岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第二十六話「雨降って地固まる」

俺に妹(?)が出来たその日の夜。手渡されていたトランシーバーに無線が入った。

 

 

『こちらゆり、こちらゆり、篠宮くん聞こえる?』

 

 

苗字で呼ばれているってことは……任務中か。この時間に任務中ってことは……。何か嫌な予感がする。

 

 

「こちら篠宮。聞こえているよ、どうぞ」

 

『篠宮くん、あなた今どこにいるの?』

 

「え、どこって、自分の部屋だけど……」

 

 

先程空き教室でのお疲れ様会が終わって、今は部屋に俺とサクラ、そしてお風呂にみゆきがいる状態だ。

 

 

『良かった……無事だったのね』

 

「なんかあったの?」

 

『実は、篠宮くんが行った後、生徒会長代理が大勢のNPCと共に食堂へ来て、そこにいた戦線メンバー全員が拘束されたわ』

 

「えぇ!?ほ、本当!?大丈夫!?誰も怪我してない!?」

 

『怪我人は居ないわ、安心して』

 

「はぁ……良かった……いや、良くはないんだけどさ」

 

『まぁ、そこは不幸中の幸いってところかしらね』

 

 

普通に通話している声色を聴く限り、そこまで危険な状況では無いようだ。

 

 

「ところでさ、何で拘束されたの?」

 

『色々容疑はあるが、時間外活動の校則違反により反省室するって言われたわ』

 

「反省室……」

 

『僕が生徒会長になったからには、貴様らに甘い選択は無いとも言ってたわね』

 

「その反省室さ、地下にある?」

 

『あら、篠宮くん知ってるの……って、あなた一足先に入れられてたわね』

 

「そうなんだよね」

 

 

直井の正体を見破った時に入れられたんだよね。すぐ扉壊して出たけど。

 

 

「よし、すぐ助けに行くよ」

 

『残念だけど、それは難しそうね』

 

「え?」

 

 

場所もわかるし、あの程度のドアだったらすぐに壊せるのに……どうしてだろ。

 

 

『あの生徒会長代理、NPCをドアの外で大量に待機させているみたいだわ』

 

「え、NPC?」

 

『そ、戦線の掟ではNPCに攻撃出来ない。生徒会長代理はそれを承知の上でNPCを待機させているわ』

 

 

……なかなか卑劣な作戦を取るなぁ、直井。

 

 

『恐らく、いくら篠宮くんがこの扉を壊せたとしても、確実にNPCに被害が出るわ』

 

「そ、そっか……」

 

 

仲間のピンチに何も出来ないとなると、かなり歯がゆい。

 

 

『別にピンチってわけでもないわよ。現にこれ以上の乱暴はされてないし、しばらくすれば開放されると思うわ』

 

「……トランシーバー越しでも俺の考えって読み取れるの?」

 

 

すごいよ、俺の彼女たち。

 

 

『別に、ただ、あなたが考えそうなことはお見通しってだけ』

 

 

あくまでリーダーとして対応しているようだが、少し声色が高くなったのを俺は見逃さなかった。これはこれでめっちゃ可愛いね。

 

 

『ん゛、ん゛ん゛っ!』

 

 

咳払いで牽制された。やっぱり考えていることを読み取れているようだ。

 

 

『今回あなたに連絡をしたのは、ガルデモのみんなを守って欲しいからよ。私達は戦線メンバーの殆どが揃っているし、何かあれば最悪対応できるけど、ガルデモメンバーは個々にバラバラで過ごしているでしょ?』

 

「…………」

 

 

変な冷や汗が出た。ゆりの言う通り、ガルデモメンバーはみゆき以外全員バラバラだ。

 

 

『彼女たちも無許可でライブをした。言わば校則違反ね』

 

 

そう、今回のライブは、天使の出方を見るためあえて許可を取らなかった。

 

 

『この状況で部屋に襲撃されてみなさい。ひとたまりもないわ』

 

「わかった、すぐに全員の安全を確保した後、部屋で一緒に過ごす」

 

『正直それも校則違反だからあんまり推奨できないんだけど……今はそれが最善ね』

 

 

頼んだわよ、と言い終わると、トランシーバーが切れた。

 

 

「ふぅ〜……先輩、良いお湯でした〜」

 

 

ちょうどみゆきがお風呂から上がってきた。風呂上がりの彼女はとても魅力的だし、今すぐにでも抱きしめてイチャイチャしたいところではあるが、グッと我慢。ガルデモメンバーの安全を確保するのが最優先事項だ。

 

 

「みゆき、すぐに外出の準備して」

 

「え、え?どういうことですか?」

 

「ごめん、説明は歩きながらする。今は一刻を争うかもしれないんだ」

 

 

ただならぬ雰囲気を感じたのか、何も言わずパジャマから制服に着替えてくれた。本当に理解のある彼女がいて、俺は幸せものだ。

 

そして、俺はサクラを抱き抱え、みゆきと一緒に外へ出た。

 

 

「せ、先輩、何があったんですか?」

 

「実は……」

 

 

俺は歩きながらみゆきに事情を説明した。

 

 

「えぇ!?大変じゃないですか!」

 

「直井がまさかそんなことを企んでいたとはね……」

 

「……先輩、本当は今聞くことじゃないと思うんですけど……」

 

「ん?なに?」

 

「……先輩は私達のこと守ってくれますよね?」

 

 

何だ、そんなことか。そんなこと、答えは1つに決まってるじゃん。

 

 

「もちろん、全力で守るよ。俺の命を掛けてでも」

 

 

少し安堵の表情になったみゆき。

 

 

「でも、先輩の命は掛けないで下さい。先輩がいなくなったら、私……ううん、みんな悲しみますから」

 

 

ああ、本当にみゆきはいい子だ。時と場合が許すならギューッと抱きしめたい。

 

しかし、今は緊急事態。我慢我慢。

 

その後、俺の部屋を出て3分ほどで、まずは雅美の部屋へと到着した。

 

ピンポーンとインターホンを鳴らす。

 

ドアに耳を当てても、特に人の気配は無い。

 

 

「……岩沢先輩、居ませんね……」

 

「にゃ〜……」

 

 

不安そうな声を出すみゆきとサクラ。俺も背中に一筋の汗が流れた。もしかして、もう寝ちゃったのか……。それとも……。嫌な思考ばかりを巡らせてしまう。

 

 

「と、とりあえずしおりの部屋に行ってみようか」

 

「そうですね……」

 

 

二人して大きな不安を抱えたまま、しおりの部屋へ。しかし、ここでも気配がない。インターホンを鳴らしても、誰も出てこないし、家の中から物音一つしない。

 

いよいよ手遅れだったかと勘ぐってしまう。

 

 

「せ、先輩……しおりんも……」

 

 

少し涙目になるみゆき。

 

 

「だ、大丈夫だよ……多分……」

 

 

俺は自分にも言い聞かせるように言った。

 

心臓の音がやけに大きく聞こえる。もし彼女たちが寝ているだけではなかったら?もし彼女たちが襲われていたら?

 

……もし彼女たちと二度と会えなくなったら……?

 

ああ、だめだ、最悪の予想しか考えられなくなっている。落ち着け……。落ち着くんだ……。

 

早く確認したいが、現実を受け入れたくない。そんな相反する思考が、ひさ子の部屋までの足取りを重くする。

 

体感的には10分、現実では1分ほどで、ひさ子の部屋の前へ到着した。

 

 

「……いない……な……」

 

 

ひさ子の部屋でもインターホンを鳴らしたが、一切の気配が無かった。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「…………にゃ……」

 

 

二人とサクラの間に重い沈黙が流れる。

 

お互い、なんと言えば良いのかわからなくなってしまっていた。

 

30秒ほどの沈黙をみゆきが破った。

 

 

「……と、とりあえずユイの様子も見に行きましょうか」

 

「そうだね……」

 

 

正直、頭の中に浮かぶ文字は絶望だ。ゆりと椎名は周りに戦線メンバーも居るし、トランシーバーで安否確認も出来ているが、ガルデモメンバーは全く安否がわからない。もし、もし彼女たちが一人ひとり直井の襲撃に合っていたら?……考えたくもない。

 

俺とみゆきは絶望を感じたまま、ユイの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんって、いつからお兄ちゃんのこと好きになったんですか?」

 

「私はもう物心がついたときから大好きだったな」

 

「私はその……ぎ、ギルドで足を滑らせて……その時体を張って助けてくれたときから……」

 

「私は初めて見たときにもう一目惚れだったよー」

 

「な!太一って顔もめちゃくちゃカッコいいからな!」

 

 

ユイの部屋から声が聞こえる。

 

………………居るじゃん。みんな居るじゃん。

 

 

「……みんな居ましたね」

 

「……………………」

 

「せ、先輩?」

 

「良かったぁ〜…………」

 

 

俺は緊張の糸が解け、その場で座り込んだ。

 

良かった良かった、ほんとみんな無事で。

 

 

「あー良かった!みんな居た!」

 

「ね!みんな居ましたね!これで一安心……って、ひゃあっ!先輩!?」

 

 

安心のあまりみゆきを抱きしめた。なぜ安心したからといってみゆきを抱きしめるのか、それは俺にも謎だが、とにかくそうしたくなったのだ。

 

 

「あれ〜?お兄ちゃんどうしたの?」

 

 

俺たちの声が聞こえたのか、ユイが出てきた。

 

 

「お、太一に入江……とサクラ?お前ら、今日は一緒に過ごすんじゃねえのか?」

 

「なんだよ太一、私たちに会いたくなったのか?」

 

「みゆきちも先輩と2人で過ごさなくていいの?」

 

 

部屋の中にいた他の3人も次々出てきた。

 

 

「とりあえず、中に入ります?」

 

 

ユイの勧めで俺とみゆきは中に入った。

 

 

「んで、どうしたんだ?」

 

 

中に入るや否や、ひさ子から質問を投げられた。

 

 

「実は……」

 

 

俺は今戦線で起きていることを4人に話した。

 

 

「えぇー!?それってメッチャ大変じゃないですか!」

 

 

ユイが驚きの声を上げた。

 

 

「あの生徒会長代理、中々性格が悪りぃな」

 

「ホントにね……」

 

 

ひさ子の発言に同意する一同。

 

 

「それで、みんなの安全を確保するために俺がここに来たってわけだよ」

 

「なるほどなぁ」

 

 

納得いった様子の雅美。

 

 

「まぁ確かに、私たちも無許可でライブやったしなぁ。生徒会長代理から狙われてもおかしくねぇか」

 

「それにしても太一、よくここがわかったな」

 

「いやいや、めっちゃみんなの部屋回ったよ」

 

「そうですよ!どの部屋にも誰もないから、すっごく心配したんですよ!」

 

「そりゃ悪かったな」

 

 

ケタケタと笑う雅美。悪びれる様子は無く、寧ろ俺とみゆきが焦っていた様子を思い浮かべて面白がっているようだ。

 

まあ、確かに悪びれる理由なんて無いんだけどね。

 

 

「それで、お兄ちゃんたちは今日泊まるの?」

 

「あー……ユイが良いなら泊まらせて欲しいな。なるべく外に出ないほうが安全だし」

 

「うん!全然良いよ!」

 

 

ノータイムで返事をしてくれた。

 

 

「みんなも大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だぞ」

 

「先輩と一緒なら!」

 

「もちろん」

 

「にゃ〜!」

 

 

全員の承諾を得られた。

 

 

「よーし、そうと決まれば……」

 

「決まれば?」

 

「寝るぞ!」

 

「「「「「寝るんかい!」」」」」

 

 

雅美の提案に全員がツッコんだ。

 

 

「いやだってよ、今も幹部の連中は囚われているんだろ?」

 

「そうだね」

 

「そんでもって、まだ生徒会長代理の件は何も解決してないだろ?」

 

「まぁ、確かに」

 

「ってことは明日以降も一悶着あるかもしれないだろ?今日は早く寝て、明日以降に備えた方が得策だろ」

 

 

おぉ〜、と感心する4人。

 

 

「岩沢先輩ってただの音楽キチじゃないんですね!」

 

「ふふ〜ん、そうだろ」

 

 

得意げな顔をする雅美。若干貶されたことには気付いていないようだ。

 

まあ、雅美の言う通り、早めに寝た方が得策ではある。

 

 

「よし、じゃあ俺は見張ってるし、みんなゆっくり休んで」

 

「え?太一寝ないのか?」

 

 

ひさ子から質問が飛んできた。

 

 

「寝込み襲われるかもしれないし、俺は起きて見張ってるよ」

 

「えー!それじゃあお兄ちゃん休めないじゃん!」

 

「あー、俺は特に休まなくても大丈夫だよ」

 

「って言ってもなぁ、なんか太一1人だけ起きていてもらうのも忍びないし……」

 

「じゃ、じゃあ、みんな交代しながら先輩と一緒に過ごす……って言うのはどうですか?」

 

 

みゆきが提案する。

 

 

「あ、それ良い!さっすがみゆきち!」

 

 

と言うわけで、彼女と妹がローテーションで一緒に過ごしてくれるようだ。

 

何しながら時間を潰そうかって考えていたけど、杞憂に終わったね。

 

あ、そうだ。

 

 

「ねぇみゆき」

 

「はい?」

 

「落ち着いたら穴埋めするからね」

 

「は、はい!」

 

 

直井が原因とは言え、結果的に予定崩れちゃったしね。

 

そして、徹子の部屋的な方式で代わる代わる彼女達と話しながら夜を明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、8時頃。

 

 

『あー、あー、篠宮くん聞こえる?』

 

 

ゆりから無線が入った。

 

 

「こちら篠宮、聞こえるよ。みんな無事?」

 

『ええ、おかげさまで。そっちは?』

 

「こっちも全員無事だよ」

 

 

スヤスヤと眠る彼女たちとユイの顔を見ながら応える。途中まではみんな代わる代わる俺と話してくれたが、疲れたのか全員寝てしまった。とは言っても2時間前くらいの出来事だけどね。

 

 

『そ、よかった』

 

 

素っ気ない返事に聞こえるが、ホッとしたような声色だ。

 

 

『私たちもさっき全員解放されたわ』

 

「本当?良かった」

 

 

今後も直井の目を気にしながら過ごさなければいけないことに変わりはないが、ひとまず全員が無事なのはなによりだ。

 

 

『ひとまず9時くらいから緊急集会をするから、ガルデモの5人も連れて校長室に集合して頂戴」

 

「ん、わかった」

 

『それじゃあ頼んだわよ』

 

「あ、ゆり」

 

『どうしたの?』

 

「ひとまずお疲れ様。愛してるよ」

 

『〜〜〜〜っ!!!ま、また後で!』

 

 

ザッという雑音と共に無線が切れた。向こうで1人顔を赤くしているゆりの顔が目に浮かぶ。ちょっと意地悪だったかもしれないが、ちょっとした労いだ。

 

そして、全員を起こして準備をし、午前9時校長室。

 

 

「で、これからの活動はどうしますか?」

 

 

高松が問う。

 

問われたリーダーはそこそこ不機嫌そうに椅子に座り、肘掛けのところを指でトントンし続けている。

 

 

「……試しにちょっと動いてみましょ。とりあえず、それぞれ好き勝手授業を受けてみて。あ、一般生徒の邪魔はあんまりしないように。以上、解散」

 

 

緊急集会と言うからみんなで集まって話し合うのかと思ったが、いつも通りリーダーから今後の指針を出され、それを確認する会だったようだ。

 

 

「あと、篠宮くんはちょっと残ってちょうだい」

 

 

ゆりがそういうと、俺を残して、他のメンバーは外へ出た。最後の1人が部屋を出て、扉が閉まったのを確認するや否や、ゆりがアクションを起こした。

 

 

「太一く〜ん!」

 

「おっと」

 

 

まあ、おおよそこのアクションは予想できていたため、特に驚くこともなく俺はゆりを受け止めた。

 

 

「私も愛してるわよ〜!」

 

 

先ほどのシリアスな雰囲気から一転、どうやらゆりは甘えモードのようだ。顔を俺の胸に埋め、スリスリと擦ってくる。

 

 

「さっきも言ったけど、とりあえず一晩お疲れ様」

 

 

俺はゆりの頭を撫でる。

 

 

「ふー……あとちょっとだけ、あとちょっとだけ……」

 

 

どうやら一晩中リーダーとして振る舞うのに疲れ、そのしわ寄せが来ているようだ。

 

 

「…………よし!ありがとう、太一くん!」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「ええ、本当はもっと抱きついていたいけど、他の5人に顔が立たないわ」

 

 

なるほど、一応リーダーとしての配慮はあるようだ。

 

 

「さて、篠宮くんも、オペレーションに参加して来て頂戴」

 

「ん、了解。ゆりも直井に気を付けてね」

 

「ええ、何かあればすぐトランシーバーで連絡するわ。篠宮くんも、オペレーション中に何かあったら連絡して頂戴」

 

 

じゃ、また後で、と軽く言葉を交わし、俺は校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学習棟A棟、とある教室。

 

ここで天使と戦線メンバーの一部が授業を受けていた。他に行く宛も無いし、俺もこの教室で授業を受けてみることとしよう。

 

さて、まず目に入ってきたのは大山。何やら緊張した面持ちで、授業中にポテチを食べている。

 

 

「何してるの?」

 

「し、篠宮くん……!すごいドキドキするよ……!授業中にお菓子を食べるなんて……!」

 

 

……まあ、確かにドキドキするけど……。俺からすれば普通に銃を扱うほうがドキドキすると思うが、大山は生前、余程真面目に授業を受けていたのであろう。

 

パクッと一口食べると、とても満足げな顔になった。

 

 

「食べた……!今食べた……!僕授業中に堂々とお菓子食べちゃってる!なんて思い切ったことしちゃってるんだ!」

 

 

目を輝かせ、すごく興奮しながら、そして最大限配慮した声量で俺に報告してきた。

 

 

「俺も一枚貰える?」

 

「うん!もちろん良いよ!」

 

 

こういうちょっと悪いことは、共有する仲間がいることによって、罪の意識が薄れるものだ。それに、俺も授業中にお菓子を食べるなんてやったことはないから、少し興味が出た。

 

大山から一枚ポテチを受け取り、口へ運ぶ。

 

パクッと一口。…………なるほど。

 

 

「これはちょっと悪いことした気分になるね……」

 

「でしょでしょ!?篠宮くんにもその気持ちがわかる!?」

 

「うん、教師に見つからないように食べて、見つからないように音を消しながら食べる……ちょっと楽しいかも」

 

「た、楽しい!?篠宮くん、これ楽しいって感じるの!?生前はかなりの悪だったの!?」

 

「いやいやいやいや」

 

 

そこまでの悪じゃ無いでしょ。

 

だって、俺と大山より明らかな悪が後ろの方にいるし。

 

 

「通れば……追いリー!」

 

「残念、リーチ、七対子、ドラドラ、親満」

 

「くっそー!ひさ子の一人勝ちじゃねえか!」

 

「女相手になんたる体たらくだ……!」

 

 

ひさ子、藤巻、TK、松下五段の4人が麻雀をしている。

 

これに比べればお菓子を食べるなんて、可愛いもんでしょ。

 

ってかひさ子また勝ってるんだ。

 

 

「そこの一角、もう少し静かに……」

 

 

ほら、先生からも注意されてるし。

 

っていうか絶対 NPCに迷惑かけてるし。

 

 

「ああ、すんませーん」

 

 

藤巻が全く心の込もっていない謝罪をした直後。

 

 

「せんせー!トイレ!」

 

「またお前か……行ってこい」

 

 

ユイが元気よくトイレに行った。

 

 

「あいつ何をしているんだ?」

 

「1分置きにトイレに行く生徒だとさ」

 

 

教室の後ろの方に座っていた音無と日向の会話が聞こえてきた。

 

 

「アホだな……」

 

 

日向のつぶやきに、まあ俺も同意だ。

 

 

「俺たちはどうする?」

 

「こうやって駄弁っていればいいさ」

 

 

音無と日向はその方向で決めたようだ。

 

俺も大山がお菓子を食べ終わったら合流しようかな。

 

 

「にしても異様だな」

 

 

そう言う日向の目線の先を追うと、椎名がいた。

 

椎名は何をやっているかと言うと、右手の親指にハサミ、中指にホウキ、薬指に何かしらの棒を立て、バランスを取っていた。

 

普通に凄いことをやって言うのだが、あまりにひょうきんなその見た目で、凄さが薄れてしまっている。

 

その他にも、高松は筋トレ、野田は机を二つ並べて昼寝、雅美は作曲、みゆきとしおりはこっくりさん、と言った感じで、それぞれが思い思いの過ごし方をしている。

 

教師は怒らないものの、かなり不満そうな顔をしている。

 

 

「せんせー!トイレ!」

 

「いってこーい」

 

 

ユイが教室に戻り、着席したと同時に再びトイレへ行こうとし、教室のドアを開けたその時。

 

 

「ひいぃぃ!」

 

 

ユイの悲鳴が聞こえた。

 

 

「そこまでだ貴様ら」

 

 

直井が現れた。戦線メンバーに緊張が走る。

 

 

「来たぜ?直井文人様だ」

 

「ひえぇ!トイレですからぁ!」

 

 

一目散に教室を飛び出すユイ。

 

 

「撤収するぜ!」

 

 

神がかった速さで麻雀道具を片付け、教室の窓から脱出するひさ子、藤巻、TK、松下五段。

 

 

「I`ll be back.」

 

 

……TKよ、別に戻ってくる必要はないぞ。

 

椎名と高松は気付いたらもういなくなっていたし、大山はポテチの袋を机の中に押し込んだ。しおりとみゆきもこっくりさんのセットを片付け、真面目に授業を受けているように装っている。音無と日向は元々何の道具も広げていないし、雅美に至ってはノートを広げてペンを持っているため、側から見たらちゃんと授業を受けている人に見える。

 

さて、そんな中で未だに対策を講じていないやつといえば……野田だ。

 

直井が来ても気にすることなく、昼寝を続行している。

 

……あいつ、どんな図太い神経してるんだ?

 

直井が野田に近づき、問う。

 

 

「貴様、何のつもりだ?」

 

「…………」

 

「聞こえて無いようだな」

 

「…………」

 

「いいだろう、このまま反省室へ運べ」

 

 

NPCが直井の合図と同時に野田を運び出そうとしたその時、野田が起き上がってハルバートをNPCに向けた。

 

 

「何を反省しろと言うのだ!」

 

「ひゃあぁぁ……!」

 

 

しかし、ハルバートの矛先は、全く関係ない一般の女子生徒に向けられた。

 

 

「あ……!?」

 

「授業中に堂々と眠り、あまつさえ罪のない一般生徒を恫喝しておいて、よくそんな疑問が抱けますね」

 

 

直井の口から正論が飛び出た。

 

うん、これは弁明できないわ。直井の言う通りだもん、コレ。

 

 

「ある意味あっぱれです」

 

 

うん、本当にあっぱれだよ。

 

 

「んだとぉ〜!?」

 

 

野田がハルバートを直井に向け振り回そうとしたその瞬間。

 

 

「ガッ……!?」

 

 

音無と日向によって野田が教室の外へと運び出された。

 

…………こいつ、神経が図太いんじゃなくて、ただ単にアホなだけだったわ。

 

さて、教室に取り残された俺、大山、雅美、しおり、みゆきの5人だが、授業を妨害した現場を押さえられていないため、特段何かしらのペナルティが科されることはなかった。

 

直井は何やら不服そうな顔をしていたが、俺たちを連行できる理由がない為、そのまま教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本史の授業が終わった後の10分休みに音無が教室に戻ってきた。どうやら天使に用事があるようだ。

 

 

「あのさ、腹へってないか?」

 

「減ってないけど。こんな中途半端な時間に」

 

 

天使の後ろに座り、話しかける。しかし、天使は机に向き合ったまま、淡々と答えた。

 

 

「そうか……学食に辛すぎて誰も手を出せないって噂の麻婆豆腐があってさ。試しに食ってみたら驚くほど美味くてさ」

 

 

なるほど。確か天使はその麻婆豆腐を注文しようとしてたんだっけ。

 

 

「あ、あのさ、良かったら奢るよ……」

 

 

音無が言い終わる前に天使が席を立った。

 

 

「どう……かな……?」

 

 

そのまま天使は出口に向かって歩き出した。

 

 

「何してるの?」

 

「お、ああ、行くよ」

 

 

そんなにあの麻婆豆腐が好きなのか、次の授業も放り出して学食に行くようだ。

 

 

「ねぇ篠宮くん。音無くんと天使、2人でどっか行っちゃったね」

 

「そうだね」

 

「もしかして、音無くん消されちゃうのかな……」

 

 

大山が不安そうな面持ちで話しかけてきた。

 

 

「音無に限って……大丈夫でしょ、多分」

 

「なんでそう思うの?」

 

「だって、天使の言いなりになって真面目に授業を受けると消えるんでしょ?でも、2人して授業をサボってるじゃん。少なくとも、真面目じゃないから大丈夫だと思うんだよね」

 

「なるほど……」

 

「ま、一応ゆりには報告入れとくよ」

 

「ああ、それが良いね」

 

 

俺はトランシーバーを取り出した。

 

 

「あー、ゆり、聞こえる?」

 

『聞こえるわよ、篠宮くん。どうしたの?』

 

「たった今音無と天使が2人で学食に行った。念の為と思って報告」

 

『そ、ありがとね』

 

 

オペレーション中と言うこともあり、普段より素っ気ない態度だ。

 

 

『それじゃ、引き続きよろしく』

 

 

終始業務的なやり取りだったね。

 

 

「ゆりっぺと篠宮くんって、本当に付き合ってるの?」

 

 

今の会話を聞いて、大山に疑念が生まれたようだ。

 

 

「うん、付き合ってるよ。でも、オペレーション中は割とあんな感じだよ。普段は下の名前で呼んでくれるんだけど、オペレーション中は苗字で呼んで、公私混同を避けてるみたい」

 

「へぇ〜、なるほど」

 

「ゆりが俺のこと名字で呼ぶもんだから俺も『仲村さん』って呼び返したことがあったんだけど、流石に距離を感じすぎて嫌って言われちゃったね」

 

「だから篠宮くんは変わらずに名前で呼んでるんだね」

 

「そういうこと」

 

 

大山の疑念が晴れたところで10分休みが終わり、先生がやってきた。

 

結局残ったメンバーで、その教室で最後まで授業を受けた。5時間目が終わった直後、サクラが俺のところへやってきた。外は大雨だ。

 

 

「にゃ」

 

「ん?どうした?」

 

「にゃあ!」

 

「えっ!?ほ、本当!?」

 

「にゃっ!」

 

「よし、すぐ助けに行こう」

 

「太一、何て言ってるんだ?」

 

 

雅美が問う。

 

 

「音無と天使が地下の独房に閉じ込められたって」

 

「えぇ!?一大事じゃないか!」

 

「にゃー!」

 

「……またかぁ……」

 

「今度はなんて?」

 

「また独房の前にNPCを配置してるってさ」

 

「またかよ……」

 

 

雅美も呆れ気味だ。

 

 

「ま、取り敢えずゆりに連絡するよ」

 

 

俺はトランシーバーを取り出す。

 

 

「あー、あー、ゆり、聞こえる?」

 

『あら、太一くん、どうしたの?』

 

 

……ん?オペレーション中なのに名前呼び……?

 

 

「え、えっと……音無と天使が独房に閉じ込められたらしい。そんで、直井はまたNPCを大量に配置してて、手出しできないんだ」

 

『そ、天使が閉じ込められているのね。なら良いじゃない』

 

「ちょ、ちょっと!音無はどうするの!?」

 

『仕方のない犠牲よ』

 

 

……絶対におかしい。ゆりは時に厳しいことをするが、無闇に仲間を犠牲にする人間ではない。

 

初めの疑念は徐々に確信に変わりつつあった。

 

 

「……お前、誰だ?」

 

 

俺はいつもより少し低い声でトランシーバーに向かって尋ねた。

 

その直後、ザッという音と共にトランシーバーが切れた。

 

 

「……なぁ太一」

 

「……」

 

「た、太一?」

 

「先輩……?」

 

「…………」

 

「先輩……凄く怖い顔してます……」

 

 

…………雅美としおりとみゆきが何か言っているようだが、全く頭に入ってこない。

 

 

「…………ごめん、ちょっと行ってくる」

 

「あ、おい!太一!」

 

 

雅美に呼び止められた気もするが、それも頭に入らない。今は兎にも角にもゆりの安否が第一だ。

 

ものの10秒程で校長室へ到着し、ドアを蹴破った。

 

 

「ゆり!」

 

 

……いない。

 

 

「クソッ!どこ行った!」

 

 

校長室に争った様子はない。ゆりが外へ出たときにやられたのか、それとも、校長室内で催眠術を掛けられたのか。

 

どっちでもいい、今はゆりを見つけることが最優先だ。

 

 

『太一さん、太一さん』

 

 

トランシーバーから遊佐の声がする。

 

 

『ゆりっぺさんはグラウンドにいます。生徒会長代理は催眠術を使ってゆりっぺさんを消そうとしています。お急ぎ下さい』

 

「……ありがとう、遊佐」

 

『ゆりっぺさんを救って下さい、お願いします』

 

「そんなの……言われなくてもやるよっ!!!」

 

 

俺は校長室の窓を突き破り、そのままグラウンドへ降り立つ。

 

降り立った瞬間、惨劇と呼ぶに相応しい光景が目に入ってきた。……こりゃあ酷い。戦線メンバーの幹部たちも血だらけになり、びしょ濡れになった地面に横たわっている。

 

直井はグラウンドの真ん中でNPCを周りに配置し、ゆりに向かって催眠術を掛けようとしているところだ。

 

 

「ほほぅ、やはり来ましたか」

 

「お前、何のつもりだ?」

 

「生徒会長代理として命令する。大人しく部屋に戻れ」

 

「…………」

 

 

俺は無言でゆりと直井に近づく。

 

 

「逆らうのか?神に」

 

「…………神?」

 

「ここは神を選ぶ世界だと、誰も気づいていないな。生きていた記憶がある。皆一様に酷い人生だっただろ。なぜか。それこそが神になる権利だからだ。生きる苦しみを知る僕らこそが神になる権利を持っているからだ。僕は今、そこに辿り着けた」

 

 

……何言ってるんだ、コイツは。

 

 

「……神になってどうするんだ?」

 

「安らぎを与える」

 

「…………」

 

 

ダメだ、話が通じない。

 

 

「君たちは神になる権利を得た魂であると同時に、生前の記憶に苦しみ、もがき続ける者たちだ。神は決まった。ならば僕はお前たちに、安らぎを与えよう」

 

 

そう言うと直井は、再びゆりを乱暴に起き上がらせた。

 

 

「な……何よ……」

 

「君は今から成仏するんだ」

 

「おい、ゆりから離れろ」

 

 

俺は直井とゆりに向かって歩き始める。

 

その瞬間、大量のNPCが銃を俺に向けてきた。

 

 

「貴様、止まれ。止まらないと撃つぞ」

 

 

直井が俺に話しかける。

 

 

「ああ、撃てば良いさ」

 

「くっ……総員、撃て!」

 

 

直井の合図でNPCが一斉に俺を目掛けて乱射してきた。

 

それでも俺は歩みを止めない。

 

 

「っ……!?ば、バカなっ!?」

 

 

俺に向かってきた銃弾は全て素手で捕らえ、そのまま無効化されていった。そして、ものの十数秒ほどで全員の銃弾は切れてしまったようだ。

 

 

「クッ……クソッ!近づくな!これ以上近づいたらコイツを……」

 

 

直井がナイフを取り出し、ゆりに向けようとしたその瞬間、俺は地面を蹴って加速し、一気に距離を詰め、ナイフを弾いた。

 

 

「カァッ……!?」

 

 

直後、直井を軽く突き飛ばし、ゆりから離れさせることに成功した。

 

これで直井に攻撃の手段は残っていない。

 

 

「…………なぁ、直井」

 

「ヒッ……!」

 

「お前、俺の大切な人に何してくれたんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「分かってんだろうな?」

 

「ご、ごごごごご、ごめんなさい!」

 

 

惨めったらしく土下座する直井。

 

ああ、ダメだ俺。完全に頭に血が昇っている。冷静に土下座する直井を見下ろしている反面、とにかくコイツを1発殴らないと気が済まない。

 

手加減なんて出来るかわからない。もしかしたらグラウンドに巨大なクレーターを作って、直井を粉々にしてしまうかもしれない。でも、そんなことは関係ない。

 

振りかぶって直井を殴ろうとしたその瞬間。

 

 

「ダメ」

 

 

雅美が両腕を広げながら、直井と俺の間に現れた。

 

 

「ま、雅美?」

 

「ダメだ」

 

 

真っ直ぐな瞳で俺を睨む雅美。周りを見ると、ひさ子としおりとみゆきと椎名も、不安そうな顔で様子を見ていた。

 

 

「ダメだ太一。太一の力はそんなことに使うものじゃない」

 

 

いつも俺に接する態度とは違い、ものすごい緊張感と真剣さを纏っている。

 

 

「……はぁ……、ありがと、雅美。お陰で冷静になったよ」

 

「……よし!」

 

 

雅美の表情が綻び、広げられた手も下げられた。

 

 

「ふぅ……さて直井」

 

「は、はいぃ!」

 

「聞かせてよ、直井の過去」

 

「か、過去……?」

 

「そ、直井の過去。確かに直井の言う通り、俺たちはみんな酷い人生を送ってきたよ。俺なんてさ、この力が原因で雅美以外の全員から無視されて相手にされなくてさ、親にだって怖がられて、まともに会話すら出来なかったんだ。でも、そんな酷い人生だったとしても、それは間違いなく俺が歩んできた人生だったし、懸命に生きてきたし、何一つ嘘なんてないんだ」

 

 

直井は表情を変えず、俺を真っ直ぐに見つめる。

 

 

「それを催眠術なんていう紛い物の記憶で成仏させるなんて、必死に生きてきた人への冒涜だよ。直井の人生だって、本物だったでしょ?」

 

 

そう言うと、ぽつりぽつりと直井は自身の人生を語り始めた。

 

陶芸の名家に双子の弟として生まれたこと。兄の方が才能があり、自分はあまり期待されていなかったこと。そんな最中、兄が死に、直井文人が兄として生きるようになったこと。しかし、陶芸の腕は中々上がらず、兄のような作品を作れず、父親から厳しく叱責され続けたこと。必死に修行し、父の理想とは離れていたが、ようやく入選を果たし、父から少し認められたこと。そんな中、父が病に倒れたこと。そして、兄が死んだ時に、本当に死んだのは自分だったと悟ったこと。

 

それはもう本人にしかわからないであろう、過酷な人生だったようだ。

 

 

「お前の人生だって、本物だったはずだろ!」

 

「えっ、え?お、音無?」

 

 

直井が話し終わった時、音無が急に直井を抱きしめた。

 

思わず俺は場にそぐわない声を出してしまった。

 

…………いつからいたんだ?

 

って言うか、天使と一緒に脱出できたんだ。

 

 

「頑張ったのもお前だ!必死にもがいたのもお前だ!違うか!?」

 

 

なおも音無の勢いは止まらない。

 

 

「くっ……何を知った風な……」

 

「わかるさ……!ここにお前もいるんだから……!」

 

「なら、あんた認めてくれんの?僕のことを」

 

「お前以外の何を認めろって言うんだよっ!俺が抱いているのはお前だ、お前以外いない……!お前だけだよ……!」

 

 

音無の言葉を聞き、だんだん穏やかな表情に変化する直井。

 

………………なんか、音無に良いところ全部取られてない?

 

 

「ねぇ立華」

 

 

近くに天使もいたので、話しかけてみた。

 

 

「なに?」

 

「音無と立華はどの辺りから話聞いてたの?」

 

「えっと、篠宮くんが直井くんを殴ろうとしたあたりで、私たちがグラウンドに来たわ」

 

 

…………アレ?そこから見てたら俺なんか悪者っぽく写ってない?

 

 

「それは大丈夫。流石にこの惨状を見れば篠宮くんが悪く無いことは分かるわ」

 

 

とうとう天使にまで心を読み取られるようになってしまったが、それはまぁさて置き。

 

 

「なぁ、直井。俺も直井のこと、認めるよ」

 

「…………そうか……」

 

 

先ほどまでのギラついた目はどこへやら、穏やかな目付きへと変わる直井。

 

 

「…………ただ、まあ、認めるんだけどさ。ちょっと音無、離れてもらって良い?」

 

「え?あ、ああ……」

 

 

音無が直井から離れ、安全が確保されたのを確認すると、俺は直井の額に手を持っていき、構えた。いわゆるデコピンというやつだ。

 

 

「大丈夫、手加減はするよ」

 

 

直井の返事を待たずに、俺は直井の額へデコピンを発射した。

 

 

「いっつぅ〜……!」

 

 

額を押さえ、その場にうずくまる直井。

 

 

「これは俺の怒りの分。本当はもっとぶん殴ってやりたいところだったけど……雅美に感謝しなよ」

 

「っつううぅぅぅ〜……」

 

 

まだうずくまっているね。ちょっとやりすぎ……いや、ゆりを消そうとしたんだ。それ相応の痛みを……ってゆり!?

 

 

「ゆ、ゆり!大丈夫!?」

 

「何今更心配してんのよ」

 

 

振り向くと、ゆりが平然と立っていた。

 

 

「ゆりー!」

 

「ちょ、ちょっと篠宮くん……!い、今オペレーション中……!」

 

 

俺はゆりを抱きしめた。

 

 

「ごめん……」

 

「なんで篠宮くんが謝るのよ」

 

「ゆりのこと、守れなかった……」

 

「何言ってんのよ。今は死んだ世界戦線のリーダーよ。部下がリーダーを守ろうなんて生意気よ」

 

 

抱きしめていて、ゆりの顔は見えないが、少し棘のある言葉とは裏腹に、安心したような声色だ。

 

 

「でも、篠宮くんが来てくれて、本当に助かったわ。あのままだと、私消されてたかも」

 

「本当に間に合って良かった…………」

 

 

俺も改めて状況を整理し、落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 

「……さて、篠宮くん。そろそろ事後処理をしなくちゃだから、離れてくれるかしら?」

 

 

俺はもう少し抱きしめていたかったが、渋々離れた。

 

 

「さて、生徒会長代理さん」

 

「…………」

 

「よくも私の部下たちに酷いことしてくれたわね?」

 

「…………」

 

 

直井は俺のデコピンを食らってうずくまった体勢のまま、沈黙を貫いている。

 

……っていうかそろそろ痛み引いたでしょ……。

 

 

「何か答えないと、また篠宮くんからデコピンされるわよ」

 

「っ!」

 

 

直井に反応があった。ごめん、そんなに痛くしたつもりは無かったよ。

 

 

「ふん、まぁいいわ。あなた、入隊しない?」

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

 

周りで見ていた戦線メンバーにも衝撃が走る。

 

 

「ゆりっぺ!正気かよ!」

 

 

日向も反応した。

 

 

「あら、戦線をここまで壊滅状態に追い込んだのよ?戦闘力としては申し分無いわ」

 

 

……すげえなぁリーダー。俺なんか感情的になって、復讐心でいっぱいになったっていうのに。

 

 

「でも、逆に言えばまた俺たちを壊滅させられるってことだろ!?」

 

 

藤巻が問う。

 

 

「あら、その心配はもう無いわ。私たちには篠宮くんがいるもの。何かあやしい動きをすれば、すぐに篠宮くんから〆てもらうわ」

 

 

〆るって言い方、普通に使う人あんまり見たこと無いんだけど……。

 

直井もその言葉を聞いてちょっと震えてるじゃん。

 

 

「……神である僕を従えるのか?」

 

「まだそんなこと言っているの?良い?耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。私たちの仲間になるか、これからも敵対を続けて篠宮くんと戦うか、好きな方を選びなさい」

 

「仲間になります」

 

 

即答する直井。

 

どうやら、今回の部屋探しからの一連の騒動は、直井の戦線加入と言う意外な結果をもって、幕引きとなったようだ。

 

 

……あれ?部屋の問題ってまだ解決してなくない……?




次回、オリジナル日常回(予定)
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