レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた   作:ku216

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8話

目的地のカフェは、駅から歩いて数分の場所にあった。

店内はおしゃれで落ち着いた雰囲気に包まれていて、若い女性やカップルの姿が多い。

 

――正直、男ひとりだったら絶対に落ち着けなかっただろう。

 

事前に予約を取っていたので、店員に名前を告げるとすぐテーブル席へ案内された。

飲み物を注文して、ほどなくテーブルの上に運ばれてくる。

 

「……ごめん。さっきから、なんか……」

 

……やってしまった。

 

意識しないようにしてたけど、思った以上に“ナツさん”がアイツに似てて。

 

俺はアイスコーヒーのストローを何度もくるくる回す。

そのたびに氷がカラカラと鳴って、やけに虚しい。

 

「……まぁ、そんなに気にしなくてもいいですよ」

 

ナツさんはアイスカフェラテを一口飲み、穏やかにフォローしてくれた。

 

「そんなに似てるんですか?」

 

「ええ、まあ……」

 

「もしかして、その人のこと――好きとか?」

 

「いえ全然! 全く! 微塵もありません!!」

 

ナツさんはジトッと俺を見つめ――くすっと笑った。

 

あ、絶対笑ってる……!

 

いやまあ、自分でも必死に言い訳してるようにしか聞こえないけどさ。

とにかくこの話題はヤバい。変えよう。今すぐ変えよう。

 

「ナ、ナツさんは普段、何されてるんですか?」

 

「あ……えっと、大学に通ってます」

 

ナツさんはなぜか視線を逸らしながら答え、すぐ慌てたように聞き返してきた。

 

「ト、トシさんは……何されてるんですか!?」

 

「俺も大学に通ってますよ」

 

――嘘だけど。

 

「……あ、そうでしたね。はい……」

 

沈黙。

 

そしてナツさんが、恐る恐る続ける。

 

「……どこの大学なんですか?」

 

「えっ、どこって……あー、その……えーと……」

 

「……?」

 

「……と、……」

 

「……と?」

 

「――……大……学です……ふぅ……」

 

……うん、全然聞き取れなかった。

 

ナツさん、早口だし小声だしで、大学しか拾えない。

でも言い切ったことに満足したのか、彼女は安堵したように微笑んでいる。

 

聞き直すのも可哀想だし――

 

「……そ、そうなんだ」

 

聞こえたフリをしておこう。

俺もこれ以上掘ったらボロが出る。話題、変えよう。

 

「ナツさん、何か趣味とかありますか?」

 

「え、趣味ですか……うーん、趣味、趣味……」

 

ナツさんは考え込むようにストローをいじって――

 

「……特にないですね」

 

「そうですか」

 

「あ、でも……チィックトックとか、ユーチュウブのショート動画はよく見ます」

 

「どんなの見てるんですか?」

 

「うーん、犬とか猫の動画ですかね……」

 

お、広げられそうだ。

 

「好きなんですか?」

 

「はい。見てるだけで癒されちゃいます。……でも私の家、ペット禁止なので……見ながら『いいなぁ〜』って」

 

ナツさんは少ししょんぼり肩を落とす。

 

「もし飼えるとしたら、犬か猫、どっちがいいです?」

 

「あっ、意地悪な質問ですね。うーん……どっちも可愛いからなぁ〜」

 

少し考え込んで、クスッと笑う。

 

「どっちも……じゃ、だめですかぁ?」

 

――選べなかったらしい。

 

「でも、飼いたい子はいます! 犬ならゴールデンレトリバーか柴犬。猫ならアメリカンショートヘアか、スコティッシュフォールドです」

 

「犬は分かるんですけど、猫が……どんな子か分かんないです。見たら分かるかもですけど」

 

「え……それ、人生損してますよ」

 

そこまで言われるのか……。

 

「これです、これ……!」

 

ナツさんはスマホを取り出して、画面をぐいっとこっちに向けてくる。

 

「あぁ〜見たことあります。可愛いですよね」

 

「ですよね。こう……背中あたりに顔をぐっと埋めて、すぅーって……えへぇ、へへへ……」

 

……変なスイッチ入っちゃったみたいだ。

 

「……あ、あの〜」

 

不意に横から控えめな声。

見ると店員さんが、気まずそうにトレーを持って立っていた。

 

「あっ……す、すみません! お、お騒がせしました……」

 

ナツさんは顔を真っ赤にして、慌てて背筋を伸ばす。

 

その仕草が――なんというか、ずるいくらい可愛い。

 

「いえ……では、こちらが季節限定のフルーツタルトと、りんごタルトになります」

 

店員さんは小さく微笑むと、俺たちの前に皿をそっと置き、軽く会釈して去っていった。

 

(おお……)

 

目の前のタルトは、どちらも色鮮やかで宝石みたいだった。

思わず息をのむ。――あんまりこういうの、食べる機会ないからな。

 

(母さんたちを差し置いて、俺だけこんなの食べるなんて……ちょっと申し訳ねぇ)

 

……と思ってたら、隣でもっとすごいリアクションをしてる人がいた。

 

「……っ」

 

ナツさんはフルーツタルトとりんごタルトを見つめて、完全に吸い込まれてる。

ガラス細工みたいに透き通ったフルーツの輝きに、目が離せないらしい。

 

そして流れるようにスマホを取り出し、そっとカメラを構えた。

 

(あぁ〜、やっぱ女の子って撮るよな)

 

インスタとかに載せるんだろう。気持ちは分かる。俺も撮るし。

 

……まあ、ラーメンとか焼肉だけど。

 

(……ん?)

 

ふと見ると、さっきまで目を輝かせてたナツさんが、今は眉をひそめて画面を見つめていた。

 

「……あ、あの……トシさん」

 

「はい」

 

「こ、これ……!」

 

ぐいっとスマホを見せてくる。さっき撮ったフルーツタルトの写真。

 

「どうやったら映えます?」

 

「んー……角度はいいんですけど、周りがちょっとごちゃついて見えるんですよ。まずタルトだけで撮ってみましょう」

 

「ほうほう……」

 

「あと、背景を少しぼかすと一気にそれっぽくなります。ポートレートで――ほら、ここ」

 

俺はスマホを借りて、りんごタルトにレンズを向ける。

 

カシャッ。

 

撮れた画面を見せると――

 

「わっ……! ほんとだ、すごく良いっ!」

 

ナツさんが目を輝かせて、身を乗り出してくる。近い。近いって。心臓が跳ねた。

 

「じゃあナツさん、次は自分で撮ってみましょう」

 

「ええ……もう、この写真そのまま使っちゃダメ?」

 

「なら、消しときますね」

 

「ちょっ……! 待って待って! 撮ります! 自分で撮りますからっ!!」

 

バタバタするナツさんに、危うく笑いそうになる。

こらえてスマホを返すと、彼女は真剣な顔で構え――慎重にシャッターを切った。

 

「……あ、いい感じかも」

 

表情がふっと明るくなる。上手く撮れたらしい。

 

――俺も何となく撮っておこ。

 

撮影会が落ち着いたところで、俺たちはタルトを食べ始めた。

 

――っっっうま……!

 

見た目だけじゃない。味も想像以上だ。

 

「んっ、美味しいっ……!」

 

ナツさんも一口でぱぁっと目を輝かせた。

 

よかった。口に合ったみたいだ。

 

「……っ、こんな美味しいタルト、初めて食べました……」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

――残念ながら、俺が選んだわけじゃないけど。

 

その後もナツさんは幸せそうに頬張っていた。

俺もりんごタルトを食べていると――視線を感じる。

 

「……」

 

ナツさんがジトッと俺を見ていた。

 

……あぁ、なるほど。

 

「……少し食べます?」

 

「っ……い、いえ! だっ……大丈夫ですっ!」

 

耳まで真っ赤にして俯く。

 

「別に遠慮しなくてもいいですよ」

 

「あ、いえ……本当に大丈夫です……カロリーが増えるので……」

 

「…………」

 

……返しづらっ。

 

「……じゃあ、交換しません? ナツさんのフルーツタルトを少し。俺のりんごタルトも少し」

 

「……それなら……いただきます」

 

ナツさんはそっとフォークを伸ばし、一切れだけ俺の皿へ。俺も同じだけ返す。

 

「……っ、こっちも美味しい」

 

りんごタルトを食べたナツさんが、ふわっと頬をゆるめる。

その顔を見て、俺の肩も少しだけ軽くなった。

 

甘い香りとゆるやかなBGMに包まれながら、俺たちはのんびり時間を過ごした。

 

この店を出るころ、ナツさんがふいに顔を上げて言った。

 

「――あ、私、お会計してきますね。先に外で待ってても大丈夫ですよ」

 

「……え、あ、はい……」

 

ナツさんはにこりと微笑むと、そのまま立ち上がってレジの方へ向かっていった。

その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。

 

……わかっちゃいるけどさ。

 

レンタルされた側なんだから、デートの費用は全部“レンタルした側”が持つ。

 

でも――どうしても、少しだけ申し訳ない。

 

男の俺が女の子に払わせてると思うと、なんかヒモみたいで……。

 

恥ずかしいような、胸の奥がむずがゆいような気持ちになる。

 

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