レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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22話

「……姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「俺、こんなに怒ってる母ちゃん見るの、久しぶりなんだが」

 

「私もよ」

 

「あはは……」

 

 ソファのほうから、幸人と由紀恵――そして、苦笑いを浮かべる百合の視線が刺さる。

 

 俺は逃げ場もなくダイニングチェアに座らされて、背筋だけをやたら伸ばした。

 

 目の前には母さん。

 

 にっこり笑ってる。笑ってるのに――目が笑ってない。

 

 ……最悪だ。

 

 クラスメイトの女子の目の前で、親にこっぴどく叱られる。

 羞恥なんてとっくに通り越して、これはもう拷問だろ。

 

「……敏之」

 

「……はい」

 

「どうして母さんが怒ってるか、分かる?」

 

「そりゃ、まあ……」

 

 俺は反射で視線を逸らした。

 

 言葉にした瞬間、終わる気がする。いろいろ。

 

 ……でも黙ってても、もっと終わる。

 

「女の子を家に呼んだから」

 

 言った。言ってしまった。百合がいる目の前で。

 

 顔が熱い。耳まで熱い。

 

「そんなことで怒ってません」

 

「あら?」

 

 むしろ、ここ以外に怒る要素あるのだろうか……?

 

「年頃の男の子なんですから、そういうのはあって悪いことじゃありません。むしろ、思う存分青春しなさい」

 

「やめてっ! そこでそんな話しないで!」

 

 母さんはジッと笑顔を崩ず、こちらを見ながら

 

「私が怒ってる理由は――」

 

 そこで一拍。

 

「あんな暑い中、外で待たせたことに怒ってるんです!!」

 

「あぁ……」

 

 そ、そっちか。怒るべきところではあるけど……そっちなのか。

 

「ねえ、百合さん!」

 

 母さんはソファのほうへ顔を向けて、同意を求めるみたいに声を張った。

 

 急に振られた百合が、びくっと肩を揺らす。

 

「えっ……えぇ、私は別に、大丈夫でしたけど……」

 

 百合の言葉が、最後だけ小さくなる。

 

 母さんは念押するかのように。

 

「……ね?」

 

「……はい」

 

 百合は視線を逸らしながら、小さく頷いた。

 

 その瞬間、母さんの視線がすっと俺に戻る。

 

「ほら。みなさい、敏之」

 

 

「えぇ……」

 

「…………」

 

「……すんません」

 

「謝るくらいなら、最初から家に入れればいいじゃない」

 

「いや、だって、ほら……」

 

 ――あいつらに何言われるかわかんねーし。

 

 俺は母さんから視線を逸らすようにソファの方を向いた。

 

 百合と由紀恵が、いつの間にか距離を詰めて話している。

 

「百合さんって肌すっごく綺麗ですけど、化粧水なに付けてるんですか!?」

 

「えっ……別に、そんな大したのじゃないよ。クラリスタってとこの……」

 

「えっ、あそこの!? 付け心地どうですか……?」

 

「えっとね。さっぱりしてるのに、付けたあとちゃんとしっとりしてて、すごくいいよ」

 

「へ〜……今度、私もそれにしようかな」

 

 ……意外と、仲良さげだ。

 

 こっちの空気とは別次元に、ソファ側だけやけに和やかだ。

 

 その雰囲気、こっちにも分けてくれ……。

 

「敏之っ!」

 

「はいっ!」

 

 母さんの声で、空気が一気に張り詰めた。

 

「人の話、ちゃんと聞いてるの?」

 

「はい」

 

「なら――何の話してたか言いなさい」

 

「……水ですね」

 

 聞いてなかったから、反射で適当に返してしまった。

 

 一拍。

 

「ばっかもーーんっ!!」

 

 母さんがクワッと目を見開く。

 

(なにその某国民的アニメみたいな怒り方……)

 

 俺の肩がびくっと跳ねたのが、自分でも分かった。

 

「はぁ……もう。あんたって子は……ほんと、あの人に似て……」

 

 母さんは鼻で息を吐き、ぶつぶつと呟き始める。

 

 怒ってる、というより――思い出してるみたいな声だった。

 

「自分から誘っておいて、急に『ちょっと待ってて』って勝手にどっか行って、炎天下の中、ずーっと待たせて……」

 

 その言葉が、俺に向けられてるのに。

 

 途中から、俺じゃない誰かに向けて刺さっていくのが分かる。

 

 母さんの目が、少しだけ遠くなる。

 

 拳が、無意識にきゅっと握られて――ほどけない。

 

「……やっと戻ってきたと思ったら、何事もなかったみたいな顔して、『ごめん』の一言もなくて……」

 

 声の端が、かすかに震えた。

 

 (……父さんのこと、だ)

 

 母さんの声が、少しだけ低くなる。

 

 リビングの空気が、ぴんと張った。

 

 ――その張り詰めを、まるで知らないみたいに。

 

「ねぇ、ねぇ」

 

「ん、どうしたの?」

 

 ソファのほうから幸人と百合の声がした。

 視線を向けると、幸人が百合に身を乗り出して――

 

「兄ちゃんのどこが好きになったの?」

 

「えぇぇっ!?」

 

 百合が予想外すぎて声を上げた瞬間――

 俺の心臓も、変なところで一回跳ねた。

 

「おまっ、幸人! 何言って――」

 

 俺が止めるより早く、由紀恵が身を乗り出す。

 

「それそれ! 私も聞きたい!百合さんみたいな人が、こんな兄、選んだ理由知りたいっ!」

 

「ちょ、由紀恵!?」

 

「えぇっ!? えっと……」

 

 百合は困惑したみたいに視線を泳がせ、目をぐるぐるさせる。

 

(……っ、これ以上はマジでいろいろまずい!!)

 

 俺は身を乗り出して立ち上がろうとした――その瞬間。

 

「敏之っ! それが反省してる人の態度ですか!」

 

 母さんの声が、吠えるみたいにリビングに落ちた。

 

「ちょっと待って母さん! 今それどころじゃ――」

 

「いいから。椅子の上に正座しなさいっ!!」

 

「いや、だからぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 俺の悲鳴が、リビングにむなしく響き渡った。

 

 

 

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