レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた 作:ku216
菜月と仲直りした翌日。
仲直りしたとはいえ、俺たちの関係が「昨日まで通り」――ってわけには、まあ……いかなかった。
だって俺ら、あんなふうに教室から出てったし。
そりゃ噂にもなる。しゃーない。
クラスの奴らから見た俺は、たぶん、菜月の妹に手を出した愚か者で別れさせられた挙句、そのままわんちゃん2号扱いになった、残念な男。
……あはは。
でも、どんな形であれ。
俺は学校でも菜月と話せる機会ができたのが、正直嬉しかった。
……ただ。菜月は、ちょっとだけ――複雑そうだったけど。
……でも、変に探り入れられたり、根掘り葉掘り聞かれたりする暇もなく、すぐにテスト期間に突入したのが不幸中の幸いって感じだ。
ま、高校二年の大事な時期に、くだらない話にうつつを抜かしてる方がおかしいからな。
そのままあれよあれよと駆け抜けて――テストから解放された、土曜日。
俺は菜月と一緒に、隣町の小さな神社の祭りに来ていた。
……いや。松田と北川も一緒に。
なんでも菜月は、松田に「テスト終わったらダブルデートしようよ」って言われたらしくて。
いつものノリで調子に乗って――
んで、結果。
俺が菜月に泣きつかれた。
……ちょっと前までなら、俺は断固拒否してたと思う。
けど今は、菜月と出かけられるきっかけがあるだけで、正直めちゃくちゃ嬉しい。
しかも、その同じノリで浴衣まで着くることになってた。
ナイスだよ、松田。
菜月は「この時期に浴衣は恥ずかしい」って、ぶつぶつ言ってたけど――俺はその愚痴を聞きながら、内心ガッツポーズしてた。
神社の境内に並ぶ露店が、夜道を派手に照らしていた。
色とりどりの提灯、焼きそばの匂い、呼び込みの声――それだけで、勝手にテンションが上がる。
……が。
俺は隣を歩く菜月を見て、心臓を持っていかれた。
めっちゃ可愛い。浴衣、めっちゃ似合ってる。
淡い水色の浴衣に、きゅっと結ばれた帯。
いつもと同じはずの顔なのに、雰囲気が違って見えて――めっちゃドキドキする。
(……落ち着け、俺)
今日の俺は、菜月の彼氏そして――わんちゃん。
つまり「トシさん」だ。
前を歩くんじゃなくて、菜月の一歩後ろ。
そういう距離感でいないといけない。
なぜなら松田たちがいるからだ。
最初は「バレたらどうしよう」って思ったけど……今のところ、気づかれてない。よな……?
ただ、あいつら距離感がバグってる奴らだ。
いつ地雷を踏むか分からなくて、内心ずっとヒヤヒヤしていた。
「ちょ、ゆっくんっ、あっちに金魚すくいある!」
「おっ、いいじゃん!やるか!」
「ちょい、勝手に行くなし!」
菜月が呆れた声で呼び止める。
……おいおいおい。
松田たちは俺らの返事も待たず、わーっと人波に突っ込んでいった。
背中だけが、提灯の明かりの奥へ吸い込まれていく。
俺は小さくため息をつく。
――でも。
これなら、菜月の隣を歩いてもいいか。
そう思って、俺は少しだけ歩調を上げて、菜月の横に並んだ。
「楓たち、行っちゃったね」
「……だな」
「私達もどこか見て回る?」
「……だな」
だねじゃねぇぇぇ、何やってんだ俺は!
こういうのは男である俺が言うもんだろ!
女の子にリードされてんじゃねぇよ!
俺が歯切れの悪い返ししかできないせいで、空気がぎこちなくなる。
あの日から妙に菜月のことを意識しちまって、どう返していいか分かんねえ……。
マジで自分がヘタレすぎて腹立ってくる。
好きだって自覚したのに、告白する勇気が出なくて。
このままじゃダメだって分かるけど――
……とりあえず今は落ち着け。
……よし。
「なあ、あそこ射的やってるけど、見ていいか?」
「えっ、いいよ。トシくん自信あるの?」
「ない」
「えええっ」
菜月が思わず笑い、そのまま俺たちは射的の屋台に近づいた。
俺たちを見て店のおっちゃんがニヤニヤしてくる。
俺は料金を払って、木の銃を受け取った。
……よし。
菜月にいいところを見せる。
棚の上の小さい犬のぬいぐるみ――あれを狙う。
構える。息を止める。引き金。
パン。
コルクは景品の手前で、情けなく机に当たって落ちた。
「あっちゃ」
菜月が吹き出しそうな声を出す。
「……まだ、ウォーミングアップだ」
もう一発。
パン。
今度は的にすら当たらず、乾いた音だけが鳴った。
俺は唇を噛んで、財布を開いた。
「……もう一回っ!」
「が、頑張ってっ!!」
菜月の応援を背に、俺は追加で払って挑戦するが
パン。
パン。
――惨敗。
俺は銃を返しながら、魂が抜けたみたいに呟いた。
「今度は私がやってもいい?」
「おう、いいぞ」
店のおっちゃんが菜月に木の銃を手渡す。
菜月は受け取ると、さっきまでの笑い顔を引っ込めて、ちょっと真面目な目になった。
「……こう、かな」
肩に当てて構え、息を止めるみたいに目を細めて――引き金。
パン。
コルクは的の横をすり抜けて、空を切った。
「……あっ」
菜月が一瞬固まる。
「……外れた?」
「外れたな」
「……もう一回」
パン。
今度は的の上の方を通過していく。
「えぇ……?」
菜月は銃を持ったまま首を傾げた。
――全部、当たらない。
「ありゃりゃ……」
菜月が眉をひそめて、銃口と的を見比べる。
「……おかしいな」
「ははっ。お前ら、いいなぁ」
屋台のおっちゃんが腹の底から笑った。
それから、ふっと表情を変えて手を振る。
「気に入った。ほら、これ持ってけ」
え、まじで?と思う間もなく。
おっちゃんは屋台の奥から小さな袋を引っ張り出して、俺たちの目の前まで来る。
そして――菜月の手に、キーホルダーを二つ、ぽんっと乗せた。
「えっ……いいんですか?」
「おう。久しぶりにいいもん見れたわ」
おっちゃんはにやっと笑って、肩をすくめる。
「こんな初々しいカップル見せられたらねぇ……いやぁ、青春って、いいねぇ」
その言葉に、菜月が一瞬だけ固まった。
次の瞬間、耳まで赤くなって視線をそらす。
「……ち、違――」
言いかけて、言葉が続かない。
俺も地味に顔が熱くなるのを感じて、咳払いで誤魔化した。
「……ありがとうございます」
「……あ、どうもっす」
俺たちは頭を下げて、屋台を離れる。
「これ、ペアルックだね」
菜月が、さっきもらったキーホルダーを目の前にぶら下げて見せてきた。
黒柴と、柴色の柴犬。ちっちゃいぬいぐるみが、ゆらゆら揺れている。
「これね、ほっぺた近づけると――くっつくんだよ」
「……マジ?」
菜月は二つとも自分の指に引っ掛けて、向かい合わせる。
ちゅ。
マグネットが吸い寄せられて、柴犬のほっぺ同士がぴたっとくっついた。
「ほらっ」
「……ほんとだ」
「かわいっ」
菜月は満足そうに頷いてから、片方――黒柴のほうを俺の手のひらに乗せた。
「はい、これ」
「えっ、いいのか?」
「……? 私たちにくれたんだから、トシくんももらわないと」
「そっか……」
俺は黒柴を受け取る。
菜月は自分の柴色を胸元で揺らしながら、にこっと言った。
「これで、お揃いだね」
その笑顔が、やたら眩しく見えて。
俺は誤魔化すみたいにキーホルダーを握り直して、視線を逸らした。
「しっかし、人増えてきたな」
「うん。ちょうどいい時間だし……楓たちと合流しないと」
ガヤガヤ。
喧騒と人波が、祭りの熱をさらに押し上げてくる。
俺は菜月が通れるように、肩で人をやんわり押し分けながら前を歩きつつ、少しだけ振り返って声をかける。
「大丈夫か? 菜月――って、あれ」
……いない。
さっきまで、すぐ後ろにいたはずの菜月が――見えなくなっていた。
人混みに飲まれたみたいに、影も形もない。
「……っ、クソ」
――そうだ。
菜月、人混み苦手だ。
俺は反射で足を止めると、そのまま引き返すように人の流れへ逆らって歩き出した。