レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた 作:ku216
学校が終わって家に帰り、少しして。
俺は昼間の出来事を、百合にラインした。
『昼休みに西村先輩に呼び止められた』
『百合と付き合ってるのかって聞かれた』
しばらくして既読がつき――
『どういうこと……?』
困り顔の子犬スタンプ。
(……まあ、そうなるよな)
『百合の友達の中にさ、うちのクラスのサッカー部と付き合ってるやつ、いるだろ?』
『うん。楓がたしか……北川くんと付き合ってたね』
『そこから漏れたっぽい』
既読。
……返事がない。
『北川がさ、「百合の彼氏が俺にそっくりだった」って西村先輩に言ったらしい』
『…………』
『やってくれたなあ……』
すぐに百合から、土下座している犬のスタンプが送られてきた。
『でもでも、なんで和泉くんのとこに来るの……?』
『お前が西村先輩振ったからじゃない……?』
『も、もしかして……何か、された……?』
心配そうな猫のスタンプ。
『いや、何もされてない』
すぐに、ほっとした犬のスタンプが返ってくる。
……百合、犬と猫のスタンプ好きだな。
『あー、でも西村先輩さ。最後にこんなこと言ってた』
ハテナ顔の犬。
『百合の彼氏から、お前を奪うって』
既読。
……返事が、来ない。
俺は「既読スルーすんな」みたいなツッコミ系スタンプを投げた。
数秒して――
『怖い』
短い一言。
……うん、それは俺も思う。
『えぇ、なにそれ……意味わかんない』
『なんでも、人の女を自分の物にするのが唆るんだとさ』
既読。
そして数秒後――
『頭おかしい』
短い一言。
……俺も思う。
『私の身近に、そんな変な人がいるなんて……』
(残念だが百合。お前の妹はその“変な人”より数段ヤバい)
もちろん口には出さない。命が惜しい。
『ど、どうしたらいい……?』
『難しいな……』
『和泉くん、なんとかできない?』
『無理』
泣き顔の猫スタンプが何個も飛んできた。
『……もう一回、「無理です」って西村先輩に言うしかないのかな』
『……このパターン、下手に突っぱねると逆効果になりそう』
『おかしい。こんなこと許されない』
『最悪、西村先輩が卒業するまで耐えるとか……?』
『えぇ……無理だよぉ……』
『じゃあ現実的に、学校いる間は一人にならない。これしかないな』
しょんぼりした犬のスタンプが送られてきた。
――悪い、百合。
正直、俺には何もできない。
下手に出しゃばったら、プリクラの件もあって余計に面倒になるだけだ。
◇◇◇◇
翌朝。
教室に入って自分の席へ向かい、鞄を机の上に置く。
百合はまだ来ていなかった。
今朝、家を出る直前に百合からLINEが届いている。
『今日はお姉ちゃんと千亜希の3人で学校に行く』
猫のスタンプがひとつ。
――とりあえず、大丈夫そうだな。
さすがに西村先輩も、誰かが一緒のところで声をかけてくるとは思えない。
なにより百合先輩が一緒なら安心だ。
俺は椅子に深くもたれかかる。朝のホームルームまではまだ時間がある。
我ながら毎回、無駄に早く学校に来てしまう。
……することがない。
村田も吉村もまだ来ていない。教室も人影はまばらで、やけに静かだ。
あぁ〜、そっか。
――あのうるさい陽キャどもが、まだいないからか。
そんなことを思った矢先、教室に二人の生徒が入ってきた。
(うわっ……)
よりによって、百合とよくつるんでる陽キャ女子――松田楓。
そして、その彼氏。サッカー部の北川悠介。
男のほうは――西村先輩に余計なことを吹き込んだやつだ。
「……おっ」
二人が教室に入ってきた、そのタイミングで松田と目が合った。
一拍。
次の瞬間、松田だけが迷いなく俺のほうへ向かってくる。
(……え、なに?)
なんでお前が、こっち来るんだよ。
戸惑っているうちに、松田は俺の席の前まで来て、机越しにぐっと顔を覗き込んできた。
じーっ。
近い。顔、近いって――!
清楚っぽい見た目に反して、こいつはめちゃくちゃうるさい。
教室を騒がせる典型的なの陽キャ女子。
松田は俺の顔をじっと見定めると、くるりと振り返って、さっき隣にいた北川に言い放った。
「ゆっくん、こいつやっぱパチモンだよ!!」
「ぱっ……!?」
「え〜、俺はそっくりだと思うけどな〜」
北川はヘラッと笑いながら、こっちへ歩いてくる。
「いや、ぜんっぜん似てないっ! ナツの彼氏はもっとかっこよかったもん」
俺は割って入るように言った。
「なんなんだよ。急に」
「だってゆっくんが、今泉がナツの彼氏にそっくりとか言うもんだから、気になって〜」
……和泉だわ。今泉って誰だよ。
「まあいい。こんなとこでその話すんなよ」
俺は周りの様子を一応うかがってから、二人に釘を刺す。
「百合の彼氏って大学生なんだろ?
で、俺にそっくりって聞いたけど――悪いが、俺じゃない」
北川はぽかんと口を開けた。
「お前、なんで知ってん?」
「あぁ〜、昨日。西村先輩にその件で聞かれたんだよ」
「え、マジか……あの人……またか……」
北川は「あちゃー」って顔で頭をかく。
「悪ぃな。めんどくさいことに巻き込んで」
「お前から聞いたって言ってたけど」
「ん、ん〜。言ったっつーか……『うちのクラスに似てるやつおったな〜』って話してたら、流れでお前の名前出しちゃってさ」
「あぁ……」
「マジで悪ぃ。めんどくせえこと巻き込んで」
「んまあ……俺はいいけど……」
北川はため息まじりに言った。
「……百合だろ? はあ……西村パイセンさ、人の彼女狙う趣味あるからなあ……」
「……知ってんのか」
「うちらもあの人にやられたから! ほんっとめんどくさいよね!」
松田がウザそうに割って入る。
「お前らも、やられたんか」
「そーいうこと。だから西村パイセンのめんどくささは人一倍知ってる」
……こいつらも西村先輩の被害者ってわけか。
「それにしては、何事もなかったんだな」
「そりゃ勿論」
北川が当然みたいに言って、松田の肩を寄せた。
「あたしらラブラブだしね」
……ウザ。
急にイチャイチャし始める二人に、内心じわっと苛立つ。
「ゆっくん、ゆっくん! このままだとナツが危ないよ」
「……だな。ほかの奴らにも話して、西村パイセンと百合が二人きりにならないようにしねーとな」
「だねっ!」
……案外、百合もいい友達持ってるじゃん。
俺は二人の会話を黙って聞いていた。
「和泉、ありがとな。お前からその話聞いてなかったら、百合が酷い目に遭ってた」
「サンキュー今泉っ!」
「……和泉ね」
二人は「じゃ!」と手を振って、俺の席から離れていった。
……まあ、北川たちがいるなら、百合も大丈夫そうだな。
俺が一息ついた、その瞬間。
ズボンのポケットのスマホが震えた。
『和泉くん! 放課後、生徒会室に来てくれない!』
画面に表示されたのは――百合先輩の名前だった。