ゆうしゃ様とまおう様~勇者と魔王の再国譚~「えっ?社畜の俺が魔王の国を復興させる!?無理無理っ!」   作:「団栗珈琲。」

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第1話 俺、死す

「疲れたぁ…。」

 そう俺は一人きりのオフィスで声を上げる。大量に積まれていた仕事の山をなんとか潰し、帰り支度を始める。

 ふと、時計を見ると時刻は深夜二時を回っていた。

 

 土曜日のこんな時間まで残業させるなんて、頭ん中清々しいほどブラックだな。

 

 休日出勤は当たり前、むしろ休日で出勤していないほうが珍しい。

 休日ってな~んだ?もうね休日という概念にさえ口出してしまうこの状況を何とかしてほしい。

 

 というか、休日でも会社寝泊まりコースです。

 なんなら家に帰れたがためしがない。……どういうことだよ。

 いや、本当にどういうことだよ。どういうことだよ!

 

 残業はもちろんするのだが、残業代なんて出ない。サビ残です。

 だれだよサービス残業とかいう悪魔のルール決めたやつ。

 ちなみに、有給なんて名前の給料がもらえて、且《か》つ休めるなんて概念はこの会社にはない。

 本当に一生のお願いなので労基さんはやくここを見つけてください。

 

 まあでもこの会社は労基とズブズブにつながってるらしいからなぁ……。 

 もう労基は諦めるとして、明日のプレゼンで使う資料が鞄の中に入っていない。

 

 しばらく辺りを見渡し、探していると見覚えのある紙が目に入る。

 間違いない。明日の会議で使う資料だ。

 

 明日の会議も眠気と闘いながら、話を聞くんだよな…。今回もレッドプルさんのお世話になること間違いなしだな。いつも本当にありがとうございます。

 

 立ち上がろうとすると、ドサッと間抜けな音が鳴る。

 眩暈《めまい》がし、倒れる。俺まだ二十代なのに立ち眩みとか勘弁してくださいよ。

 

 なに?重労働が祟《たた》ったのかな。

 いやだなぁ……。

 

 資料を手にした俺は会社の電気を消し、さっさと出ようとしていていると一箇所だけ、光りが灯っている。が、その光は蛍光灯の光ではなく、もっと神聖な何かのようだ。

 

 え?なに?天使のお迎えですか?俺、過労死で死ぬんですか?

 

 よく目を凝らしてみると、黒いローブを纏《まと》った少女が見える。

 天使の輪っかは…ついていない。

 

 天使じゃないのか、輪っかのついていない天使なのか。どっちだろうか。

 

 俺はその少女に近づく、その少女は葡萄《ぶどう》のような色の髪に、茜《あかね》色の目。

 小さな顔に、ぶっきらぼうに伸ばした長い髪が茜の目と合わさって、よく映える。

 

 その少女は俺を指差し、口を開く。

 

「………」

 

 口は開くが何も言わない。というか目が泳いでいる。なんだか本当に言ってもよいものか、言葉を選んでるように見える。

 なに?ウケてると思ってオタクぶってたら。ある日「正直キモイよ」って言ったクラスの女子と同じ顔をしているんだけど。

 

 俺が耳を塞さぎたくなるようなことなら聞きたくないんだけど。

 

「……えっと。……あなたは死にます」

 

 うん。聞きたくなかった。

 

 死ぬってどういうこと?

 息絶えるってこと?

 過労死?

 

 俺まだ死にたくないんだけど。

 やり残したこともたくさんあるし。あの気になってた漫画が完結したとか、あと、ここの会社の寮から自殺者が出たとか、あと好きだったな労も読み終えてないし。

 やばい。途中のここの会社の寮から自殺者が出た。が気になりすぎる。

 

 同僚から聞いた話だけど。

 なんで会社から自殺者なんて出るんだよ……。

 そうだね。ブラックなせいだね。

 本当にどうにかならないかなぁ……。

 

 というか、まだ全然やり残したことあるんだけど……。

 まあでも、死んでこの会社からおさらばできるなら、クソなろうなんかくれてやる。

 

 ばいばい今世。

 

   ✕   ✕   ✕   ✕

 

 ばいばい今世。とは言ったものの、まだ今世からばいばいするには時間がかかるらしい。とりあえず俺は少女に質問をすることにした。

 

「名前、なんていうんだ?」

「私はルナ。ルナ=シャーロット。一応魔王なんだけど……」

 

 この子、天使じゃなくて、魔王だった。

 

 ……。真逆じゃねえか。

 

 ていうか、どうやってこの会社に入ってきたのだろう。

 自慢じゃないがこの会社。セキュリティ能力だけは無駄に高い。

 いや、無駄じゃないか。労基対策で死ぬほど活躍してるわ。

 

「この会社にはどうやって入ってきたんだ?」

「え?異世界転移術を使ったらここについただけだよ」

 

 異世界転移術?なんだそれは。

 明らかにファンタジー臭漂う言葉に俺は興味津々だ。

 

 労基の人間一人として通したことのないこの会社に侵入するなら、それこそ魔法でも使うしかないからこそ、彼女の言葉に俺は信憑性を感じていた。

 

「一つお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

 

 そんな上目遣い気味に見られたら断るに断れないんだけど……。

 あんまり俺が苦しくないやつでお願いします。

 

「私の国の復興を手伝ってほしいの」

 

 ……。

 無理かもしれない。

 

 国の復興ってなんだ?

 それ絶対俺に任せるようなものじゃないぞ。

 

 いや、聞き間違いかもしれない。

「フット手伝って」といったんだよな。

 ……。いや、なんだよフットって。フットサルの略か?。

 要するに、自分の国のフットサルチームのマネージャーになれってことか。

 ……違いますよねすみません。

 

 まあ、いいか。

 何か特別なことができるわけじゃないけれど、俺死ぬんだし何か協力でき事があるなら協力しよう。

 

 唯一不安なのは魔王の国ってことだけど……。大丈夫だよな多分。

 あんまり悪い奴じゃなさそうだし。

 

「わかった。復興手伝うよ」

「ほんと!?言質とったからね」

 

 言質とかいうの?この子。

 

 これだから最近の子は!

 …………。俺もまあまあ最近の子だわ。

言ってみたかったんだよ……。

ノリで決めちゃったけど大丈夫かな……。

 

「言質もとったことだし……。『転移(テレポート)』!!」

 

 視界が急に白くなる。

 

「え!?どうなってんの!?」

 

 こんな状況になったらさすがに誰でも戸惑うだろう。

 

「異世界に行くんだよ」

 

 さも当たり前のことかのようにルナは言う。

 

 どうやら俺はこれから異世界へ行くようです。

 

 これから私、どうなっちゃうの~!!!

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