レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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15話

「あぁ〜、変にメンタル削られたわ」

 

昼休みが終わり、俺は教室へと戻っていく。

 

……まあ、百合先輩とお昼ご飯食べられたし。

 

(プラマイゼロ……? いや、面倒ごともなかったし。どっちかって言うと――プラス寄りか)

 

ほんのちょっと口元が緩みそうになるのを、慌てて引っ込める。

 

まだ教室に戻る前だ。油断すると変な顔を見られる。そうこうしてるうちに、自分のクラスの前まで着いた。

 

 ――が。

 

扉の前に、見知らぬ男子が立っていた。うちのクラスの生徒じゃない。制服は同じなのに、明らかに雰囲気が違う。

 

背が高くて、髪も整っていて。ぱっと見ただけで「イケメン」って分かるタイプだ。

 

(……ケッ)

 

思わず心の中で舌打ちする。

 

何着ても様になるんだろ、こういう奴は。同じ制服のはずなのに、この差はなんなんだよ。

 

どうせ女の子にキャーキャー言われて、何もしなくても好意を向けられるんだろ。

 

(きぃぃぃぃ……)

 

――別に、羨ましくなんてない。

 

……はずなんだけど。

 

ちょうどその時、廊下を通り過ぎていく女子たちが、ちらっとその男子を見た。

 

「……ねえ、今の人、めっちゃイケメン」

 

「サッカー部の部長だよ。たしか」

 

「え、うそ……あの人が西村先輩……?」

 

ひそひそ声と一緒に、視線が集まっていく。

くっそ、やっぱりな。

 

……サッカー部の部長!?

 

脳内で、点が繋がる。

 

(え、待て。――それって百合が振ったって噂の相手じゃね?)

 

初めて見たけど……こんなレベルのイケメンだったのかよ。

 

ていうか、百合。こんな人を振ったのか……。

 

……すげえな、アイツ。

 

視線が合った。

 

「あっ……やあ」

 

西村先輩が、爽やかに手を上げる。

 

……誰に?

 

俺とあの人、接点ゼロ。初対面。

それともイケメンってのは、見ず知らずの人間にも挨拶できる生き物なのか。

 

(返すべき……?)

 

いや、待て。これは罠だ。

 

ここで俺が「どうも!」とか返した瞬間、

先輩の視線の先は俺の後ろの誰かで――

 

『は……? お前じゃない』

 

『キモ。誰に挨拶してんのw』

 

……笑われる。確実に。

 

反応するな。スルーだ、俺。

 

西村先輩は、きょとんと首を傾げた。

 

「……あれ。和泉くんだよね? 間違ってた?」

 

「――は?」

 

俺に!? なんで!?

 

どういうことだよこれ!?

 

ありえない。

 

サッカー部の主将が、俺みたいな奴に用事があるわけがない。

 

(……いや)

 

これはもう、確実に面倒ごとだ。

ここ最近の流れ的に、間違いない。

 

――なら、俺が取るべき行動は一つ。

 

俺は覚悟を決めて、一歩前に出た。

 

「……唐揚げにレモンかける派か?」

 

「……えっ?」

 

ふはは。

 

どうだ、驚いたか。怖いだろ〜。

 

これが俺が長い年月をかけ――今この瞬間に適当に作った、高等・陽キャ回避術だ。

 

意味不明な質問をぶつければ、相手はだいたい「なんだこいつ……」って距離を取る。

 

ドン引きされるか、呆れられるか。どっちにしろ会話は終わる。

 

(勝ったな。メンタルが削られる程度で済むなら安い)

 

俺は半歩だけ下がり、逃走経路を確保する。

 

(さあ困れ。返せないなら先に行かせてもらうぞ)

 

「…………」

 

西村先輩が、一拍置いて――

 

「……俺、甘辛ダレ派なんだ」

 

「…………は?」

 

……なん、だと。

 

会話が……成立した?

 

普通スルーするだろ!? そうだろ!?

こっちは終わらせるために意味不明を投げたんだぞ!?

 

なのに――。

 

トクン。

 

胸が鳴った。

 

(やめろ。今それ拾われると、俺が落ちる)

 

――落ちちまうだろうがぁぁぁぁぁ!!

 

これが陽キャか。陽キャだから拾えるってことなのか。クソ……!

 

(……嬉しい。普通に嬉しい。くそが)

 

伝えたい。

 

この、予想外に救われた気持ちを――

 

「おい」

 

俺は反射で声を荒げていた。

 

「なにが甘辛ダレ派じゃ。シバくぞ」

 

「あれぇ……俺なにかしちゃった?」

 

――おっと、失敬。

 

俺は咳払いで誤魔化して、視線を逸らす。

 

「……俺、唐揚げにレモン以外かけるやつは敵だと思ってるんで」

 

「……っ、ならレモン派になる」

 

――ちょ、勘弁してください。お願いします。

 

マジトーンで返されると、こっちが困る。

 

西村先輩は真剣な眼差しでこっちを見てくる。

俺は耐えきれず、ふいっと目を逸らした。

 

「あ、ところで和泉くん。ちょっと聞きたいことあるんだけど」

 

……切り替え早っ。

 

「……はい。なんでしょうか?」

 

「百合さん――あ、君のクラスメイトの子ね。……その子と付き合ってるの?」

 

……ん?

 

今、この人なんて言った?

 

百合と、俺が――付き合ってる?

 

(――つ、付き合ってるだとォォォ!?)

 

脳内が一瞬で騒がしくなる。いやいや、そんな噂いつ立った。誰が流した。どこで漏れた。

 

「いやいや、ありえないですから」

 

「まあ、だろうね」

 

……やっぱシバくか。

 

「そもそも百合、彼氏いるって聞きましたけど」

 

「うん。俺もそう聞いてる」

 

「じゃあ、なんで俺と百合が付き合ってるとか――」

 

「あぁ。実はさ」

 

西村先輩は困ったように、頭の後ろをかいた。

 

「俺の後輩がね。百合さんが見せびらかしたプリクラに写ってた“彼氏”が、和泉くんに似てたって言ってて」

 

「あぁ〜……」

 

納得が一気に腹に落ちる。

 

(……あのバカ、何してんだよ)

 

あのプリクラが、こんなところまで飛び火してる。

 

しかもサッカー部の後輩ルート――つまり、クラスの陽キャ女子経由で漏れたってことか。

 

(そういえば、うちのクラスにサッカー部のやついたな……取り巻きの女子と付き合ってたはず……)

 

……最悪。

噂の伝播速度、陽キャネットワーク強すぎだろ。

 

「もしかしてさ。和泉くんってお兄さんいる? 大学生の」

 

「いないっす。俺が長男です」

 

「……そうなんだ」

 

てか、ちょっと疑問に思った。

なんでこの人、そこまで百合の彼氏のことが気になるんだ?

 

一瞬だけ迷ってから、俺は素直に聞く。

 

「……先輩、なんでそんなに気になるんですか?」

 

「え?」

 

「百合の彼氏のことですよ」

 

「……まあ」

 

西村先輩は肩をすくめるみたいに軽く言った。

 

「俺を振った相手が、どんな奴と付き合ってるのか。気になっただけ」

 

「……それだけですか?」

 

「うん、それだけ」

 

「なるほど……」

 

納得しかけて、でも――やっぱ引っかかる。

 

だから、もう一歩だけ踏み込んだ。

 

「じゃあ、仮にですけど」

 

俺は西村先輩を見上げる。

 

「もし、俺がその“彼氏”だったら……先輩、どうするつもりだったんですか?」

 

「ん〜」

 

西村先輩は顎に手を当てて、にやりと笑った。

 

「百合さん、奪おうかなって」

 

「……え?」

 

……何言ってんだ、この人。

 

「というか」

 

西村先輩は、さらっと続ける。

冗談みたいな口調なのに、目だけが妙に真剣で――

 

「どのみち、そうするつもりだし」

 

「……は?」

 

「そのほうが唆るじゃん」

 

悪い笑みを浮かべて、わざとらしく息を吐いた。

 

「彼女奪われて、悔しそうにしてる彼氏の顔想像するだけで」

 

――千亜希さーーーん!! ここにいますよ!!!

 

心の中で全力で叫んだ。

 

マジで……? マジでいるんだ、こういう人。

俺なんかより、この人にやらせたほうが百倍いい仕事すると思うよ、千亜希。

 

(あぁ〜……いっそこの人に丸投げしてえ……)

 

「それにさ」

 

俺の内心なんて知りもしない様子で、西村先輩は続ける。

 

「実際どんな顔してるかは知らないけどさ。和泉くんに似てるって聞いた時点で――そんな奴と付き合ってると思ったら――余計に、ね」

 

「…………」

 

――あぁ?

こいつ、今なんて言った?

 

「あぁ、勘違いしないでね」

 

西村先輩はわざとらしく手を振る。

 

「あくまで彼氏の方の話ね。和泉くんは……まあ、それはそれで悪くないと思うよ」

 

「………………」

 

……こいつ、ナチュラルに見下してやがる。

 

――全面撤回。こいつに任せるとか、絶対ない。

 

(……いつか、吠え面かかせてやる)

 

胸の奥が、じわじわ熱くなる。

無意識に人を格付けしてくるタイプだ。そういう陽キャがいちばん腹立つ。

 

「……どうしたの? 和泉くん」

 

「いえ、別に」

 

感情が顔に出ないよう、視線を逸らす。

ここで噛みついたら負けだ。今は飲み込む。

 

「そっか。じゃあ、もういいや」

 

西村先輩は気にした様子もなく、軽く手を振った。

 

「わざわざありがとう。時間取らせて悪かったね」

 

「……いえ」

 

それだけ言って、先輩は廊下の向こうへ歩いていった。

その背中が、やけに余裕そうに見えて――またムカついた。

 

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