レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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26話

家に帰って来ると、私は重い足取りで自分の部屋に入る。

 

「はあ……」

 

 スクールバッグをその辺に置き、ベッドの上にボスンと座り、近くにあった猫のぬいぐるみを抱え込む。

 

 顔をうずめたまま、私はあのとき広場で自分が言った言葉を思い返す。

 

『私たちさ……本当に付き合ってみない?』

 

「何を言ってるんだ私はああああああああぁぁぁっ!!」

 

 感情のありったけを猫のぬいぐるみにぶつけるみたいに、私は叫んだ。

 

 勢いとノリ。

 

 それに――あのとき和泉くんが作り出した、あの空気。

 

 全部に飲まれて、思わず口走ってしまった。

 

 恥ずかしい。

 

 今思い返せば思い返すほど、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。

 

 なのに、追い打ちみたいに――

 

『……私、和泉くんと一緒にいるの、好きだよ』

 

「ああああああああぁぁぁ……!!」

 

 フラッシュバックみたいに自分の声が蘇ってきて、私はベッドの上でじたばた暴れた。

 顔を猫のぬいぐるみで覆ったまま、足をばたつかせる。

 

「むり、死ぬ……恥ずかしすぎて死ぬ……」

 

 じたばたしたあと、私はその場で大きく息を吸った。

 落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせるみたいに、ゆっくり深呼吸する。

 

 和泉くんのことは、嫌いじゃない。

 

 ……じゃあ、好きなのかって聞かれると。

 正直、まだよく分からない。

 

 だから、あのときどうして“好き”なんて言ってしまったのか、 自分でもちゃんと説明できない。

 

 でも――

 

 和泉くんと一緒にいると、すごく落ち着く。

 

 こんなふうに自分をさらけ出せる相手、家族以外では初めてで。

 変に取り繕わなくてもいいって思えるのが、すごく楽で、安心できる。

 

 本当の自分でいられる、あの感覚は好きだ。

 

 ……でも、それが恋愛としての「好き」なのかどうかは、まだ分からない。

 

 でも、あのときの和泉くんの顔を見たら――

どうしても、そう言いたくなってしまった。

 

 寂しさを紛らわせるみたいに、自分のことを後回しにして、家族のために必死になっている彼を見ていたら。

 

『2人一緒ならへっちゃらだよ』

 

 もし私が、和泉くんの寂しさやつらさを少しでも支えられるなら。

 そう思った瞬間、気づいたら言葉が口から出ていた。

 

 

 ――が、それがいけなかった。

 

 あのあと、二人のあいだにはものすごく気まずい空気が流れてしまった。

 和泉くんも、なんて返せばいいのか分からないみたいで、予想外の言葉に困っていた。

 

 それを見て、私は言った自分にハッとして、慌てて冗談みたいに誤魔化した。

 

 ……でも、遅かった。

 

 あんなことを言ってしまったあとじゃ、帰り道の空気まで簡単には戻らない。

 並んで歩いているのに、変に距離だけがあるみたいで、胸のあたりがずっと落ち着かなかった。

 

 ……明日、どんな顔で和泉くんと会えばいいんだろう。

 

正直、学校に行きたくない。

 

 よりによって、今日が木曜日だったせいで――明日も普通に学校がある。

 

「……はあ」

 

 重たいため息を吐きながら、私はベッドに寝転んだ。 体が、ずしりと沈み込む。

 

 そんな空気をぶち壊すみたいに、廊下をドタドタ走ってくる足音が聞こえた。

 

 ――と思った次の瞬間。

 

 バタンッ! と豪快に私の部屋の扉が開く。

 

「菜月ちゃーーーーーんっっ!!」

 

「ぐえっ」

 

 お姉ちゃんが、ベッドの上の私めがけて飛び込んできた。

 

「おっ、重い……!」

 

 私の胸元にぐいっと顔を埋めるお姉ちゃんの背中を、ぱしぱし叩く。

 

「すぅぅぅううう……」

 

 お姉ちゃんが思いきり吸い込んで、

 

「はあ……生き返った……」

 

 満足そうに、うっとりした顔をしている。

 

 たまにお姉ちゃんは、こうして私や千亜希に飛びついてきて、思いきり吸うことがある。

 でも、こういうことをする時は――だいたい、何かあった時だ。

 

 ……ごめん、忘れてた。

 

 西村先輩から守ってもらったのに。和泉くんとのことで頭がいっぱいで、お姉ちゃんのことを心配する余裕がなかった。

 

ふぅ、と小さくため息をついてから、私はお姉ちゃんに声をかけた。

 

「お姉ちゃん。あの時は、ありがと」

 

「ん〜。気にしなくていいよ」

 

「……あのあと、大丈夫だった?」

 

「平気平気」

 

 お姉ちゃんはそう言って、ぶいっとピースサインを作ってみせる。

 

 ……相変わらず、すごいな。

 

 あんな人と二人きりだったのに、いつも通りみたいな顔をしてる。

 

 ――と思ったら。

 

「菜月ちゃん、手。もう痛くない?」

 

 心配そうに、お姉ちゃんが聞いてきた。

 

「うん。もう大丈夫」

 

 私が小さく笑って返すと、お姉ちゃんはいつものやわらかい表情を見せた。

 

「も〜、お姉ちゃんたち、うるさい」

 

「ご、ごめん」

 

「ごめんね、千亜希ちゃん」

 

 私とお姉ちゃんはそろって肩をすくめる。お母さんに怒られたときみたいに、ちょっとだけ小さくなる。

 

 

「それより、お姉ちゃんたち帰ってくるの遅かったね」

 

 不思議そうにこちらを見る千亜希に、お姉ちゃんは苦笑いしながら答える。

 

「私はちょっと生徒会のことでね……それより菜月ちゃんは?」

 

 じっと私を見て、それからまだ制服のままなことに首をかしげた。

 

「和泉くんと帰ったんじゃないの?」

 

「えっと……」

 

 言えない。

 

 よくよく考えたら、お姉ちゃんに助けてもらったくせに、そのあと和泉くんと遊びに行ってたわけで。

 なんだか急に、申し訳なさが込み上げてくる。

 

 しかし、私が言葉を濁してる間に、千亜希が話に食いつくようにお姉ちゃんへ身を乗り出した。

 

「……っ! ねぇねぇ、その和泉って人だれ!? 」

 

 ……なんて白々しい子なのかしら。

 

 そもそも、和泉くんと私が関わるきっかけを作ったの、千亜希なのに……。

 

「もしかして、ナツ姉の彼氏!?」

 

「うぇ!?」

 

 思わぬ一言に、肩がびくっと跳ねる。

 

 ――でも。

 

 よくよく考えたら、今日和泉くんとしてきたことって、ほとんどデートみたいなもので。

 

 そう思い返した瞬間、忘れかけていた恥ずかしさが、ぶわっと一気に再燃した。

 

 一瞬、千亜希が私の顔を見て、にやりと笑った気がした。

 

 ――何、その顔。

 

 そう思ったけど、すぐにお姉ちゃんの声に意識を持っていかれる。

 

「……和泉くんは、そんなことしないよ」

 

 お姉ちゃんが、少し低い声でぽつりと言った。

 その声音に、私はちょっとだけぞくっとする。

 

「私は、あの子がそんなことする子じゃないって信用してるし」

 

 お姉ちゃんはそう言ってから、今度は私の方を見た。

 

「……でも、菜月ちゃん。和泉くんと何してたの?」

 

「あっ、えっと……」

 

 さすがに、告白みたいなことしました――なんて、

 一生黒歴史として封印したいこと、言えるわけがない。

 

 私は顔に出ないように気をつけながら、言葉を選ぶ。

 

「……和泉くんが、私に気を使ってくれて。ちょっと犬カフェに行ってきたんだ」

 

「えっ、いいなあ!!」

 

 さっきまでの空気が嘘みたいに、お姉ちゃんの目がぱっと輝いた。

 ぐいっと身を乗り出して、うんうん頷く。

 

「しっかし、さすが和泉くん。私が見込んだ男の子だよ」

 

「えぇ〜、ハル姉がそこまで言う男の子、初めてかも」

 

「そうかな?」

 

「お姉ちゃんって、男の子の話なんてまずしないし……」

 

「和泉くんはいい子だよ〜。私の自慢の後輩くんだよ。今度、千亜希ちゃんも会ってみない?」

 

「あっ、考えとくね」

 

 千亜希は、お姉ちゃんにそう返した。

 声はびっくりするほど興味なさそう。

 

「それより――」

 

 千亜希は、何か思いついたみたいに小さく首をかしげる。

 

「明日もまた、三人で学校行かない?」

 

「えっ」

 

 思わず声が出た。

 明日。学校。三人で。

 

 ――それって、和泉くんに会うってことじゃん。

 

「行く行くっ!!」

 

 お姉ちゃんが目を輝かせて、ベッドの上でぴょんぴょん跳ねる。

 

「ね、ね、菜月ちゃんも!」

 

「えっ、あっ……うん」

 

 ……しまった。また流れで返事しちゃった。

 

 うぅ……私、明日どんな顔して和泉くんに会えばいいの……。

 

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