レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた 作:ku216
千亜希は俺の腕を掴んだまま、ずんずん廊下を進んでいく。
「おい、どこ行くんだよ!」
「いいから、いいから」
聞いても、はぐらかされるだけ。
階段を上がる。
一段、また一段。
最後の踊り場まで来たところで、目の前に鉄の扉が現れた。
千亜希は迷いなく取っ手を回して、扉を開く。
俺たちは、そのまま屋上へ出た。
ぶわっと、夏の残り火みたいな熱気がまとわりつく。――が、次の瞬間、頬をなでる風がすっと熱をさらっていった。
千亜希が掴んでいた腕をゆるめた隙に、俺は軽く振りほどいた。
「きゃっ」
千亜希はわざとらしく声を上げ、くるりと俺のほうへ振り返る。
俺はでかいため息をついて、千亜希をにらんだ。
「お前、何やってんだよ……」
「何がですか?」
「教室でのことだよ。あんなこと言ったらどうなると思ってんだ……」
「うへへ。面白くなりそうですね」
「面白いって……あのなぁ」
千亜希はにやりと悪い顔をして、さらに煽ってくる。
「むしろ、こんな可愛い私が彼女だと思われたら、気分よくないですか?」
「…………」
悔しいけど、確かに。
「……だとしても、お前はいいのかよ。面白半分で周りにそう思われたら」
千亜希はけろっとした顔で言った。
「えぇ〜、別に。誰にどう思われようが、知ったこっちゃないので」
千亜希は俺を見透かすように、じっと目を合わせたまま続ける。
「というかトシ先輩。周りより――ナツ姉に“私が彼女”って思われる方が嫌じゃないんですか」
「……っ」
千亜希の一言に、俺は反射で視線を逸らした。
「あっ、やっぱり図星なんだ」
千亜希は「あはっ」と笑って、俺を見上げてくる。
「別に気にしなくてもいいですよ。――で、ちょっと聞きたいことあるんですけど……」
「……なに?」
「昨日。ナツ姉と何かあったんですか?」
「……っ」
……こいつ、なんでそんなこと知ってるんだ。
「言いたくないってやつですか? 別に言わなくてもいいですけど」
千亜希はにこにこしたまま、言葉だけを尖らせる。
「その時は、わかってますよね?」
……クソ。ほんとにこいつは。
俺は深くため息をついて、観念して口を開いた。
「……告白されたんだよ。百合に」
「…………」
千亜希は目を丸くして、言葉を失った。
「なんか言えよ」
「いや、ちょっと……」
千亜希は困惑した顔のまま、苦笑いした。
「ナツ姉、チョロいなって……」
そして呆れたように肩をすくめる。
「私がやらせておいてなんですけど、トシ先輩ってナツ姉にいろいろやってきたじゃないですか。それなのに、こんな短時間で告白まで行くとは……」
千亜希は真顔で頷いた。
「……エロゲのヒロインだって、もうちょっと粘りますよ」
千亜希は俺をじっと見てから、ふっと口元をゆるめた。
「てか、トシ先輩。ちゃっかりハル姉とも親しくなってましたよね」
「……まあ。ちょっといろいろあってな」
千亜希は小さくため息をついて、ぼそっとこぼす。
「ただのヘタレかと思ってましたけど……エロゲ主人公的な素質、あるのかもしれないですね」
千亜希は俺をじっと見て言った。
「それで、トシ先輩はナツ姉からの告白、受けたんですか?」
「…………」
俺は視線を逸らして、なんて言えばいいのか悩みながら口を開く。
「なんか突然告られたから、その……」
千亜希は呆れたように息を吐いた。
「あやふやにして……そのまま、無かったことになった。――ってことですね」
「……はい」
俺はうなだれるように、小さく頷いた。
「……やっぱ、ただのヘタレ童貞か」
千亜希は呆れた顔のまま一拍置いて――次の瞬間、にこりと笑った。
「まあ、予想通りでしたけどね〜」
「ヘタレって、ある意味才能ですよね。ホント神ってますね」
「……何がだよ」
「あ、気にしなくていいですよ。ヘタレ先輩」
「ぐぬぅ……」
こればっかりは言い返せない。
千亜希は何か思いついたみたいに、人差し指をぴんと立てた。
「じゃ、スマホ貸してください」
「は?」
「いいから」
俺の返事を待たずに、手だけが伸びてきた。
嫌だと言ってもまた脅されるだけだろうし、俺は渋々スマホを差し出す。
……まあ、パスコードあるし。
「はい」
「嘘でしょ!?」
次の瞬間、千亜希は何事もなかったみたいにロックを解除した。
「こんなの、大体指の動きでわかりますって」
「どんな特技だよ……」
俺は奪い返そうとするが、千亜希はスマホをひょいっと自分の胸のほうへ引く。
……くっそ。
千亜希は手慣れた手つきで操作しながら、ぶつぶつ独り言みたいに言った。
「……やっぱ交換してたな。――って、ちゃっかりハル姉とも交換してるし」
「おい、何見たんだよ……」
用が済んだのか、千亜希は満足げにスマホを俺へ突き返してきた。
俺は受け取って、嫌な予感のままラインを開く。
スクロールしても、検索しても――百合とのトークルームが消えていた。
「お前、何やってんだよっ!」
俺は声を荒らげた。けど千亜希は悪びれもせず、肩をすくめる。
「えぇ〜。だって、こうでもしなきゃ――せっかく私が体張ったのに、意味なくなっちゃうじゃないですか」
じっと俺を見て、にやり。
「トシ先輩のことですから、あとでナツ姉に説明して安心させようってするの、バレバレなんで」
「ぐっ……」
バレてたか。
千亜希から解放されたあと、菜月に言えば誤解は解ける――そう思ってた。
「それに、どうせ今まで私がやらせてきたことも、ナツ姉に話してるでしょ?」
「…………」
「じゃなきゃ、こんな展開、早いわけないですし」
千亜希は満足げにニッコリと笑う。
「これで、もっと面白いことになりますね」