東方葬想録 第二部   作:KUS

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逃亡と幻想入り

ポーランド・ワルシャワ

 

「いたか?」

「いえ……見つかりません」

「探せ!ここで逃せば、何も知らない者達が無用に犠牲になるぞ!」

「はっ!」

 

ポーランドの森林にて、兵士達が大勢で何かを探していた。

辺りは夜だが、ライトに照らされてまるで昼のように明るかった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

そんな森の中を、一人の青年が必死になって走っていた。

彼は河野光。兵士達が探している対象だった。

 

「はぁ……少し休もう」

 

彼は手近な木に登り、休息を取る事にした。

 

木の上に座り、幹に寄りかかりながら、彼は何故こんな事になったのか、思い返してみた。

数週間前、光はお金欲しさにとんでもない間違いをしてしまった。

ダンツィヒに荷物を持って行くだけで1000万。

怪しさ満載のそのバイトに、特に警戒もせずにほいほい応募してしまったのだ。

指定されたホテルで、光は待機していた。

そして、そのホテルが突如爆破されたのである。

爆破の威力は凄まじく、ホテルはあっさりと倒壊した。

光は自身の異能のお陰で助かった。

だが、辺りは火の海で瓦礫だらけ。

この異能も、一日一回しか発動しない。

光は煙を吸わないようにするだけしか出来なかった。

しばらくして、連邦の警備軍が救助に現れた。

光は助かった事に安堵しながら気を失った。

 

だが、次に目を覚ました時にいたのは病院ではなかった。

そこは窓もなく一面真っ白な無機質な部屋だった。

当然光は困惑した。

ここは何処だと。

すると、ドアが開いた。

そこに立っていたのは、将校と思わしき男が二人だった。

彼らが言ったのは、自分がテロの容疑者という事だった。

容疑者と言っても、もう自身が犯人だと断定しにきていた。

彼らが言うには、爆発元は携帯からの電波による遠隔式で爆発したらしい。

中継機は光の携帯ではなく光が持ってきていたスーツケース。

正確にはその中にあった電話。

その荷物を光が持っていたのも、ホテルのカメラ映像から確認済み。

さらに、生存者ゼロだと判断された中で、少し煤汚れていただけで無傷だった光。

連邦が疑うには十分過ぎた。

光はそれでも容疑を否認した。

だが連邦が聞き入れてくれる事はなかった。

 

ふと、数人の足音が聞こえた。

その音で現実に引き戻された光は、恐る恐る下に目を向けた。

そして光は天を仰いでしまった。

そこに居たのは、黒と紫を基調とした装甲服に身を包んだ兵士。

地球連邦軍公安部

テロリスト駆除部隊とも言える機関の兵士だったからだ。

 

「いたか?」

「見当たりませんね」

「くまなく探せ。逃げるようなら殺して構わん」

「いいんすか?まだ裁判前でしょ?」

「何を言ってる。警告したのに逃げたから撃った。それだけだろうに」

「そっすね。じゃあ探すかぁ」

「曹長〜終わったら飯奢ってください」

「有給が全員取れたらな」

 

彼らの会話は緊急事態とは思えない程和やかだ。

だが、光を殺して終わらせる気である事は充分分かった。

さっさとどっか行けと光が思っていると、遠くからローター音が聞こえた。

 

「マジかよ……ヘリまでいんのか……」

 

光は軽く絶望しかけた。

上も下も敵だらけだからだ。

一先ずやり過ごそうと考えながら、光はここまでの経緯の回想を再会した。

 

ワルシャワの収容所に入れられた光はそこで、裁判を待つ身となった。

光はそこで、同じく裁判を待つ身だった年下の少年に出会った。

そして、彼から聞いたのは、このままだと確実に死ぬ事だった。

連邦は、テロリストを人扱いしていない。

むしろ害獣とすら思っている。

もし人間が害獣の被害を受けたら?

駆除一択だろう。

つまり、ここに居ても助かる事はない。

よしんば死刑は免れても太陽は二度と浴びれない。

だからこそ命懸けの脱走を、光は決意した。

看守兵の一人を気絶させて、鍵を奪い、その少年の妹の手錠を外す。

その子が自分ともう一人の手錠を異能で壊す。

そして収容所の外壁もその仲間が壊すという誰か依存すぎる計画だったが、上手く行ったのだ。

 

「あいつら……上手く逃げ切れたかな。いやそうじゃなきゃ囮になった意味がねえな」

 

光は他の二人を逃す為に囮になった。

恩を返したいとか、自分より年下だったからとかそんな理由もあったが。

一番は生きて欲しかったからだろう。

死にたくないから脱走したのに、他人の為に囮になる辺りよっぽど情が移っていたらしい。

 

「そろそろいったかな」

 

光が下を見てみると、既に兵士達の姿はなかった。

今の内と、光が木を降りようとした瞬間……

 

突然ライトが光を照らした。

 

「っ!?」

「居たぞ!」

「抵抗するようなら殺せ!」

 

ライトで照らしていたのは公安の兵ではなく警備軍の兵士だった。

だがそれでも、生身の光にとっては脅威でしかない。

光は即座に木から降りると、全力で走った。

 

「待て!」

「逃げられないぞ!」

 

後ろから警備軍兵が追いかけてくる。

光は木々の間を抜けながら何とか撒こうとする。

 

だが、そうは問屋が下さないらしい。

 

バキッ!

「なっ!?」

『・・・発見』

 

そこに居たのは、光の二倍はあるであろう大きさのロボットだった。

多脚の人型兵器。

それが、猛スピードで光に襲いかかってきた。

 

『駆除します』

「クソッ!一人に一体どのくらい投入してんだ!」

 

光は叫びながらもダッシュする。

ロボット……ミリアポーダーは木々を薙ぎ倒しながら光を追跡する。

多脚の癖に足をうねうねさせずにブーストで突っ込んでくるのだ。

かなり接近したタイミングで光は方向転換する。

ミリアポーダーはそのまま突っ込んでいく……かに思われたが。

何と少し通り過ぎはしたものの、何の障害もなく方向転換してきたのだ。

 

「そこは止まれずにどっか行けよ!クソが!」

 

光の叫びを無視してミリアポーダーは突撃してくる。

すると、光の耳に一つの音が入ってきた。

さっき聞いたローター音だ。

 

「あれ……利用出来るか?」

『排除します』

 

光は再び走り始める。

ローター音が聞こえる方向へ。

 

『脱走者を発見。これより警告を開始』

『脱走者に告ぐ。これ以上の逃走は無駄だ。大人しく投降すれば、丁重に扱ってやる』

「楽に殺してくれんのか?生憎それなら生にしがみついた方がマシでね!」

 

光は警告を無視して走り続ける。

ヘリは光に向けて、機関銃を向ける。

 

(今だ!)

『掃射開始』

 

機関銃が火を吹く瞬間、光は身を翻してミリアポーダーの後ろに回り込んだ。

目標を一瞬見失ったミリアポーダーは即座に後ろを振り向こうとしたが……

機関銃の掃射が、その装甲を襲った。

しばらくは耐えていたが、流石に耐え切れずにスパークし始めて倒れた。

光は大急ぎでその場を離れ……ミリアポーダーは爆散した。

 

『お、お前……何やってんだ!?始末書もんだぞ!』

『す、すまん』

『何で見失った瞬間引き金から指を離さねえんだよ!?』

 

スピーカーを切ってないのか、言い合いが丸聞こえだが……光は無視して走り出していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

大分走り続け、森の出口が見えてきた。

人の気配はなく、追手を撒けたと光が安堵したその時だった。

光は咄嗟に身体を屈めた。

すると、周りの木が一斉にずれて倒れた。

斬られていた。

 

「!?」

「やっと見つけた……逃げちゃダメだよ」

「撒いたんじゃなかったのかよ?!」

「ほんと……僕がいなかったらどうする気だったんだろ」

 

そこに立っていたのは、西洋剣を2本持った小柄な男だった。

一見すると少年にしか見えないが……着ている白の軍服には連邦の組織章が描かれたエンブレム。

 

「クソッタレが……」

「逃げないでねー。一々追いかけるの面倒くさいからさぁ」

 

光はすぐに走り出す。

男は当然それを追いかける。

光は必死に撒こうとするが、これまでで体力を消耗していた彼はあっさり追いつかれ……

 

ザンッ

「ガッ?!」

「あれま、仕留め損ねた」

 

背中を斬られた。

幸いにも傷は浅い。

 

「表面だけかぁ……ちゃんと斬らせてよ」

「ッ……誰が斬らせてやるか」

「えぇ……最期くらい僕の役に立ってよ。どうせなーんの利益も出せない要らない子なんだからさ」

「……好きでこうなってるわけじゃねえんだよ」

「そっかぁ……じゃあ斬るね」

 

男はそう言って再び襲いかかってくる。

光は何とか交わすと、すぐに森の外へ走り出した。

 

「待て待てー」

「そう言われて待つ奴はいねえよ!」

 

光は必死に走り……森を抜けた。

そこは崖だった。

 

「なっ!?」

「日本人には珍しいかな?断崖絶壁」

「予期してたのか?」

「いや別に。君がこっちに逃げてきただけ」

 

前門に崖、後門に男。

光は詰みに近い状況だった。

 

「さてと……最期に言い残す言葉は?」

「誰が殺されてやるか」

「残念だねぇ。今から斬られるのに」

 

光は再び斬撃を受けるが、身を捩って回避した。

それでも腕を斬られた。

 

その時、回避した反動でバランスを崩して……

 

「!?」

「あっ」

 

光は足を踏み外し、崖から転落しそうになるが、何とか掴む。

だが、男がそこから光を除いた。

 

「こういうの日本でなんて言うんだっけ。“絶対絶命”だっけ?だね光くん?」

「はは……俺の手を剥がすのか?」

「そんな事しないよ。死体確認が面倒くさいし、何より気持ち良くない。……だからさ」

 

男が狂気的な笑みを浮かべ、光に切先を向けた。

 

「ここで頭を刺しちゃえば終わるよね」

「!?」

「じゃっ、さよなら。そして無駄な努力ご苦労様」

「残念だが無駄じゃねえよ」

 

そう言って光は手を離した。

男は自暴自棄になったのかなと思った。

だが、光には策があったのだ。

最後まで使う気はなかった、最終手段。

彼が手に取ったのは、首にかけていた石だった。

光にとっては、何度も窮地から助けてくれたお守り的なもの。

それが光始めると……光はその光に包まれて、姿を消した。

 

崖上で一部始終を見ていた男は、それを見て頭を掻いていた。

 

「あーあ……転移かな?されちゃった」

『ザザザ……ロックハート?聞こえるか?』

「ん?ああごめんごめん。悟くんか」

『脱走者は?』

「ごめんね。崖から落ちてどこかに転移しちゃった」

『……はぁ。帰ったら始末書だなこれは』

「二人揃って?」

『当たり前だ。公安部の隊長二人がたった一人を取り逃したんだぞ。特に特務隊のお前までだ』

「面倒だなぁ。始末書」

『諦めろ。こっちで科学部門には連絡しておく。お前は先に帰投して始末書を書いておけ』

「了解……まあ尻拭いはするよ」

『アサインされるといいな』

「あはは……特務隊で一番自由に動かせるのが僕だよ?元帥はそんな頭固い人じゃないし」

 

そう言って男……イリア・ロックハートは通信を切った。

 

「あはは……待っててね光くん。次はその身体……思いっきり斬らせてよ」

 

そう言ってイリアは、森の中へ消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

幻想郷・霧の湖

 

光が収まると、そこに光が倒れていた。

流石に湖に転移したのは想定外だったのか、光はパニックになって溺れかけてしまう。

 

(折角助かったのに……ここで死ぬのかよ!?)

 

光は水面に手を伸ばすが、身体が浮上する事はなかった。

 

誰かが、彼の腕を掴むまでは。

 

(助かった……のか?)

「ちょっと!大丈夫!」

(眠い……)

「美鈴!パチュリー様呼んできて!」

「は、はい!」

(少し寝よう)

 

そして光は、意識を失った。




設定解説
河野光
第二部の主人公の一人(もう一人は第一部主人公が続投)。
日本出身のフリーター。19歳。
両親は既に他界しており、親戚もいない事から高校卒業後に就職。
だが上手くいかず、早々に退職してフリーターになった。
幼い頃に一時期行方不明になっていた期間があった。
幸いにも半月程で発見された。
その際に、不思議な石を首にネックレスのようにかけていたらしい。

イリア・ロックハート
地球連邦軍公安部特務隊に所属する軍人。
光を追い詰めた人。
“斬る”事に異常な執着がある。
性格は軽く緩めだが、その調子のまま平気で人を殺す。


イリアが最後に通信していた公安部の軍人。
特務隊ではなく一般の公安軍人である。

地球連邦
正式名称は地球連邦管理調停政府。
地球全体を管理している巨大政府。
市民の事を第一にする一方、反体制的な活動をする者達の事は人間扱いしておらず、逮捕しても死刑一択が殆ど。大部分はその場で始末される。

地球連邦軍
地球連邦の軍事機関。世界各地に駐屯基地や収容所を持っている。

警備軍
地球連邦軍の一部隊。
主に治安維持や公共施設やセレモニーの警備を担当する。

公安部
地球連邦軍の一部隊。
対テロ機関であり、通称連邦の駆除班。
黒い制服を着用している事から、一部からは武装親衛隊の再来とも言われている。

特務隊
公安部の一部隊。
制服の色が他の公安部と違い白いのが特徴。
公安内でも精鋭部隊として扱われている。

科学部門
連邦の行政機関。
科学研究が主な業務で、連邦の様々な施策を裏で支えている。
連邦軍の装備開発も行なっている。

ミリアポーダー
地球連邦軍が保有する機動兵器。
多足類のような足に、人型の上半身という異形のデザインをしている。
瞬間的な加速力は高く回避に優れている他、ブースト移動や飛行も可能。
軍の機動兵器の中でも猟兵型と呼ばれる系統の兵器。
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