レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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31話

(……さて、どうするか)

 

授業の内容は右耳から左耳へ抜けていく。

黒板の文字を眺めながら、俺の頭の中はそればかりだった。

 

百合先輩と別れて、そのまま教室に戻った。

 

――でも、百合の周りには相変わらず松田たちがいて、声をかける隙がない。

 

授業の合間の休み時間じゃ、ちょっと話すだけじゃ足りない。

ちゃんと腹を割って話すなら、時間が要る。

 

放課後は放課後で、千亜希が来る。

来たら最後、連行されて終わりだ。

 

――だからって、百合が一人になるのを待って、都合のいいタイミングが来るのを待つ。

そんな甘い考えしてる場合じゃない。

 

今日、ちゃんと話をしたい。だから――

 

放課後。千亜希が来る前に、百合を教室から連れ出すしかない。

 

でも、今の百合に普通に声をかけても、陽キャモードの仮面で――

 

『はあ? なに。あんたみたいな陰キャと喋ってる暇ないんだけど……』

 

みたいに、軽くあしらわれて終わる未来しか見えない。

 

だから、あえて逆手に取る。

 

百合のことだ。松田たちが見てる手前、その仮面を今さら外せるはずがないから話に乗ってくるしかない。

 

そうすれば嫌でも二人きりになる状況を作れる。

 

放課後を告げるチャイムが教室に響き、担任が教室を出ていく。

その瞬間、俺は席を蹴るように立ち上がった。

 

 一直線に、百合の席へ向かう。

 

やっぱり人気者は違う。チャイムが鳴って数秒なのに、百合の周りにはもう陽キャ女子たちが寄っていこうとしていた。

 

 ――だが、そんな暇は与えない。

 

 俺はその輪に割って入るように前へ出て、座っている百合の前に立つ。

 百合は驚いたように顔を上げて――すぐ、気まずそうに視線を逸らした。

 

 ……一拍。

 

 俺は腹を決める。

 

「すいませんでしたああああっ!!!」

 

 勢いのまま、その場で土下座した。

 

「は、えっ……ちょっ……!」

 

百合の声が上ずる。

同時に、周りの陽キャ女子たち含め――教室中の視線がこっちを向いた。

 

「大切な妹さん――千亜希さんに手ぇ出して、申し訳ございません!!」

 

「え、なっ……何言って……!?」

 

「……言われた通りの物、持ってきました……だからっ! だからっ!!」

 

 俺はわざとらしく切羽詰まった声で畳みかける。

 教室の空気が、さらに固まったのが分かった。

 

百合が一瞬、言葉を失う。

 

――そのあと、周りの視線を意識したみたいに、表情を陽キャモードに戻した。

 

「……へ、へぇ〜? そ。なら、ここじゃなんだし」

 

百合は笑ってみせる。声が、ほんの少しだけ震えてるのに。

 

「……別のとこ、行こっか」

 

 周りを一瞥してから、立ち上がる。

 

俺も、ようやく土下座から立ち上がった。

わざとらしく、震えるふりをしながら。

 

そして俺たちは、揃って教室を出た。

 

廊下にいた生徒たちが「え、なに?」って顔でこっちを見る。

 

――その中に、千亜希がいた。少しだけ、驚いた顔。

 

 けど構っていられない。

 

千亜希に捕まる前に、俺は百合の袖を引いて――踊り場へ逃げ込んだ。

 

 ――階段を上る。

 

 一段、また一段。

 

背中に残ってた教室のざわめきが、少しずつ遠ざかっていく。

 

 屋上へ続く鉄の扉の前まで来たところで、ようやく足を止めた。

 

 下の階から放課後の騒がしさはまだ聞こえる。でも、この踊り場まで来れば――

 

 やっと、二人で話せる。

 

 足を止めた俺は、百合と真正面から向き合った。

 

 百合は勢いよく振り返って――俺の顔を睨む。

 

 ……いや、睨んでるつもりだ。

 

 目が定まらない。視線が俺の目から一瞬で逸れて、頬がかっと赤くなる。

 

 耳まで真っ赤に染まっているのに、それでも強がって声だけは尖らせる。

 

「……何言ってんのよ、和泉くんっ!」

 

 言い終わるより先に、百合は目をぎゅっとつぶって――

 

 ぽかっ。

 

 腹を小突いてきた。全然痛くない。

 むしろ、震えが伝わってくる。

 

「こうでもしないと、二人で話せないだろ」

 

「……もっと他に、やり方あるでしょ……あれじゃ、みんなに変な――」

 

 そこで百合は言葉を飲み込んだ。

 顔が赤い。怒ってるのに、視線が定まらない。

 

「……誤解されるじゃない」

 

百合は恥ずかしさと呆れをごちゃまぜにして肩を落とした。

文句のはずなのに、声が小さく震えていた。

 

「普通に話しかけたら、相手にしてくれたか?」

 

「…………」

 

 百合は返さない。

 代わりに、視線を足元に落とした。

 

「……確かに、強引だった。ごめん」

 

 俺は一度だけ息を吸って、続ける。

 

「でも俺、百合と話がしたかった」

 

「……話ってなに。告白のこと?」

 

 百合が、びくっと肩を揺らす。

 それから、わざと軽く言うみたいに口を動かした。

 

「それなら、もういいよ。だって――」

 

 百合は潤んだ瞳で俺を見て、言い切る。

 

「千亜希と付き合ってるんでしょ……?」

 

 苦しそうだった。

 声が、喉の奥で引っかかってる。

 

「……付き合ってないって言ったら、信じてくれるか?」

 

「…………」

 

 百合はまた一度、下を向いた。

そして、ぎゅっと唇を噛んでから、こちらを見る。

 

「信じるかどうかは……分かんない」

 

 震える声で、必死に言葉を並べる。

 

「でも……私が告白したとき、和泉くん、すごく困ってたし。千亜希と……あんなに親しそうだったし。デートするって言ってたし……だから、そうなのかなって……」

 

 そこで、百合の呼吸が一瞬止まった。

 

「それに――」

 

 声が、さらに小さくなる。

 

「……ライン、消されちゃったから……」

 

「それは……悪かった」

 

 俺は菜月を見て、バサッと頭を下げた。

 

「ラインの件、俺じゃない。千亜希だ」

 

「…………」

 

「アイツが……面白そうだからって、勝手に俺の“彼女の真似”して。ついでに、お前とのトークも消した」

 

「…………」

 

 百合は何も言わない。

 でも、目だけが揺れている。

 

「だから――俺と千亜希は付き合ってない。これは本当だ。信じてくれ」

 

「…………」

 

言い訳に聞こえるのが怖くて、俺は一度だけ息を吸った。

 

「……でも。本当に俺が話したかったのは」

 

喉まで出てきてるのに、言葉が形にならない。恥ずかしさで、口の中が乾く。

 

 ――それでも、言うしかない。

 

 百合があのとき言ったのに、俺がいつまでも言えないのは、ダサすぎる。

 

「……告白の返事のことなんだ」

 

 口にした瞬間、心臓が跳ねた。

 

「あのときは、びっくりして。頭、真っ白になって……何て言えばいいのか分かんなくて」

 

 今だって、同じだ。

 恥ずかしくて、また頭が白くなっていく。

 

 でも、この一週間――ずっと百合のことばっか考えてた。

 後悔も、情けなさも、ぐちゃぐちゃに混ざって。

 

 それでも一個だけ、分かったことがある。

 

「……俺さ」

 

 声が、少し震えた。

 

「お前との関係が……壊れるのが嫌だった」

 

 目を逸らしたら負けな気がして、必死に百合を見る。

 

「あのまま、変な誤解のまま疎遠になるのが嫌だった」

 

 もう一度。ちょっとした話をしながら、並んで歩きたかった。

 

 それが“好き”って言葉で合ってるのかは、正直まだ分からない。

 

 でも――

 

「……でも、俺は」

 

 身体中が熱くなる。

 

 肩で息をし始めるくらい、怖い。

 

それでも、逃げない。

 

「付き合うかどうか――返事をするなら、俺は……」

 

 言い切る前に。

 

 百合の肩から、ふっと力が抜けた。

 

「――っ」

 

 倒れる、というより崩れる。

 俺は咄嗟に腕を回して受け止めた。

 

「百合!?」

 

 細い肩が腕の中でぐらりと揺れる。

 呼吸は浅くて、まつ毛が震えて――目が、開かない。

 

 そして。

 

 体温が、やけに熱い。

 

(……熱?)

 

 首筋に手の甲を当てる。

 じわっと汗ばんでいて、指先がぬるかった。

 

 

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