レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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7話

電車に揺られてしばらく。

駅の改札を抜けた瞬間、目の前にそびえ立つのは――国内でも屈指の高さを誇る高層ビルだった。

 

海沿いの一帯は、近未来っぽさを前面に押し出して再開発されたエリア。

オフィス街にショッピングモール、遊園地、美術館。色んな施設がぎゅっと詰まっていて、今じゃ県内でも有数の観光地――ついでに、鉄板のデートスポットとしても知られている。

 

そんな場所に俺がいるのは、昨夜の電話がきっかけだった。

バイト先から「昼にもう一件、お願いできないか」と連絡が来たのだ。向こうからかけてくるなんて滅多にないから、正直ちょっと驚いた。

 

どうやら本来の担当が急に風邪で倒れたらしく、その穴埋めで俺を指名したらしい。

 

もちろん、断る権利はある。

――でも、「少し上乗せしとくからさ」なんて言われたら、断る理由なんて消し飛ぶ。

 

しかも、元の担当が気を利かせてくれたのか、当日のプランまでバイト先経由で回ってきた。

 

だから正直、(楽できそうだな〜)なんて思ってた。

 

……思ってたんだけど。

 

蓋を開けてみれば、相手は想像以上に真面目な人だった。

デートの流れも行き先も、細かく綺麗に組まれすぎてる。

楽になるどころか――それを頭に叩き込むのが、結構きつかった。

 

けど、まあ、そこはさすが俺。――ちゃんと覚えた。

 

そして今、待ち合わせ場所の近く。

店のショーウィンドウに映る自分の姿をちらりと確認する。

 

土曜なだけあって、電車の中はぎゅうぎゅうだった。

身だしなみが崩れてないか心配だったけど――

 

(……よし)

 

服装自体、お世辞にも“いい”とは言えない。

こういうバイトならブランド物で固めたほうが いいのかもしれないけど、そんな余裕があるなら母さんたちに少しでも渡したい。

 

だから俺の服は、お手頃価格の量産型。

 

――けど。

 

隣を歩く女性が恥ずかしい思いをしないように、服選びだけは気をつけてる。

 

清潔感、サイズ感、シワなし。

 

見栄よりも、「相手に不快感を与えない」を最優先。

 

――その時、ポケットの中でスマホが震えた。

取り出すと、今から会う相手からのライン。

 

『待ち合わせ場所に着きました。黒のカーディガンにグレーのワイドパンツ、ブラウンのハンドバッグを持ってます』

 

──早いな。集合時間、もうちょい先なんだけど……まあ、いいか。

 

「はい、わかりましたっと――」

 

――送信した、その瞬間。

 

(……やっっっば!!)

 

とんでもないことを思い出した。

根本的に、いっっっちばん大事なことを――忘れてた。

 

俺、今から会う人がどんな人なのか……全く把握してねぇ!!

 

と、とにかくプロフィール確認しないと!

 

焦ってスマホを操作し、バイト先の専用アプリを開く。

顧客リストをスクロールして――

 

(えっと、ニックネームは……)

 

「――あのっ!」

 

耳元で急に声をかけられ、反射的に振り返る。

そこに立っていたのは――ひとりの女の子だった。

 

白のキャミソールに、黒のカーディガン。

グレーのワイドパンツに、ブラウンのハンドバッグ。

シンプルなのに、隙がない。大人っぽいのに、ちゃんと可愛い。

 

近づいた瞬間、甘い香りがふわりと流れてきて、思わず息をのむ。

きらめく金色のミディアムヘアに、視線がさらっと持っていかれた。

 

――けど、驚いたのは「美人だから」じゃない。

 

彼女が――百合菜月だったからだ。

 

……なんで、こいつが……ここに?

 

たまたまクラスメイトを見かけて声をかけた――とか?

 

いや、ない。絶対にない。

 

自分で言うのもなんだけど、あいつは俺のことを「変に絡んでくるめんどくさいやつ」だと思ってるはずだ。

 

そんな相手を見かけて「声かけました!」なんて、するか? 俺ならスルー一択だ。見なかったフリで終わり。

 

「……えっと……トシさん、でしょうか? 人違いだったらごめんなさい」

 

「……え、はい! トシです! 間違ってません!」

 

「……良かった」

 

彼女はほっとしたように、ふうっと息をついた。

 

……うん。やっぱり、なんか違う。

 

俺の知ってる百合は、もっと強気で気の強いタイプのはずなのに。

目の前の彼女は――別人みたいに落ち着いている。

 

(いや、でも……似すぎだろ)

 

「……あの、なにか?」

 

困惑したように首を傾げる彼女。

 

――やば。似すぎてて、ガン見してた。

 

「あ、いや……ちょっと、知り合いに似てて」

 

「……そうですか」

 

……切り替えろ。

 

今考えるべきは「別人かどうか」じゃない。

目の前のお客さんを楽しませる。それが俺の仕事だ。

 

「……えっと、ナツさんでよろしかったでしょうか?」

 

「え、あっ、はい。ひゃ――ナツです! 今日はどうかよろしくお願いします!」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「……それにしても、今日は暑いですね」

 

(……暑い、だと!? それは遠回しに“早く移動しろ”ってことか!?)

 

確か今日の気温は三十二度。昼過ぎともなれば、体感はそれ以上。

アスファルトの照り返しも容赦ない。

 

(マズい……! 待ち合わせで立たせっぱなしとか、印象が悪すぎる)

 

くそ、レンタル彼氏として最低限、楽しい時間にしないと。

 

「そうですね。すぐに移動しましょう」

 

「え、あ……はいっ」

 

一瞬、戸惑う返事。

俺は彼女の歩調に合わせて、半歩だけ前に出る。

 

まるで手を引くみたいに――でも、触れない。

その距離を保ったまま、プラン通りのカフェへ向かった。

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