岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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お久しぶりです(定型分)


第二十七話「たまには、こんな日常を」

「あー……太一〜」

 

「ん〜?」

 

「平和だなぁ」

 

「平和だねぇ」

 

 

直井の乱(?)から1週間、戦線はいつもの喧騒はどこへやら、とても平和な雰囲気に包まれていた。

 

今は久しぶりに俺の部屋で、雅美と2人でまったりと過ごしているところだ。

 

他の人はと言うと、ひさ子は何やら調べ物があると言って図書室へ、みゆきとしおりは自主練をすると言っていつもの空き教室へ、ゆりは次の作戦を考えると言って校長室へ、椎名は鍛錬を積みたいと言って森の中へ、それぞれが各々の用事を済ませているところだ。

 

俺と雅美は、今日はやることもやりたいことも特にないため、こうして部屋で駄弁っていると言うわけだ。

 

あ、ちなみにだけど、俺の彼女たちは生徒会から、男子寮への出入り許可を貰えたよ。まぁ、1週間前の騒動があったとはいえ、学校的にはまだ生徒会長代理は直井だって言えば伝わるかな?

 

 

「にゃ〜」

 

「お、サクラ。お前も暇なんだな?」

 

 

サクラが雅美の元へと擦り寄っていった。

 

 

「よーしよしよし、うりゃりゃりゃりゃ」

 

「にゃっ!にゃっ!」

 

 

サクラのお腹を撫でまくる雅美。サクラも全く嫌そうな素振りはせず、寧ろ嬉しそうだ。

 

 

「いやぁ、可愛いなぁ」

 

「な、サクラ可愛いよな」

 

「いやいや、雅美もサクラもどっちも可愛いよ」

 

「ん〜!太一〜!」

 

「にゃ〜!」

 

「おっと」

 

 

雅美とサクラが飛びついて来た。俺は2人を受け止め、そのまま仰向けになった。

 

 

「幸せだなぁ……」

 

「私も、今すごい幸せ」

 

「にゃぁ〜」

 

「ねぇ雅美」

 

「ん〜?」

 

「いつもありがと」

 

「なんだよ、急に」

 

 

文面に起こせば少し素っ気ないような返答だが、表情は少し照れくさそうに口角が上がっている。

 

 

「思い返せば、昔からずーっと雅美には助けられて来たなって」

 

「そんなの、私だって同じだぞ」

 

「もしも雅美がいなかったらって、考えただけでゾッとするよ」

 

「私も太一がいなかったらって思うと、ゾッとするな」

 

 

そう言うと、俺と雅美は顔を合わせて笑い合った。

 

 

「にゃ?」

 

「もちろん、サクラもだよ」

 

 

「私は?」とサクラが聞いてきたので、俺がそう返すと、サクラは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 

 

「いいなぁ太一は。私もサクラと話してみたいぞ」

 

「にゃ〜」

 

「俺を通せば話せるでしょ、だってさ」

 

「まあ、確かにな」

 

 

ケタケタと笑う雅美。

 

普段の雅美は美人系だけど、笑うと一気に可愛い系になると感じるのは俺だけだろうか。

 

 

「にゃ、にゃあ〜」

 

「えっ……それは難しい質問だなぁ……」

 

「にゃ〜」

 

「そうだなぁ……」

 

「おいおい、私にも教えてくれよ」

 

「えっと、俺にとって雅美はどんな人か、だってさ」

 

「それのどこが難しい質問なんだよ」

 

 

少し口を尖らせる。その尖らせた顔も可愛い。

 

じゃなくて。

 

 

「今の関係性を一言で表すなら『恋人』なんだけどさ」

 

「だけど?」

 

「いや、本当に雅美のことは心の底から愛しているし、恋人で間違い無いんだけどさ」

 

「なんだよ、煮えきらないな」

 

「なんていうか……恋人であって、幼馴染であって、親友であって、尊敬する人であって、恩人であって、時に悪友であって、俺にとって家族であって、大切な人であって……とか考えると、本当に恋人の一言で片付けていいのかなって思ってさ。とりあえず、心の底から愛しているし、大好きなのは間違い無いんだけどね」

 

「そ、そう言うことか……」

 

 

流石にここまでストレートに気持ちをぶつけられると思っていなかったのだろう。珍しく顔を赤くして、どこか恥ずかしそうに目線を逸らしている。

 

 

「にゃ〜?」

 

「ん〜……やっぱり難しいね」

 

 

結局、一言で?って聞かれても、まとめ切れないよね。

 

 

「にゃ?」

 

「サクラが『雅美は?』だってさ」

 

「私?」

 

「にゃ〜?」

 

「『雅美にとって、俺はどんな人?』って訊いてるよ」

 

「そりゃあ太一が私に言ったのと殆ど同じさ。本当に理想の彼氏だよ。今も昔も未来も、ずっと大好きだし、愛してる」

 

「おぉ〜……」

 

 

雅美は普段からストレートに好きだと言ってくれるが、改めて言われると照れるものがあるね。

 

 

「ふふーん!私の気持ちがわかったか!」

 

 

腕を組んでドヤ顔を向けてくる。

 

 

「うん、凄く嬉しいんだけど、凄く恥ずかしい」

 

「でもとにかく幸せなんだよな」

 

「それは本当にそう」

 

 

とりあえずそこの意見は一致して揺るがないようだ。

 

 

「うーっす、調べ物終わったし、遊びに来たぞー」

 

「おお、いらっしゃーい」

 

「んにゃ〜」

 

 

雅美とイチャイチャしていたら、ひさ子が何かが入ったビニール袋を手に下げながら部屋に来た。

 

彼女たち全員に合鍵は渡してあるし、日中だったら自由に出入りしてOKって感じにしてあるから、みんなノックなしで入って来るんだよね。

 

もちろん、夜に関してはキッチリルールがあるけど、それはまた別の話。

 

 

「調べ物は終わったのか?」

 

「ああ、バッチリ終わった」

 

「何調べてたの?」

 

「今から披露するぜ」

 

 

ニコッと笑い、台所へ向かうひさ子。

 

 

「そろそろ腹減っただろ?今日の昼は私が作る」

 

 

時計を見ると時刻は11:30を指していた。俺も雅美も丁度お昼にしようかと思っていたところだ。

 

 

「おー、ひさ子の手料理か。私初めて食べるかも」

 

「前カレー振る舞ってくれたけど、本当に美味しかったよ」

 

「へぇ、そりゃ楽しみだな」

 

「にゃ〜」

 

「えっ、サクラもお昼食べたいの?」

 

「んにゃ!」

 

「なるほどね。そういうことだったら今日はお昼食べよっか」

 

「んにゃあ〜」

 

 

サクラが目を細めながら頭を俺の膝に擦り付けてくる。

 

 

「サクラはいつもお昼食べないのか?」

 

 

ひさ子が訊いてきた。

 

 

「いつもは基本的に朝と夜の2食だね。でも今日は雅美とひさ子がいるから一緒にご飯食べたいってさ」

 

「嬉しいこと言ってくれるな〜!よし!腕によりをかけて作るぜ!」

 

 

可愛いなぁ。

 

あ、サクラのご飯はもちろん俺が作るよ。流石のひさ子も猫のご飯の作り方は調べてないと思うし。

 

そんなこんなで40分後。

 

 

「うし、盛り付けするから運んでくれー」

 

「はいよ」

 

 

どうやら出来上がったようだ。キッチンからいい匂いが漂ってくる。

 

 

「じゃーん!私特製のカニクリームパスタだ!」

 

「うお、美味そ」

 

 

雅美もキッチンを覗きにきた。

 

 

「ひさ子……意外と料理できるだな」

 

「意外とはなんだ、意外とは」

 

 

軽口を叩きながらも、盛り付ける手は止まらない。

 

 

「にゃ〜」

 

「はいはい、サクラのご飯もあるよ」

 

 

あらかじめ準備しておいたサクラのご飯も出して……。

 

 

「うし、それじゃあ……」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

「にゃ〜!」

 

 

俺と雅美はチュルっと一口。

 

 

「ん!美味い!」

 

 

雅美が目を丸くして笑顔になる。

 

 

「だろだろ?」

 

「美味しい……!これすっごく美味しい!」

 

 

俺もテンションが上がってしまった。

 

 

「良かったぜ〜……」

 

 

ホッと胸を撫で下ろすひさ子。

 

 

「これマジで美味いぞ」

 

 

箸……というかフォークが止まらない雅美。

 

 

「このレシピ調べてたの?」

 

「ああ、太一と岩沢がイチャイチャしていた間に調べたぜ」

 

「ありがとね、ひさ子」

 

「おっ、イチャイチャのところは否定しないのか?」

 

 

ひさ子の顔がニヤニヤしている。

 

 

「しないよ、だってイチャイチャしてたし。この後ひさ子ともイチャイチャするつもりだし」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 

その後、俺たちはひさ子の作った昼飯を味わい、また午後からイチャイチャしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、ひさ子さんの手料理ねぇ」

 

「あさはかなり」

 

 

翌日、今日はゆりと椎名と一緒にピクニックへ出かけていた。今はちょうど良い原っぱへ到着し、ビニールシートを広げて座っているところだ。

 

 

「ひさ子さん、意外と料理できたのね……」

 

「あ、それ雅美にも同じこと言われてたよ」

 

「あさはかなり」

 

「にゃ〜」

 

 

もちろんサクラも一緒だ。

 

椎名とサクラのわだかまりはほぼほぼ瓦解したのか、サクラは椎名の膝の上に座っている。

 

 

「にしてもいい天気ね」

 

 

グッと伸びをするゆり。

 

強調された胸に視線がいくのは男として当然だと思う。

 

 

「そういえば太一くん」

 

「ん?」

 

「最近副会長とはどうなの?」

 

「ああー……直井ねぇ……」

 

 

この1週間、俺と雅美と音無は直井に付き纏われていた。

 

 

「なんか、岩沢さんと音無くんには敬愛って感じだけど、太一くんには畏怖の念って感じじゃない?」

 

「あ〜うん、そんな感じかも。ちょっと怖がらせちゃったしなぁ」

 

「ちょっとというより、大分よ」

 

「やりすぎたかなぁ……」

 

 

まぁやりすぎたよなぁ……。

 

でも、あんなゆりの姿を見ちゃったら冷静さも失うよ……。

 

 

「にしても、岩沢さんはよく太一くんの目の前に飛び出したわよね」

 

「あれは俺もビックリしたよ。ビックリしたのと同時に嬉しかったね」

 

「太一くんを止めて副会長を救う形になっちゃったもんだから、岩沢さんなんて『女神様』なんて呼ばれちゃって」

 

 

ケラケラと笑うゆり。

 

なんていうか、死んだ世界戦線の目的が神への復讐だっていう手前、雅美のことを『女神』って呼ぶのはいかがなものかなぁとも思っていたり。可愛さは女神級なんだけどさ。

 

あと、直井が自称神だから、雅美を女神としたときに何かしらの関係性が生まれているようで、二重に引っかかる呼び名なんだよね。

 

 

「岩沢さんのあの行動は流石ね。付き合いの長さの違いを痛感したわ」

 

「あさはかなり」

 

「にゃ〜」

 

 

リーダーもあんまり気にしていなさそうだし、まぁいいっか。

 

 

「よし篠宮、手合わせを頼む」

 

「よしきた」

 

「え?」

 

 

状況が飲み込めないゆりを横目に椎名と俺は瞬間的に距離を取った。

 

 

「いつでもいいよ」

 

「フッ……手加減はしないぞ」

 

「もちろん」

 

 

椎名が地面を足で蹴り、俺を目掛けて飛んでくる。

 

 

「はっ!」

 

 

手には木刀が握られている。

 

俺は難なく木刀を素手で受け止め、逆に木刀もろとも椎名を遠くへ投げた。

 

 

「くっ!」

 

 

流石はくノ一、急な状況でも冷静に着地した。

 

椎名が着地するや否や、俺の方から椎名との間合いを詰める。

 

椎名がギリギリ見えるであろう速度で手刀を繰り出す。

 

とは言っても、決して椎名には当たらないように、寸止め前提だけど。

 

俺の手刀を木刀を使って受け止め続ける椎名。

 

 

「はっ!はっ!」

 

 

やっぱり受け止め切れるみたいだね。

 

この問答が10秒ほど続いた後、椎名が地面を蹴り俺と距離を空けた。

 

その瞬間、煙幕が俺の周りに張られた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

流石に煙幕を張られるのは想定外。

 

だが、耳をすませば椎名の動きはお見通しだ。

 

後方から俺を目掛けて突っ込んで来ているな。

 

残り5m、4m、3m、2m、1m……今だ。

 

俺は振り返り、左手で木刀を握り、右手で椎名を抱きしめた。

 

 

「くっ……煙幕もダメなのか……」

 

「いやぁ、ちょっと焦ったよ。流石に予測してなかったし」

 

 

木刀を離し、そのまま俺に抱きついてくる椎名。

 

 

「その割には余裕そうではないか」

 

「いやいや、今回はやばかったよ。危うく背中を取られるところだった」

 

「ちょ、ちょっとちょっと!何よ今の!」

 

「手合わせだ」

 

「そんなことはわかってるわよ!何で今手合わせしてるのよ!」

 

 

ゆりが近付いて来た。

 

 

「椎名と俺の定番デートだけど?」

 

「デートで手合わせするやつがいるかぁ!」

 

「ここにいるが」

 

「それは特殊ケース!」

 

 

ちょっと驚かせちゃったみたいだね。

 

 

「全く、ビックリしたわよ。急に2人が距離を空けたと思ったら椎名さんが凄い勢いで太一くんの方に飛んでいくし、太一くんは太一くんで凄い速さで何かしてたし、挙げ句の果てに煙がたくさん出るし……」

 

「ゆりもやる?」

 

「やらないわよ!」

 

「あさはかなり」

 

「にゃ〜……」

 

「太一くんと椎名さんって2人でいるときは何しているのか気になっていたけど、謎が解けたわ」

 

「毎回手合わせしてる訳じゃないよ。部屋で普通に2人でDVD見たりしてる時間もあるし」

 

「へぇ、意外ね」

 

「案外椎名も普通の女の子らしいところ、いっぱいあるよ」

 

 

そう言いながら椎名の頭を撫でると、目を細めて嬉しそうな表情になった。何となく猫っぽい。

 

 

「椎名さん、そんな顔もするんだ」

 

「よくこんな顔になるよ」

 

「初めて見たわ……」

 

「私が唯一安心できる場所だからな、篠宮の近くは。この時だけは過去のことも全部忘れて、本当に安らかな気持ちになる」

 

「ふぅん、やっぱり凄いわね、太一くんって」

 

 

柔らかい笑顔で語りかけてくるゆり。

 

 

「いやいや、俺は全然凄くないよ。ただ、椎名にそうやって言ってもらえるのは、素直に嬉しいかな」

 

「あら、私だってそう思っているわよ。太一くんと2人でいる時はリーダーという立場を忘れて、心の底からリラックスできるもの」

 

 

ゆりの言葉を聞くや否や、俺は2人を抱きしめていた。

 

 

「俺も、2人のこと大好きだよ。愛してる」

 

「私も愛しているぞ、篠宮」

 

「私も愛してるわよ、太一くん」

 

 

周りに人がいたら絶対にやらないことだが、ピクニック中の草原という開放感がそうさせるのか、互いが互いにストレートな感情を伝え合う。

 

その後は、ゆりが作ってくれたお弁当をみんなで食べ、バトミントンなどの運動を楽しんだ後、充実感と共に寮へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちも先輩といると安心しますよ?ね?みゆきち」

 

「うん、凄く安心する」

 

 

ピクニックの翌日、しおりとみゆきは俺の部屋に遊びに来ていた。俺を中心に3人でベッドに座っていて、右隣にしおり、左隣にみゆきがいる。

 

 

「先輩、ちょっといいですか?」

 

「え?」

 

「えいっ!」

 

 

しおりが俺の右半身に抱きついてきた。

 

 

「先輩!そのまま右腕でぎゅーってして下さい!」

 

 

俺はしおりの指示通りぎゅーっとする。

 

 

「ほら、こうやって先輩にぎゅーってしてもらうと私凄く安心します!」

 

「えっ、しおりんズルい!せ、先輩!私も!」

 

 

みゆきもしおりと同様に抱きついてきたので、これまた同じように左腕でぎゅーっとした。

 

 

「みゆきちも安心する?」

 

「うん!凄く安心する……」

 

 

2人が安心してくれているようで何よりだ。

 

 

「ところで2人ともさ」

 

「はい?」

 

「その……『先輩』って言うの、やめない?」

 

「ど、どういうことです?」

 

 

俺の突然の提案に2人は戸惑っている。

 

 

「あ、いや、ごめん、そんな身構える話じゃないんだけどさ、2人ってずっと俺のこと『先輩』って呼んでるじゃん?」

 

「はい……呼んでます……」

 

 

尚も身構えながら返事をするみゆき。

 

 

「俺のことも名前で呼んでほしいなー、なんて……」

 

 

目を丸くして俺を見るしおりとみゆき。

 

 

「ほら、俺たち恋人同士でしょ?俺としてはこの関係に先輩も後輩も無いと思ってるからさ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

尚も目を丸くし続ける2人。

 

俺、そんなに変なこと言ったかなぁ?と疑問に思っていると……。

 

 

「せ、先輩からそんなこと言ってもらえるなんて……!」

 

「やったね!しおりん!」

 

 

戸惑う俺とは対照的に2人はキャピキャピしている。

 

 

「ど、どうしたの?2人とも」

 

「あ、いや、私たちも『先輩』じゃなくて『太一くん』とか『太一さん』って呼びたいねって話していたんですよ!」

 

 

みゆきが解説してくれる。

 

 

「でも、なんかタイミング失っちゃって……」

 

「そうそう!みゆきちの言う通りなんですよ!私なんて昔『関根』って呼ばれてたの咎めて『しおり』って呼ばせたのに、当の私は未だに『先輩』呼びだなぁって思ってたんですよ!」

 

 

まあ、それは俺もちょっと思ってた。

 

 

「でもでも!今日というタイミングで私たちも憧れの名前呼びに転換できるんです!」

 

「あ、憧れてたんだ」

 

「はい!憧れてました!」

 

 

元気よく返事をするしおり。

 

 

「じゃあ私は『太一くん』って呼んでもいいですか!?」

 

「おぉ……もちろん、いいよ」

 

「『おぉ……』って何ですか?」

 

「なんか、しおりから名前で呼んで貰えるの、凄く新鮮な感覚で、凄くいいなと思って……」

 

「太一くーん!」

 

 

右側に抱きついていたしおりが更にギューっと抱きついてくる。

 

 

「じゃあじゃあ!私は『太一さん』で!」

 

「うお……すっごい新鮮……」

 

「だ、ダメですか?」

 

「いやいや、勿論OKだよ。寧ろ、他の5人とは違う呼ばれ方で、なんていうか……みゆきだけの特別感がある」

 

「太一さ〜ん!」

 

 

左側のしおりも更にギューっと抱きついてくる。

 

 

「いやぁ……幸せ……」

 

「私も、太一くんと出会えて幸せです……」

 

「私も太一さんと一緒にいれて幸せです……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「「「……ふふっ」」」

 

 

少しの静寂の後、3人とも同時に笑いが込み上げてきた。

 

 

「はぁ〜……ずーっとこの時間が続けばいいのに……」

 

「お、みゆきち良いこと言うねぇ〜!」

 

「……太一さん……」

 

「んー?」

 

「その……キ、キス……しても良いですか……?」

 

「「えっ……」」

 

「「えーっ!?」」

 

 

俺としおりは驚いた。

 

 

「み、みゆきち!今なんて!?」

 

「その……キス……してみたいって思って……」

 

 

俺としおりが驚くのも無理はない。

 

以前話した通り、みゆきはとんでもなくピュアだ。俺と他の人がキスをしたのを見ただけで気絶してしまうほどに。

今までも俺の部屋で夜を過ごしたことはある。しかし、手を繋いだことはあれど、キスなんてしたことはなかった。

 

そんなみゆきから「キスをしたい」と発言があったのだ。俺的にはみゆきのペースでゆっくりと慣れていって貰えればいいと考えていたが、それがまさか今日だなんて……。

 

なんか、他のみんなとは日常的にキスはしているが、みゆきが相手となると妙な緊張感がある。

 

 

「あ、あのあの!別に嫌だったら全然……」

 

 

当の本人は顔が茹蛸のように真っ赤になっている。

 

 

「そんな、嫌なわけないじゃん」

 

 

俺はみゆきの方を向く。

 

しおりは空気を察して俺への抱きつきを解いた。

 

 

「そ、その……わ、私目瞑っていますから……先輩の方から……」

 

 

みゆきが言い終わる前に、みゆきの唇にキスをした。

 

 

「っ!!」

 

「っ……」

 

 

俺は両腕でみゆきを抱き寄せ、右手で頭を支えた。

 

5秒、6秒と時間は流れ、唇を重ねてから10秒ほどして、俺は唇を離した。

 

 

「ぷはっ……」

 

「…………」

 

 

離れたみゆきの顔を改めて見ると、キスをする前よりも真っ赤になっていた。

 

目もグルグルと回っているが、ギリギリ気絶はしていないようだ。

 

 

「み、みゆき?大丈夫?」

 

「みゆきち……」

 

「…………た…………」

 

「た?」

 

「た、太一さん!」

 

「うおっ」

 

 

俺の胸へ飛び込んでくるみゆき。

 

 

「わ、私!太一さんとキスできました!」

 

 

俺はみゆきの背中に手を回し、背中を摩る。

 

 

「うん、できた。俺もみゆきとキスできたよ」

 

「凄いじゃんみゆきちー!太一くんとキスしても気絶しなかったじゃん!」

 

「は、恥ずかしい〜……!でも、嬉しいです……!」

 

「うんうん、俺も嬉しいよ」

 

 

尚も俺の胸に顔を埋めて、頭から湯気を出し続けるみゆき。

 

これは落ち着くまでしばらく時間かかりそうだね。

 

そして10分後。

 

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい〜……」

 

 

まだ若干頬が赤いが、とりあえずキスをしてから今までの間、気絶をすることは無かった。

 

 

「みゆきち〜、初めてのキス、どうだった〜?」

 

 

ニヤニヤしながら感想を求めるしおり。

 

 

「そ、その……大好きな人とのキスって、こんなに気持ちいいんだって……」

 

 

再び顔が赤くなるみゆき。

 

やべ、超可愛い。

 

 

「とりあえず!おめでとう!みゆきち!」

 

「うん!ありがとう!しおりん!」

 

 

なんだかんだでしおりはみゆきにちょっかい掛けているように見えて、ちゃんと応援しているんだよな。

 

 

「よーし、それじゃあ次は……」

 

 

しおりがみゆきにゴニョゴニョと耳打ちをする。

 

その瞬間。

 

 

「はぅっ!?」

 

 

みゆきがボンッと湯気を出してそのまま後ろに倒れた。

 

 

「あーっはっはっは!まだまだみゆきちはウブだねぇ!」

 

「……しおり?」

 

 

少し声のトーンを落として、しおりの名前を呼んでみた。

 

 

「ち、違うんですよ!ほら!将来的には太一くんとそういうことするじゃないですか!その時の為に今から慣らしているんですよ!」

 

「…………はぁ……」

 

 

ヤバっという顔をするしおり。

 

ま、お灸を据えるのはこのくらいでいいかな。

 

 

「あんまりやり過ぎないでよ?みゆきにだってみゆきのペースがあるんだし」

 

「はぁ〜い……」

 

 

反省はしているようだ。

 

 

「さて、それにしても、今回みゆきはどれくらいで目を覚ますかな?」

 

「ん〜……結構ディープなことを耳打ちしたので……1時間くらいってところですかね?」

 

 

どんなことを耳打ちしたんだ……。

 

 

「それより太一くん」

 

「ん?」

 

「そ、その……みゆきちとのキスを見たら私もキスしたくなっちゃって……」

 

 

頬を赤くしながら上目遣いで訴えてくるしおり。

 

ヤバい、コレは破壊力抜群だ。

 

しかし、何と言うか、寝ている、もとい気絶しているみゆきの隣でしおりとキスをすると言うのは、何となく背徳感があると言うか……。

 

 

「ダメ……ですか?」

 

 

その問いに答える前に、俺はしおりの唇にキスをしていた。

 

みゆきと同じく10秒ほどで唇を離す。

 

 

「……ふふっ、やっぱり太一くんとのキスって凄く気持ちいいですね。大好きです」

 

 

そのまま抱きついて来るしおり。

 

結局みゆきが目を覚ますまで俺としおりはイチャイチャして、みゆきが目を覚ましてからは3人でイチャイチャして1日を過ごしたのであった。

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