レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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20話

校門を抜けて少し歩いたところで、空気がほんの少しだけ軽くなった気がした。

さっきの出来事が、嘘だったみたいに遠い。

 

 ……そんなわけ、ないか。

 

 俺は百合の横を歩きながら、小さく息を吐く。

 

「……さっきは、ありがと」

 

 百合が、ぽつりと言った。

 声は小さくて、まだ喉の奥が固いままみたいだった。

 

「……別に。俺、何もしてないよ」

 

 あの場を何とかしたのは、百合先輩だ。

 

 俺は百合の手元に視線を落とす。

 

「それより、手……大丈夫か」

 

「うん、もう平気」

 

「……良かった」

 

 でも――

 

「……百合先輩、大丈夫かな」

 

心配しかない。

女の子一人で、あの西村先輩と二人でって――考えたくない。背中に冷たい汗が伝って、俺は無意識に歩幅を速めていた。

 

「……多分、大丈夫」

 

百合が、隣を歩きながらぽつりと言った。

 

「え?」

 

「お姉ちゃん、ああ見えて強いんだよ。昔、ちょっと武道やってたし……」

 

「武道?」

 

「柔道とか……合気道とか……」

 

「……え、マジ?」

 

「うん。前に一緒に出かけたとき、変な人に腕つかまれてさ……」

 

 百合は思い出したみたいに眉をひそめる。

 

「お姉ちゃん、さらっと外して……すぐにその人投げ飛ばしてたし」

 

「マジかあ……」

 

 人は見かけによらない。

 

……とはいえ、安心しきれるほど俺の心臓は器用じゃない。

 

(……やだなあ)

 

自分の無力感に、じわっと嫌気が差す。

 

ふと、俺はもう一つ気になっていたことを百合に聞いた。

 

「……なあ」

 

「はい」

 

 百合は隣を歩きながら、ちらっと俺を見て短く返す。

 

「そういえばさ。お前、さっき松田と一緒に帰っただろ?」

 

「……うん」

 

「じゃあ、なんでまだ学校にいたんだよ」

 

 一拍。

 

 百合の歩幅が、ほんの少しだけ遅くなった。

 

「……楓がさ。スマホ、教室に忘れたって言い出して――」

 

「あぁ……なるほど」

 

 納得した瞬間、百合は思い出したみたいにスマホを取り出した。

 

「……楓に、何も言ってなかった」

 

「あぁ……そりゃ心配するな」

 

 いきなり消えたら、松田の事だめっちゃオーバーリアクションで動揺するだろう。

 

百合はスマホを操作したまま、ぽつりと言った。

 

「……楓から連絡、来てた」

 

「だろうな」

 

「だから……さっきのこと、軽く話した」

 

 言いながら百合は、苦笑いしつつぽつりと付け足す。

 

「……和泉くんと一緒にいることは、言ってないよ」

 

「……ありがと」

 

 百合は画面を見て、ふっと笑った。

 

「『ラジャ』だって」

 

「軽っ」

 

「で、続きに。――『北川に、部活してるとこ見てこいって言っとく』だって」

 

「はは……なんだそれ」

 

 俺が笑うと、百合もつられるみたいに小さく笑った。さっきまで張り詰めてた顔が、ほんの少しだけ緩む。

 

(……よかった)

 

 少しは気が楽になったのかな。

 

 それから少しのあいだ、俺たちの間で沈黙が落ちた。

 

 さっきまでの笑い声が嘘みたいに、足音だけがやけに大きい。

 

 俺は隣を歩く百合に声をかけた。

 

「……なあ」

 

「……はい」

 

「このあと、時間あるか?」

 

「えっ……まあ……」

 

「もしよかったらだけどさ。……ちょっと気分転換、しない?」

 

「気分転換……?」

 

「いろいろあっただろ。西村先輩の件で」

 

 菜月は一瞬、視線を逸らす。

 返事が遅れるのが、逆に答えみたいだった。

 

「だからさ。……ちょっと、いいとこ知ってるんだよ。百合が好きそうな場所」

 

「私が、好きそうな……?」

 

「うん」

 

「…………」

 

「……どうだ?」

 

「……大丈夫、です」

 

「そっか。ありがと」

 

 俺は少しだけ間を置いて、確認するみたいに言った。

 

「じゃあ一回、着替えに帰ってから行く?」

 

「……え。あっ、わたしはこのままでも……」

 

「そっか」

 

 俺は頷いてから、言いづらそうに頭の後ろをかく。

 

「俺はこの格好だと、いろいろやりづらいしさ」

 

「……うん」

 

「……だから、俺ん家まで来てくれない?」

 

「……え?」

 

「ちょっと、この前の彼氏のフリの話もあるし。ついでに、って感じで」

 

「えっ、えっ……!?」

 

 百合の声が裏返った。

 

「俺ん家、近いんだ」

 

「えっ、え、ええっ……!?」

 

「悪いけど、ちょっと付き合って。直ぐに着替えるから」

 

「えええぇぇぇっ……!?」

 

 

 

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