岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第三話「初めまして、GirlsDeadMonster」

「へぇ〜、じゃああれは校長室だったんだ?」

 

 

「そ。初期メンバーで校長室をジャックしたんだとさ」

 

 

雅美に連れられて廊下を歩きながら、俺はさっきまでいた場所について話を聞いていた。

 

死後の世界。

 

神に抗う戦線。

 

校長室を本部にしている集団。

 

改めて考えても、情報量が多い。

 

けれど、隣に雅美がいるだけで、不思議と足取りは軽かった。

 

 

「初期メンバーって?」

 

 

「ああ、ゆりと日向と大山と野田と椎名と私とひさ子とチャーだよ」

 

 

一人ずつ顔を思い浮かべてみる。

 

ゆり。

 

日向。

 

大山。

 

野田。

 

椎名。

 

雅美。

 

そこまでは分かる。

 

でも、ひさ子とチャーという人たちだけは思い浮かばない。

 

 

「まあ、さっきのところにはひさ子とチャーはいなかったけど」

 

 

「先に言ってよ! もう忘れちゃったかと思って焦ったじゃん!」

 

 

「ははっ! 悪い悪い!」

 

 

ケラケラ笑いながら謝られても困る。

 

でも、こういう雅美を見るのは久しぶりで、少しだけ懐かしかった。

 

生前もそうだった。

 

雅美は普段どこか落ち着いているのに、俺相手だと少しだけ調子が変わる。

 

からかうように笑ったり、急に楽しそうになったりする。

 

その距離感が、今はたまらなく嬉しかった。

 

 

「それで、ひさ子とチャーっていうのは誰なの?」

 

 

「ひさ子っていうのはガルデモのメンバーの一人で、チャーっていうのはギルドの長だよ」

 

 

「じゃあ、ひさ子さんにはこれから会えるんだ」

 

 

「そうだな」

 

 

「どんな人なの?」

 

 

「う〜ん、なんて言うか……」

 

 

「なんて言うか?」

 

 

雅美は少しだけ考えるように視線を上げた。

 

そして、結局答えを諦めたように笑う。

 

 

「……会ってみれば分かるよ」

 

 

なんじゃそりゃ。

 

まあ、会えば一発で分かるタイプの人なんだろう。

 

それはそれで少し楽しみではある。

 

それから五分ほど歩いて、俺たちは一つの教室の前に着いた。

 

 

「よーし、入るぞー」

 

 

「ちょっ、ちょっと待って……」

 

 

「なんだよ。もう開けたよ」

 

 

ちょっとぉ!

 

まだ心の準備ができてないよぉ!

 

こっちは雅美のバンドメンバーに初めて会うんだぞ。

 

雅美にとって大切な場所なら、俺だってちゃんとした態度で入りたい。

 

そう思っていたのに、雅美は容赦なく扉を開けた。

 

 

「岩沢、おかえり……っと、そいつは誰だ?」

 

 

教室の中にいたポニーテールの女の子が、俺を見て眉をひそめた。

 

この人がひさ子さんだろうか。

 

目つきは少し鋭いけど、嫌な感じはしない。

 

むしろ、バンドをまとめている人という雰囲気があった。

 

 

「こいつは今日入った新人の篠宮太一だ」

 

 

「ど、どうも……」

 

 

「こいつがゆりっぺの言ってた新人か。どうして連れてきた?」

 

 

「ガルデモのニューメンバーとして迎えるためだ」

 

 

「なっ!? ガルデモに男!?」

 

 

そりゃそうなるよね。

 

俺もそう思う。

 

だって、Girls Dead Monsterだ。

 

名前からして、完全にガールズバンドである。

 

そこに男の俺が入るというのは、冷静に考えるとかなりおかしい。

 

 

「なになに〜?」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

後ろから、金髪の女の子と紫髪の女の子が駆け寄ってくる。

 

……どうでもいいけど、このバンド、顔面偏差値が高いな。

 

雅美も含めて、全員見た目がかなり良い。

 

死後の世界のバンドって、こんなに華やかなものなのか。

 

 

「どうした? 岩沢。熱でもあるんじゃないか?」

 

 

「私は至って健康だぞ」

 

 

「じゃあなんでそんなぶっ飛んだことしようとするんだよ」

 

 

「えーっと……ロックだから?」

 

 

「ロックじゃねぇよ!」

 

 

首を傾げながらロックを主張する雅美に、ポニーテールの女の子が鋭いツッコミを入れた。

 

どうでもいいけど、今の雅美はなかなかに可愛かった。

 

いや、今のというか、雅美は基本的に可愛い。

 

でも、こういう少し抜けた感じを見られるのは、多分かなり貴重だと思う。

 

 

「あ、あの!」

 

 

「どうした関根? いま岩沢を説得してるところなんだが……」

 

 

「その人、誰ですか?」

 

 

金髪の女の子が、俺を指差して質問してくる。

 

かなり元気そうな子だ。

 

表情も声も明るい。

 

 

「こいつは篠宮太一。今日入った新人で、私の幼馴染だよ」

 

 

「えーっ!? 岩沢先輩の幼馴染!?」

 

 

「えっ? こいつ、岩沢の幼馴染なのか?」

 

 

「そうだけど……言ってなかったか?」

 

 

「言ってねぇよ! 初耳だよ!」

 

 

ひさ子さんらしき人が、かなり本気で驚いている。

 

どうやら雅美は、俺のことをほとんど話していなかったらしい。

 

少し寂しいような気もするけど、まあ死後の世界で生前の話をしすぎるのも難しいのかもしれない。

 

 

「そっかあ! 岩沢先輩の幼馴染なんですね! 私、関根しおりって言いまーす! よろしくお願いしまーす!」

 

 

「あっ……えっと、篠宮太一です」

 

 

勢いがすごい。

 

関根しおり。

 

覚えた。

 

明るくて、距離感がかなり近いタイプの子だ。

 

 

「篠宮先輩ですね? パートはどこやってるんですか?」

 

 

「ぼ、ボーカルだけど……」

 

 

「ボーカルですか! いいですねぇ〜!」

 

 

なんかやたら元気な子だなぁ。

 

でも、悪い子ではなさそうだ。

 

というか、むしろこっちの緊張を勝手にほぐしてくれるタイプかもしれない。

 

 

「それじゃあ早速歌ってもらいましょう!」

 

 

「うえぇ!?」

 

 

前言撤回。

 

この子、勢いで場を全部持っていくタイプだ。

 

 

「せ、関根! あんたはまた勝手に……っ!」

 

 

「まあまあ、良いじゃないですか! ガルデモに入るかどうかは実力を見てからにしましょうよ!」

 

 

関根のお陰で、半ば強引に教室で歌を披露することになってしまった。

 

ちらっと関根の方を見ると、ウインクを飛ばしてきた。

 

まさか、こうなるのが狙いで話に入ってきたのか……?

 

恐ろしい子だ。

 

 

「太一、大丈夫か? 歌えるか?」

 

 

雅美が少し心配そうに俺を見る。

 

その顔を見た瞬間、変な緊張が少しだけ消えた。

 

雅美がいる。

 

それだけで、何とかなる気がした。

 

 

「俺は大丈夫だよ。雅美は?」

 

 

「私もいつでもいける」

 

 

「そっか。じゃあ行くぞっ! Crow Song!」

 

 

俺が曲名を告げた瞬間、雅美のギターが鳴った。

 

Crow Song。

 

生前、雅美と一緒に作った曲だ。

 

その音が教室に響いた瞬間、胸の奥が熱くなる。

 

この感じ。

 

久しぶりだ。

 

本当に、久しぶりだった。

 

俺は歌い始めた。

 

雅美のギターが隣にある。

 

それだけで、声が自然と前に出る。

 

ポニーテールの女の子は目をぱちくりさせながらこちらを見ていた。

 

関根はノリノリで手拍子をしてくれている。

 

紫髪の女の子も、少し驚きながら同じように手拍子を送ってくれた。

 

歌いながら、少しだけ泣きそうになった。

 

だって、また雅美と音楽ができている。

 

もう二度と叶わないと思っていた時間が、今ここにある。

 

それでも声は揺らさない。

 

この曲は、雅美と一緒に作った曲だ。

 

中途半端には歌いたくなかった。

 

最後の一音まで歌い切った直後、ポニーテールの女の子が勢いよく俺の胸倉を掴んできた。

 

 

「おい! 岩沢! こいつは誰だ!」

 

 

「だからさっきも言った通り篠宮太一だって」

 

 

「そうじゃねぇよ! こいつ、昔はプロかなんかだったのか!?」

 

 

「ちょ……ちょっと……苦しい……」

 

 

「あっ……悪い……」

 

 

ふぅ……やっと解放された。

 

本当は苦しくなんかない。

 

ただ、胸倉を掴まれたままだと話しづらいから、嘘をついて離してもらっただけだ。

 

こんな体になってしまうと、こういう時に少しだけ説明が面倒である。

 

 

「私、感動しちゃった〜!」

 

 

「わ、私もです!」

 

 

「そ、そう? ありがとう」

 

 

褒められるのは嬉しい。

 

でも、ここまで真っ直ぐ反応されると照れる。

 

生前、俺の歌をちゃんと聴いてくれた人は、雅美以外ほとんどいなかった。

 

だから余計に、どう返せばいいのか分からない。

 

 

「この実力なら、ガルデモに入っても問題ないんじゃないですか? ひさ子先輩」

 

 

「確かに実力的には問題ないけどさ……」

 

 

「問題ないけど、なんだよ?」

 

 

雅美が不満そうに問いかける。

 

俺のことになると、雅美は本当に分かりやすい。

 

さっきまでロックだなんだと言っていた時より、少しだけ声に力が入っている。

 

 

「ちょっと生きてた頃の話を聞いてもいいか? ここまでの実力でスカウトされていないなんて絶対おかしい」

 

 

「せ、生前について?」

 

 

「あ、いや、別に無理にとは言わねえよ。話せる範囲でいい」

 

 

ひさ子の声は、思ったより柔らかかった。

 

疑っているというより、納得できないことをちゃんと確認したい。

 

そんな感じだ。

 

 

「……いいよ。全部話す」

 

 

そう言った瞬間、雅美が少し不安そうな視線を向けてきた。

 

大丈夫。

 

そう目で返す。

 

俺は生前について話すことにした。

 

雅美との関係。

 

日常生活。

 

死んだ原因。

 

もちろん、力のことも。

 

そして、その力によって受けた周りからの仕打ちも。

 

話しながら、胸の奥が少しだけ重くなる。

 

でも、不思議とさっきほど苦しくはなかった。

 

目の前にいる人たちは、俺の話をちゃんと聞いてくれている。

 

それが分かったからだ。

 

 

「……そうか……そりゃあ、災難だったな……」

 

 

「まあね……」

 

 

「公然の秘密、か……そりゃあスカウトもされないわけだ」

 

 

「みんなも、それだけで避けるなんて酷いですね!」

 

 

関根が頬を膨らませる。

 

紫髪の女の子も、少し悲しそうな顔をしていた。

 

ひさ子は腕を組んで、何かを考えるように目を伏せている。

 

 

「ひさ子、結局太一はガルデモに入ってもいいのか?」

 

 

「ここまで聞いといて、今更断る訳にはいかないだろ」

 

 

「ってことは……!」

 

 

「ああ。よろしくな、篠宮太一」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、雅美が勢いよく拳を握った。

 

 

「よっしゃああぁぁ!」

 

 

なんで雅美がそこまで喜ぶんだ?

 

いや、嬉しいけどさ。

 

俺もかなり嬉しいけど、雅美の喜び方が俺以上だった。

 

 

「よろしく、ひさ子さん」

 

 

「ひさ子でいいよ」

 

 

「じゃ、じゃあ……ひさ子」

 

 

「おう」

 

 

少し緊張しながら呼ぶと、ひさ子は満足そうに頷いた。

 

怖そうに見えて、かなり面倒見の良い人なのかもしれない。

 

 

「は〜い! 篠宮先輩! よろしくお願いしま〜す!」

 

 

「えっと……君は?」

 

 

「ああ! すみません! 自己紹介がまだでしたね……。私、入江みゆきって言います!」

 

 

紫髪の女の子が、慌てたように頭を下げる。

 

さっきから関根の勢いに押されていただけで、かなり礼儀正しい子らしい。

 

 

「よろしく、入江」

 

 

「はい。よろしくお願いします、篠宮さん」

 

 

これで、とりあえず全員との挨拶は終わった。

 

ひさ子。

 

関根しおり。

 

入江みゆき。

 

そして雅美。

 

俺はこのバンドに入れてもらえることになった。

 

Girls Dead Monster。

 

名前の問題はまだ残っている気もするけど、そこは今考えても仕方ない。

 

そして、この後。

 

俺の歓迎会と称して、パーティを開くことになった。

 

………女子寮で………。

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