レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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29話

千亜希が和泉くんの腕を引いて教室を出ていったあと、教室は一気に騒然とした。

 

男子は驚き半分、羨ましさ半分の声を上げる。

女子は女子で、「え、今の何!?」「ナツ、どういうこと!?」と、姉である私に詰め寄ってくる。

 

 ……でも。

 

私の中では、何かがぽっかり抜け落ちたみたいに、音だけが遠かった。

 

頭が真っ白で、うまく呼吸すらできない。

 

気づいたら私は、返事もまともにしないまま教室を出ていて――そのまま家への帰り道を歩いていた。

 

 ……和泉くんって、千亜希と付き合ってるのかな。

 

腕に抱きついて、『デート行こ』なんて平気で言ってた。

 

 あれを見たら、そう思う。

 

 ……でも、千亜希のことだし。

 

からかい半分でやっただけ、って可能性もある。

 

 とはいえ――

 

上級生もいる教室で、そこまでやるかな?

 

さすがにあの子でも、あそこまでやったことは今までなかった気がする。

 

 ……分かんない。

 

なのに、なんでこんなに胸が苦しいの?

 

きゅっと胸が締め付けられる感覚に、私は小さく肩を落とした。

 

千亜希と和泉くんが、あんなふうに仲良さそうだったから?

 

 ……それだけで?

 

二人が近いのは、私だって前から知ってたはずだ。

 

私が和泉くんと関わるようになったきっかけだって、千亜希なんだし。

 

でも――和泉くんが千亜希に見せたあの顔は、私は知らなかった。

 

めんどくさそうにしてるのに、どこか「やれやれ」って笑ってるみたいな顔。

 

私には、いつも優しい顔しか見せてこなかったのに。

 

 ……あんな素の表情の和泉くん、初めて見た。

 

だから――そんな顔を引き出せる千亜希が、すごく羨ましい。

 

なんで、こんな気持ちになるんだろう。

 

千亜希が悪いわけじゃないのに。

 

 ……どうして?

 

私が昨日、和泉くんに告白みたいなことを言ったから?

 

 でも、今でも“好き”かどうかは分からない。

 

 分からないのに――

 

 なんでこんなに、苦しいの?

 

「…………」

 

私は歩みを止めて、スカートのポケットからスマホを取り出し、画面を光らせた。

 

いつもなら何も考えずに押せるはずのラインのアイコン。

 

 ……聞けばいい。

 

千亜希に、和泉くんとどういう関係なのかって。

 

 だけど――親指が、止まった。

 

画面の上で浮いたまま、触れられない。

 

 ……怖い。

 

からかい半分だとしても――もし想像してる通りの返事が返ってきたら、と思うと送れない。

 

 ……じゃあ、和泉くんに聞けば?

 

 ……それも、怖い。

 

和泉くんは気を使う。だからこそ、本当のことを言わないかもしれない。

 

「……っ」

 

脳裏に、昨日――告白したあとの和泉くんの顔が浮かぶ。

 

私に言われた瞬間、和泉くんはすごく困っていた。

 

 あれは――

 

(千亜希と付き合ってるのに、私にまで告白されて……どうしたらいいんだ)

 

──そう思ったから、だったのかもしれない。

 

そうだとしたら、私はすごく――和泉くんに酷いことをしてしまったのかもしれない。

 

つらい気持ちにさせたのかもしれない。

 

……だけど、嫌だよ。

 

あんな感じのまま、和泉くんと疎遠になるのは。

 

 ……せめて、普通に喋れるくらいまでには。

 

私は息を吸って、もう一度だけ親指を動かす。

 

――画面が切り替わった。

 

トーク一覧が表示され、私は指先で、探してしまった。

 

 ──和泉くん。

 

 ……ない。

 

「……え」

 

 息が、喉の奥で止まった。

 

 もう一度、上から下へ。

 

 今度はゆっくり、目で追う。

 

 ……ない。

 

どこにも、ない。

 

指が震えて、画面をスクロールする。心臓がうるさい。なのに呼吸だけが、どこかへ消えていく。

 

(嘘……?)

 

喉がきゅっと締まって、空気が入ってこない。

 

息を吸おうとしてるのに、胸が動かない。

 

画面の光だけがやけに眩しくて、視界の端がじわっと滲んだ。

 

 私は慌てて検索欄を押して、名前を打ち込む。

 

 ――でも、出てこない。

 

 ……息ができない。

 頭の中が、真っ白になる。

 

 私はスマホをぎゅっと握りしめたまま、

 その場に崩れるようにしゃがみ込んだ。

 

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