レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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13話

翌朝。

 

欠伸を噛み殺しながら、いつも通り校門をくぐる。

ここ最近いろいろありすぎて正直疲れてたけど、今日は少しだけ調子がいい。

 

廊下を歩いて、自分の教室の前に立つ。

 

――よし。

 

ガラリと戸を開くと、

 

「よぉ、敏之」

 

「はよ」

 

村田と吉村が、いつもの軽い調子で声をかけてきた。

 

「うっす」

 

俺も軽く返す。

 

「今日はなんか元気そうだな」

 

「……まあな」

 

「最近、えらくやつれてたし」

 

二人は冗談めかして笑う。

 

まあ、昨日まではいろいろ大変だったからな。

でも――百合と話がついたおかげで、肩に乗ってた重りが少しだけ軽くなった気がする。

 

ふと、俺は教室の前方へ視線を向けた。

そこでは数人の女子が集まって、楽しそうに話し込んでいる。

 

笑い声は大きく、身振り手振りもやたら派手。いわゆる――陽キャ女子ってやつだ。

 

クラスカーストで言えば、間違いなく頂点。

あいつらからすれば、俺たちなんて景色の一部みたいなものだろう。

 

視界に入っても、わざわざ認識すらされない。せいぜい、机か空気と同じ扱いだ。

 

そして、その輪の中心にいるのが――菜月だった。

 

人を引き寄せるみたいに立って、楽しそうに笑いながら会話を回している。

もしあのグループにも序列があるなら、菜月は上位――いや、“中心人物”だ。

 

「ほんと毎回毎回、同じような話してて面白いのかね、あいつら」

 

吉村がぼやく。

 

聞こえてくるのは、彼氏がどうだとか、男がどうだとか。惚気と愚痴をごちゃ混ぜにしたみたいな話題ばかりだ。

 

正直、俺たちからすればどれも似たり寄ったり。

 

毎日よくそんなに話すことがあるな、と思う。

 

百合はその中心で、笑って、相槌を打って、話を回している。

 

一見すれば――完全に馴染んでる。

 

けど。

 

(……無理してんな)

 

ここ数日で知ってしまった、あいつの“本当の姿”。

 

ああやって騒ぐタイプでもなければ、男の話で盛り上がれる性格でもない。

 

たぶん今も内心は、泣きそうになりながら、

必死にそれっぽい顔を貼り付けてるんだろう。

 

(……陽キャの皮、分厚いな)

 

なんでそこまでして演じてるのかは知らない。

でも、あれはあいつが選んだことだ。あいつなりに何かあるんだろう。

 

(……頑張れよ)

 

俺は小さく苦笑いして席に座り、手提げバッグから水筒を取り出して口をつけた。

 

「てかナツ。あんたの彼氏って、女遊びしてるってホント?」

 

「ぶふっ!!」

 

思わず、口に含んでいたお茶を吹き出した。

 

「うわっ、汚なっ!」

 

「なにしてんだよ敏之!」

 

「わ、悪ぃ……ちょっと、むせた……」

 

吉村にドン引きされながらも、俺の意識は完全に教室前方へ持っていかれていた。

 

――百合。

 

数人の女子に囲まれながら、苦笑い気味に笑っている。

 

「あはは……」

 

(あー……その顔。“私、なにも知りませーん”の顔だ……!)

 

これは完全に、本人の知らないところで尾ひれがついて広まるやつだ。

 

(百合……頼む。否定してくれ……!)

 

「まあ……前までは、そういうことしてたみたいだけど」

 

(否定しろよ!!!!!)

 

心の中で全力ツッコミを入れた。

 

「え〜、優しそうな顔してるのに」

 

「そういう顔の男ほど遊んでるって言うよね」

 

「うわ、最低〜」

 

(違います!決して僕、そんな男じゃありません!!)

 

女子たちは好き勝手に盛り上がっていく。

 

やめてくれ。聞いてるだけで胃が痛い。

 

すると百合が、追い打ちみたいに口を開いた。

 

「でも今は……私のためなら、なんでも言うこと聞く“わんちゃん”だから」

 

(何を言ってるんだお前は!!!!)

 

もう無理だ。精神が持たない。

 

俺は耐えきれず、勢いよく席を立った。

 

「どした、敏之?」

 

「トイレ」

 

「ついでにコーラ買ってきて」

 

「知るか!」

 

吉村を適当にあしらって、俺は足早に教室を後にした。

 

――これ以上あそこにいたら、俺のメンタルが死ぬ。

 

しかし、どう時間を潰すか。

朝のホームルームまで、まだ少し余裕がある。

 

(……屋上にでも行くか)

 

あそこなら誰もいないだろう。

 

そう思って階段へ向かい、踊り場に差しかかった――そのときだった。

 

ふと、視線を感じる。

 

足を止め、そっと顔を上げると――

踊り場の奥、壁の向こうから百合先輩がこちらを見ていた。

 

正確には、俺というより――

俺が出てきた教室の方向を、じっと見つめている。

 

壁に身を寄せて身を隠すみたいにして、

でも顔だけは、ひょこっと覗かせていて。

 

……何してるんだ、あの人。

 

そう思いながら、俺はそちらへ足を運んだ。

 

「あっ……和泉くん!」

 

俺が声をかける前に、百合先輩のほうから話しかけてきた。

 

「……何してるんですか?」

 

「えっとね。うんとね……」

 

百合先輩は少し考えてから、

 

「実は、菜月ちゃんにちょっかいかけてくる男の子がいるって噂を聞いて……」

 

「ぶふっ」

 

「だ、大丈夫?」

 

「むせただけです。気にしないでください」

 

百合先輩の言葉に、俺は反射で吹きかけてしまった。

 

(き、気まずっ……!!)

 

噂も何も、目の前にいる俺が諸悪の根源だ。

まさか本人に向かって、こんな話を聞かされるとは思わなかった。

 

(言えるか……! 俺が原因です、なんて言えるわけないだろ!!)

 

完全に自業自得なのは百も承知だ。

 

でもそれ以上に――千亜希、てめぇのせいだろこれ……!!

 

とにかく、ここはそれとなく流さないと怪しまれる。下手に食いついたら、それこそ藪蛇だ。

 

「そ、そんなことがあったんですね……」

 

──よし。

 

自分でもびっくりするくらい、他人事っぽく言えた。

 

……頼むから、これ以上突っ込まないでくれ。

 

「その子にも、ちゃんと会ってお話ししたいし……」

 

百合先輩は少し考え込むように視線を泳がせて――

 

「そうだ……! 和泉くん、もし良かったら一緒に探してもらえないかな?」

 

「――え?」

 

想定外すぎて、思考が一瞬フリーズする。

 

(やばい……これ、めちゃくちゃ面倒なことになってきた……)

 

背中にじわっと冷や汗が滲むのを感じながら、俺は必死に平静を装った。

 

いや、落ち着け。

簡単な話だ。断ればいい。

それだけで、この場は――

 

「あ、何か困った時に連絡したいし。ライン、交換しとこっか?」

 

「――っ!?」

 

百合先輩のライン!?

あの百合先輩の!?

 

それ知りたがってる男子、学校中に山ほどいるだろ!クラスどころか学年単位で!!

 

(待て待て待て……落ち着け……!)

 

惑わされるな、和泉敏之。これは罠だ。受けたら終わるやつだ。

 

「もちろん。俺なんかで良ければ、いくらでもお手伝いしますよ」

 

(――――何言ってんだ俺!!?)

 

自分で自分を殴りたくなった。

見栄を張って勝手に口が動いてしまった。

 

馬鹿か俺。どうすんだよ……。

 

 ――いや、待て!?

 

そもそも原因は俺自身なんだ。だったら、ほとぼりが冷めるまで、上手くのらりくらり誤魔化せばいいだけの話じゃないか。

 

 天才か。俺……

 

「それじゃ、ちょっとやろうか」

 

百合先輩は慣れた手つきでスマホを操作していく。

 

(……やたら手際がいいな)

 

 ――まあ、今はそんなことどうでもいい。

 

百合先輩とラインを交換する。それだけで、胸の奥が無駄にざわつく。

 

(……めちゃくちゃ嬉しいんだけど)

 

「これでよしっと……」

 

百合先輩がそう言って操作を終える。

 

「あぁ……そうだ、和泉くん」

 

「はい」

 

「お昼休み、生徒会室に来てくれない?」

 

「……え?」

 

「お昼ご飯ついでに、作戦会議しよう!」

 

 にこっと笑う百合先輩。

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