある程度だが……」

 

 

あ、わかりました。懐かれない原因それです。

 

 

「椎名、今後猫に餌やるの禁止」

 

「っ!?なぜ!?」

 

「猫にネギあげたら死んじゃうんだよ。この世界は死んでも生き返るけど、死ぬ苦しみは味わうからね」

 

「そ、そうなのか……」

 

 

相当落ち込んでいる。

 

助けようと思ってやっていたことが実は猫を苦しめていたなんてなれば俺だって落ち込む。

 

 

「すまなかった…本当に申し訳ない……」

 

「にゃ?」

 

 

猫に向かって深々と頭を下げている。

 

猫もちょっと驚いた様子だ。

 

うんうん、そうやってちょっとずつでも距離が縮まっていけば良いんだよ。

 

 

「今度からはネギの入ってない土手煮にするからな…」

 

 

違う、そうじゃない。

 

いや、そうなんだけど土手煮じゃない。

 

どうやら猫と椎名が分かり合うのはもう少し先なようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって渡り廊下。

 

いつもの空き教室に向う途中、なにやら音無がピンク色の髪の毛をした背の低い女の子に絡まれている。

 

 

「それでそれでー!ガルデモっていうのはー!」

 

「………」

 

 

音無、明らかに面倒臭そうな顔してるな。

 

ふと壁を見ると3日後の体育館ライブのチラシが貼ってある。

 

恐らくあのピンク髪の子が貼ったものだろう。

 

 

「それでですね!最近新しい人が加入したみたいなんですよ!」

 

 

おっと、俺のことだ。

 

 

「その人、この世界に来て僅か数時間で入ったらしいんですよ!さらには男!ガールズバンドなのに男ってって思うじゃないですか!それが私の勝手な思い込みだったみたいで、滅茶苦茶良いんですよ!特に岩沢先輩との兼ね合い!昔から一緒にやってたんじゃ無いかってくらい息ぴったりなんですよ!」

 

 

おお、めっちゃ褒めてくれてる。

 

なんだか照れくさい……っていうかいつ聴いたんだ?

 

 

「残念ながら今回のライブには参加しないみたいなんですが、早く私もステージに上がってるところを見てみたいで……おおっ!?」

 

 

この瞬間、ピンク髪の女の子と目が合った。

 

 

「ん?どうし…おう、篠宮。こんなところでなにやってんだ?」

 

 

音無もこちらに気付いた。

 

 

「あ、あなたはガルデモの新メンバー!」

 

 

なんかテンションさらに上がったっぽいぞ。

 

 

「サインしてください!ついでに頭とか身体中いろんなところ撫で回してください!」

 

 

おいおい、そりゃあまずいんじゃ無いか?

 

 

「えっと…とりあえず一旦落ち着こっか」

 

「はい!」

 

 

尚もまだ興奮気味のようだが、とりあえずはお口が止まったので良しとしよう。

 

 

「えっと、君の名前は?」

 

「はい!ユイって言います!宜しくお願いします!」

 

 

深々と勢いよく頭を下げてくる。

 

 

「音無、この子何者?」

 

「ガルデモの下っ端らしいぞ」

 

「はい!今はポスター貼ったりとか準備を手伝ったりしています!」

 

 

へぇ、そんな人員もいるのか。

 

 

「いつもお世話になっています」

 

 

俺たちがいつも活動できているのはこういうサポートをしてくれている人々のお陰だ。

 

最低限お礼くらいは言っておかないとね。

 

 

「い、いえいえ!頭を上げてください!私も好きでやってることなんで!」

 

 

ユイが慌てた様子だ。

 

 

「それに、私も大好きなガルデモの近くで活動できてるんで、win-winってやつですよ!」

 

「そ、そう?それじゃあこれからもよろしくね」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

いくらwin-winって言えども、いつもお世話になってるんだからなにかお礼くらいはしたいよね。

 

なにがいいんだろうか……。そうだ。

 

 

「このあと練習に行くんだけど、一緒に来る?」

 

「え!?良いんですか!?」

 

「多分大丈夫だと思うよ。それに、みんなにも紹介しておきたいし」

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせていただきます!」

 

 

すんごい喜んでくれた。

 

ガルデモのファンって言ってたし、多分このお礼が一番だろう。

 

 

「音無も来る?」

 

「俺は……どうしようかな」

 

 

なんだか迷っているようだ。

 

 

「この後日向と一緒に訓練をする約束をしていてな、そっちに行かなきゃならないんだ」

 

 

行けないという主旨を俺に伝える音無。

 

まあ、先約があるなら仕方ないよね。

 

 

「オッケー、了解。また時間があるときにいつでも来てよ」

 

「おう!そのときはよろしく頼む」

 

 

そう言いながら俺たちと音無は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜楽しみです!憧れのガルデモの練習風景を見れるなんて!」

 

「今まで見たことなかったの?」

 

「私なんかが見て良いのかなーって思ってまして…」

 

「そんなに遠慮すること無いよ。多分ファンが見てるってなったら雅美たちも喜ぶと思うよ」

 

「ほ、本当ですか!?なら私24時間365日見てます!」

 

 

極端な子だ。

 

 

「さすがにそれはちょっと迷惑じゃ無いかな……」

 

「じゃあ遊佐先輩に頼んで随時最新情報をお伝えしてもらいます!」

 

「実現しそうだから遊佐に頼むのはやめて」

 

 

と、若干の恐怖が残る雑談をしていると、いつもの空き教室が見えてきた。

 

中からは聴き覚えの無い曲が流れてくる。

 

恐らく昨日も作っていた新曲だろう。

 

 

「わぁ〜!新曲ですねー!なんて曲なんですか?」

 

「俺も初めて聴いたからわかんないな」

 

「じゃ、じゃあこの曲はメンバーにも今日初披露……」

 

 

目が半端じゃなくキラキラしている。

 

 

「先輩!早く入りましょう!こんな特ダネ逃せませんよ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

ユイの腕を掴んで止める。

 

 

「なんで止めるんですか!」

 

「もうすぐ休憩に入ると思うからそのときになったら入ろうよ」

 

「えー……」

 

 

ジト目をするな、ジト目を。

 

 

「演奏中に入っちゃったらみんなに迷惑だよ?」

 

「うぐっ…」

 

「それに今回の作戦は特に重要なんでしょ?いま邪魔したせいで演奏が上手くいかなくて陽動に失敗したなんてなったら……」

 

「ひゃああああ!わ、わかりました!待ちましょう!」

 

 

多分こんなことじゃ失敗はしないけどね。

 

しかし、今やってるのは新曲。

 

万が一…いや、億が一という可能性がある。

 

少しでも集中させるべきだろう。

 

 

「それにしても本当にいいですね〜この新曲。あ、いや!ガルデモの曲は全部いい曲ですよ!?」

 

 

いや別に何も否定してないけど…。

 

 

「女の子だけであの演奏力!そして何と言ってもボーカル&ギターの岩沢さんの存在感!」

 

 

あれ?なんかスイッチ入った?

 

 

「作詞作曲までしちゃうんです!」

 

 

知ってますよ。幼馴染ですから。

 

ついでに嫁ですから。

 

 

「私のお気に入りはCrow Song!サビの転調がですね!思い切りが良くていいんですよ!」

 

「あ!わかる!あそこ超良いよね!」

 

 

ついでに俺もスイッチが入った。

 

 

「ですよねー!さすが先輩です!話がわかりますね!」

 

「いやー、初めて雅美が歌ってるのを聴いた時は鳥肌立ったよ!」

 

「私もあのフレーズを聴いた瞬間に一目惚れしましたよ!あれ?一目?一耳?まあいいや!」

 

 

え?会話の内容が薄っぺらいって?

 

チッチッチッ……フッ……。

 

俺に専門知識を求めるなよ!

 

そんなこんなでユイとガルデモトークをしていると、あっという間に休憩時間になっていた。

 

 

「本当、入江先輩と関根先輩も凄いですよねー……っと、先輩、中から音聴こえてこないんですけど、休憩に入ってません?」

 

「え?あ、本当だ。入ろっか」

 

「はい!」

 

 

ドアに手をかけてスライドさせる。

 

 

「お、太一……とユイ?」

 

「はい!ユイ……って!岩沢先輩私のこと知ってるんですか!?」

 

「ああ、知ってるぞ。なあ?ひさ子」

 

「もちろん知ってるさ」

 

「ひさ子先輩まで!」

 

 

おっと、意外とメンバーからは知られているようだ。

 

 

「私たちも知ってるよ!ね?みゆきち!」

 

「う、うん!」

 

「関根先輩に入江先輩まで……!」

 

 

どうでもいいけど、なんかあの二人に「先輩」って違和感あるな。

 

 

「いつも裏で頑張ってくれてるんだろ?知っていて当然さ」

 

「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございます!」

 

 

勢い良く、且つ、深々と頭をさげるユイ。

 

 

「お礼を言うのはこっちの方だ。いつもありがとうな、ユイ」

 

 

ひさ子がガルデモを代表してユイにお礼を述べる。

 

 

「い、いえいえ!私も好きでやってることなんで!そんなお礼とか……」

 

「遠慮すんなって。……そうだな、なんかやって欲しいこととかあるか?私たちにできることならやるぜ」

 

「ほ、本当ですか!?じゃ、じゃあ……皆さんとセッション……してみたいな〜…なんて……」

 

 

若干控えめに言うユイ。

 

大事なライブを控えてのこのお願いだ。ユイの性格を持ってしても気が引けるのだろう。

 

しかし。

 

 

「おう、そんなもんでいいならいいぞ。な?岩沢」

 

「ああ、私も前々から一緒にやってみたいと思ってたんだ」

 

「ん?前々から?どういうこと?」

 

 

ちょっとその言葉が気になって俺は口を挟んだ。

 

 

「駐車場があるだろ?ユイはそこでストリートライブをやってるんだ」

 

「えぇ!?岩沢先輩知ってたんですか!?」

 

 

ユイの目が大きく開く。

 

 

「ああ、初心を忘れそうになったらよく聴きに行ってるよ」

 

「ほ、ほ、ほ、本当ですか!?」

 

 

ユイの顔が真っ赤になる。

 

 

「私も岩沢に連れられて時々行ってるぞ」

 

「〜〜〜〜!!!」

 

 

ユイの口から言葉にならない声が出る。

 

なんか、忙しいな。ユイ。

 

 

「ま、そんな話はあとからいくらでもできる。今はセッションしようぜ」

 

「っ!は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえーい!みんなー!盛り上がってるかい!?いえー…グえっ!」

 

「「「「「!!??」」」」」

 

 

2曲目の演奏を終えた後、謎のパフォーマンスをしたユイが突然首吊り状態となった。

 

流石の雅美も驚いた表情をしている。

 

 

「ロックだ……」

 

「どちらかといったらデスメタルだろ」

 

「本当に死んじゃってますけどね」

 

「いやいや!そんな呑気に話してる場合じゃ無いでしょ!」

 

 

なぜか冷静な3人を放っておいて、俺と入江でユイの救出にあたる。

 

絡まったコードを解いた瞬間に床に倒れこむユイ。

 

 

「うぅ……」

 

 

アクセサリーの尻尾がピクピクしてる。

 

……どういう仕組み?

 

 

「よし、ユイ。採用」

 

「ええええええええぇぇぇぇぇぇ!?な、なんでですか!?」

 

「何処に採用する要素があったんだよ!?」

 

 

伸びているユイを横目に雅美がユイをガルデモメンバーに加えた。

 

 

「なんか…こう…なんか感じたんだよ!」

 

 

ジェスチャー交じりに説明してくるが俺たちには全く伝わらない。

 

ただ伝わることと言ったらユイをメンバーに加えたいという意思だけ。

 

 

「と、とりあえず本人とゆりに確認しなきゃいけないんじゃない?」

 

「それもそうだな。よし、太一、伝えといてくれ」

 

「お、俺?」

 

「ああ、私たちはそろそろ練習に戻んなくちゃいけなくてさ。お願いできない?」

 

 

そういえば忘れてたけど、今は3日後に控えた大事な作戦の練習中だ。

 

確かにユイが目覚めるまで待っている時間は無い。

 

 

「な?」

 

 

なんだこの可愛いの。

 

そんなウィンクをして両手を合わせながらお願いされたら断れないじゃ無いか。

 

 

「はぁ…わかったよ」

 

「ありがとう太一〜!」

 

 

抱きつきながらキスをしてくる雅美。

 

 

「はいはい、それくらいにして練習再開するぞー」

 

 

それを引き剥がすひさ子。

 

 

「ごめんな太一、手間掛けさせちゃって。岩沢のやつ言い出したら聞かなくてさ」

 

 

ひさ子が小声で話しかけてくる。

 

 

「うん、知ってる」

 

「太一の方が付き合い長いもんな」

 

「おいひさ子。なに太一とこそこそ話してるんだ?」

 

「なんでもねーよ。じゃ、よろしく」

 

 

ひさ子からも頬にキスを貰う。

 

 

「じゃあ私からも!」

 

 

しおりからも頬にキス。

 

いや、しおりに関しては結構謎だわ。

 

 

「じゃ、また夕飯の時間になー…っと、そうだ」

 

「どうした?」

 

 

ユイをおぶりながら部屋を出ようとしたが、一つ忘れていた。

 

 

「雅美、俺たちが来る前に練習してた曲の名前ってなに?」

 

「ああ、あれか?『Million Star』っていう曲だよ」

 

 

Million Starか…ユイが目覚めたら教えないとな。

 

 

「オッケーありがとう。じゃ、練習頑張ってね」

 

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ユイをおぶったは良いけど……何処へ行くのが最適なんだろうか。

 

俺の部屋?いや、彼女でも無いのに無闇に入れるのは気が引ける。

 

ユイの部屋?そもそも知らないし入るのはさらに気が引ける。

 

食堂?どこに寝かしつければ良いのか……。

 

どうしようかと悩んでいたところへ。

 

 

「お困りのようですね、篠宮さん」

 

「うわぁ!?ゆ、遊佐!?」

 

「はい、遊佐です」

 

 

びっくりしたなー…気配もなく現れるなよ……。

 

 

「校長室」

 

「ん?」

 

「校長室に行けば全部解決しますよ」

 

 

確かに校長室にはソファーもある…それにゆりもいるから報告しやすい……。

 

ナイス遊佐!……って

 

 

「なんで俺が何に悩んでるか知ってるの!?」

 

「オペレーターですから」

 

「いやいや、オペレーターの域超えてるから、それ」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

 

まあ、そこはご自由に。

 

さて、遊佐にアドバイスを貰った通りユイをおぶりながら校長室へと向かう。

 

どうでも良いけど、ほんと軽いな。

 

ちゃんとご飯食べてるのか?

 

そんなことを考えていると校長室に着いた。

 

 

「神も仏も天使もなし」

 

 

合言葉を言った後、ガチャりとドアを開ける。

 

どうでもいいが、以前俺が壊してしまったトラップは修復されたようだ。

 

 

「あら太一くん!いらっしゃい!」

 

 

満面の笑みで迎えてくれるゆり。

 

下の名前で呼ぶということは現在はオフモードなのだろう。

 

 

「あれ?ユイ?どうしたの?」

 

 

俺の背中を指差して言う。

 

 

「ちょっと色々あってさ、ここのソファーで寝かせさせてあげてよ」

 

「ふーん。ま、いいわよ」

 

「ありがと」

 

 

ユイを背中から降ろし、仰向けにしてソファーに寝かしつける。

 

 

「さて、色々あっての『色々』を詳しく聞かせてくれるかしら?」

 

「えーっと、まず最初に、猫を飼うことになりました」

 

「はあ?」

 

 

そうなりますよね。

 

 

「椎名が拾ったんだよ、猫」

 

「この世界に猫……?」

 

 

初めての事態に困惑しているようだ。

 

 

「命あるものはこの世界では生まれない……ということはその猫もこの世界にやってきた……?」

 

 

うんうん考えているゆり。

 

 

「太一くん、ちょっとその猫のところまで案内してくれないかしら?」

 

「いいけど、ちょっと待ってくれる?」

 

「どうしたの?」

 

「雅美がユイをガルデモに入れたいって言うんだけど……」

 

「あー、いいわよ。それよりも猫のところに早く行きましょ」

 

 

ユイの件、軽くあしらわれちゃったよ。

 

珍しくゆりが深く考えずに決断してるよ。

 

 

「一応ユイに教えなきゃいけないから目が覚めるまで……」

 

「そんなの置き手紙でもしとけばいいわよ。えーっと…ちょっと待ってなさい」

 

 

ガサゴソと机の中から比較的大きめの紙とマジックを取り出す。

 

 

「これでいいでしょ」

 

 

紙を覗き込んでみると「ガルデモ加入決定」と大きく書かれていた。

 

それをセロハンテープでユイのおでこに貼り付けた。

 

 

「さ、行くわよ!」

 

 

完全に猫>>>>>>ユイの様だ。

 

ユイが目覚めてこの紙を見たらどう思うだろうか。

 

…………。

 

 

「ま、いっか。行こうか」

 

「ええ!行きましょ行きましょ!」

 

 

なんか面倒くさくなって考えるのやめちゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ〜」

 

「かわいい〜!」

 

 

猫現場に到着。

 

ゆりが目をキラッキラさせている。

 

 

「ねえ太一くん!触っていい?触っていい?」

 

 

それ俺に訊く?と思いつつも頷く。

 

 

「うわー!毛並み綺麗〜!」

 

 

すんげーテンション上がってるな。

 

 

「ほら、おいで」

 

「にゃ♪」

 

 

俺が両手を出すと、すぐさま猫が乗ってきた。

 

そしてそのまま抱きかかえる。

 

ゴロゴロ〜と俺の腕の中で喉を鳴らす猫。

 

その光景をゆりが羨ましそうに見ていた。

 

 

「猫、好きなの?」

 

「え?ええ…まあ」

 

「もしかして、なんでこの世界に猫がいるのか調査しに来たより、ただただ猫と戯れに来ただけ?」

 

「ギクゥ!ち、違うわよ!」

 

 

目が泳いで本当の目的がバレバレだ。

 

 

「はいはい、今は咎める人はいないから自由に戯れていいよ」

 

 

そう言ってゆりに猫を手渡す。

 

 

「ほ、ほんと!?わぁ〜♪」

 

「にゃ♪」

 

「かわいいいいぃぃぃ〜〜〜!!」

 

 

お、ゆりも中々懐かれてるな。

 

 

「ねぇ、名前なんていうの?」

 

「え?名前……そういえばまだ決めてなかった……」

 

 

一番重要なの忘れてたよ。

 

 

「椎名さんはなんて呼んでたのかしら?」

 

「いや、特になんとも呼んでなかった気がする」

 

「ふ〜ん……じゃあ今決めて頂戴」

 

「え?今?」

 

「そうよ。名前がないと困るじゃない。ねー?」

 

「にゃ〜」

 

 

ゆりが猫に話しかけると、猫も同調した様子だ。

 

 

「そんな急に言われても……」

 

 

名前なんてパッと思い浮かぶもんじゃないし……。

 

 

「……ちょっと時間もらえる?」

 

「いいわよ。その間私は猫ちゃんと遊んでるから」

 

 

ただ遊びたいだけじゃ……。

 

いや、そんなことはない。我らがリーダー様がただただ猫と遊びたいだけで部下に命令するなんてことは……。

 

 

「よしよーし♪」

 

「ナ〜」

 

 

あるんだよなぁ……。

 

まあいい、それよりも名前を考えよう。

 

体格は普通に三毛猫だ。

 

太くも細くもない本当にちょうどいいやつ。

 

どっかの出版社で図鑑に採用されそうなやつ。

 

でも顔は超かわいい。

 

いや、かわいいというより美人系かな?

 

キリッとした目元に少し高い鼻、それらに対して均衡のとれた口。

 

どれをとっても完璧だ。

 

性格は……人懐っこい……のか?

 

俺は特段動物に懐かれるからなぁ……わかんないや。

 

でも頭はいいみたい。なんかこっちの言ってること理解しているみたいだし。

 

 

「お手!」

 

「にゃ」

 

 

ほら。

 

違う。

 

 

「なにしてるの?」

 

「芸を仕込んでるのだけど?」

 

 

さも当たり前みたいに言われても。

 

 

「猫って普通芸とか教えない……」

 

「でもこの子はどんどん覚えるわよ?」

 

「にゃ!」

 

 

すげえな猫。めっちゃ頭いいな。

 

野田と対決させたら勝つんじゃないか?

 

おっと、それより名前名前。

 

ん〜……。難しい。

 

この猫が発見されたのは桜の木の下……。

 

……もうサクラでいいかな?

 

特徴とか色々観察したりしたけど、そんな捻った名前なんてつけられない。

 

ならば安直な名前でも良いのではないか。

 

 

「ゆり、サクラっていうのはどう?」

 

「サクラ?なんで?」

 

「見つかった時、サクラの木の下にいたからだよ」

 

「随分安直ねえ……ま、いいんじゃない。変な名前でもないし。むしろ良い名前ね」

 

 

よかった。ゆりも気に入ってくれたし、こいつの名前は「サクラ」で決定だ。

 

 

「よーし、お前の名前はサクラだ!」

 

「にゃ!」

 

 

どうやら本猫も気に入ってくれたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

「ん…う〜ん?ここは……ん?この紙……」

 

 

《ガルデモ加入決定》

 

 

「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」

 

 

校長室に驚嘆の声が響いた。

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