レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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24話

――電車に揺られて数分。

 

 目的の駅に着くと、人波にまぎれて改札を抜けた。

 この時間帯になると昼間みたいな暑さはほとんどなくて、空気が少しだけ軽い。駅前の喧騒が、やけに遠く感じる。

 

 そこから少し歩き、気づけば俺たちは、目的地――犬カフェへとやって来た。

 

看板を見た百合の目が、わかりやすいくらいきらきらしていた。

 

――犬カフェにしたのは、前、喫茶店で話したとき、百合が『犬も猫も好き』って目を輝かせてたのを覚えていたからだ。

 

西村先輩のこともあったし、ちょうどいい気分転換になると思った。

 

 ――が。

 

 

「納得できないっ!」

 

 見下ろしてくる百合の駄々をこねるみたいな声が飛んできた。

 

「なんで、和泉くんばっかりそんなに集まるのっ!」

 

「そんなこと言われても……」

 

ふわっ、ふわっ。

 

ほんのり温かい体温と、柔らかな毛。羽毛布団みたいなもふもふが、四方から俺を包み込んでくる。

 

床に座り込んだ俺の周りを取り囲むように、

三匹のサモエドがぐいぐい寄ってきて、もみくちゃにしてきた。

 

「……ずるい」

 

 百合は恨めしそうに俺を見た。

 

 百合の周りはゼロだ。足元に寄ってきても、匂いだけ嗅いで――すぐにスンッと離れていく。

 

「おやつ、あげてみろよ」

 

俺は百合の右手にある小さな包み紙を指した。

 

さっきガチャで買った、犬用のおやつ。

 

「もう、とっくにあげてるけど――」

 

 百合はひとつ摘むと、しゃがみこんで差し出した。

 

 すると、俺のところにいた一匹がふらっと菜月へ近づく。百合の頬が、ふにゃっと緩んだ

 

――その瞬間。

 

 サモエドはおやつをパクッとくわえて、何事もなかったみたいに、すぐ俺の方へ戻ってきた。

 

 百合の頬が、ぷくっと膨らむ。

 

「……むぅ」

 

「おかしい。こんなことは許されない」

 

 俺をにらむ目が、もはや因縁レベルだ。

 

「んなこと言われたって」

 

「私だって、和泉くんみたいにサモエドにもみくちゃにされたいのに……」

 

 唸り続ける百合を見かねたのか、カフェの女性店員がこちらへやってきて言った。

 

「それなら、彼氏さんの隣に座られたらいかがですか?」

 

「えっ!?」

 

 思わぬ一言に、俺の口からすっとんきょうな声が出た。

 

「その手があったっ!」

 

 百合は目を輝かせると、迷いなくこっちへ向かってくる。

 

 ……マジか、こいつ。

 

 犬とか猫のことになると周りが見えなくなるのは分かってたけど、ここまでとは。

 

「独り占めは、させないよ」

 

 百合がふっと悪い顔をして、次の瞬間、俺の隣にぴたっと座った。

 

……距離が近い。近すぎるっ!

 

「お、おい……」

 

「ふふっ。これで私の夢が叶う」

 

 すると、さっきまで俺に群がってたサモエドたちが一度だけ動きを止めた。

 じっと百合の顔を見て――『しゃーなし』みたいに。

 

 まず一匹が、どすん、と百合の横腹に体を預ける。

 

「……っ!」

 

 百合の肩が跳ねた。

 

 続けてもう一匹、もう一匹。寄り添うみたいに、俺たちの間へもふもふが増えていく。

 

 百合は恐る恐る、膝元の毛に指を沈めた。

 

 その瞬間――

 

 ぱああああっ、と表情がほどけた。

 

 さらに両腕でサモエドの胴をそっと抱えるみたいにして、頬を寄せる。

 

 もふっ。

 

「……あ゛……」

 

 変な声が出た。

 

 そして次の瞬間、百合は――ぐいっ、と顔を埋めた。

 

「すぅぅぅぅ……」

 

「吸うな吸うな」

 

 俺が言っても聞こえない。

 

 百合は犬の毛の海に沈んだまま、幸せそうに目を細めている。

 

「……はぁ……生き返る……」

 

 サモエドのほうもまんざらじゃない顔で、尻尾をふわん、と揺らした。

 

 百合は顔を起こすと、目がとろん。口が、ゆるん。頬がてかてか――いや、つやつや。

 

 (……美少女がしていい顔じゃないだろ)

 

「……やばい……」

 

「何がだよ」

 

「これ……、反則……」

 

「……そうか」

 

……語彙力が無くなってるな。

 

 菜月は真顔のまま、もう一回サモエドの腹に手を埋めた。

 

 もふっ。

 

「……っふ」

 

 耐えきれなかったみたいに、肩が小さく震える。幸せすぎて笑いが止まらないのだろう。

 

「ねえ和泉くん」

 

「ん?」

 

「……今日、ここ来れてよかった」

 

 その言い方が妙に真っ直ぐで、俺は一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「……そりゃ、よかった」

 

 誤魔化すみたいに返すと、菜月はまた犬の毛の海へ沈んでいった。

 

「すぅぅぅ……」

 

「だから吸うなって」

 

言いながら、俺は笑ってしまった。

 

百合も、犬の毛から顔を出して――今度はちゃんと息を吐いた。深呼吸みたいに。やっと、呼吸が戻ったみたいに。

 

「……ねえ」

 

「ん?」

 

「今日さ。いろいろあったけど――」

 

 百合は膝の上のサモエドを撫でながら、少しだけ目を伏せた。

 

「……和泉くんのおかげでなんとかなった」

 

「そっか」

 

 俺は小さく微笑み返す。

 

 サモエドが俺の足に頭をこすりつけてくる。

 

 菜月が小さく笑う。

 

「……独り占め、禁止ね」

 

「はいはい」

 

 俺たちはしばらく、言葉の代わりに犬を撫でていた。

 

 ……とりあえず連れてきて良かった、のかな。

 

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