レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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27話

今日も、いつもより早く学校に来た。机に頬杖をつきながらぼんやりとしていた。

 

……はずなのに、いつの間にか教室にはクラスメイトのざわめきが広がっている。

 

「くぁ……」

 

 意識が、少し鈍い。

 

 昨日はいつも通りの時間にベッドに入った。

けど、百合に言われたことが頭の中をぐるぐる回り続けて、結局ちゃんと眠れたのかも分からないまま朝を迎えてしまった。

 

……父さんのこと、俺は思ってた以上に引きずってたのかもしれない。

 

無自覚だったから分からなかったけど、言われてみれば――たしかに、そうなのかもしれない。

 

──でも、ごめん父さん。

今はそれどころじゃないんだ。

 

 

『私たちさ……本当に付き合ってみない?』

 

 ――人生で初めて、告白された。

 しかも、あの百合から。

 

 普通の男子高校生なら、たぶん舞い上がる。

 俺だって、たぶん本来ならそうなるだろう。

 

 ……でも、あの時の俺は、嬉しいより先に頭が真っ白になった。

 

 だって、百合があんなこと言うなんて思ってなかった。

 あいつの性格なら、恥ずかしがって絶対に口にしないと思ってたのに。

 

 なのに、言った。

 

だから余計に、何を言えばいいのか分からなかった。

 

 俺の反応に気づいたのか、百合は慌てるように誤魔化した。そのまま、あやふやな空気のまま――俺たちはそれぞれの家へ帰った。

 

「はああぁぁ……」

 

 ……何やってんだ、俺。

 

 千亜希に散々「ヘタレ、ヘタレ」って言われてたけど、ほんと、そのまんまじゃないか。

 

 情けなさすぎて、自分で自分が嫌になる。

 

――しかし、あいつ。なんで告白なんてしてきたんだろう。

 

 ……俺があんな話したせいで、変な空気になったからか。

 

 ……わかんねえ。

 

「……はぁ」

 

もう一度ため息を吐いた、その時。

 

 バシバシと俺の肩を叩いてくるやつがいて、振り向くと――村田と吉村だった。

 吉村がにやりと笑いながら、いかにも面白がってる顔で口を開く。

 

「なんだ、敏之。一丁前にため息なんかつきやがって」

 

「んだよ。うるさいな」

 

「んまあぁぁ、村田さん、村田さん。敏之くんったら、お口が悪いザマスよ!」

 

「あらあぁぁ、吉村さん。こ・れ・は、思春期ですわね」

 

「あらまあ、なんてお可愛――ぐふぉぉっ」

 

「やかましいわっ!」

 

 俺は吉村のみぞおちを軽く小突いた。

 

 ――そんな時だった。

 

 教室の前扉が開く音がした。

 

「おっ、ナツおはよっ!」

 

 

教室全体に響くような松田の明るい声が聞こえて、俺の心臓が跳ねた。

 

反射的に、前扉のほうへ顔を向ける。

 

 そこには、扉のところで恐る恐る教室に入ってこようとしている百合がいた。

 

 百合は、まるで何かからバレないように辺りをきょろきょろ見回して――俺と視線が合う。

 

「……っ!!」

 

 次の瞬間、百合はびゅっと扉の向こうへ引っ込んだ。

 

「およ。どったの、ナツ?」

 

 松田が不思議そうに首をかしげ、そのまま百合を追いかけるように教室の外へ出ていく。

 

「……っ」

 

 俺自身も昨日のことを思い出してしまって、恥ずかしさと不甲斐なさで体温が一気に上がる。

 正直、百合のこと言えないくらい俺も逃げたい。

 

「も〜、何してんのナツ」

 

「うぅ〜……」

 

 松田が苦笑いしながら、百合を教室の中へ連れ戻してくる。

 

 その姿は、逃げた子猫が首根っこをつままれて連行されてるみたいで、

 こんな状況なのに少しだけ可愛いと思ってしまった。

 

「な、なんだ……今の百合」

 

「めっちゃ可愛いな。普段あんなウザそうな感じだったから、あれは……ヤバい。ギャップ萌えってやつか?」

 

「だ、ダメだ……! 俺にはリファエルちゃんっていう最推しがおるんじゃぁぁぁ!」

 

 百合の様子を見ていた村田と吉村が、朝っぱらからぎゃあぎゃあと騒いでいる。

 

……やめろ。

お前らまで言うと、余計に意識するだろうが。

 

 火照った顔を誤魔化すみたいに、俺は襟元をぱたぱたとあおいだ。

 

 途中、ちらっとだけこっちを見て――

 

「……っ」

 

 目が合った、と思った瞬間、百合はまたすぐ逸らした。

 

 ……俺も人のこと言えないけど。

 

 恥ずかしさと気まずさのなか、俺は朝のホームルームを迎えた。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 教室の中だと、どうしたって何度も顔を合わせる。

そのたびに気まずくなったけど、学校では話さない――そんな約束のおかげで、なんとか放課後までたどり着いた。

 

 ――しかし、どうしたものか。

 

 百合とこのままの空気でいるのは、なんか嫌だ。

 かといって、何をどう話せばいいのかも分からない。

 

「いいか、お前たち。来週からはテスト週間だ。ちゃんと勉強やっとけよ」

 

担任がそう言い残して教室を出ていく。

ホームルームが終わった途端、教室はまた一気にざわめきを取り戻した。

 

 百合の周りには、いつの間にか松田たちが集まっていて、楽しそうに談笑していた。

 

 ……あれじゃ、どうしようもない。

 

 とりあえず今日は帰るか。

 そう思って荷物をまとめていると、教室の前扉のあたりが急に騒がしくなった。

 

 なんだ、と思って視線を向けると――

 

「げっ……」

 

 千亜希が立っていた。

 

「なっ、千亜希!」

 

 百合も気づいたのか、思わず声を上げた。

 

「あっ、ナツ姉。やっほー」

 

 千亜希はけろっとした顔で、百合に向かってふりふりと手を振る。

 

「え、なになに。この子、ナツの妹!?」

 

「えっ、あっ、そうだけど……」

 

 百合を囲んでいた松田たちが、わっと騒がしくなる。

 

 その声につられるように、教室にいた男子たちまでざわつき始めた。

 

「え、妹!?」

 

「めっちゃ可愛くね?」

 

「百合の妹ってことは、やっぱ遺伝子強ぇな……」

 

……なんでこいつがここに。

 

  まあ、百合に用があって来たんだろう。関わりたくない。さっさと帰ろう。

 

 俺は逃げるように荷物をまとめると、教室の後ろ扉へこっそり向かおうとした。

 

 ――が。

 

 教室全体を見渡していた千亜希と、がっつり目が合った。

 

 千亜希は俺を見つけた瞬間、まるで獲物を見つけたみたいに、にやぁっと頬を引き上げた。

 

(いやあああああああああああぁぁぁ……!)

 

 心の中で絶叫する。

 

 ――が。

 

 千亜希はそんな俺の願いなんて知るはずもなく、まっすぐ、なんの迷いもなく、こっちへ向かってきた。

 

「もう、トシ先輩。私、寂しくて来ちゃいましたっ!」

 

「なっ……えっ!?」

 

 ぎゅっと俺の腕にしがみつくように身を寄せてくる千亜希に、俺は言葉が出てこない。

 

 教室の中が、ぽかんと静まり返った。視線という視線が、一斉にこっちへ突き刺さる。

 

「ほら、昨日約束しましたよねっ! 私とデートするって! 行きますよ!」

 

「えっ、ちょ……おい!」

 

 千亜希はぐいぐい俺の腕を引っ張って、そのまま教室の外へ向かう。

 

 百合は口をぱくぱくさせたまま固まり、クラスメイトたちは今なにを見せられた?みたいな顔で言葉を失っている。

 

 ――その視線を背中に受けながら、俺は千亜希に連行されるように教室を後にした。

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