レンタル彼氏のバイトをしてたら学校の美少女三姉妹に目をつけられた 作:ku216
その後のデートは、予定してたプラン通りに進んだ。
最初は完全にテンパったけど……まあ、なんとかなったと思う。たぶん。
気づけば結構いい時間。
俺たちは待ち合わせした駅まで並んで歩いていた。夕方の風が少し涼しくて、昼間よりずっとマシだ。
「あ、あの……」
「はい」
ナツさんが急に立ち止まった。俺もつられて足を止める。
「……ト、トシさん……お願いがあるのですが……」
「……あ、はい」
真剣な面持ちで、こっちを見る。
でも――目が、ほんの少しだけ揺れている。
恥ずかしさを隠しきれてない、そんな感じが伝わってきた。
「……えっと、そ、その……」
言い出すのをためらうみたいに、ナツさんはハンドバッグのストラップをぎゅっと握りしめる。
その仕草に、胸がドキッと跳ねた。
だって――これ。
告白の数秒前にしか見えないやつじゃないか。
ナツさんみたいな美少女が、俺に告白……?
いやいや、ありえない。ないない。絶対にない。
俺はただのレンタル彼氏。お金を払って“借りた側”と“借りられた側”だ。
……でも、聞いたことはある。
レンタル彼氏にガチ恋して、告白して、貢ぎ始めて、
最悪、ストーカー化――みたいな怖い話。
まさかナツさんも……?
いや、男としては普通に嬉しいけど……ストーカーは怖い。
(……え、どうしよう。これ、まさか本当に――)
心臓が変な音を立て始めた、その瞬間――
「あのっ、トシさん……!」
ナツさんがきゅっと唇を結んで、俺を見上げてくる。その真剣な眼差しに、こっちまで背筋が伸びた。
「……トシさん、お願いがあります」
「……はい」
ごくり、と唾を飲み込む。
心臓がうるさい。だって、これはもう――!
ナツさんは小さく息を吸ってから――
「わ、私と……プリクラを撮ってください……!!」
「…………はい!!」
反射で返事してしまった。
声、裏返った。すげぇ恥ずい。
(え、あ……プリ……クラ……?)
告白じゃなかった。
拍子抜けとかじゃなくて、単純に脳が追いつかない。
でもナツさんは本気で恥ずかしそうで――
「……だ、だめですか……?」
「いや、大丈夫ですけど……どうして?」
「……」
ほんの刹那。
でも俺には、数秒くらい沈黙が続いたみたいに感じた。
(……え、俺、聞いちゃいけないこと言った!?)
「……えっと、その……私、友達に“彼氏がいる”って嘘ついてまして」
「……あぁ〜」
妙に納得してしまった。
「それで……証拠の写真、1枚か2枚あれば……誤魔化せるかなって……」
「なるほど……」
ナツさんって、地味に見栄っ張りなところあるんだな。
どちらかといえば大人しめで物静かな印象だったから、これはちょっと意外。
なのに、恥ずかしがってモジモジしてる今の姿は――
子犬みたいで、なんか……可愛い。
「なら、近くのゲーセンにでも行きましょうか」
「……っ、ありがとうございますっ!」
ナツさんはぱぁっと顔を明るくして、こちらを見上げた。
「じゃ、行こっか」
「はいっ!」
俺たちは並んで歩き出す。
さっきまでの緊張が嘘みたいに、ナツさんはほっとした顔で微笑んでいた。
◇◇◇◇
プリクラ機の中は、ゲーセンの賑やかな音が布越しにぼんやり響いてくるのに、全部どこか遠くの出来事みたいだった。
明るいライトと白い背景に囲まれたこの空間だけ、まるで別世界。
「えっと……じゃあトシさん、このポーズお願いします!」
「え、あ、はい」
言われるまま並んでポーズを取る。
想像以上に狭い。必然的に、距離も近い。
(……ち、近……っ)
ふわっと甘い香りが鼻先をかすめるだけで、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
「……トシさん、もう少しだけ顔を寄せてもらってもいいですか?」
「……え、あ……こ、これくらい?」
「も、もうちょいです」
言われた通りに、さらに近づく。
彼女との距離は――指一本ぶん。
(近ぇぇぇ……!!!)
顔が熱い。心臓の音、絶対バレてる。
ナツさんは真剣にカメラを見つめてて、その横顔がすぐ隣にあって――
目が合ったら、終わる気がした。
パシャッ。
フラッシュが光るたび、距離の近さを意識してしまう。
俺はテンパりを必死に隠しながら、どうにか撮影会をやり過ごした。
◇◇◇◇
外に出た瞬間、解放されたのもあって、どっと力が抜けた。
(……はぁ……なんとか……乗り切った……)
距離は近いし、匂いは良いし、ポーズは恥ずいし。──よく耐えたよ、俺。
「……トシさん」
「はい?」
「今日は……最後にわがままを聞いてもらって、ありがとうございました」
「あ、いえ。本当に全然、大丈夫ですよ」
そう言いながら、思い出し恥ずかしさでまた顔が熱くなる。
「それで……誤魔化せそうですか? お友達には」
「……大丈夫だと思います。あれ見せれば、さすがに疑いようがないでしょうし……多分」
「そうですか」
「まあ、何かあったらその時また考えます」
ナツさんは苦笑いして――
「あ、そうだトシさん……これ」
ハンドバッグから一枚の紙を取り出した。
「…………」
さっきのプリクラだ。
「……っ、ごめんなさいっ! こんなの貰ったって、ご迷惑なだけですよね……すみません!」
反応が遅れたせいで、ナツさんが完全に慌て始める。
「あ、いえ、貰いますっ! いただきます!」
俺は慌てて受け取った。
「……気を使わず、その辺に捨てても大丈夫ですからね?」
「その辺に捨てたらダメでしょ……」
「ふふ……ですよね」
ナツさんは小さく笑って、軽く会釈する。
「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「それでは私はここで」
ナツさんは改札の方へ歩いていく。
その背中が人混みに消えるまで、俺は無意識に見送っていた。
ふと、手元のプリクラに視線を落とす。
「……おぉ」
ハートだのキラキラだの、かわいく飾られていて――
こうして見ると、本当に恋人同士みたいで……むず痒い。
(…………ん?)
俺の顔の横にある名前。
カタカナで「トシ」と書かれている隣に――
「ナツキ」
……ナツさん、名前まで百合と同じなのかよ。
まさか……いや、なわけ――
「……やべ。次の待ち合わせ、もうすぐじゃん!」
思い出した瞬間、心臓が跳ねた。
俺はプリクラをサッとポケットに突っ込み、駅へ向かって駆け出した。