レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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30話

あれから散々だった。スマホが、ずっと鳴ってた。吉村や村田――それだけじゃない。クラスの男子どもから、何件も何件もメッセージが飛んできた。

 

 ……うるせぇ。

 

 説明したってキリがない。どうせ悪ノリだろうし、俺はスタンプだけ返して放り投げた。

 

 次の日から週末だったこともあって、俺はレンタル彼氏の仕事と、今度の中間テストに向けた勉強に明け暮れていた。

 

 ……でも、頭の片隅では百合のことがずっと引っかかっていた。

 

 あんなことがあったあとだ。千亜希の件は、できるだけ早く誤解を解いておきたい。

 

 ――なのに。

 

 唯一の連絡手段だったラインは、千亜希に消されてしまった。

 

 直接会って話したい。……そう思うのに、どう声をかければいいのか分からない。

 

 情けないとは思う。

 でも、あの告白の件が頭に残っていて――思い返すたび、気恥ずかしさが喉に引っかかる。

 

 そんな気持ちのまま月曜日。

 

 学校に着くなり、予想通りクラスの男子どもからは罵声と嫉妬の雨嵐。

 松田たち陽キャ女子からも質問攻めのオンパレードで、朝から体力をゴッソリ持っていかれた。

 

 ――だけど。

 

 百合は、俺のところへ来なかった。

 

 前みたいに、千亜希との関係を咎めるように詰め寄ってくる。そうなると思っていた。

 でも、そんなことは何ひとつなかった。

 

 ――いや。

 

 金曜の朝みたいな、あの気まずさすらない。

百合はまるで「最初から何もなかった」みたいに、いつも通りに笑って、いつも通りに過ごしている。

 

 取り残されたのは、俺だけだった。

 

 胸がきゅっと縮んで、息が浅くなる。

 

 結局、話しかける機会すらないまま放課後。

 

 ――そして案の定。

 

 千亜希が教室にズカズカと入ってくる。

 そのたびにクラスの連中は騒ぎ出して、視線が一斉にこっちへ飛んだ。

 

 千亜希はその真ん中をまっすぐ俺に向かってきて、腕をつかむなり外へ連れ出す。

 校門を過ぎたあたりで、

 

「じゃ、あとはご勝手に〜」

 

 みたいなノリで、俺だけ置き去りにされた。

 

 そんなのが、数日続いた。

 

 自分が思ってる以上に、メンタルが削れていく。

 学校に来れば質問攻め。放課後は連行して放流。――それがルーティンみたいになっていた。

 

(……あいつら、テスト勉強の気晴らしついでに、俺のこと弄ってきやがって)

 

(……俺だって、テスト勉強してんのに)

 

 こんなのが続いてるせいで、テスト勉強が全然頭に入らない。

 

 ……いや、言い訳だ。

 

 本当は――百合のことが気がかりで、勉強に手がつかないだけだ。

 

 どうしようもない木曜日の昼。

 

 昼休みを告げるチャイムと同時に、俺は教室を抜け出した。

 またクラスの連中にダル絡みされるのが嫌で、逃げるみたいに。

 

 ふらふら廊下を歩く。

 

(……どこか、ひとりになれるところ)

 

 今はもう、それだけでいい。

 

 ぼんやり歩いていると、前から女の子が一人――

 

 ……いや、違う。

 

 こっちに向かって、とんでもない勢いで歩いてくる百合先輩だった。

 

(えっ……)

 

 考える暇もなかった。

 百合先輩は俺の目の前まで来るなり、腕をつかむ。

 

「ちょっ――」

 

 引っ張られるまま近くの空き教室へ。

 俺は強引に中へ押し込まれて――

 

 バタン。

 

 扉が閉まった。

 

 百合先輩と、二人きり。

 

 訳が分からず呆気に取られていると、百合先輩が口を開いた。

 

「……和泉くん。聞いたよ。千亜希ちゃんと付き合ってるんだってね」

 

「えっ……」

 

 いつものほわわんとした百合先輩じゃない。

 笑ってない。声も、優しいのに冷たい。

 

「……なんで、そんなことするのかな」

 

「……っ」

 

 一言一言が、針みたいに刺さってくる。

 

 ――この感じ。西村先輩に向けていた、あの時と同じ空気だ。

 

「私ね……和泉くんのこと、信じてたんだよ?」

 

「ちょ……ちょっと待ってくださいっ!!」

 

 押し潰されそうになりながら、俺はなんとか声を絞り出した。

 

「……何が。何を待てばいいの?」

 

 百合先輩の目が、俺をまっすぐ射抜いてくる。静かで、逃げ場がない“何か”。

 

 全身が小刻みに震えた。

 

(……やばい)

 

 頭が真っ白で、言葉が出てこない。

 

 百合が言ってた。

 百合先輩は昔、合気道だの柔道だのをやってて――男を投げ飛ばせるくらい強いって。

 

 しかも、あの西村先輩の件があったのに。

 後でちらっと見た百合先輩は、何事もなかったみたいにケロッとしていた。

 

 ……つまり。西村先輩、どんな末路を辿ったか。

 

 そう想像しただけで、余計怖くなる。

 

 俺は震える声で言った。

 

「ご、誤解なんですっ!」

 

「何が誤解なの?私の友達が、和泉くんと千亜希ちゃんが腕組んで歩いてたの見たって言ってたよ」

 

「……っ」

 

 息をするのがつらい。

 言葉が喉で詰まって、音にならない。

 

 百合先輩は追い打ちみたいに続けた。

 

「事と場合によっては……和泉くんでも、許さないよ」

 

「ゲームをする仲なんですっ!!」

 

自分で言ってて、余計墓穴を掘った気がした。

 

「ゲーム……?」

 

百合先輩が首をかしげる。

 

「そ、そうですっ! ほら、百合先輩知ってますか?銃を持って敵を倒して生き残る、バトルロイヤル系のやつ! あれを一緒にやってるんです!」

 

 ……こんな言い訳、通用する気がしない。

 

「……ふぅん?」

 

 百合先輩の目は、まだ冷たいままだ。

 

 俺は勢いのまま、腕組みの話に繋げた。

 

「で、そのゲーム……早くやりたいからって、千亜希が俺の腕を引っぱって連れてくんです。

 たぶんそれが、遠目だと“腕組んでる”みたいに見えたんじゃないですかね……?」

 

 言いながら、俺は内心で祈った。

 

 お願いだから、これで通ってくれ――。

 

「なんだぁ……そういうことかぁ」

 

 百合先輩の表情が、ふっとほどけた。

 さっきまでの凍る空気が嘘みたいに溶けていく。

 

 ……良かった。いつもの優しい顔だ。

 

 俺は心の中で、ほっと息をついた。

 

「千亜希ちゃん、夜な夜な部屋にこもって何かしてるなあって思ってたけど……和泉くんとゲームしてたんだね」

 

「あっ……あはは。そ、そうなんです……」

 

(……たぶん。エロゲとかだと思うけど、そういうことにしておこう)

 

「ん〜、それにしても和泉くん!千亜希ちゃんとお知り合いだったなんて、知らなかった〜」

 

「あはは……言う機会、なかったので」

 

 ……しかし百合先輩、怖かったな。

 今度から迂闊なことはしない。マジで。

 

 でも、今の雰囲気なら――百合のこと、聞いても大丈夫だろ。

 

……たぶん。

 

「あの、百合先輩」

 

「ん、なにかな?」

 

「百合のことなんですけど……」

 

「……菜月ちゃん?」

 

「最近、変わったことありませんか?」

 

「……うん。ちょっと元気なさそうかな。

 一人で抱え込んでる感じがする」

 

 百合先輩は少し眉を下げて、続けた。

 

「私も声かけてるんだけど、『気にしないで』って言われちゃうし……」

 

 ……やっぱり、俺のせいか。

 

 あいつは優しい。

 告白したことも、千亜希の件も、全部いったん飲み込んで――何事もなかったみたいに振る舞って、たぶん一人で抱え込んでる。

 

 ……断言はできない。

 でも、もしそうなら――俺は最低だ。

 

 なら――俺は、ちゃんと百合と話さないといけない。

 

「……百合先輩、ありがとうございます」

 

「……ねえ」

 

 百合先輩の声が、ふっと低くなる。

 空気が、また少しだけ冷えた。

 

「菜月ちゃんが変な感じになったのって――

 金曜日の放課後。和泉くんに任せた、あの後なんだよね」

 

 鋭い視線が、まっすぐ俺に刺さる。

 

(……っ!!)

 

 頭が回る前に、口が逃げ道を作っていた。

 

「にっ……西村先輩が、また何かしたんじゃないんですかね!?」

 

「……西村くん。私、あれだけ言ったのに……」

 

 百合先輩の視線が、俺から外れる。

 矛先がすっと別の方向へ向いた。

 

(……西村先輩、なんかすんません)

 

 罪悪感がちくりと刺さる。

 

……また疑いの矛先がこっちに戻ったら終わる。

 

 俺は息を整えて言った。

 

「お、俺も力になれるか分かりませんけど……できる限りやってみます! ではっ!」

 

「あっ、うん。和泉くん、お願いね」

 

 返事を聞くなり、俺は空き教室を出た。

 廊下に出た瞬間、肺の奥に溜まってた息が一気に抜ける。

 

(……よし。百合とちゃんと話そう)

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