レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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6話

始業式が終わってから、あっという間に数日が経ち、気がつけば週末の金曜日だった。

 

(……ほんと疲れた)

 

 9月は嫌いだ。無駄に暑さが残ってるくせに、しっかり学校は始まるし。まあ、疲れの大体の原因は――間違いなく千亜希なんだけどね。

 

 あの後、あれやこれややらされて、そのたびに百合にウザがられて。

 

 最終的には――

 

『……いい加減にして』

 

(……はい、俺もそう思います)

 

 ──あの時の笑顔。

 

 笑ってるのに、声は凍るほど冷たかった。内心、ブチ切れてたんだろうな。

 

――そんな金曜日の夜。

 

「おりゃっ!」

 

リビングのテレビに繋いだ野球ゲーム。

俺の投げたボールがバットに弾かれ、乾いた快音が鳴った。

 

――カキーン!

 

綺麗な放物線を描いた白球は、無情にもスタンドへ突き刺さる。

 

「……あっ」

 

コントローラーをぎゅっと握ったまま項垂れると、隣の弟――幸人がニヤリと口角を上げた。

 

「兄ちゃん、弱すぎ」

 

「……舐めやがって、このガキ」

 

悔しさを込めて構え直し、幸人のバッターに投げ込む。

 

結果――三者連続三振。

 

「ふっ……兄の威厳は、まだ保たれたな」

 

俺が得意げに腕を組むと。

 

「四球、四球、四球、四球……からのホームラン撃たれてる時点で、威厳も何もないでしょ」

 

後ろのソファから、妹――由紀恵が冷ややかに言い放った。

 

「ごもっともで……」

 

こうやってこいつらとダラダラしてる時間が、一番落ち着く。

ふと壁の時計を見ると、思ったより時間が経っていた。

 

(そろそろ晩飯、作らないとな……)

 

そう思った矢先、幸人がこっちの隙を突くみたいにポンポン投げてくる。

 

「おいコラ、ずりぃぞ――」

 

言いかけたところで、横から由紀恵が俺のコントローラーをグイッと奪い取った。

 

「見てられない。私がやる」

 

(助かるよ、由紀恵……)

 

「ええ……姉ちゃん下手いからやだあ」

 

「下手じゃねえよ、この野郎」

 

──小学生相手にムキになるなって。

 

俺は苦笑いしつつ、キッチンへ向かった。

 

食べ盛りの幸人が満足できて、由紀恵にもちゃんと食べてもらえて、母さんの負担も増やさない。

 

罪悪感がなくて、身体にも良くて、財布にも優しい――

 

(……豆腐ハンバーグで決まりだな)

 

冷蔵庫を開け、材料をワークトップに並べる。

 

「よし。それじゃ――始めますか」

 

しばらくして、味噌汁の香りが漂い始めた頃。

リビングから軽い足音が近づいてきた。

 

「どうした、由紀恵?」

 

「何か手伝うことないかなって」

 

髪を指でくるくるしながら、のぞき込むように顔を出す。

 

眠そうだし、たぶん暇なんだろう。

 

「あらかた終わったよ。幸人は?」

 

「ストレートとフォーク織り交ぜてボコしたら、姉ちゃんとはもうやらないって」

 

「ええ……」

 

小学生相手に容赦ねーな。

 

俺は苦笑いしつつ、種をフライパンに落として焼き始める。ジュウ、と香ばしい音。湯気が立ちのぼった。

 

「ねえ、兄」

 

「……ん?」

 

「最近、なんかあった?」

 

「別に。なんで?」

 

「いや、なんか……楽しそうだなって」

 

「……楽し……そう?」

 

楽しいどころか、酷い目に遭いまくってるんだが。

 

「うん。充実してる顔してる」

 

――悪い意味で充実してるよ。ほんとに。

 

「全然。全く。微塵もこれっぽっちもっ!」

 

俺は豆腐ハンバーグを勢いよくひっくり返した。

ジュウッ、と油が弾けて、顔に少しだけ熱気がかかる。

 

「……そ、そうなんだ」

 

由紀恵は困ったように苦笑いして、ぽつりと言った。

 

「私てっきり、兄に彼女でもできたのかなって」

 

「……」

 

──沈黙。

 

キッチンに響くのは、焼ける音だけだ。ジュウウウ……。

 

「……今ので、だいたいわかった」

 

「……なんで、そんなこと聞くんだよ」

 

「最近、服とか髪型とか気を使ってたし。そういうの、できたのかなって思って」

 

ああ……なるほど。

 

レンタル彼氏のバイト始めてから、清潔感とか意識するようになったしな。誤解もされるか。

 

「……大人になると、みんなそんな感じになっていくんだよ」

 

「私と二つしか違わないじゃん……」

 

由紀恵が、じとっとした目で俺を見上げる。

 

――ガチャリ。

 

リビングのドアが開く音。

 

「あっ、お母さんおかえり〜」

 

「んかえりー」

 

「ただいまー」

 

仕事帰りの母さんは少し疲れた顔をしてたけど、それでも笑っていた。

 

「お母さん、今日早かったね」

 

「ええ。珍しく仕事が早く片付いたのよ」

 

……無理してるな。疲れてるの、こいつらに見せたくないんだろう。

 

(よし……ここは俺があの王道ネタで元気にして――)

 

俺はキリのいいところで手を止めて、母さんの方へ向かう。

 

「母さん、おかえり」

 

「敏之、いつもありがとね」

 

よし、今だ――いっちょ決めるか。

 

「ご――」

 

「……敏之。あんた今日、晩飯抜きね」

 

「まだ何も言ってないよ!!」

 

「あんたの顔見れば、大体わかるのよ」

 

母さんに呆れたようにため息をつかれて、俺は黙った。

 

……親って、やっぱ息子の考えてることくらいお見通しなのかもしれない。

いや、単に俺が分かりやすいだけか。

 

 

 ◇◇◇◇

 

夕飯も終わり、俺は母さんの隣で食器を拭いていた。母さんが洗った皿を、俺が布で拭いて食器カゴへ置いていく。

 

「敏之、あんたもゆっくりしてればいいのに」

 

「いいんだよ。俺が好きでやってるだけだから」

 

母さんは「……そう」とだけ言って、穏やかに微笑んだ。

 

――以前の俺なら、こんなことしなかったと思う。変わったのは、三年前。父さんが交通事故で亡くなってからだ。

 

父さんは不器用で、愛情表現も下手くそで。

由紀恵にはウザがられてたけど、俺たちはみんな父さんが大好きだった。

 

居眠り運転の車が原因で起きた、あっけない事故。何気なく続いていた日常が、たった一瞬で崩れ落ちた。

 

あの時、幸人はまだ幼くて、何が起きたのか分からない顔をしていた。由紀恵も、普段はウザがってたくせに、声を上げて泣いていた。

 

――そして母さんは。

 

俺たちの前では気丈に振る舞って、無理にでも笑っていたけど。

 

夜中、隠れて泣いている姿を見てしまった。あの光景だけは、今でも忘れられない。

 

でも、あの時の俺は――泣けなかった。

 

悲しくなかったわけじゃない。現実を受け止めきれなかったわけでもない。

 

むしろちゃんと「父さんはもういない」と理解していたのに、涙だけが出なかった。

 

ただ、眠るように冷たくなった父さんを、呆然と見つめることしかできなかった。

 

……今でも、なんであの時だけ涙が出なかったのか、分からない。

 

でも――あの日以降、俺は「誰かのそばにいる」ことが増えた。

 

別に自分の部屋でやればいいことでも、気づけばリビングにいる。

 

母さんたちも、たぶん同じだ。理由もないのに、リビングで過ごす時間が増えた。

 

……本当に同じ気持ちかは分からないけど。

 

それでも俺は、こうしてみんなと一緒に過ごしていたいと思う。

 

「敏之、電話鳴ってるよ」

 

「……え?」

 

母さんの声に顔を上げる。

あ、本当だ。誰だよ、こんな時間に……。

 

ズボンのポケットからスマホを取り出す。

 

「なに、兄ちゃん、彼女?」

 

「あら、敏之〜」

 

「違う違う、彼氏だよ、彼氏」

 

「チィ!」

 

――全面撤退。

 

高校卒業したら、マジで一人暮らししたい。

ヒソヒソ笑い合う二人に、舌打ちで応戦してやる。

 

そして、スマホの画面を見た。

 

(……この番号)

 

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