岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第二十二話「球技大会(後編)」

前回のあらすじ:生徒会チーム登場でピンチになった。

 

 

日向とユイの茶番が終わって俺たちは生徒会チームの偵察へと来ていた。

 

偵察といってもただ試合を観戦するだけなんだけどね。

 

なんか、そういったほうがかっこいいじゃん?

 

 

「ひゃ〜…やっぱ本物の野球部は格が違いますね…」

 

「ああ、こりゃ厳しい戦いになりそうだ…」

 

 

高松のチームとの対戦を見ているが、全く歯が立っていない。

 

もちろん高松のチームがだ。

 

ピッチャーはなかなかの逸材のように思えるが所詮素人。

 

普段から訓練している相手にはバカスカ打たれてる。

 

結局3回でコールドゲームとなってしまった。

 

 

「とりあえず何か策を考えねえとまずいな」

 

 

この様子を見て俺たちは急遽作戦会議を始めた。

 

 

「多分俺がピッチャーやったら打たれると思うぞ」

 

「あんまりはっきりは言いたくねえが……そうなるだろうな」

 

「太一が投げるのはだめなのか?」

 

「篠宮なら打たれねえと思うが……取れるキャッチャーがいねえとな」

 

「打たれないんだったらミス前提で配置しちゃだめなんですか?」

 

「振り逃げっていうのがあってだな、ミスが重なると最悪相手に点が入っちまう」

 

「っていうか日向がキャッチャーやったらどうなんだよ」

 

「いくら元野球部でも目視がやっとの球なんて怖えよ……」

 

「日向さ、構えたところに必ず来るなら怖くない?」

 

「そんならまあ少しはマシだけどよ」

 

「それじゃあ俺ピッチャーやるよ。日向が構えたところに投げるから」

 

「え?お前そんなことできんのか?」

 

「うん、できるよ」

 

 

目に見えるように投げるってことは結構力をセーブして投げてるってことだ。

 

置きにいっているようなものなのでコントロールすることは容易い。

 

 

「多分口だけじゃあれだから、ちょっと練習させてもらってもいい?」

 

「ああ、できるならそうしてくれたほうが助かるぜ」

 

 

そう言って俺と日向は人気の少ないグラウンドの端っこに向かった。

 

幸いにも今大会はトーナメント戦で俺たちのチームに回って来るまでに少し時間がある。

 

他の7人には休憩を取って貰いつつイメージトレーニングに励んでもらっている。

 

さてさて、それでは本題の俺と日向のバッテリーだ。

 

おおよその距離を測り日向が構える。

 

が、明らかに腰が引けている。

 

いつでも逃げる準備は万端なようだ。

 

 

「ひ、日向。大丈夫だって。俺を信じてみて」

 

「信じてはいるんだけどよ……その、やっぱり生物に備わっている防衛本能ってやつがどうしても邪魔をして……」

 

 

まあ無理はない。

 

かと言ってそれを受け入れるわけにもいかない。

 

ここで取れる最善の策は一つ、完璧なコントロールをして日向を安心させることだ。

 

 

「んじゃいくよー」

 

「お、おう!来い!」

 

 

セットポジションを取り、完全に静止してから振りかぶる。

 

いま意識することはただ一つ、日向の構えているところにボールを放り込むだけだ。

 

指先からボールが離れたと思った次の瞬間、日向のキャッチャーミットからパァンという音が聞こえた。

 

 

「いってええええぇぇ!」

 

「だ、大丈夫!?」

 

 

思わず日向のところへ駆け寄った。

 

 

「大丈夫だ……多分」

 

「ほ、本当に?」

 

「ああ、それよりも、お前すげえな!ちゃんと構えたところに来たぜ!」

 

 

まだ痛いのか若干顔が引きつっている。

 

 

「ま、偶然かもしれねえからまだまだやってみねえとな」

 

「そうだね。もうちょっとやろうか」

 

「ああ、その前にちょっと買い出し行って来てもいいか?」

 

「買い出し?」

 

「キャッチャー用の手袋だよ。あれがなきゃ多分途中で骨が折れちまう」

 

「あ、そういうことね。……っていうかそんなの売ってるの?」

 

「この学校の購買部をなめちゃいけねえぜ。生前の思い出になりそうなものはなんでも揃ってやがる」

 

 

なんだと……白濁入浴剤で驚いている場合ではなかったのか……。

 

 

「ってなわけでちょっくら買って来るわ」

 

「あ、いいよいいよ、俺買って来るよ。そっちの方が絶対早いし」

 

「お?そうか?じゃあちょっくら頼むわ」

 

「了解」

 

 

とりあえず購買部の方へ向かって走り出した。

 

あれ?商品名って「キャッチャー用の手袋」でいいの?

 

まあ購買部のおばちゃんに聞けばわかるか。

 

そんなこんなで購買部に到着。

 

Q.キャッチャー用の手袋はありますか?

 

A.ありません。

 

 

「だってさ」

 

「だってさじゃねえよ!なんで無えんだよ!」

 

「球技大会でテンション上がったNPCがいっぱい買っちゃって在庫がないみたい」

 

「ガッデムっ!!」

 

 

頭をかかえる日向。

 

 

「篠宮…お前寸分狂わず球投げれるんだよな?」

 

「うん」

 

「じゃあ投げる時は手の平から少し外して投げてくれ」

 

「というと?」

 

「こう……こう構えているところのここに投げて来れってことだ」

 

 

言葉ではうまく伝わらないところを実践で教えてくれた。

 

 

「ああ、そこらへんね、了解」

 

 

どこだよってツッコミは今は無しにしようじゃないか。

 

 

「うっし、もうちょっと投げるか?」

 

「もうちょっとやろっか。とりあえず軽く肩慣らすくらいで」

 

「お前の肩慣らしプロの1軍選手並みだもんなぁ」

 

 

苦笑いをこぼす。

 

 

「まぁまぁ、頼むよ…っと」

 

 

パシィッ!と大きな音がキャッチャーミットから響き渡る。

 

その後も20球ほど投球練習をして、完璧に狙い通り投げられるということの確認が取れた。

 

 

「お前すっげぇな……。もうなんていうか……チートだチート」

 

「たはは……うまく活用すれば便利だからね、この力」

 

「じゃあうまく活用して次の試合絶対勝とうぜ!俺も全力でお前の球を受け止めてみせる!」

 

「あ、ああ!絶対勝とう!」

 

 

ガチッと腕と腕をぶつけ合わせる。

 

そして肩を組んでくる。

 

これはもしかして……。

 

 

「お前コレなのか……?」

 

「ちげーよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これに勝てばほぼ優勝は間違いねぇ……」

 

 

俺たちは全員で円陣になっている。

 

 

「逆に負ければ死よりも恐ろしい罰ゲームだ」

 

「お前らはな」

 

 

ひさ子さん、言わないであげてください。

 

 

「うぐっ……俺と音無と椎名っちはあるんだよ!」

 

「ゆりの罰ゲームなど朝飯前だ」

 

「だぁもう!とにかく負けらんねえんだよ!」

 

 

コクコクと音無も頷く。

 

 

「ま、私たちは負ける気なんてサラサラねえぜ?」

 

「そうですよ!ひなっち先輩の罰ゲームは見てみたいですが……」

 

「一言余計だ……」

 

「まあ私たちなら勝てるんじゃない?太一もいるし」

 

「そうですよね!太一先輩もいますし、安泰ですよ!」

 

「ま、雅美……しおり……そこまでプレッシャーかけないでくれ……」

 

「え?お前プレッシャーとかに弱いタイプなの?」

 

 

そうですよひさ子さん、意外と本番前は緊張するタイプなんだよ。

 

 

「まあ安心しろ。さっきの練習を見る限り大丈夫だ。リラックスリラックス」

 

「リラックス……リラックス……ふぅ……」

 

「よし、その調子だ」

 

 

ぶっちゃけこれでリラックスってできないよね。

 

人っていう字を手のひらに書いて3回飲むとかっていうのも絶対効かないし。

 

 

「安心してください。「日向チーム」でゆりっぺさんに報告しているので、負けても全責任は日向さんにいきます」

 

「うおっ!?びっくりしたぁ!」

 

「え?そうなの?」

 

「はい」

 

「じゃあ安心だね」

 

「ちょっと待てーーーーーい!」

 

「どうかしましたか?」

 

「なんで俺の責任になるんだよ!?」

 

「このチームのキャプテンは日向さんですから」

 

「キャプテン俺なのか!?」

 

「はい。日向さんが最初にメンバーを集め始めたので」

 

「まあ確かにキャプテンはひなっち先輩ですよね」

 

「お前も加勢してんじゃねぇよ!」

 

「イダダダダダダダダ!なんで私だけ〜!」

 

「こうなったら絶対負けらんねぇ!何が何でもボールを取る!篠宮!安心して投げろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレイボール!」

 

 

そんなこんなで試合が始まった。

 

正直ユイが関節技を決められてるのを見てリラックスできた。

 

なんか面白かったし。

 

さてさて、試合に集中しますか。

 

1回表相手の攻撃。

 

先頭打者を塁に出すのは好ましくない。

 

その後の流れに大きく影響が出かねないし。

 

日向が構えるのは…ど真ん中か。

 

狙いを定めて……投げる!

 

さっきの練習の時よりも大きな音がキャッチャーミットから響いた。

 

 

「は……?え……?」

 

 

相手チーム全員+審判の理解が追いついていないようだ。

 

相手チーム全員と言っても天使は動揺しているかわからない。

 

もともと無表情だし。

 

 

「審判さん、球はここにあるぜ?」

 

「す、ストライーク!」

 

「なんだよあれ!?打てるわけねえだろ!?」

 

 

バッターが叫ぶ。

 

 

「お前!なんかインチキしてんじゃねーのか!?」

 

「そうだそうだ!あんな球速おかしいだろ!」

 

 

相手のベンチからも怒号が飛ぶ。

 

 

「ターイム!キミ、ちょっと調べさせてもらうよ」

 

 

審判は試合を中断し、俺のいるマウンドに駆け寄ってきた。

 

なんだよ、まだ試合始まって1分も経ってないぞ。

 

 

「両手を上げて」

 

「はい」

 

 

腕や肩周りやその他諸々いろんなところを触って確かめられる。

 

ちょっとくすぐったい。

 

 

「ふむ……なにも異常なしか……。だとしたらなぜあんなに速い球を……?」

 

「あー、俺力だけは人より強いんですよ。日頃の鍛錬です」

 

「そうか」

 

 

そのまま定位置へと戻っていった。

 

 

「プレイ!」

 

「ちょっ、おい!おかしいだろ!」

 

 

バッターがまだ審判に抗議しているがそんなことは関係ない。

 

いまはもう試合が続行されている状態だ。

 

ちょっとずるいかもしれないがバッターがこちらを見ていない隙にボールを投げる。

 

 

「ストライーク!」

 

「卑怯だぞ!」

 

 

知ったことか。

 

プレイがかかってる状態でよそ見している方が悪いんだもんね。

 

次は……内角ギリギリか。

 

バッターにだけは絶対当てないように……それ!

 

 

「ひっ!」

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

 

さすがに野球部でも200キロくらいの内角ギリギリは怖いか。

 

こんな感じで初回は三者凡退に抑えることができた。

 

なんだ、案外いけるじゃん。

 

と、思ったが、問題はまだあった。

 

初戦のピッチャーは素人だったので、あんなにバカスカ点数を取れていたのは当たり前だ。

 

しかし、今回の相手は野球部、さっきまでの素人とはワケが違う。

 

おそらく打ち返せるのは元野球部の日向と圧倒的身体能力の椎名と俺くらいだろう。

 

もしかしたらワンチャンひさ子もいけるかもしれない。

 

……あれ?案外いけるんじゃね?

 

今試合の1番は椎名。

 

何が何でも先頭が出て相手のペースを乱してやろうと言う日向の作戦だ。

 

日向の思惑通り、椎名はとりあえずバットにボールを当てて出塁した。

 

さすがはくノ一、ゴロさえ転がせば出塁できるようだ。

 

続くひさ子は日向からの指示通り、送りバントを決めて椎名を2塁へと進めた。

 

1アウトで迎えた3番日向。

 

またもや謎のデッドボールを食らって出塁。

 

……こいつ何かに憑かれているのか?

 

そんなこんなで回ってきた1アウトランナー1、2塁でバッター俺。

 

いくら相手が野球部のエースだとしても俺からすれば止まったボールを打つのも同然だ。

 

自分で言うのもあれだが、予定通りボールは場外へと飛んで行った。

 

 

「ホームラン!」

 

「なんだあいつ……バケモンじゃねーか……」

 

「あんなやついたら勝てっこねぇよ!」

 

「このままじゃコールドゲームになっちまうぞ……」

 

「野球部としてそれはプライドが許さん!」

 

 

ダイヤモンドを一周して帰ってくると、生徒会チームのベンチが何やら騒がしい。

 

 

「おーおー、相手側は焦ってますねぇ」

 

「こっちには太一先輩と椎名先輩がいるって言うのに、勝とうって方が無謀なんだよ!」

 

「こらユイ関根!あんまり気を緩めるな!」

 

 

そうですとも、先制したからと言って気を緩めたら流れ持って行かれますよ。

 

 

「はぁ〜い……」

 

「わかりました……」

 

 

うんうん、二人とも反省しているようで何よりだ。

 

この後の打順は、5番音無。

 

野球部ピッチャーに必死に食らいつくが結果はキャッチャーフライで凡退。

 

そして2アウトで迎えた6番雅美。

 

こちらは手も足も出ず空振りで三振となってしい待った。

 

まぁ、これは仕方ない。

 

振って当たらないんだもの。

 

さてさて、ここで1回が終了した。

 

この時点でのスコアは生徒会チーム0点、日向チーム3点といった感じだ。

 

2回表、相手の打順は4番から。

 

4番なら普通いろいろと打たれないように工夫するものだが、今はその必要は無い。

 

1回の投球を見て少しビビっているのか、若干バッターボックスの外寄りに立っているんですもの。

 

あれじゃあ外角ギリギリに来たらバットが届かないよ。

 

そんなわけで日向は外角ギリギリに構えている。

 

罰ゲームかかってるからってガチすぎだろ……。

 

予想通り外角ギリギリに投げたら相手のバットは届かなかった。

 

しかし、さすがに2球連続で同じところに投げれば相手も気がつくもので、ホームベースの方へ寄って来た。

 

そこで日向の指示は……内角ギリギリか……。

 

悪だねぇ。

 

ま、素人は経験者の判断に素直に従った方が吉だ。

 

日向の構えているところへ……それ!

 

 

「ひぃっ!」

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

 

4番とは思えない声出したな……。

 

その後も同じような様子で5番6番を抑え、無事に2回表を終えることができた。

 

 

「篠宮!お疲れさん!」

 

 

バシッと日向が背中を叩いてきた。

 

 

「日向もお疲れ様。手の調子はどう?痛くない?」

 

「おう!おかげさまで今のところ大丈夫だ!」

 

「そっか、よかった」

 

 

まあまだ20球くらいだもんな。

 

この調子で試合が進めば日向の手を傷めることなく勝てそうだ。

 

さてさて、この回は7番みゆきから。

 

高松チームとの試合を見てたころから不安そうな顔してたけど……大丈夫かな?

 

 

「入江、無理すんなよ?」

 

「え?あ…は、はい!」

 

「入江が無理して点を入れなくても椎名っちと篠宮がどうにかしてくれるからな」

 

「どうにかって……まあ頑張るよ。だから、怪我だけはしないようにね」

 

 

可愛い彼女が怪我するシーンとか絶対見たくないし。

 

この世界ならすぐ治るとかそういう問題じゃなくて、痛がってるのを見たくない。

 

 

「は、はい!無理しませんが、精一杯頑張って来ます!」

 

 

そう言い残してみゆきはバッターボックスへと向かって行った。

 

 

「ひなっち先輩!私は?私は?」

 

「あ?」

 

「だーかーらー!私も怪我しないよにーとかないんですか?」

 

「別にねえよ」

 

「そんなぁ〜!こんなに可愛いユイにゃん☆の為に言ってくださいよ〜!」

 

「あ゛?もう一度言ってみろ」

 

 

あー、これは関節技の流れだ。

 

これもう一回「ユイにゃん☆」って言ったら卍固めとかになる流れだ。

 

一応オペレーション中なんだから言うなよ?絶対に言うなよ?

 

 

「ユイにゃん☆」

 

「そう言うのが一番むかつくんだよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「いだだだだだだだだだだ!い゛た゛い゛て゛す゛ぅ゛〜゛!」

 

 

まあ、言うよね、あの流れなら言うよね。

 

 

「だいたいお前入江の次だろ!早くネクストに入れ!」

 

「な゛ら゛は゛や゛く゛解゛い゛て゛く゛だ゛さ゛い゛〜゛!」

 

「落ち着け日向。試合が終わってから続きをやればいいだろ?」

 

「おぉ、それもそうだ」

 

 

ひさ子からの提案に日向は納得し、卍固めを解いた。

 

 

「さ、早くネクストに入れ」

 

「こんにゃろう……後で絶対復讐してやる……」

 

 

殺意の篭った目で睨みつける。

 

絶対女の子がしちゃいけない顔だ。

 

一通りの流れが終わったところで試合に目を向けてみよう。

 

ちょうど審判がプレイをかけたところだ。

 

小動物のように震えながらバッターボックスの外の方に立っていた。

 

そりゃあ怖いよね、相手は玄人だもん。

 

結局空振りの三振で終わってしまった。

 

 

「ごめんなさ〜い……」

 

 

ずいぶんとしょぼくれて戻ってきた。

 

俺から言わせて貰えば、あの小心者のみゆきが野球部のピッチャーが投げた球に食らいつこうとしただけですごいと思う。

 

 

「大丈夫大丈夫、頑張ったよ」

 

 

そう言って俺はみゆきの頭を撫でる。

 

 

「はぅ……わ、私頑張りましたか?」

 

「うん、頑張った頑張った」

 

「えっと……良い雰囲気になってるところ悪いけど、お前らこれオペレーション中だからな?」

 

「わかってるよ。ね?みゆき」

 

「はい!」

 

 

ん〜、良い笑顔だ。

 

オペレーション中じゃなかったら抱きしめてたぜオイ。

 

 

「おい太一。なんで入江を抱きしめてるんだ?」

 

 

ひさ子がジト目で聞いてくる。

 

 

「え?あ、抱きしめてた?」

 

「「てた」じゃなくて現在進行形でな」

 

「ふああぁぁあ〜……」

 

「おっと、ごめんつい」

 

「別にいいけど、後で私にもやってくれよ?」

 

「ストーップ!オペレーション中になんでマジで良い雰囲気になってんのさ!?Why!?」

 

「ごめんって。今度から時と場合を選ぶから」

 

「あったりまえだ!そこら中でイチャコラされたら試合が成り立たなくなる!」

 

「そうですよ!もっと真面目にやらなきゃダメですよ!」

 

「お前はなんでもう戻ってきてんだ!」

 

「い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛!!!す゛み゛ま゛せ゛ん゛!ホ゛ー゛ム゛ラ゛ン゛打゛て゛ま゛せ゛ん゛で゛し゛た゛!」

 

「んな期待最初からしてねぇ!」

 

「ギャーーーーーーーッ!」

 

 

またいつものが始まった。

 

っていうかユイ三振か。

 

仕方ないといえば仕方ないよね。

 

9番のしおりは頑張ってバットにボールを当てたものの、ショートゴロで三者凡退となってしまった。

 

2回裏終了時点でスコアは変わらず日向チーム3点、生徒会チーム0点。

 

この回の裏で得点が確定となっている3回表、相手の打順は7番から。

 

俗に言う下位打線である。

 

さてさて相手のバッターはどんなものか……って、天使!?

 

野手にも衝撃が走ったのか、後ろからざわざわと声がする。

 

 

「なっ!?て、天使!?」

 

 

日向からも驚愕の声が上がる。

 

 

「た、タイム!」

 

「タイム!」

 

 

マウンドまで日向が走ってきた。

 

 

「どうしようか……」

 

「篠宮、球速をあげろ」

 

「え、でもそうすると日向の手が……」

 

「なぁに、心配すんな。1日もあれば治る」

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫だ、心配すんな。お前の球は絶対取るから破裂しない程度に思いっきり投げてこい」

 

「う、うん。わかった」

 

 

心配するなって言われても……。

 

いや、日向を信用しよう。

 

俺はただ日向の構えるところに投げるだけだ。

 

 

「プレイ!」

 

 

天使は先ほどの野球部たちとは違って初めからホームベースよりに立っている。

 

やはり常人よりもずば抜けた身体能力を有しているのか。

 

俺もオチオチしてられない。

 

手加減なしでかからなければ最悪負けてしまう可能性があることも頭の片隅に置かなければ。

 

あ、手加減なしっていうのは力のことじゃなくて気持ち的なことだからね?

 

さてさて、我らが司令塔キャッチャー日向の構えているところは……ど真ん中。

 

球速をあげるから投げやすいところに構えたのか?

 

少し疑問を持ちつつもセットポジションを取る。

 

そしてさっきよりも力を込めて……投げる!

 

ズドンという重い音がキャッチャーミットから響くとともに日向から声が上がった。

 

 

「いっでええええええぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」

 

「な、なんだ今の!?」

 

「ボールが見えなかったぞ!?」

 

「あいつまだ本気を出していなかったのか!?」

 

 

相手のベンチがまたうるさくなる。

 

 

「ス、ストラーイク……」

 

 

おいおい、もうちょっと声張りなされや主審さん。

 

 

「驚いたわ……」

 

 

天使からも声が漏れた。

 

いつも通りも無表情のままポツリと、普通の人では聞こえないような声量で呟いた。

 

 

「少し本気を出さないと」

 

 

ギュッとグリップを握り、第2球への準備ができたようだ。

 

天使が本気を出す……?

 

これは一発なにかあるんじゃないか?

 

そう思いつつ再びセットポジションを取り、投げる。

 

 

「っ!?」

 

 

ガギィッという鈍い音と共にボールはバックネットを越えて行った。

 

 

「あ、当てやがった……」

 

「生徒会長って何者なんだ……?」

 

「それよりも見ろ、金属バットがボールに負けて完全に折れちまってる……」

 

「っていうかありえないだろ、それ」

 

 

色々ごちゃごちゃ言われるがそんなことはどうでも良い。

 

俺の内心は穏やかではない。

 

打たれないようにと対策して投げた速球が物の見事に打たれてしまったのである。

 

今のはたまたま当たりどころが良かった(?)おかげでファールになったが、このままいけば次の球は高確率で打たれる。

 

まあ、これで打たれるというなら仕方ない。

 

それよりも打たれた後のことだ。

 

あの球速にあのスイングスピードが加わる。

 

ということは、考えただけで恐ろしい殺人兵器の出来上がりだ。

 

常人が処理しようとしたら最悪死にかねない。

 

すぐに動けるように構えなければ。

 

とんでもない緊張感の中投げる第3球目、日向は外角に外せと指示している。

 

しかし。

 

 

「しまった……!」

 

 

緊張からか手汗をかいてしまい、若干手元が狂ってしまった。

 

暴投にこそならなかったものの、ボールが向かった先は先ほどと同じど真ん中。

 

これまた先ほどと同じく鈍い金属音が発せられた。

 

 

「まずい!」

 

 

ほとんどの奴ら、というか俺と天使以外は反応できていないだろうが、打球は真っ直ぐなライナーとなってサードに襲い掛かった。

 

サードを守っているのは我が幼馴染の岩沢雅美。

 

無論、打球が来たことに反応できてない。

 

というか気付いてすらもいないかもしれない。

 

俺はとっさにマウンドを蹴って雅美の前へと飛び出た。

 

 

「くそっ!間に合え…!」

 

 

少なくともグローブで弾いて雅美に当たらないようにしなければと、必死に体を伸ばした。

 

その瞬間、嫌な音がした。

 

 

バキィッ

 

 

何かが折れる音。

 

おそらく骨だ。

 

その音の発信源は。

 

 

「うぐぅああぁっ!」

 

 

俺だった。

 

雅美を助ける一心でマウンドを蹴った。

 

ボールは無事に捕球できたが、ここで予想もしていなかった物体が飛んで来たのだ。

 

金属バットの断片だ。

 

どうやら先ほどの例にも漏れなく、またも金属バットが折れてしまったらしい。

 

そして最悪なことにその金属バットの断片は俺の胸部にクリーンヒット。

 

そのままサードの斜め後方へ行き、10メートルほど飛んだところで体は停止した。

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

その場にいた全員が何が起きたか把握できていないようだ。

 

そして、10秒ほど静寂が流れた時。

 

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「おい!しっかりしろ!太一!」

 

「せ、先輩!大丈夫ですか?!」

 

 

みんなが駆け寄ってきて来れた。

 

 

「ゲホっ……だ……大丈夫……」

 

「大丈夫って……絶対大丈夫じゃねえだろ!」

 

 

ちょっと雅美さん、あんまり体揺さぶらないでください。

 

マジで痛いです……。

 

というかここまでの痛みを味わったのはこの体になってから初めてかもしれない。

 

ひさ子をギルドで助けた時は肺の空気が押し出されて息ができなくなっただけ(?)だったが、今回は確実に肋骨あたりが折れている。

 

骨が折れるってこんな感じなんだね。

 

 

「き、キミ、大丈夫か?」

 

「あ、審判さん、これ……」

 

 

俺は先ほど受け止めたボールを差し出す。

 

 

「一応完全に捕球したんでアウトですよね……?」

 

「アウトって…それどころじゃないだろ!おい!誰か担架!」

 

 

ああ、なんだか意識が遠のいていく。

 

死ぬという感覚がこれなのか、はたまたただの気絶なのかはわからないが、いずれにせよこれまた初めての感覚である。

 

 

「太一!?おい太一!」

 

「死ぬな!戻って来い!」

 

「先輩!先輩!」

 

 

走馬灯は見えてないからただの気絶なのかな……。

 

みんなごめん……これ以上闘えそうにないや……。

 

雅美が助かったし、これで良しとするか……。

 

 

「た……!お………な!」

 

「……!し…………か…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 

……ここはどこだ?

 

あたりを見回してみると薬品っぽいものが棚に陳列されている。

 

そして辺りが暗い。

 

さっきまで昼だったはずじゃ……。

 

そう思っていると、誰かの声が聞こえた。

 

 

「目が覚めた?」

 

 

我らがリーダー、ゆりだった。

 

 

「ゆり……ここは?」

 

「保健室。あなた、随分と無茶したわね?」

 

「いやだってさ、雅美が危なくて……って!雅美たちは!?試合はどうなったの!?」

 

「落ち着いて。安心しなさい、岩沢さんは無事よ。試合なら残念だけど不戦敗という扱いになったわ。そりゃ8人になっちゃったんだもの、仕方ないわよね」

 

「え……あ、ごめん……」

 

「別に責めてないわよ。というかあそこまでのプレーを見せられたら責められないわ」

 

「そっか……そう言ってもらえると助かるよ」

 

「あなたが退場したことを悪く思っている人なんていないわよ。それよりどう?怪我の調子は」

 

 

そう聞かれて胸の辺りを触ってみる。

 

 

「うん……痛くない。治ったみたいだね」

 

「ま、この世界と篠宮くんの回復力が合わさればこんなもんで治るわよね」

 

 

お、苗字呼びか。

 

ということは何かしらの業務の真っ最中?

 

 

「安心していいわよ。彼無事だから」

 

「そう。本当に良かった……」

 

「て、天使……じゃなくて、立華!?」

 

「彼女、あなたに怪我させちゃったのをえらく気にしててね。どうしても目が覚めるまで付き添うっていうから私も一緒にいたの」

 

 

ああ、だから業務中か。

 

俺が寝ている間に消されないように監視していたってわけか。

 

 

「本当にごめんなさい……」

 

「いやいや!勝手に俺が突っ込んで行って怪我しただけだから気にしなくて良いよ!っていうか気にする必要はないよ!」

 

 

金属バットの破片がどこに飛ぶかなんて誰もコントロールできるはずがない。

 

というかコントロールはおろか、折れて飛んでくるなんて予想すらできない。

 

よってこれは誰のせいというわけでもなく、ただの事故なのだ。

 

 

「でも……」

 

「大丈夫大丈夫!俺もこの通りピンピンしてるし、他に誰も怪我してないんだから!」

 

 

何か言いたそうにしているところを無理やり遮る。

 

 

「立華が狙って打ったならそれなりに怒るけど、そうじゃないんでしょ?」

 

 

コクンと頷く。

 

 

「じゃあこの話はおしまい!誰も加害者じゃないし、誰も被害者じゃない。ただの偶然が産んだ事故。いいね?」

 

 

そう問うと、多少不服そうな顔をしながら再びコクンと頷いた。

 

半ば有無を言わせない感じだったけどね。

 

 

「わかったわ。そう言ってくれてありがとう。今日はもう遅いから早めに部屋に戻ってね」

 

 

ガラガラ、ピシャリと天使が帰って行った。

 

すると。

 

 

「太一く〜ん!」

 

「おわっ!?」

 

「もう本当に心配したのよ!?」

 

 

お仕事モードが終わったようだ。

 

 

「もしかしたら本当にこのまま死んじゃうのかもって思ったのよ!?」

 

「いやこの世界でそれはないでしょ……」

 

「いくらこの世界でも思っちゃったのよ!」

 

 

テンションMAXのまま思いっきり抱きついてきた。

 

 

「いくら呼びかけても返事しないし、太一くんがああなってるの見たことなかったし……」

 

「まあ……正直俺もああなるとは思わなかったけど……」

 

「もう私太一くんにもしものことがあったらと思うと心配で心配で……」

 

 

そのまま目と目を見つめあって顔を近づける。

 

英語で言えばKiss、日本語で言えば接吻をしようってことだ。

 

流れはよくわかんないが、まあ別に拒否する理由もない。

 

特に抵抗もせず、そのまま受け入れた。

 

そして唇と唇が重なりそうになったその時。

 

 

ガラガラ

 

 

「篠宮くん、言い忘れたことが…………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

天使が戻ってきた。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

辺りが静寂に包まれた。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………もう夜も遅いから、続きは明日にして」

 

 

ピシャリ

 

 

「ちょ、ちょっと待って!違うの!弁解させて!」

 

 

ゆりが天使の後を追いかける。

 

 

「別に大丈夫よ。お付き合いしてるんだもの、たまに時と場合とかわからなくなるわ」

 

「だから違うのよ!弁解させてって!」

 

 

別に弁解も何もないと張本人の俺も思うが…………。

 

というか場合は間違っていたにしろ時はあってるんじゃ?

 

結局ゆりは天使に弁明できないまま、その日は寮(俺の部屋)に戻ることとなってしまった。

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